コウノドリを観た話

 先日MIU404を観てから、わたしの中のドラマ熱がアツい。短編集と同じで「1話ごとに物語が切れるから没入できなくて飽きる」「ハマったとしても1話見逃すともうどうでも良くなる」という理由で長らくドラマ視聴を避けていたわたしであったが、この時代「アマプラでイッキ見」ができるためもはや後者は解決したと言って良い。ただ前者に関しては、完全に作品の魅力でしか突破できない壁である。その高く分厚い壁をMIU404は見事にぶち抜き、そしてわたしを綾野剛と星野源沼に引きずり込んでしまった。

 アマプラの良いところは「この作品を観た人はこちらも視聴しています」が出るところである。わたしとコウノドリはそうして出会った。もともとタイトルと大まかな内容は知っていたが、実際に観てみるとよくある医療ドラマとは違い、出産や育児に関してかなりデリケートな部分に踏み込んだ作品である印象を受けた。14歳中学生の妊娠、産後うつ、死産、妊婦の交通事故、両耳の聞こえない両親の出産、出生前診断、高齢出産……。妊婦ひとりひとりによってお産は違うとよく言うけれども、このドラマを観ていると本当にそう思わされる。それは出産にだけフォーカスするのではなく、妊婦の周りの環境や家族をはじめとする人間関係といった背景の部分をとても丁寧に描いているからだと思う。だからこそ患者の「個」の人生が垣間見えて、妊娠・出産というテーマが決して他人事ではない実感的なものに感じられる気がした。

 そして綾野剛と星野源、コウノドリでも(というかコウノドリの方が実際の放送は先)MIU404と同じくほとんどいつもピリついている間柄で笑ってしまった。でも心の中では良き相棒として相手のことを認めており、時々友情が垣間見える、というところまで同じだった。綾野剛が雰囲気柔らかい方で、星野源が厳しいタイプの役柄なのも丸かぶりしていた……でもよく似合っていると思う。このコンビ、推せる。

 さて、コウノドリは妊娠・出産がテーマである以上、お産のシーンが作品を通して何度も出てくる。もちろん演技なのはわかっているが、どの妊婦さんも本当に苦しそうで、なんだかこっちのお腹も痛むような気がした。

 作中でひとつ印象的だったのは、死産になってしまったお産の回である。赤ちゃんを「あかりちゃん」と名付けて誕生を心待ちにしていたご夫婦だったが、ある日突然妊婦さんのお腹の中で赤ちゃんの心拍が止まってしまった。原因は不明。悲しみにくれる出産となってしまった。ご夫婦は亡くなった赤ちゃんと最後の時間を過ごし、抱っこしたり沐浴をさせてあげたりするのであるが、わたしがハッとしたのは「あかりちゃん」のお顔が一瞬たりとも映らなかったことだ。本当にたくさんの赤ちゃんが登場するこの作品で、出産の際に赤ちゃんのお顔が一度も映らないことはこの回だけだったと思う。いや、倫理的に考えれば本物の赤ちゃんを亡くなった設定で映すことはありえない事ではあるけれども、「あかりちゃん」はずっと白くて柔らかそうなおくるみに包まれて、視聴者の眼差しから守られていた。

 コウノドリは生命の誕生という奇跡と同時に、そこにはいつだって「死」が隣合わせで在ることを感じさせる作品でもあった。出産は命がけと言うけれども、生命の誕生に伴う危険を軽んじる非常識な人間もまだまだいるこの世の中で、無事に元気なこどもを産むということは決して当たり前ではないんだと突きつけられる。女性も、男性も、妊娠を考えている人もそうでない人も、観て損はない、むしろ観て欲しいドラマだとわたしは思う。

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