映画薬

ストレスみたいなものが限界に近づいてくると、
食欲がなくなり、ぼんやりとしてきて、
『ローズマリーの赤ちゃん』のオープニングに流れる、
ミア・ファローの歌が聴こえてくる。
そして頭の中にそれが流れてくると、
なぜかちょっと元気が出る。
なんでだろう、やはり娯楽のパワーはすごい。
こんなとき、映画は結局役に立つものだなと思う。
役に立たないようでいて。
薬のように適切に処方される。
もちろん間違うこともあるし、
接種したら悪化することもあるし、
全くの素通りで、しらんぷりされることもあるけれど。

『ローズマリーの赤ちゃん』を観たのは去年あたりだと思う。
怖そうだからずっと観ていなかった。
あんなにひどくて絶望的で、
ありえない(とも言い切れないけど)、
救いのない恐ろしい話の、
なにに惹かれるのか?
わからない。悪趣味なんだろうか。それはそう。
昔寺山修司が、趣味には良い趣味も悪い趣味もなくて、
そういう趣味、というのがあるだけだ、
みたいなことを言っていたのを思い出す。
なんか、ミッドサマーを観て以来、
共感って言葉は使いづらいけど、共感なのかもしれない。
私はひたすらローズマリーと一緒に、
泣いたり叫んだりしているのかもしれない。
やだー!!(思い出されるあの村)
でも、そうなのだ、打開策を講ずるより、
何にもならないむだな取り組みにこそ精を出してしまう。
ローズマリーは、どの時点で、
どうすればよかったんだろう。
なんて考えてもわからないし、
髪を短く切り不評を買ったら、あとは一人で戦うだけ。
ふざけるな、と。
一緒に、そんな力が湧いてくる映画でもある。
最後はもう無理でしたごめんだけど。
よく悪魔が勝利する映画、として名前が出てくる作品だけれども、
勝敗なんかもはやどうでもいい、
はっきりいって涙も出ないです。
そこから思えば、始まりのあの、
かなしみをこえて思考停止みたいな、
優しくてふわふわした歌詞のない歌声は、
どこまで、やれるだけやったのかさえ、
自分でもわからない感じがほんとにしんどくて、
いやになるほど素晴らしい。
幸せな歌にも聴こえるのが怖い。

そういえば一度だけ近所のお母さん仲間に、
一番好きな映画を聞かれたことがある。
それまで聞くことはあっても聞かれたことはなかった。
『E.T.』って答えたら、
嘘をつくんじゃない。
と言われた。
本当だけど!?
なぜか信じてもらえずやり直しに。
その後の応酬は残念ながら忘れてしまった。
E.T.最高なんだが。
『ローズマリーの赤ちゃん』って言えばよかった。
まだ観てなかったからなあ。
案外盛り上がったかもしれない。

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