見出し画像

【内容一部公開】世界的名著、ついに翻訳!――近刊『デュレット 確率論(第5版)』

2024年8月下旬発行予定の新刊書籍、『デュレット 確率論(第5版)』のご紹介です。
同書の一部を、発行に先駆けて公開します。


***

訳者まえがき

本書はケンブリッジ大学出版から出版された「Probability: Theory and Examples(Fifth Edition)」の邦訳です。著者のDurrett氏は、ルベーグ積分など基礎的な事項からはじめて、大数の法則や中心極限定理などの極限定理、マルコフ連鎖、マルチンゲールなどの確率論の中心的な話題、およびブラウン運動と偏微分方程式との関係などの進んだ話題までを、タイトルが示すように、豊富な例を交えながら非常に意欲的に解説しています。

訳者はこの世界的に有名な著作を以前から知っていました。少し前に、ペアごとに独立な同分布確率変数列に対して大数の強法則が成り立つことが書かれていると知ったことをきっかけに詳しく読みはじめ、極限定理の精密な話や応用、エルゴード定理など、発展的であるが応用上は重要な話題についても丁寧に書かれていることを知りました。上に述べた標準的な事項とこれらを1冊で読める本は他に類をみません。

確率論の本格的な教科書といえばW.Fellerによる「確率論とその応用」が有名ですが、少し古くなったし、邦訳はあるものの簡単には手に入りません。本書は、上に述べたことに加えて実用上の応用も多く書かれており、現代版の「Feller」といえるかもしれません。実際、この教科書を意識しているし、そこから引用している箇所も多いです。引用箇所では「Feller」の邦訳書のページ番号を書いておきました。

本書は測度論からはじめられており、読むための予備知識は必要ありませんが、ルベーグ積分の初歩と初等確率論を学習しているとよいと思います。理論の鍵になる例や問題が書かれているので、既習事項であっても確認するとよいでしょう。多くの場面で、豊富な例が理論の理解に役立つと確信しています。定理などに対する直感的な説明をしたあとで、厳密に証明を述べているところも多くあります。これらは著者の熱い気持ちの表れであると思います。

邦訳にあたり、専門用語は「数学辞典第4版」(岩波書店)、「確率論ハンドブック」(丸善出版)などに従って、標準的な用語を用いています。そのために原著とは違う言葉づかいをしているところもあります。また、初学者が気づきにくいと思われる議論や、説明が不足していると思うところには訳注を入れています。さらに、ケアレスミスと思われるものは修正しています。間違いを新しく加えたかもしれませんが、それが訳者の責任であることは言うまでもありません。

(後略)

***

Rick Durrett(著)
青山学院大学 松本 裕行(訳)

30年以上定番書であり続けるDurrettの世界的名著がついに邦訳。確率論・確率過程、ランダム現象の数理解析などを扱う大学院生や研究者なら、ぜひ手元に置いておきたい一冊。
 
測度論にはじまり、大数の法則や中心極限定理、マルコフ連鎖、マルチンゲールといった確率論の中心的な話題から、ブラウン運動と偏微分方程式の関係などの進んだ話題まで、豊富な例を交えながら意欲的に解説。理論を応用した多くの具体例をみることで、より深い理解へ到達できる。
 
*Rick Durrett:デューク大学名誉教授。確率論、確率過程、およびそれらの生態学や集団遺伝学等への応用に関する8冊の著作と220を超える論文を著してきた。米国科学アカデミー、アメリカ芸術科学アカデミー会員。数理統計学会、アメリカ数学会特別会員。
 
[原著]Probability: Theory and Examples, 5th Edition (Cambridge University Press, 2019)
 

【目次】
第1章 測度論

 1.1 確率空間
 1.2 分布
 1.3 確率変数
 1.4 積分
 1.5 積分の性質
 1.6 期待値
 1.7 直積測度,Fubiniの定理

第2章 大数の法則
 2.1 独立性
 2.2 大数の弱法則
 2.3 Borel-Cantelliの補題
 2.4 大数の強法則
 2.5 確率変数の級数の収束∗
 2.6 再生理論∗
 2.7 大偏差∗

第3章 中心極限定理
 3.1 de Moivre-Laplaceの定理
 3.2 弱収束
 3.3 特性関数
 3.4 中心極限定理
 3.5 局所極限定理∗
 3.6 ポアソン収束
 3.7 ポアソン過程
 3.8 安定分布∗
 3.9 無限分解可能分布∗
 3.10 Rᵈにおける極限定理

第4章 マルチンゲール
 4.1 条件つき期待値
 4.2 マルチンゲール,概収束
 4.3 例
 4.4 Doobの不等式,p次(p>1)平均収束
 4.5 2乗可積分マルチンゲール
 4.6 一様可積分性,1次平均収束
 4.7 後ろ向きマルチンゲール
 4.8 任意停止定理
 4.9 単純ランダムウォークに対する組合せ論的方法∗

第5章 マルコフ連鎖
 5.1 例
 5.2 構成,マルコフ性
 5.3 再帰性と非再帰性
 5.4 ランダムウォークの再帰性
 5.5 定常測度
 5.6 漸近挙動
 5.7 周期性,末尾σ-加法族∗
 5.8 一般の状態空間∗

第6章 エルゴード定理
 6.1 定義と例
 6.2 Birkhoffのエルゴード定理
 6.3 再帰性
 6.4 劣加法的エルゴード定理
 6.5 応用

第7章 ブラウン運動
 7.1 定義と構成
 7.2 マルコフ性,Blumenthalの0-1法則
 7.3 停止時刻,強マルコフ性
 7.4 経路の性質
 7.5 マルチンゲール
 7.6 伊藤の公式∗

第8章 ランダムウォークへの応用
 8.1 Donskerの定理
 8.2 マルチンゲールに対する中心極限定理
 8.3 定常列に対する中心極限定理
 8.4 経験分布,ブラウン橋
 8.5 重複対数の法則

第9章 多次元ブラウン運動
 9.1 マルチンゲール
 9.2 熱方程式
 9.3 非斉次熱方程式
 9.4 Feynman-Kacの公式
 9.5 Dirichlet問題
 9.6 グリーン関数とポテンシャル核
 9.7 ポアソン方程式
 9.8 Schrödinger方程式

付録 測度論に関する補足
 A.1 Carathéodoryの拡張定理
 A.2 可測集合
 A.3 Kolmogorovの拡張定理
 A.4 Radon-Nikodymの定理
 A.5 積分記号下での微分 

参考文献
索引

※原著に従い,発展的な話題を扱う節には「∗」を付している.
 初学者は飛ばして読んでも後ろで困ることはないと思われる.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?