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名曲「イマジン」の底流を構成する思想とバチカン

(一部敬称略)
1.ビートルズはキリストよりも有名
ジョン・レノン氏は1966年25歳の時にラジオでのインタビューに答えてこの様に述べた
「キリスト教はなくなるよ。いつか衰えていって消えるだろう。あれこれ論じる必要もない。ぼくの言っていることは正しいし、いつか正しいことが証明されるはずだ。今のぼくらはキリストより人気がある。ロックン・ロールとキリスト教と、どっちが先にすたれるかはわからないけれど。キリストそのものには問題はなかった。でも彼の弟子たちが頭の悪い凡人だった。ぼくに言わせれば、彼らがキリスト教をねじ曲げて堕落させたのだ」
 この発言を受けて、アメリカでは反ビートルズ運動が吹き荒れ、焚書ならぬ焚レコードが行われた。ビートルズはコンサートツアーの実施が不可能になり、スタジオでのアルバム製作に注力していくことになった。
 それから42年経った2008年、ローマ法王庁はジョンの問題発言を赦す声明を発表した。
 これに対してリンゴ・スターは「バチカンがぼくらを悪魔的だって言ったのでなかったっけ。それでぼくらを赦すって? ぼくは思うよ、バチカンはビートルズのほかに話すべきことがたくさんあるのではないかってさ」とコメントした。
 
ジョンは1972年アルバム「イマジン」を発表する。
冒頭曲のイマジン、現在ではオリンピック開会式や閉会式でも使われる曲として有名である。
 とあるドキュメンタリー番組によると、ジョンが射たれる1980年まではむしろ、政治運動で頻繁に歌われたGive Peace a Chanceの方が有名だったと言われている。ジョンの死後、ダコタハウス近くのセントラルパークでの追悼イベントでImagineが歌われてからImagineの思想が高く評価されて今に至るという。
 12月8日といえば、上の世代では真珠湾攻撃を想起するかもしれないが、私にしてみればジョンが暗殺された日であって、彼の活動が停止した日である。
 私はビートルズ世代ではない。80年代は80年代の英米ロックやポップス音楽を聞いていた。80年代終盤からビートルズを聞き始め、ジョンやポールのソロ・アルバムを聞くようになった。1989年ポール・マッカートニー氏はFlowers in the dartを発表。私はFlowers in the dartワールドツアーの東京ドームコンサートを観にも行った。1993年デビッド・ボウイ氏はBlack Tie White Noiseを発表。私はこの2作品が両人とっての最高傑作ではないかと考えている。
 ジョンに関する本も手当たり次第に読んだが、今にして思うと肝要な事が書いてなかった。それでも彼の思想をある程度汲み取る努力をした。
 キリスト云々発言についても全文を掲載した本を見つけられなかった。出版側としては差し障りが有りすぎると考えたのか分からないが、この発言がビートルズやジョンの未来を決定づけた。
 世間では「ビートルズはキリストよりも有名」という短いフレーズだけが独り歩きしていた。
 
2.イマジン創作の思想的背景
 ジョン・レノンを代表する「イマジン」。創作に関して直接的には、黒人権利運動家のDick Gregory氏による影響。政治運動家としての仲間であり、友人でもあった。グレゴリーから貰った本の一節に
“If you can imagine a world at peace, with no denominations of religion… then it can be true,”
「宗教の宗派がなく、平和な世界を想像できるなら…それは真実かもしれません」
とあり、イマジンの歌詞の下地になっている。
 妻オノ・ヨーコ氏のコンセプチュアル・アートブックであるグレープフルーツ「Grapefruit」に『指導』という作品があり、「想像してごらん」というフレーズが繰り返しでてくる。
 これがイマジンの「想像してごらん」という歌詞になった。
 ジョンは英BBCのインタビューで「(イマジンの)歌詞もコンセプトも多くがヨーコからのもの」と語っている。2017年米音楽出版社協会は妻のオノ・ヨーコさんを「共作者」として認めた。イマジンの作者はジョン・レノン単独から、オノ・ヨーコの連名に変更されたのである。
 
 NHK『100分de名著 般若心経』ではイマジンの歌詞には「no Heaven, No Hell, no countries,・・・天国なんて無い、地獄なんて無い、国なんて無い」と「NO」の文字が6回書かおり、般若心経には「無」の文字が21回書かれているので影響を受けているとの解説がなされたようである。私的には直接的な影響を受けたとは言い難いと感じている。
 
 微生物研究で名高い高嶋康豪(やすひで)博士は藤原直哉氏との対談で、ジョンは『白隠の隻手』を知らなければ、イマジンを書けなかったと述べたと指摘している。
 隻手の声(せきしゅのこえ)、隻手音声(せきしゅおんじょう)とは、臨済宗の白隠慧鶴(1686年-1769年)が創案した禅における代表的な公案のひとつ。片手で出す音とはいかなるものか?という禅問答の一つである。
 白隠禅師は『南無地獄大菩薩』で『地獄も極楽も人の心に映ったものにほかならない』と説いた。「無始無終」有るも無いもないという思想は、イマジンの天国も地獄もなくただ頭上には空が広がっているだけという「二元論の否定」や禅の「空」という価値観に通じているという。
 
 確かに1971年に「イマジン」の前作に当たる『ジョンの魂』(John Lennon/Plastic Ono Band)が日本で発売された際のインタビューではジョンは、「最近、禅や俳句から影響を受けている」と語っている。「禅の精神で自分は“シブい”アルバムを作ったと語り『今までに読んだ詩の形態の中で俳句は一番美しいものだ。だから、これから書く作品は、より短く、より簡潔に、俳句的になっていくだろう』とも付け加えた。
 ヨーコは禅僧玄峰老師(山本玄峰)から影響を受けていたという。そして、ジョンは来日時に白隠禅師や仙厓義梵の書画を購入して自室に飾っていたとも言われている。当然、学習院哲学科で学んだ妻ヨーコの影響もあっただろう。
 
3. 高嶋康豪博士「バチカンはジョン・レノンの存在を許さなかった」
 世界を席巻している一神教は善悪二元論を包摂している。原典はゾロアスター教にある。ジョンは禅の思想を用いてこの善悪二元論を超克した。
 半日費やして高嶋氏のインタビューを聞いて探したが再発見できなかったが、確か高嶋氏は「バチカンはジョン・レノンの存在を許さなかった」と述べている。
 どういう意味かは推測して欲しいが、「まぁ、そうだよな」という感想しか無い。敢えて言うか言わないかは人それぞれだが、やはりそう考えるのが妥当だよな、ということである。
 ちなみに、ジョンを暗殺したマーク・チャップマンは元YMCA職員だった。YMCAはキリスト教系非営利組織NGOである。
 私個人はジョン・レノンの思想に強く影響を受けている。そしてイマジンが伝える何者にも束縛されない理想郷という思想にも憧れがある。私が特定の宗教に帰依することを拒否できたのはイマジンの存在があったからである。
 
想像してごらん国なんて無いんだと
そんなに難しくないでしょう
殺す理由も死ぬ理由も無く
そして宗教も無い
さあ想像してごらんみんなが
ただ平和に生きているって
僕のことを夢想家だと言うかもしれないね
でも僕一人じゃないはず
いつかあなたもみんな仲間になって
きっと世界はひとつになるんだ
 
(参照元)
http://www.fujiwaranaoya.com/TD120622.mp3
http://fujiwaranaoya.main.jp/tai18070901.mp3
生誕80年・没後40年:俳句を愛し、禅に共鳴したジョン・レノンの魂が生んだ「イマジン」と日本との絆
https://www.nippon.com/ja/japan-topics/g00979/

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