戦略コンサルと事業会社の「マネジメント」の違い

この前Twitter上で、こっちで起業しているkenmaroonさん(普段こっちでも経営やら戦略やらアフリカの市場環境やら、何かとざっくばらんに議論をさせてもらっている)と「戦略コンサルと事業会社とでは、どっちのマネージャーの方が難しいことをやっているか」という話になった。せっかくの面白いトピックなのでnoteで少しまとめてみることにした。(kenmaroonさんの方での考察は『コンサルでは学べない、起業した後に大事なこと3つ』を参照のこと)

先に前提として書いておくが、僕自身は前職ではマネージャーというポジションではなかった。だんだん仕事を任せてもらえるようになり、マネージャーロールをする機会がちょうど増えてきたタイミングで辞めてしまった人間だ。マネージした人数もせいぜい3人程度で、(5人以上のジュニアスタッフを抱えるような)大規模なスタディのマネージャーは経験がない。なので、「戦略コンサルティング会社での(プロジェクト)マネジメント」を語る資格は、実はあまりないかもしれない。

更に言うと、僕がこっちで経験している「事業会社」は、

・アフリカにある

・社員のほとんどがアフリカ人である

・まさに成長期にあってスタートアップ的である(逆に言えば知名度も規模も無い)

という、ちょっと(だいぶ?)特殊な事業会社であり、更に言えば、こういうトピックはその人その人の成長課題や得意分野によって見ているポイントが大きく変わってくるものなので、「戦略コンサル辞めて事業会社のマネージャーになった人一般」の話まで昇華できるようなものではない、ということも分かっている。正直、僕個人の話にはなってしまうのだが、どこか読んでくださる方にヒントがあれば幸いと思い、完全に僕の独断と偏見を以下に書き連ねる次第。

ということで、まずは、僕が戦略コンサルより今の事業会社の仕事の方が難しいと思っているポイントを4点ほど。

1.ヒトのマネジメントが難しい(人材の替えがきかないという問題)

戦略コンサル時代は、僕自身も自分のプロジェクトのメンバーがイケてないとパートナーに文句を言ったこともあったけれど、今振り返ると、ファームは、それはそれは優秀な若手を抱えていたと思う。学歴が高いことは言うまでもないが、平均してそもそもの「学ぶ力」「アウトプットを出す力」が高い。(当時アサインメントに文句を言って本当にすいませんでした・・・)

加えて、ファームの若手は(個人個人に多少の差こそあれ)、みんなモチベーションも高かった。キャリア志向で、プロ意識があり、(故にある程度の高い給与をもらっており)、例え仕事が夜遅くなろうが土日になろうが、ガツガツ仕事をやってくれていた。

そんな優秀な若手に対しても、少しでも働きが悪いと激しく詰めたり、時にはプロジェクト終了後にOUTを宣告したりしていたのだから、今から考えるとすごい話だと思う。日本では外資系の戦略コンサルティング会社はまだまだ就職市場で人気があることもあり、一人や二人パフォームしない若手がいなくなったところで新たに人材を採用することに困ることはなかったように記憶している。

こちらでは、そもそも優秀で勤勉な人間を見つけるのが非常に大変だ。そういう人間はだいたいアフリカ人とは思えないほどの高給を要求してくるし、そもそも名前も知られていないうちの会社には来てくれない。個々人のモチベーションもプロフェッショナルファームとは異なり、ばらつきがちだ。アフリカほど困ることはないかもしれないが、日本でも名の知れていないベンチャーが優秀でモチベーションの高い人材の獲得に困るというのは、よくある話だろう。

なお余談だが、アフリカのいくつかの国では、収益性など気にしない援助機関が、民間では考えられない給与水準で“それなりに”優秀な人材を雇ってしまっており、民間企業が同レベルの人材を事業的にペイする水準で獲得/リテンションすることがとても困難になっている、と僕は考えている。人材市場における援助の弊害で、優秀な人材が民間に行くインセンティブがとても低くなってしまっており、地元の民間企業が育ちにくい状況にすらなっているように思う。

優秀な人間を抱えられないことはもちろん、多少優秀じゃないからといって、その一度抱えた人間をなかなかクビにすることができないことも、有名コンサルティング会社と異なる、(ベンチャー系の)事業会社のつらいところだ。多少パフォーマンスが悪くても、その人に辞められる方が会社としては断然苦労が大きい。戦略コンサル会社のように見込みのない若手を切ることはできないので、基本的にはじっくりとその人を育てる必要がある。

故に僕自身は、出来が悪いローカルスタッフがいるからといって、戦略コンサル時代のように感情に任せて怒ることはしなくなった。もちろん、戦略コンサルをしていた時も自分の感情はコントロールしていたつもりだったけれど、今考えると全然出来ていなかった(苦笑)。当時は、クライアントへの報告会前日の深夜に、アウトプットのクオリティが上がらないジュニアスタッフを(ここには書けないような言葉で)罵ったりしていたけれど、今の状況だとそれは出来ない。感情のコントロールを失ったマネジメントでは、今の会社では人が辞めてしまうだけなので。

2.ヒトのマネジメントが難しい(コミュニケーションの「密度」が低いという問題)

戦略コンサル時代のチームメンバーとのコミュニケーションは、非常にラクだった。僕の前職のファームは基本的に一人1アサインメントだったので、一日15時間以上(時には20時間以上も!)プロジェクトルームにメンバーと籠る形になる。レビューしようと思えば一日に3回でも4回でもできる状況だった(マイクロマネジメントになるかどうかは、そのチームメンバーの能力次第。優秀なメンバーであればコミュニケーションは一日に1回もすれば十分)。

翻って今の会社では、販売スタッフはフィールドに出てしまっているし、製造を担う工場は物理的に距離が離れている。戦略コンサル時代のような柔軟なコミュニケーションでは手間と時間がかかり過ぎてしまうし、一方で単純にコミュニケーションの時間を減らすと経営の意図が十分に伝わらず、思ったような成果を上げてくれない。戦略コンサルと比べると、より「仕組み化」されたコミュニケーションが必要となるのだが、僕自身があまり「仕組み化」がテーマのプロジェクトの経験がない(もしくは、「仕組み化」が求められるほどの巨大プロジェクトの経験がない)こともあり、この点は今とても苦労している。

3.ステークホルダーが多く、結果として交渉ごとが多い

戦略コンサルってマネージャーまでであれば、基本的に交渉事は多くないと思う。プロジェクトのお値段やスコープの交渉も、パートナークラスが行うことの方が圧倒的に多い。人をアサインするタイミングで、リソースの奪い合いが発生することもあるが、基本的にプロジェクトに入ってしまえばファーム内の他チームとの交渉も、ほとんどない。

また、顧客の社内での調整ごと等はあるにはあるが、これも基本的には先方のカウンターパートの社内チームが責任をもって進めることの方が多かったように記憶している。とにかく僕個人は、前職で「交渉ごと」に顔を出した記憶がほとんど無い。

一方、事業会社のマネージャー(中間管理職)だと、ステークホルダーが多く、結果として交渉も多くなる。これは本当に業態次第なのだが、いかにリソース(ヒト、モノ、カネなど)を自チームに持ってくるか、いかに自チームに都合の良いスケジュール/段取りでモノゴトを進められるように周りと調整するか、が、チームのマネージャーの仕事の一つとなる。これらを巡り、日々、連携が必要となる他部門、投資を決める財務部、人事権を握る人事部などと、さまざまな交渉が必要となってくる。

僕の会社はまだ小さく、同時にアフリカは「大きな商談には責任者が出てこい!」というカルチャーであるため、大型顧客や、政府関係者との折衝には必ず僕が顔を出す(権限移譲が進んでいないだけという話もあるが・・・)。

もちろん、戦略コンサル出身者にはもともと持ち合わせていた才能で交渉が上手い人間もいるとは思うが、僕自身は戦略コンサル時代に交渉力を身に付けたという感覚は無く、「交渉」についてはアフリカに来てから日々学ぶことばかりだ。

4.マルチタスクで、同時に色々なイシューを扱う必要がある(ケースが多い)

戦略コンサルの時は、例えば販売戦略立案のプロジェクトであれば、そのクライアント企業の販売戦略のことだけ考えていれば良かったが、事業会社のマネジメントとなるとどうしても複数の多様なイシューを同時に抱えることになる(特にStart-upフェーズであればあるほど)。

例えば今の僕の場合は、昨日は工場で生産管理の仕組みの議論をしていて、今朝は大口顧客のマネジメントにプレゼンをしていたと思ったら、さっき一人のスタッフが辞めたいと言い始めた・・・というような形で色々なイシューが次々に持ち込まれる状況だ。その場その場で適切にクイックに意思決定をし、時間の使い方を決めなければならず、戦略コンサルタント時代には使わなかった頭の筋肉を使っている感じがする。

(ただし、これはあくまでシングルアサインの(外資戦略系)ファームを想定した話であるため、若手が複数プロジェクトにアサインされる日系のファームだとA社の販売戦略プロジェクトと同時並行でB社の調達改革を・・・というようなこともあると思うので、話が若干変わってくる。)

一方で、(戦略)仮説立案・検証で求められるスキルは、戦略コンサルティング会社のマネージャーの方が高度

ここまで(アフリカの)事業会社でマネージャーをやる上での難しさを書いてきたが、一方で、プロジェクトで扱うイシューの高度さ/複雑さ及び、そのイシューに対する「仮説を立案/検証するスキル」については、戦略コンサルティング会社のマネージャーの方が全然難しいことをしているなあ、と思う。(というか、僕自身が当時のような難しいことを今は一切していないというだけなんですが・・・)

「仮説を立案/検証するスキル」と書いたけれど、要は「チームで、期限内に、納得度が高い戦略(仮説)を立てる技術」だ。新製品のマーケティング戦略であれ、ビジネスモデルの再構築であれ、成功する可能性が高い「戦略」を考え、その妥当性を検証可能なモジュールに分解し、その検証作業をチームで素早く(期限内に)実施していく、という仕事の進め方だ。

普通の事業会社のオペレーション部門のマネージャーであれば、日ごろこうしたような動きが求められることはそんなに多くない。

一方で、戦略コンサルティングの仕事では日ごろからCXOと対峙し、依頼された戦略課題に対し、最終的には彼ら/彼女らが満足いくレベルでの「答え」を持っていくことが求められる。そのためには、どうしても高度で深い(ツッコミに耐えられる)な分析を、チームメンバーの力を活かしながら、効率的に行う必要がある。

こういう経営企画的というか、マーケティング的というか、いわゆる「課題解決」的な仕事となると、戦略コンサルティングでの経験は活きやすいだろう。


・・・以上、とても属人的な議論となってしまい、どこまで参考になるか分かりませんが。中途半端ですが、今日はこの辺で。

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