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突然見えなくなった絵を描く老人

 

 週に一度通っている歯科医院に行く道の途中に、道路に面した居間のカーテンを開け放してその老人はいつも1人で絵を描いていた。

 絵はおそらく油絵の静物画だった。書き上げた油絵が部屋のあちこちに飾ってあった。

 玄関には手描きであろう「絵画教室」の古びた看板が掛かっていた。

 歯科医院に行く度にその老人が絵を描いているのを見るのが楽しみだった。

 好きな事をやって老後を過ごしている老人を見ては、あんな風に自分も好きな事をやって老後を過ごしたいと思ったものだ。

 しかし、ある時その老人が絵を描いていた部屋が見当たらない。えっ、お爺さん何処に行った?

 目を擦って辺りを見回すと、玄関にあった看板も無くなっている。

 信じ難かったが、その老人の住んでいた家が丸ごと取り壊され更地になっていたのだ。

 その老人はかなりの年齢に達していたと見られたので、1人暮らしが出来なくなって引っ越しをしたのか、あるいは亡くなったのか、詳しい事は分からない。

 何処かでまた達者に絵を描いている事を願うばかりだ。

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