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初級エンジニアの入門にも、上級エンジニアのスキルアップにも役立つ1冊――近刊『理論と実務がつながる 実践有限要素法シミュレーション(第2版)』まえがき・学習手順公開

2022年9月中旬発行予定の新刊書籍、『理論と実務がつながる 実践有限要素法シミュレーション(第2版)―汎用コードで正しい結果を得るための実践的知識―』のご紹介です。
同書の「まえがき」および「学習手順」を、発行に先駆けて公開します。


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第2版 まえがき
2010年に本書の第1版が出版されてから、有限要素法を中心としたCAEはさらに広く普及し、本書の主題である理論と実践の両輪の基礎知識はますます重要となってきている。そこで、今回、さらに理解が進むよう内容を見直すことにした。

本書の構成や目的は変わっていないが、4章に、近年重要となっている結果の検証と妥当性確認(V&V)の解説と、5章の演習問題として、実際の構造強度設計に近い実践的な演習問題を2題追加した。また、付録Aの応力の基礎はより正確な記述に見直し、付録Bは構造強度設計の章とし、追加した実践的演習問題で必要な塑性崩壊と低サイクル疲労の解説を加えた

(以下略)

初版 まえがき
近年、有限要素法シミュレーション(構造解析)はCAE(Computer aided engineering)のなかでもっとも重要なツールの一つとなった。これに従い、実務で有限要素法を使う設計者の数は著しく増大した。同時に、多くの洗練された汎用コード(ABAQUS、ANSYSなど)の発展により、ユーザーは、必ずしも中身の原理的なことに熟知していなくとも解析を実施することができるようになり、短期間で多くの結果を求められるようになってきている。しかし、実際の設計の現場では、苦労しているという話をよく耳にする。これは有限要素法の使用にあたっては、適切なモデリングや境界条件の設定、計算結果の評価などの高度な実践知識(ノウハウ)が必要とされるからであると考えられる。不幸なことに、もし、これらが適切でない場合でも、汎用コードはそれなりの計算結果を出力してしまうため、誤った解析結果を得ることになってしまい、ときに、大きな設計ミスや判断ミスにつながってしまうおそれがある。
 
もちろん、有限要素法の原理から厳密に学んだうえで、実務に応用することができれば理想的ではあるが、すでに実務に利用しているか、あるいはすぐに利用することを考えている人にとっては、すべての基本原理にさかのぼって学習する時間的余裕はないのが実情である。また、多くの有限要素法の専門書は、その難解な原理に重点が置かれており、実際に設計者の身のまわりの問題に対して、どのように対処すればよいかが書かれた専門書は数少ない。
 
本書は、有限要素法を初めて学ぶ大学学部生・大学院生の教科書としてだけではなく、設計の現場で実際に有限要素法解析を始めようとしている、あるいは、すでに始めているが、さらにスキルを伸ばしたいと考えている設計者が、有限要素法を正しく使ううえでの素養を身につけられるよう、実践的な内容を含んでいる。
 
(以下略)

 
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学習手順
本書は、前半の理論編と後半の実践編に分かれている。理論編は1章~2.2節までが有限要素法のきわめて基礎的な内容を含むものであるため必ず学習してほしい。とくに重要な部分は“ポイント”として記している。2.3節以降はポイントを中心に学習し、実践編で必要になった段階で立ち返って詳しく学習してもかまわない。
 
実践編の4章では、有限要素法に関する実践的な知識(ノウハウ)について、解析の流れに沿ってまとめた。必ず一度は目を通してほしい。とくに重要な部分は“ノウハウ”として記している。本書の一つの目的は理論とこれらの実践的知識を有効に結びつけることであり、そのつながりを下のチャート図に示したので、理論の復習のために活用してほしい。5章は有限要素法解析の演習問題であり、初級と中級と実践問題に分かれている。実際に有限要素法解析を行って解いてほしいが、時間のない人のため、解説を読むだけでも有限要素法解析がどのような考えで行われるのかの知識が得られるよう配慮してある。また、実際に有限要素法解析を行う場合、中級と実践問題の結果については、まわりの人と議論しながら学習することを推奨する。
 
有限要素法の解答のためには、材料力学・構造強度設計の基礎的な部分はあらかじめ学習していることが望ましい。応力の基礎と、本テキストで使用する構造強度設計の基礎知識は付録A、Bにも記載した。必要に応じて活用してほしい。とくに、応力の解釈は有限要素法解析において重要であるため、付録Aは確認のためにもチェックしてほしい。

●学生向けのテキストとして
本テキストは、有限要素法を初めて学ぶ学部生・大学院生が半年間かけて講義で学ぶことを想定している。よって、学部生・大学院生には、演習問題も含めて、すべて学習してほしい、ただし、3.2節のアイソパラメトリック要素は、少々難解であるため対応する練習問題はとばしてもかまわない。

●初級レベルのエンジニアの入門書として
有限要素法をこれから実務として使う技術者は、1章~2.2節の内容は練習問題も含めてしっかり学習し、3章は、ポイントを中心に学習してほしい。また、有限要素法解析の経験のためにも、実際に自分で解析を行うことを強く推奨する。
 
●実務レベルのエンジニアのスキルアップとして
すでに、有限要素法を実務として使っている技術者は、1~3章の内容をポイントを中心に確認した後、実践編(4、5章)を中心に学習してほしい。とくに自信がある人は、5章の有限要素法解析を行う前に材料力学の知識を用いて解いて、その後、解説と照らし合わせるか、実際に自力で解析を行う学習手順を推奨する。中級問題は、軽量化や最適化など問題を拡張することも可能なので、必要に応じて試みてほしい。実践問題は、実際の設計に近い問題であるため挑戦してほしい。

●本書のチャート
下のチャート図は解析の流れにおける“ノウハウ”とその理論の“ポイント”との結び付きを示したものである。自分の知りたいことは本書のどこにあるのか、それはどんな理論やノウハウと結びついているのかを知るマップとして学習に活用してほしい。

(以下略)

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著:泉 聡志(東京大学)  酒井 信介(東京大学 名誉教授)

【目次】
理論編
1章 有限要素法の基礎知識

 1.1 材料力学とは
 1.2 有限要素法とは
 1.3 材料力学と有限要素法

2章 有限要素法の原理(トラス要素)
 2.1 マトリックス法によるばねの計算
 2.2 一次元トラスの有限要素法
 2.3 二次元トラスの有限要素法

3章 有限要素法の原理(ソリッド要素)
 3.1 三角形一次要素(定ひずみ要素)
 3.2 アイソパラメトリック四辺形一次要素
 3.3 アイソパラメトリック四辺形二次要素
 3.4 軸対称ソリッド要素
 3.5 三次元ソリッド要素

実践編
4章 有限要素法の実践的知識
 4.1 形状のモデリング
 4.2 要素の選定
 4.3 メッシュの作成
 4.4 境界条件の設定
 4.5 解析物理モデルの設定
 4.6 結果の検証
 4.7 結果の分析における注意
 4.8 結果の検証と妥当性確認(V&V)
 4.9 構造強度設計
 4.10 より高度で便利なモデリング

5章 有限要素法の演習問題
 5.1 有限要素法のレポートのまとめ方(例題)
 5.2 有限要素法演習問題(初級)
 5.3 有限要素法演習問題(中級)
 5.4 有限要素法演習問題(実践)

付録A 有限要素法のための応力の基礎
 A.1 応力テンソルの定義
 A.2 応力テンソルの座標変換
 A.3 応力場の解釈の実例
 A.4 ひずみテンソルの定義と構成則(応力̶ひずみ関係)
 A.5 平衡方程式と仮想仕事の原理

付録B 有限要素法解析のための構造強度設計の基礎
 B.1 塑性崩壊強度設計
 B.2 SN線図による疲労強度設計
 B.3 応力集中係数と応力拡大係数

練習問題解答
索引

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