言葉のカスタマイズの話

キーワード

使う言葉のカスタマイズ、思考のショートカット、高速でメモをとる、言葉で遊ぶ、変人入門

前置き 

みなさん日本語を正確に使おうとしていますか、それとも自分の使いやすいようにどんどんカスタマイズしていますか。私はどちらかといえば後者で、自由に自分の中でフレーズを作ったりパターンに名前をつけたりしています。相手の満足感のために会ったり話したりすることを「毛繕い的コミュニケーション」と言ったり、夜中にふと目が覚めることを「夜に拾われる」と言ったり。メモをとる時に草書とか中国語の簡体字を使う他にもパッと対義語を思い出せない時に鏡文字で書く、書く速さを上げるためにひらがなの書き順を変えるなどしています。比較的自由度が高い言語だからか、自分の癖はそのままにしながらも、言葉自体はあまりカスタマイズしないという人が意外に多いことをこの1週間で感じました。今回はこれから自分の言葉をカスタマイズしたいという方にガイドというか、良い点と注意するべき点、どのように始めるのがいいのかを軽く書いていけたらと思います。

言葉をカスタマイズすることの利点

 言葉のカスタマイズに対する自分の意見としては、個人的に使う分にはどんどんして良いと思っています。言葉のカスタマイズをすることには次のような利点があります。
1.同じようなことを考える時のショートカットになる
2.メモが早くかける。覚えるのがラクにになる
3.言葉を有機的につなげて、わかりやすい説明ができるようになる
4.言葉で遊ぶのが楽しくなる

ひとつずつ説明してみます。

 まずはショートカット。自分が一度考えたことに名前をつけるというタイプのカスタマイズですね。色々なことを考えていると似たようなことが別の分野でも言えることに気がつくことは結構あると思います。私は興味深いものであれば1度目に、そうでないものも2度目か3度目にそのような事象に名前をつけるようになっています。先の「毛繕い的コミュニケーション」も分類としてはその類です。確かに似たような言葉はあるのですが、自分で名前をつけておくと自分ごととして捉えられるという利点があります。ただ知っている言葉を増やすだけだと意味を知っているだけで実際に使うことができない場面は増えますが、自分で言葉をある程度作ってしまうと似たようなものに出会った時に腹落ちするのが早くなります。例えばトレードオフという言葉がありますが、高校生の時の私にとっては現代文頻出単語帳で見ただけで、あまりその言葉自体を使うことができていませんでした。実際、文章を読んでいる中でこの言葉にぶつかると自分の中でイメージがすぐに湧かずに一旦停止してしまうことが多々ありました。しかし、自分が似たような場面に出会った時に「これは金欠時の新書or文庫本問題だな」と言葉にした時にふと納得しました。これはそのまま、金欠の時に書店に入って新書を買うと文庫本を買えなくなり文庫本を買うと新書を買えなくなるという状況下で作られた言葉で、トレードオフの具体例でしかありません。しかし、自分で言葉にしたことによって、納得できたのも事実です。このような言葉に限らず自分の考えをカテゴライズするためのフレーズを自分の中に持っておくと、いつの間にか視座の低く偏った考えから抜け出すのにも役立ちます。ショートカットを設けることで結果として余計なところにエネルギーを使うのを防ぐことができるのです。

 次にメモが早くかけるということについてです。これはひらがなの書き順を変えたり、略字を使うなどのカスタマイズの仕方がダイレクトに関係しています。かなり多くの人が門構えを省略して書いたりしていると思います。私は多分、一般的な人よりもそれを多用しているにすぎません。具体例としてはこんな感じですね。

よく使う略字
な→書き順を変えつつ読めるように
問→形を単純化する
場→簡体字の流用


 もちろん他にも多く使っています。本当に急いでいる時はメモをとる時に左→右と書いたのちにそのまま右→左と折り返して鏡文字で書くことも珍しくありませんし、多少速記文字も書けるので助詞や関係詞は速記文字で書くこともあります。ただ、早く書けても読むのに時間がかかるので基本は早さ7割読みやすさ3割くらいの比率くらいの比重にするために全文を速記文字で書くことはありませんが。例えば人の話をメモするときに早く要約しながら書けると、自分のコメントや疑問を書く時間をとることにもつながります。深く聴くことに注力できるわけですね。とてもお得だし、何より楽しいです。相手に「メモとっていて話を聞いていないと思ったら、鋭い質問が来た」と思ってもらえたら最高です。そして疑問点を考えながら聴くことは話を咀嚼できて理解する速さや深さにもいい影響を与えうると思っています。

 3つ目に言葉をカスタマイズすることはそれなりに言葉のつながりやイメージを使うことになるので、言葉の具体と抽象を行ったり来たりすることになります。先ほどのトレードオフの話では自分の中での「金欠時の新書or文庫本」がトレードオフの具体例になっているという話をしました。1度でもつながりがわかると、今度は他の具体例を出すことも簡単になります。似たような言葉に出会った時に自分が納得できるような言葉に変換してしまえば、自分の中で納得する言葉同士で元の言葉動詞の関係を理解することもできます。そうすると、自分の中のストックが増えていって色々な言葉を場面に沿う形で説明できるようになります。解像度が上がっているのでまだその言葉をあまり知らない人にも「この言葉とはこういうところが違っていて、でもこの場合にはほぼ同じ意味になる」などという説明もできるようになるのです。もちろんこの言葉の意味はこうだからと端的な説明をする人もいるし、場面によってはそのほうが好ましい場合もあります。しかし選択肢を持っておくだけできめ細かい話し方や説明ができるのならばその方が話す側からしても楽しいと思います。

 最後に言葉で遊ぶ楽しさです。私は自分で作った「夜に拾われる」とかのフレーズが好きになる傾向があります。もちろんこのフレーズに関しては夜を擬人化しているだけでなく、眠りについている状態を水か何かに沈んでいるとか1人で広いところに落ちているとかそういうイメージから着想して作った言葉ではあるのですが、夜の優しさを感じませんか?作ったと言っても「夜に救われた」と言ったことをきっかけに「夜に掬われた」と言葉で遊んでいて、拾われたに至ったというのが初めで、優しさとかの意味は後からつけたものではあります。でも、言葉で遊んでいなかったらそもそも生まれなかったフレーズです。こういった自分の感覚とかをうまく言葉にできた瞬間というのはものすごく落ち着いていて、かつ興奮しているというなんともいえない気分です。これはある種のパズルを自力で解けたのにも似た感覚ですね。言葉で遊ぶというより言葉と遊んでいる気分になります。これだけでもおすすめしたい。そういう何にも変え難い楽しさです。

言葉をカスタマイズするときの注意点

 では次に言葉をカスタマイズすることの注意点はなんでしょうか。1番大きくて深刻なのはカスタマイズした言葉を作ったり使いすぎて一般的な言葉を使わなくなったり、戻ってこれなくなること。結果として周りから変人というラベルを貼られる。これだと思います。
 今でこそこうやってある程度は読める文章を組み立てられていますが、高校の時は結構軽率に熟語とか言葉を作っていた時期があったので、定期テストで酷い目をみました。現代文の論述で辞書に載っていない単語を使うとか。漢字を全部簡体字で書くとか。めちゃくちゃ点数悪くて笑ってしまいましたね。戻ってこれたからよかったものの、戻ってこれなかったら…….と考えると恐ろしいです。それからは困ったらすぐに単語を作るということは無くして、短くて使いやすい単語がないとか、単純になって使いやすくなるものだけを選んで新しく書くようにしています。その時もきちんと日本語<たまに他の言語>に戻ってこれるように音や、漢字、見た目にヒントを残すようにしています。これを私は言葉の錨と呼んでいて、これがない自製単語は定期的に他のものにしています。それから、人と話すときに一般的に使われていない言葉を使うこと自体も周りから変人扱いされることに拍車をかけると思います。私は自分と話す時には仔細、僻目、僻耳、這般などの単語を使っています。それは後で話す、言葉をカスタマイズするときの材料探しに明治期の本を使っていたからです。でも、一般的には詳細、見間違え、聞き間違え、それらの、ですよね。自分が使っている単語を一般的な単語にするとどのような単語に1番近づくのかを意識することも言葉の錨を作る作業の一部です。独り言で使う単語はなんでもいいですが、人と話す時のカスタマイズはほどほどにして、書くときはメモ以外は自分語を一般語に翻訳しながら書くのがおすすめです。「そんな手間をかけてカスタマイズする意味はあるのか」とも言われそうですが、カスタマイズしないと得られないものもあるわけです。それは早く物事を理解する力であったり、言葉と遊ぶ喜びであったり様々ですが私はそちらの利点が大きいためにカスタマイズすることを選んでいます。結局変人になる人をそうたらしめているものは、その人が普段使う考えること≒使う言葉 なのだろうなと思いました。というのも、職場で変わっていると言われている人は少なくとも1つは独自の不思議なフレーズを日常的に使っているからです。e.g.電車が渋滞起こしてて遅刻した、快適ゾーンの悪魔に囁かれたから1日中寝てた。

言葉をカスタマイズするぞ!という方へのチュートリアル

 さて、ここまで言葉をカスタマイズすることの利点と欠点を私の意見で話してきました。これをみて自分も言葉をカスタマイズしたいと思った方。簡易的なチュートリアルを紹介しましょう。もしかしたら変人チュートリアルなのかもしれませんが……。
 まず、メモを手っ取り早く早く書きたい方。よく使う漢字を列挙して、図形に置き換えてみたり行書の部首の書き方を軽く勉強してみましょう。手っ取り早くて効果的です。あとは、中国語の簡体字を画像検索してみると参考になるものが結構見つかります。あとは自分で読みやすさと速筆性でバランスの取れたオリジナルの略字を作れると良いですね。特にひらがなは左下から書くパターンを用意すると横書きで連続してかけて良いですね。
 次にショートカットを用意したい方。似たことにラベルを貼るようにキャッチフレーズを作るといいです。できれば意外性のある言葉同士を繋ぐようにすると記憶にも残りやすくて最高。人と話した後も、後で振り返って自分なりの言葉に落とし込みたい。ある程度分類したら、細分化するために言葉を振り直すのも忘れずに。極端に簡略化すると実際の言葉の定義とずれた認識になることもあるので、不安なら辞書引くか人と話して差を詰めましょう。自分で考える分には熟語作ってもいいですね。考えるときに楽になります。
 最後に言葉で遊びたい方。正直これはショートカットを用意するのとも似ているのですが、あまり一般的でない単語に触れる機会や変わった言葉の組み合わせを日常から作って単語ひとつずつのイメージを確立していくと飽きずに楽しく遊べます。少し古い本、外国語に触れる。古典に触れるなど。短歌も楽しい。本も選ぶ時に書店に足を運んで興味の向くままに本に触れられるといいですね。電子書籍はおすすめ機能が曲者です。「あなた、これ読みたいでしょ?」「いいえ。私が普通だったら読まないような本を探しているので」こんな気持ちのやりとりをしょっちゅうしている気がします。

 ある程度できたら他の人が作った言葉たちに触れたり自分で発信してみましょう。同じようにしている方も少数ではあるものの存在はしているので情報交換したりとか。哲学書とかを読むとかなりの確率で自分が作ったのと同じ意味の言葉が既にあって、嬉しかったり。発信はちょめったーとかnoteとかはてなブログとか。発信する手段はたくさんあるのでどんどこ発信すると楽しいですね。定期的に自作でことわざを作るのも楽しいでしょう。
 私は最近、一人称のカスタムについて思いを巡らせることがありました。私は「わたし」を口頭では使うことが多いですが、過去の話をするときはその時に使っていた一人称にしたり、場面によっては「わし」「たし」も意識的に使い分けます。こだわりというか癖というかは人によって違うのでしょうが、そう言った点も言語化できたり思いを巡らせるのは楽しいものです。この話は下のツイートにまとめました。よろしかったらみてみてください。

 今週も良い1週間になりますように。読んで頂いてありがとうございます。

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