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スコーン

行きつけの食堂で週替わり定食を頼もうとすると、シェフが申し訳なさそうに
「今日の定食は全部出てしまいました…予想外にお客が多くて…」
と言ってきた。大丈夫、問題ないです。と私は言いながら、別のメニューを探索する。今日の定食は鯵のナメロウフライとコロッケ定食だった。折角の揚げ物の気分なので、トンカツ定食にしようと思い注文を行う。確かに今日は予想以上に客が多い気がする。先週は客が少ないと言っていたので、客が来ることは良い事なのだが、食べたいと思っていたものが食べられないと切なくなるモノだ。

そうこう考えている内にトンカツ定食が届く。揚げたてのカツは旨いが、気分はちょっと切ない気持ちが続いていた。それを察したかのようにシェフが
「試作品ですが…」
とスコーンを出してくれた。噂には聞いていたが食べたことはあっただろうか。スコットランドが発祥らしい。
「口の中の水分が一気に持って行かれるのでドリンクと一緒に召し上がった方がいいですよ」
なるほど。口に含んだ瞬間に一気に水分が持って行かれる。思わず水を飲みスコーンを流し込んだ。なんとも不思議な味わいだ。パンと言われたら何となく納得するが、言われなければパンだとは思わないだろう。一口…二口…三口…サクッとしていて口に入れると重い。でも美味しいのだ。シェフの心遣いに感謝しながら、トンカツ定食と一緒に全てたいらげた。自分の知らない国の知らない食べ物を思わず食すと異国の地に行った気分にさせられる。
「アフタヌーンティーで出されますもんね」
シェフは笑いながら言ったが、そもそもあんな豪華なアフタヌーンティーというものを食べたことがないのだから想像しようもない。だが良い経験をさせてもらった。感謝を込めて店を出る。明日も来て食べられなかった鯵のナメロウフライとコロッケ定食のリベンジをします。そう宣言して店を出た。知らない世界を堪能した後は、世界も少しだけ違って見えるのだ。

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