PEST分析の使い方

はじめに

今回は、外部環境を分析するためのフレームワークであるPEST分析について説明します。

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外部環境の変化を考える場合、大きく分けるとミクロ環境とマクロ環境に分けられます。
ミクロ環境は競合や顧客の変化・動向など自社の戦略やポジションなどにより変わってくるもので、ある程度コントロール可能なものです。
対して、マクロ環境は政治、経済、社会、技術などに関連するもので、世界全体、日本全体、業界全体など広い視点で発生する変化を表し、自社ではコントロールがほぼ不可能なものです。
今回解説するPEST分析は、「政治」「経済」「社会」「技術」の4つの大きな視点から、業界の置かれている状況や環境を分析するマクロ環境を分析するフレームワークです。
PEST分析は政治や経済等身近では無い物を検討したり、分析したりするため、直感的にはイメージしにくいと思います。
そのため、ここからは、PEST分析の具体的な使い方を考えてみようと思います。少し具体例を考えてみます。

Ⅰ:政治の視点

政治の視点ですが、既存の法律、新しい法律の制定、補助金等の国・地方公共団体による支援、税制等から事業環境を捉えるという考え方です。
例えば、昨今の事例で言うと、オンライン診療がより柔軟になった等が挙げられます。
症状によりますが皆さんも、「次回は電話でも大丈夫ですが、いかがしますか?」と病院で言われた経験は無いでしょうか?
また、病院に行く前に電話で相談された方の中には「電話などでの診察も可能ですよ」と言われた方もいると思います。
この背景ですが、厚労省から「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」という事務連絡があります。
この結果、初診からオンラインで診療する事が可能となりました。
さらに、オンライン診療に伴い、医療費のキャッシュレス決済も可能となっています。
これが恒常的に可能となると仮定した場合、「家の近くにある」病院という選択肢から、「家で横になりながら、スマホで診療してくれる」病院という選択肢に変化すると想定されます。
病院とは言え、具合が悪い時にわざわざ出かけたく無い…というのが皆さんの本音だと思いますので、自然とこの流れになると思います。
こうなると、診療をオンラインに最適化する必要があるため、ほぼ全ての流れを変えることになると想像出来ます。
一方で、初診は対面で、再診はオンラインでという原則に戻ったとした場合、3つの動きが考えられます。
①初診も再診も家の近くにある病院で対面診療(現状案)
②初診は家の近くにある病院で対面診療、再診は同じ病院でオンライン診療(原則案)
③初診は訪問診療専門のお医者さんで対面診療、再診は好きな病院でオンライン診療(二極化案)
上記の③が顕著な例ですが、法律が変わると新規事業のチャンスが生まれます。
このため、政治の視点で環境変化を捉えておくのは、新規事業を検討する時に非常に役に立ちます。

脱線しますが、他の業界ではオンライン化が進んでいたのに、医療業界ではオンライン化が進まなかった背景には、法律が関係していることがあります。
この様に現実の世界に、法律が追い付いていないことを「ローラグ(法律改正の遅れ)」と呼びます。

Ⅱ:経済の視点

経済の視点ですが、景気(好景気なのか、不景気なのか)、物価(上がっているのか、下がっているのか)、金利(高金利なのか、低金利なのか、またその金利は今後も継続するのか)等から事業環境を捉えるという考え方です。
経済の視点は、我々が定義する新規事業に繋がることが少ないため、少し簡単に説明します。
最近、小麦粉、砂糖、油(サラダ油)と言った原材料の値上げが続いています。
原材料が値上げしているからと言って、完成品(例えば、お菓子等)を直ぐに値上げするのは難しいのが実情です。
そこで、代替品+異なる付加価値を付けた新商品により、値上げ(正確に表現すると、既存商品の利益率低下を補う)するという方向を模索することになります。
例えば、こめ油に含まれる「γオリザノール」には、胃腸からのコレステロールの吸収を抑える働きがあると言われています。
そのため、コレステロール値が気になる方向けの、こめ油を使った食前クッキーという様な、新しい付加価値提案と、高価格帯の新規顧客の発掘等により、売上及び利益の確保を目指します。
この様に、経済の視点は、新規事業の検討と言うよりは、強制的に事業転換を求められることが多いため、意識する機会が少ないと思います。

Ⅲ:社会の視点

社会の視点ですが、人口(増えているのか、減っているのか、年齢構成がどの様に変化するか)、トレンド(今流行っているものは何か、廃れているものは何か)、教育(昔は良かったけど今はダメな物は何か、LGBT、SDGs等の新しい考え方)等から事業環境を捉えるという考え方です。
例えば、外出自粛(緊急事態宣言・蔓延防止措置等)が該当します。
海外で行われていたロックダウンとは異なり、日本の場合は強制力も罰則も無いため、法律の視点から言えば、外出しても良く、店舗も通常営業していても問題は無いのが実情です。(最近は、営業店舗の公表等の、多少の強制力があります。)
一方で、良く言えば協調性、悪く言えば同調圧力の視点から、外出や店舗での営業が行いにくい物になっています。
このトレンドの影響により、企業ではリモートワークでの勤務となり、飲食店ではテイクアウトを中心とした営業、買い物はECといった、非対面やオンラインへのシフトが急激に進みました。
他方、4度目の緊急事態宣言と言うこともあり、宣言慣れにより気にせず外出する人も増える等の二極化が起きています。
この様に、「外出する層」と「オンライン層」という様な、社会変化に伴う顧客セグメントの変化を捉えておくことは、新規事業を検討する時に非常に重要です。

Ⅳ:技術の視点

技術の視点ですが、インフラ(海外展開をする場合等は、電気・ガス・水道・道路整備が整っているか等)、IT(5G等の最新の情報技術等)、イノベーション(AI技術(以前はエキスパートシステムと呼ばれ、学習させるコストが異様に高くビジネス展開が困難であった。しかし、ディープラーニング(深層学習)と呼ばれる新しい処理技術により学習コストが下がり、ビジネス展開が容易となった。))等から事業環境を捉えるという考え方です。
例えば、技術の視点から、近いうちに起こり得る変化を考えてみます。
5Gと言う単語を耳にする機会が多くなったと思いますが、イマイチ分からないという方も多いと思います。
簡単に説明すると、通信速度が速くなります。
4G(今の多くのスマートフォンの通信規格)は、最大1.7Gbpsです。
ただし、実測値だと100~200Mbpsぐらい出れば良い方だと思います。
これが、5Gになると、理論的には最大20Gbpsとなります。
実測値だと300~500Mbpsぐらいでの通信速度が多い様です。
このぐらいの速度が出ていると、高画質の動画が、外出先でもストレス無く見続けることが可能となります。
そのため、移動中にストレス無く映画や動画配信を楽しめるというメリットがあります。
しかし、実は、5Gの一番のメリットは、遅延速度が短いこと(低遅延)にあります。
4Gでは、遅延時間が10ミリ秒ぐらいあるのですが、5Gになると1ミリ秒まで速くなります。
ここまで遅延が少ないと、遠隔でロボットや機械を操縦することが可能になります。
例えば、クレーン車などは、現場で人が操縦するのでは無く、操縦室を設けたオフィスなどから操作や工事を行うことが、可能となりつつあります。
安定して遠隔操作が出来る様になると、クレーン車では操縦室が不要となる一方で、5Gに対応した通信設備の導入などが必要となるため、クレーン車の設計が大きく変わります。
また、遠隔で操作が可能となるので、工事の方法も大きく変わります。
この様に、技術の変化は、様々な所で新規事業のチャンスを生み出すため、非常に重要です。

まとめ

上記の通り、既存事業は常に、外部環境の変化を受け続けています。
小さな変化であれば、既存事業の改善等により対応が可能です。
しかしながら、上記の様な大きな変化が起こっている様な状況では、改善では対応が難しいため、大胆な改革が必要となります。
普段仕事をしていると慌ただしいため、この様な大きな変化を感じたり、調べたりする機会が少ないと思います。
一方で、アンテナを張っておかないと、大きな変化に取り残されるリスクもあります。
そのため、たまには立ち止まって、大きな変化を捉えてみましょう。
そうすることで、新規事業だけでは無く、既存事業の改善のヒントになるかもしれません。

著:NS.CPA森本 晃弘

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