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パンチパーマあてたい

初めてパンチパーマをあてたのは、20歳の時だった。

わたしがパンチパーマを好きな理由。なんだろう。
祖父はパンチパーマではないが、デザインパーマを月一回かけるようなパーマ愛好家でそれを小さい時から見ていたからかもしれない。鮮明に覚えているのは、理容室の壁で見た、髭剃りのパッケージにあるような「THE・男」といったダンディな挿絵とともに書いてあった「男ならパンチ」という強烈な貼り紙。いつかはクラウンならぬ、いつかはパンチという秘められた感情を抱きながら、20歳のその日を迎えた。

就職で引越して、パンチパーマをあてれる店はほとんど無くてレアだということに後々、気付くことになるのだが、初めてのパンチはあっさりと店が見つかった。大学の近くの理髪店。「パンチパーマできますか?」と聞くと、「あぁ、できるよ」とおじさんからあっさりと反応があった。

当時はスマホもない時代。理容室のおじさんが鉄のコテを持って髪の毛を絡みとる所作に感心しつつ、劇的に変化するヘアースタイルを見つめながら「取返しのつかないことをやってしまった。母ちゃんゴメン」という後悔が押し寄せたのを覚えている。大学近くの理容室、知り合いが入ってくるかもしれない。サザエさんでしか見たことがなかったパーマキャップを被り、パーマ液が馴染むのを待つ時間。20歳と言えば、自己顕示欲の塊=オレの状態で人にどう見られているか?に神経がビンビンになっていた時だ。周りは(お洒落な方の)パーマを美容室でかけ、髪を染める中、わたしはというと初めてのパンチパーマに挑んでいる。そんな主観と俯瞰が混じり合いながら、2時間半の全工程を終える。何事も初めてを親切にしてもらえるとその後も続きやすい。初めてのパンチパーマもおじさんが親切で、「今日は髪の毛を洗っちゃだめだよ」、「形を保つためにブローは欠かさずに」とパンチパーマ初心者の心得を教えてくれた。その後も同じ店で、3回ほどあてることになるのだが、「あそこの大学であてる人は君くらいだよ」と言われたくらいでおじさんはパンチパーマについて色んなことを教えてくれた。コテは大きく分けてロッド径毎に3種類ある。3㎜、6㎜、9㎜。3㎜よりも細いロッドで巻くパーマはニグロと呼ばれる。(その後、ニグロをあてた人を目撃して、コテについて話し、意気投合することがあった)
鉄ゴテを使えるのは理容師で美容師は資格を持っていないので使えない。パンチパーマをあてる人が激減しているので、昔はできたが今はできないという職人がいっぱい居る。などなど、ひたすら髪の毛を絡めとっては鉄ゴテで巻きという所作を繰り返すだけで時間が有り余っていたので、パンチパーマにまつわる話をしていた。

ちなみにだが、パンチパーマをあてると漏れなく、チン毛を燃やした時のような香ばしい匂いが自頭から薫ってくる。パーマ液の突き抜けるような刺激臭とない交ぜになって、「パンチパーマをあてる」という実感が嗅覚でも楽しめる仕掛けになっている。20年以上も前のことで、詳細な料金を覚えていないが、6000円くらいだろうか。(ロッド6㎜の場合)当時働いていたコンビニの時給が700円くらいだったから9時間の労働をパンチパーマに交換して、颯爽と自転車を漕ぎ、寮へ帰った。帰り着き、寮生共同浴場での出来事を鮮明に覚えている。「失礼します」と引き戸を開き、洗体をしながら鏡に映った、やたら密度の高いヘアースタイルを見ながら、自分の中で「変化した」という実感があったのだ。次々に風呂場に入ってくる誰もが、オレの変化にまだ気付いていない。形も匂いも何もかも変わってしまったのに、誰も気づかないなんておかしい。とまで思っていた。そんな自分の中で熱く燃えるものを抱えながら、浴室を出て身体を拭いていた。

これが初めてのパンチパーマ。パンチパーマをモチーフにしたTシャツもいっぱい作っている。

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ボデーは今では廃盤になってしまった。グリマーのヘビーオンスTシャツ。anvilからメーカを転々として、グリマーのヘビーオンスに落ち着いた。このボデーでかなりの枚数を作っている。パンチパーマのシルエットでロッド径3㎜、9㎜と書いてある。その上に☆(星)でオススメ度を表現している。超細かいのだが、激推ししている3㎜の口元の表情の方が喜びに満ちていることがわかるだろうか。既存フォントだと面白くないと思い、「PUNCH」の字体は切絵で作成。この頃は初代プリントBOXのNさんに依頼していた時期でコスト度外視の3色仕上げ。しかも星はラメ仕様のキラキラ。自分が着るためだけのTシャツだ。

もっとパンチパーマをあてるという体験を実感してもらいたいので、10年前にあてた時の日記をご紹介。

2010年4月19日
15Rパンチパーマネントウェーブ 

髪が伸びたので、髪を切った。
ついでにパーマをあてた。

今回はパンチパーマ(6mm)にした。

過去に

①パンチパーマ9mm
②パンチパーマ6mm
③パンチパーマ3mm

をあてたことがあるが、3mmは所要時間が3時間以上かかるので、6mmにした。
パンチパーマをあてる時の楽しみにしているのが、あてる時の理容師のリアクションだ。
ちなみに、美容師はアイロンこてを使用できないので、パンチパーマをあてたい人は理容院を選ぼう。

店の中堅と思しき長髪で割腹のよい30代後半くらいの理髪師の方が、尋ねる。

理 『今日は、どんな感じにしましょう?』
私 『パーマをお願いします。パンチパーマを6mmのバックで。』

しばしの間の後に、理髪師が聞き返す。

理 『だいぶ、イメージが変わってしまいますが。大丈夫ですか。』
私 『もう、何度もかけてまして。髪も痛んでないので大丈夫です。かけてください、6mm。』
理 『わかりました。』
私 『あと、サイドは耳から上10センチを刈り上げてください。』

こいつは、パンチパーマの常連だということを漸く理解した理髪師は、パーマネントの液をとりに行き、私の横でシェイクして、ねじり巻きにしたタオルとともに、均一にカットされた黒髪の上に、あの阿蘇の牧場で味わった濃厚なミルクのコクを加えたソフトクリームのように大胆にも几帳面に垂らし始めた。


パーマネント液が毛根にそして頭皮にそして、五臓六腑に染み渡るのを、まだ寒さの残る春の青空を眺めならが、あぁ、また汚されたと己の変わり果てた黒髪を対面鏡越しに眺めるしかできなかったのがパンチパーマ5回目の私、5度目の防衛戦であった。

パーマネント液をぬるま湯で洗い流すと、理髪師はヘアーアイロンを持ってきた。

3mmの倍ということで、太めのアイロンである。

過去の対戦相手のように、素肌でアイロンの熱さを試すことなく、黒髪にまとわりつかせた。

ジューと香ばしい匂いと白い湯気が立つ、戦いのゴングが鳴る。

次から次に、リングにカールが出来上がり、男だけの宴会で一度は嗅いだことのある匂い、あの毛が焼けるという匂いが充満する。

するとどうだろうか、理容師はカール部分にフ~と息を吹きかけるではないか。

パンチパーマ(6mm)に離乳食を子供の口に運ぶ母親のようにフーフーしてくれている。

次々に冷やされる熱々のカールおじさん。 

耳のそばあたりのカール部分のフーフーなんてのは、別のダメージだ。

後半に効いてくるであろう細かいフーフーを受けながら、何とかアイロンこてでの攻撃は終了した。

次のラウンドは、カール祭りとなっている頭上に冬場に売られるネット売りのみかんに使うようなネットを被った状態で、10分ほど放置される。

実はこの時間が、精神的に一番きつい時間なのである。私と同じくらいに入店したものは次々に帰っていき、新たなカット客が謎のネット男を横目で見つめてくるのである。

試練の10分間が終わると、いよいよ戦いはエンディングに向けて一気に加速する。

ネットを外されて、ドライヤーでブロウされて、盆栽のように成形される。

 これで、試合終了だ。

すると、不意に理髪師が問うた。

『もみあげはどうしますか。』

細かいフーフーは受けながらも、終始試合を有利に進めていて【勝利】を確信していたため、上手く反応しきれなかった私は、

『普通でお願いします』

と答えてしまったのだ。 

パンチ 6mm 耳上かりあげ10mm と歯切れよく言っておきながら、最後の最後に大きなミスをしてしまった。

散々、特殊な攻撃をしときながら、『普通で』である。

試合終了のゴングが無情にも鳴る。

それは、5度目の防衛を逃した合図でもあった。

思い返せば、細かいフーフーが効いたのか、それも分からない。
年齢的にもこれが最後の試合と決めていた。悔いはない。

『さぁ、お疲れ様でした。』 

理髪師はどこか誇らしげだった。

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これから、パンチパーマをかけたいと思っている方へ
①所要時間:約2時間(ロッドの太さが6mmの場合)
②価格:4300円~(店舗によって、異なります。)
③パンチパーマの種類
 大きく分けると、バックとサイドわけがあります。
お勧めはバックですね。


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