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現役数学者がやさしく解説!――近刊『数学書の読みかた』まえがき一部公開

2022年3月上旬発行予定の新刊書籍、『数学書の読みかた』のご紹介です。同書の「まえがき」の一部を、発行に先駆けて公開します。

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まえがき

「数学書を読むのに、これだけは知っておいてほしい」ということを、なるべくコンパクトにまとめたい。そう考えて、この本を書きました。高校1年までに学ぶ数学の知識があれば、ほとんどの部分は読めるはずです。高校2年から大学1・2年に学ぶ内容も少し出てきますが、そこは飛ばしても読み進められるようにしてあります。

数学書と言ってもいろいろなものがあります。この本で説明するのは、大学の講義や輪講(セミナー)で使う数学の教科書の読みかたです。以下の文章で「数学書」と言ったら、そのような教科書のことを指します。

この本の内容を簡単に紹介しましょう。この本は、第1章から第4章までの第1部「基礎編」と、第5章と第6章の第2部「実践編」に分かれています。

最初の第1章では、数学書はどのように書かれていて、それを読むためにはどのような心構えが必要かについてお話しします。第2章は、論理を表現する言葉「~でない」「かつ」「または」「ならば」についての解説です。これらの言葉の使いかたは高校でも学びますが、数学書を読むうえで重要ですから、改めて復習します。

第3章から本格的に数学書の読みかたの話が始まります。第3章では、やさしい例文の読解を通して、数学書を読むときの7つの基本について説明します。次の第4章では、「すべての○○について」と「ある○○について」という形の命題と、その証明について解説します。とくに、これらの命題を証明するときの基本的なパターンを述べ、それがどのように応用されるのかを見ていきます。このようなパターンについて高校ではあまり扱いませんが、数学書をきちんと理解するのに役立ちますから、詳しく説明します。

なお、第1章から第4章には、最後に短い対話がついています。この対話では、本文の内容に関してよく聞かれる疑問を取り上げています。

以上が第1部の基礎編で、残りの第5章と第6章は、第2部の実践編です。

第5章は、第1部の内容の実践演習として、数学において重要な概念である「写像」に関する文章を読みます。ただし、この本の目標は数学の文章の読みかたを身につけることですので、写像に関するごく基本的な性質だけを扱っていることをお断りしておきます。さらに進んで学習したい場合は、この本の最後に紹介している文献を参照してください。

第6章は、数学でよく使われる論法の解説です。ここで扱う論法の流れと、第4章で説明する基本的なパターンを知っておくと、数学書に書かれている証明が読みやすくなるでしょう。

本は、読者の好きなように読んでよいものですが、著者としてはこの本を次のように読んで、使ってもらいたいと考えています。 

(1)少しずつ、時間をかけて読む
冒頭に書いたように、必要な内容をコンパクトにまとめることを目指しました。無駄な文章はなるべく省いています。ですから、ていねいに、時間をかけて少しずつ読んでもらいたいと思います。多くの人は、数学書の読みかたを身につけるのに時間がかかります。無理に急ぐ必要はありません。

(2)この本を参照しながら、実際に数学書を読む
この本は、スポーツの教則本のようなものです。サッカーの技術について書かれた本をいくらたくさん読んでも、それだけでは一流のサッカー選手にはなれないでしょう。実際に自分でボールを使って練習しなければなりません。同じように、この本で説明している「数学書の読みかた」を、数学書を読みながら実際に使ってほしいと思います。たとえば、定義を読むときには3-1節「定義は設定もあわせて覚える」を参照する、「すべての○○について」の形の命題の証明を読むときには4-4節「全称命題の証明」を参照する、というように、この本を横に置いて参照しながら、実際に数学書を読んでみてください。この本ではたくさんのことを説明するので、一度にすべてを身につけるのは難しいでしょう。できることから実践してみてください。

(3)自分にあった方法を作り出す
数学書の読みかたに、ただ1つの正解があるわけではありません。ですから、この本で説明している読みかたが自分にはできないからといって、数学の勉強をやめてしまわないでください。実際に自分で試してみて、役に立った方法は取り入れてください。そうでない方法は無理に使わなくてかまいません。数学書を読んでいて、なんとなく理解できなくなってきた気がするときに、この本のことを思い出してください。そして、この本を参照しながら、自分なりの「数学書の読みかた」を作り出してほしいと思います。

 (以下略)

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著:竹山美宏(筑波大学 教授)

「この定理が証明できると何がうれしいの?」
「そもそも、なんでこんな概念を考えるの?」

 数学書を読んでいて、このような疑問が浮かんできたことのある方も多いのではないでしょうか。

本書は、そんな難攻不落の数学書の読みかたを、現役の数学者がやさしく解説。

実際の数学書でよく目にする形の例文を通して、緻密かつ正確に読むための実践的な方法をレクチャーします。

◆こんな方へおすすめ◆
「独学で数学を勉強しているけど、きちんと読めているか不安」「どこを突っ込まれるかわからないので、輪講やセミナーで発表するのがおっくう」といった悩みをもっている、学生・エンジニア・社会人の方。 

◆本書で紹介する「数学書を読む技術」◆
・誤解しやすい「~でない」「かつ」「または」「ならば」の正しい扱いかた
・定義や具体例を読む際のポイント
・全称や存在を含む命題の証明パターン
・「場合分け」「数学的帰納法」「背理法」が使われている証明を読む際のポイント


【目次】
第1部 基礎編
 第1章 数学書はどのようなものか
  1-1 数学の学習には3つの段階がある
  1-2 数学書のスタイル
  1-3 定義はひんぱんに使われる
  1-4 数学書は体系を作り上げている
  1-5 定理・命題・補題・系
  1-6 地の部分は注意して読む
  1-7 「なぜこんなことを考えるのか?」を克服する
  1-8 「これはいったい何だ?」を克服する
  第1章を振り返って 大学での数学の学びかた

 第2章 数学語を身につける
  2-1 「~でない」
  2-2 「かつ」と「または」
  2-3 「かつ」と「または」の否定①
  2-4 「かつ」と「または」の否定②
  2-5 「ならば」の意味
  2-6 対偶の利用
  第2章を振り返って 数学語「ならば」について

 第3章 数学書の読みかたの基本
  3-1 定義は設定もあわせて覚える
  3-2 定義を覚えるには
  3-3 定義を読む練習①
  3-4 定義を読む練習②
  3-5 定義を読む練習③
  3-6 具体例の主題・主張・理由を押さえる
  3-7 定義を使って議論する
  3-8 命題の仮定と結論をとらえる
  3-9 仮定と結論を読み取るときの注意①
  3-10 仮定と結論を読み取るときの注意②
  3-11 根拠と結論のつながりをひとつひとつ確認する①
  3-12 根拠と結論のつながりをひとつひとつ確認する②
  3-13 数式が意味する主張を検証する
  3-14 証明を読み終えたら
  3-15 命題は正確にあてはめて使う
  3-16 地の部分の読みかた
  第3章を振り返って ノートを取る意義

 第4章 全称と存在の議論を読みこなす
  4-1 全称命題と存在命題
  4-2 全称と存在の否定
  4-3 全称と存在の否定を作るときの注意
  4-4 全称命題の証明
  4-5 場合分けの議論
  4-6 存在命題の証明
  4-7 一意性の証明
  4-8 長い証明の読みかた
  4-9 全称と存在の順序
  4-10 「存在→全称」型命題の証明
  4-11 「全称→存在」型命題の証明
  4-12 ε-N論法①
  4-13 ε-N論法②
  4-14 基本的な推論規則を意識して使う
  4-15 ε-N論法③
  4-16 全称と存在の両方を含む命題の否定
  第4章を振り返って 「証明のパターン」について

第2部 実践編
 第5章 数学の文章を読みこなす:写像を題材として
  5-1 集合の表しかた
  5-2 写像の基本
  5-3 写像が等しいことの定義
  5-4 全射
  5-5 反例を挙げる議論
  5-6 単射
  5-7 「ならば」の否定
  5-8 同値性の証明
  5-9 3つ以上の条件の同値性

 第6章 さまざまな論法
  6-1 数学的帰納法①
  6-2 数学的帰納法②
  6-3 部屋割り論法
  6-4 背理法
  6-5 背理法による存在証明

補足
参考文献
索引

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