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デフの方々の強さについて。ファイトソング第9話より

2022.3.10
「ファイトソング」の最終話が、いよいよ来週。

1話は見たが、恋愛ドラマ全般の恋の過程にそんなに興味がない私はあんまり心が乗らず、観たり観なかったりが続いていた。
しかし、花枝の耳が聞こえなくなる、ということが分かりはじめてから、すごくのめり込んで見ていた。
私はなぜか、「耳が聞こえない」という描写に、ものすごくドキドキしてしまうのだ。
ドキドキ、というのは、恋のドキドキとは正反対の、心の奥がぎゅーっとなる感覚のこと。重たいものが心にぎゅーっと乗ってきて、心を底へ底へと沈めてくるタイプの、ドキドキ。
今週回はその真骨頂であり、一日経ってもドキドキが収まらず、他の物事に集中できないから、文章にしてみることにする。

このドキドキは、耳が聞こえないことが題材になった映画とかドラマで、よく発生する。
「星の金貨」「聲の形」とか、「コウノドリ」で聴覚障害のお母さんが出産に挑む回、とか。
障害を扱った物語は数多くあるが、私は耳を扱う物語において、その現象が起こるし、なぜ耳だけなのか、といわれると、分からない。
ただ、耳というのは唯一の「見た目では分からない」障害である、ということが影響していることは、薄々感じている。具体的に書くと、デフの方にしか見えない世界があるのではないか、と空想してしまうことが、ドキドキの原因なのではないだろうか。


口で会話をする私たちは、言った「言葉」が重要だ。例えば、最近炎上してた「〇〇の人には人権がない」というのとかは、別に発言しなくても、Twitterとかの文字上で表してしまった時点で、炎上もの。つまり、別に言わなくても、言葉で人柄が表現できてしまう。それに、生の会話で表現できることはあるといっても、今のご時世マスクをしているし、せいぜい声色でしか表現はできない。
だから私たちは、文字でのコミュニケーション(LINEとか)と対面のコミュニケーションに、デフの方よりはそんなに差がない。

上記は何が言いたいのかというと、デフの方々の対面でのコミュニケーションの情報量は、本当にすごい、ということ。
たまに街中で見かける、手話で会話をしている方々は、本当に表情豊かに話しているし、会話を楽しんでいることが何より伝わってくる。「言」と「動」だと動の方が人の個性は出るし、手話は「動き」だから、何もかもが伝わってくるのだ。
言葉を選びながら会話をしてしまう私にとって、大きな動作で感情をはっきり伝える方は、見ていてすごく気持ちがよい。一方で、流れるようにすごく綺麗に手を使いこなす方は、一発で良い方なんだろうなと分かるし、持ち物がブランドか、とかが人なりを判断する要素になっている私たちを、非常にちんけに感じる。
それに、マスク越しの表情もよく動いていて、視覚情報で感情が伝わるような努力をされているのが伝わってくる。
自分のことを動作ではっきりと伝えるデフの方々を、ある意味で羨ましくも感じてしまう。
だから、デフの方にしか見えない世界があるのではないか、と空想してしまうのだ。

社会的カテゴライズでは、健常者・障害者の二択だと、聴覚障害の方々は障害者に入る。しかし4年に一度のスポーツ大会では、健常者が参加するオリンピック・大多数の障害者が参加するパラリンピック、とは違って、「デフリンピック」という第三のカテゴライズになる。
例えば、パラリンピックに出場している足が欠損している方は、義足をつけることで、見た目を健常者に近づけて、健常者に近い生活を過ごしていると思う。ご本人は辛いことをたくさん抱えているのは承知の上で、の話だ。
でも、見た目は健常者だけど、主要な語感である耳にハンデを負う人々は、健常者に近づくのではなく、独自の世界で生き抜こうとしているのだ。

ドラマの話に戻るが、花枝は、手話は使わない。でも、自分の発言を遮らないでくれ、自分が喋り終わったら返事をしてくれ、と身近な人たちに注文を出している。私はその注文に、デフの方の独自の世界を感じる。
ずっと黙っていたら、健常者にしか見えないし、耳が聞こえない/聞こえにくいことは、分からない。冒頭のランニングシーンなんて、喋っていないから健常者に見える。なので、健常者に近づくためには、発言自体が少なくなるものだと思う。でも、花枝は、健常者ではなく障害者である自分を周りに受け入れてもらい、自己主張をするのだ。手術のことが言い出せなかった花枝がこの領域に達するまで、2年間という月日にたくさんの葛藤があったのだろうが、たどり着いた先の「自己主張がしたい」という決意に、デフの方々が全員持っている強さを感じる。

この強さに、私はドキドキしてしまうのだろうか。
ハンデなんて無い方が良い、というのはもちろん分かっているけれど、私はどうしても、この強さに憧れてしまう。憧れ、なんて言葉は失礼に値するのかもしれない、と恐れを感じながらも、やはり憧れる想いはあるので、こうやって記すことにする。

だから私は、デフの方々を描いた作品に、心打たれて、ドキドキしてしまうのだ。
ドラマで描こうとしていない「デフの方々の細部」を私の心では感じ取ってしまうのである。

そして、ファイトソング今週回。
さっき書いていて思ったが、このドラマは、「途中から耳の障害を負うことになる人」をはじめて描いたドラマだと思う。もし他にもあるなら、観たいので教えてほしい。
「星の金貨」「聲の形」「コウノドリ」のデフの登場人物たちは、全員幼少期からデフを背負っていたが、花枝は、途中から(それも大人になってから)背負うことになった人。
家族同然の仲間たちに言うことに悩んでいた描写が8話まで続いた中、空白の2年間があり、9話に。
花枝が最も心を動かすのは、手術に向かうまでの不安な気持ちや、手術後聞こえなくなってしまった絶望の思いなど、病院の中だと思うが、その描写がほとんどなかった。
芦田さんとの明るい別れまでしか視聴者は見届けられなかったからこそ、健常者からデフになること、つまりハンデを負うことを分かりながらも、全てを受け入れてデフとして生きる覚悟を決めた、2年後の花枝の強さが際立つ。
そして、花枝のその強さに、羨望する。


特に私が心を締め付けられたのは、芦田さんと再会してから逃げてしまうまでの、花枝の表情。
芦田さんが待っていたときの、会っちゃったよ、、っていう、嬉しいとは言えない複雑な気持ち。
あんなに声が聞きたい、歌が聞きたい、と聞いてきた愛する人の声が、聞こえないと改めて自覚してしまったときの、絶望。突然無音になる演出も、視聴者がいきなり花枝の立場になったようで、花枝の聞いてる音として聞けたから、すごい心が揺さぶられた。読唇術で読めない、芦田さんのはきはきしてない喋り方も、読み取れないことが、花枝は音が聞こえなくなっていることを増長させていた。

そして、あんなに愛していた芦田さんが、耳が聞こえない自分のことを、知っていた。芦田さんは、花枝に分かりやすいように耳を押さえて、「みみ」と言うんだけど、その耳の押さえ方が、慣れていない不器用な触り方で、花枝を見つめる瞳も優しくて、なんかそれら全てが、花枝のことを可哀想に思っているように感じられてしまった。
全てを受け入れてデフとして生きる覚悟を決めた花枝だけど、芦田さんとの再会を通して、その花枝の強さを、視聴者の立場で惨めに感じてしまうくらい、あの花枝の表情には凄みがあった。

お付き合いが期間限定である理由を話したくなかったのも、耳が聞こえなくなることを1番知られたくない存在だったのも、全部好きだからこそ。それに、花枝にとっての大切な曲「スタートライン」に代わるほどの曲かもしれない、自分のことを想って作ってくれた、歌ってくれた、新曲を、聴くことができない。好きだからこそ、耳のことを知られているのが悲しいこと、もう好きな人の声を聞くことができないことを実感させられて辛いこと…。

それらが一瞬ですべて押し寄せてしまったからこそ、花枝が逃げてしまうことが納得できてしまった。何もかもが伝わってきた。
芦田さんから顔を背けるまでのあの時間、観ている側の心が、すごく辛かった。
清原果耶ちゃんは、何かを背負った役の演技がすごく上手だな、と思う。おかえりモネも、繊細な表情の変化が素晴らしかった。

心がぎゅっとなった、ファイトソング第9話だった。書いたことで、ちょっとはぎゅっと感が落ち着いたので、最終話を楽しみに待とうと思う。
いつものことながら自己満足日記だけど、低すぎる級だけど手話検定は持っているし、手話に関するドラマも観ているし(大学生で「星の金貨」を観ている人は大分少ないと思う。生まれる前のドラマだし)、近づく努力(近づく、という言葉が合っているのかは分からないけど)をしていることは、念頭に置いていただけると有難い。デリケートなテーマであるのは事実だと思うので、こういう内容の意見文のようなものを世に出すことに抵抗はあるのだが、デフの方々に失礼のないように、と言葉を少し選びながら書いたつもりなので、出すことにする。

ファイトソング最終話に向けて。
花枝が選ぶのは芦田さんか、慎吾か、一人の道か、なんていうのはわからないけど、強く逞しく生きてほしいな、と思う。慎吾に告白されたときの表情とか、芦田さんと再会しちゃったときの表情とか、もう二度と花枝にはそんな表情してほしくない。事故に遭ってから、あんなに1人で悩んできた花枝なんだから、本当に幸せになってほしい。手術前に芦田さんとか慎吾に見せてた、あの無邪気な笑顔を、ドラマ内で必ず取り戻してほしい。
デフの方々が持つ独自の世界を花枝が持って、ファイトソングの登場人物全員で支えていくような結末が見たいな、と思う。

あと6日?! 待てない!!!!

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