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落石を災害にしないために:より実用的な対策を可能にする一冊

2019年2月に刊行した、勘田益男・西川幸成・中村健太郎著『落石対策工の設計法:落石運動の予測から性能評価まで』のご紹介です。

山地が国土の大部分を占め、降雨や積雪も多い日本。土砂崩れや雪崩など、さまざまな自然災害から身を守ることはきわめて重要です。本書『落石対策工の設計法』は、そのような自然災害のうち、「落石」の対策についてまとめたものです。

「落石対策」といったときにどんなものを思い浮かべるでしょうか。普段の生活ではあまり目にすることはないかもしれませんが、おそらく最もわかりやすいのは、網や柵などを斜面に設置して、落石が道路や建物まで到達しないようにすることでしょう。

『落石対策工の設計法』によると、落下してくる石の質量は、数トンから、ときには10トンを超えることもあります。そんなものが数十メートルもの高さから転がり落ちてきて、道路や建物のあたりでは秒速数十メートルの速度にもなるわけですから、十分な安全性を保たなければ大惨事になってしまいます。

それでは、はたしてどれくらいの強度の設備を、どれくらいの高さで設置すればよいのでしょうか。その設計のためには、

・どれくらいの速度で石が落下してくるのか
・石が斜面にぶつかって、どれくらいの高さまで跳ねるのか
・どのような工法がどのような状況に利用できるのか/向いているのか

を把握する必要があります。

しかも、凸凹の状態は斜面によってさまざまですし、その時々で凹凸へのぶつかり方、跳ね方も変わります。このように不確かな要素があるなかで、それでも十分な安全性を確保しなくてはなりません。また、網や柵のような施設を防護するための工事だけでなく、落石の発生そのものを予防する工事が必要になる場合もあるでしょう。どちらの工事でも、さまざまな工法があり、どのように用いればよいのか・性能はどのように評価すればよいのか、といった難しさもあります。

落石対策を実施するときの指標として、

日本道路協会 編集『落石対策便覧』(丸善出版、2017年)
https://www.road.or.jp/books/index5.html

が用いられています。最新版は17年ぶりに改訂されたもので、新たな法令への対応や技術の進展が反映されています。

しかし、じつはこの『落石対策便覧』でも、明確な基準や方針が定められておらず、実務者の経験やこれまでの工事での適応実績に任されている部分があります。それだけ落石対策は難しいということでしょう。

『落石対策工の設計法』では、『落石対策便覧』とあわせて、より実用的な落石対策がおこなえるように、長年落石対策に携わってきた著者たちによって、落石の速度や跳躍の高さの推定や、各種工法が解説されています。落石災害から私たちの生活を守る技術者・実務者の方々に、ぜひ役立てていただきたい一冊です。

【目次】
第1章 序論
■第I部 落石運動の予測
第2章 落石運動エネルギーの推定
第3章 平坦斜面における落石跳躍量の予測
第4章 凹凸斜面における落石跳躍量の予測
■第II部 落石対策工の評価と設計法
第5章 落石予防工の評価と設計法
第6章 落石防護工の評価と設計法
第7章 落石防護工の性能評価における動的応答解析の活用と展望
第8章 落石対策における今後の課題
資料 落石対策便覧の改訂点


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