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近刊『11ステップ 制御設計―PIDとFFでつくる素性のよい制御系―』内容一部公開

2021年3月下旬発行予定の新刊書籍、『11ステップ 制御設計―PIDとFFでつくる素性のよい制御系―』のご紹介です。
同書の「はじめに」および「序章」を、発行に先駆けて公開します。

11ステップ

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はじめに

制御とは、検出した信号を使って、使用目的に合うように機械などを動かすしくみだ。使用目的や信号のセンサ・装置類は多種多様だから、その組み合わせは無数にある。その中から、もっとも目的に合ったしくみを選び(カスタマイズし)、その細部を設計することが制御設計だ。だから、制御の素性は、カスタマイズによって決まる。

ところが、カスタマイズの概念は広く知られてはいないようだ。しかも、カスタマイズのための強力な道具の一つであるフィードフォワード制御は、フィードバック制御に比べると教科書での扱いが極端に少ないように思える。このような現状だから、カスタマイズしない「素のPID制御」一本槍で仕事をする方がいらっしゃるようである———などと書くと他人事のようだが、実は私もその一人だった。

私がカスタマイズに気づいたのは、前の勤務先でのことだ。制御工学の教科書の内容は頭に入れているつもりだったし、制御工学の権威の先生方による社内の制御教育コースにも参加したが、制御設計で一目置かれる同僚の話について行けないことがあった。たとえば、「このシステムには、フィードバック制御じゃなくてフィードフォワード制御のほうがいい」のような会話だ。フィードフォワード制御は、私が勉強した教科書にはほとんど書いていなかったし、社内コースでも習わなかったので、困惑した。このようなことが頭の中に引っかかって、あれこれと考えているうちに、一目置かれている同僚達がカスタマイズしていることにようやく気づいたのだ。

私の観察では、彼らのカスタマイズ方法は、ほぼ同じだ。だから、普遍的な設計法がある(ようにみえる)のだが、周知されてはいない。そこで、カスタマイズを包括した「設計法」を教科書としてまとめる必要性を感じたことが、この本を執筆する動機になった。

この本の内容はこうだ。正しくカスタマイズされた制御を「素性のよい制御」、素性のよい制御を開発している技術者を「達人」とよべば、この本は、実際に制御設計をされている方から、大学や高専で制御「理論」の授業についていけない方、制御を習ってない方までを対象に、
 素性のよい制御を、
 達人のように手際よく設計できることを目標に、
 達人の設計法を体系化・マニュアル化
したものだ。

そのため、次の三つをこの本の執筆方針にした。
・設計手順を明示した。そのために、設計に使わない制御理論は付録やTipsに、細かい説明は脚注に回した。もちろん、教科書としての必要事項は網羅してある。
・制御設計に使われる方法を納得したうえで使いこなしてもらうために、制御系の動作の直観的イメージを記した。
・制御設計の現場での業界標準制御設計ソフトウエアMATLAB/Simulinkの使用を前提とした。

この本が、よりよい制御の設計に取り組むエンジニアの方々やそれを目指す学生諸君のお役に立つことができれば幸いである。

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序章 制御設計の流れとこの本の構成

■この本が想定する読者と目的
この本の対象者は、初心者から実務者まで幅広い。その中でも説明レベルとしてとくに想定するおもな読者は、制御工学に挫折したり、制御(設計)に自信がもてない方、たとえば、機械電気系の共通分野(周波数応答・過渡応答など)の知識はあるが、制御の知識や経験が浅いというような方だ。このような方々でも制御設計を最短で学べるように、本書は構成されている。だから、PID制御に自信をもっている方なら、フィードフォワード制御や2自由度制御系を容易に身につけ、よりよい制御設計ができるようになるはずだ。もちろん、制御工学を習ったことのない方でも、付録を参照していただくことで、お読みいただけるように配慮してある。

 ■制御設計に必要な技術
制御とは、検出した信号を使って、使用目的に合うように機械などを動かすしくみだ。使用目的や信号のセンサ・装置類は多種多様だから、その組み合わせは無数にある。その中から、もっとも目的に合った組み合わせを選び、その細部を設計することが制御設計だ。したがって、制御設計の本質は、制御のバリエーション選択としての「カスタマイズ」だ。この本では、正しくカスタマイズされた制御を素性のよい制御と書くことにする。

素性のよい制御系の設計手順は、大雑把には表1のようになる(くわしい内容は、次章以降で話すので、理解できなくても心配は無用だ)。

この制御設計のStep1~9をコンセプト設計、Step10を細部構造設計、Step11を定数設計ということにする。

11ステップ序章表1

■この本の構成
この本は、2部構成になっており、制御設計法を過不足なくまとめている。

第I部は第1~3章からなる、制御設計の要素技術の部だ。第1章を理解することで、使用目的に合った制御系のコンセプト設計(Step1~9)ができるようになる。第2章を理解することで、PID制御のバリエーションが選択でき(Step10)、さらにその定数設計を、Simulinkの時間軸波形をみただけで設計できるようになる(Step11)。

第3章では、フィードフォワード制御や2自由度制御系の設計と、そのバリエーション選択ができるようになる(Step10)。

第II部は、第4~5章からなる、制御設計の詳細手順の部だ。第4章の制御設計マニュアルに従えば、素性のよい制御系を設計できるようになる。第5章では、三つの具体例に対し、マニュアルに従って実際に設計する流れをみることができる。

付録には、制御工学をはじめて学ぶ方や、忘れてしまった方を対象に、制御工学の基礎事項を述べている。必要に応じて読んでいただきたい。

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11ステップ 制御設計―PIDとFFでつくる素性のよい制御系―
https://www.morikita.co.jp/books/book/3552

共著:酒井英樹

その制御系、もっと手際よく、素性よく作れます!
PIDとFFを使いこなす最短・最善の設計術!

「制御工学は一通り学んだけど、自分で設計するのは難しい…」
「PIDしか使っていないけど、それ以外も検討したほうがよいのだろうか?」
「上司や先輩はどういう考えで設計しているのだろう?」
このような悩みを抱えていませんか?

目的に合った制御系をあっという間に設計する、「達人」とよばれるような技術者たち。
彼らは、制御の目的やセンサの種類に着目して、PID制御とFF(フィードフォワード)制御を使い分け・組み合わせているのです。

誰もが達人になれるように、本書では、達人の設計術を体系化し、11ステップのマニュアルにまとめました。自分の設計に自信がもてない方や、望んだ性能にならずに困っている方に向けて、設計の詳細な手順や、制御系の動作を直感的にイメージする方法を解説しています。

【目次】
第I部 制御設計のための技術
 第1章  制御の基礎とコンセプト設計
  1.1 制御系とは
  1.2 制御の上位バリエーション
  1.3 コンセプト設計の手順

 第2章  PID制御
  2.1 しくみと基本的発想
  2.2 下位バリエーション
  2.3 手際よい定数設計

 第3章  フィードフォワード制御と2自由度制御系
  3.1 もっとも基礎的なフィードフォワード制御
  3.2 2自由度制御系
  3.3 2自由度制御系を応用したFF制御
  3.4 目標値を微分してもキックが出ない場合の FF 制御
  3.5 追値制御の下位バリエーション選択

第II部 制御設計の流れ
 第4章  制御設計マニュアル

 第5章  制御設計のケーススタディ
  5.1 鉄道の車体傾斜制御
  5.2 自動車の上下振動低減制御
  5.3 自動車のブレーキ時旋回防止制御

付録  基礎事項
 付録A  ブロック線図による数式の視覚化
  A.1 記号
  A.2 ブロック線図の結合
  A.3 フィードバックループをもつ制御系の伝達関数
  A.4 Simulinkのプログラム法

 付録B  周波数応答
  B.1 sin 波に対する応答
  B.2 周波数応答の計算法
  B.3 MATLABによる周波数応答の求め方
  B.4 応答の速さの目安

 付録C  代表的な伝達関数
  C.1 比例
  C.2 積分
  C.3 微分
  C.4 一次遅れ系
  C.5 二次遅れ系
  C.6 一次進み系
  C.7 近似微分
  C.8 遅延
  C.9 合成された伝達関数の周波数応答
  C.10 入力の周波数成分

 付録D  フィードバック制御系の安定性
  D.1 MATLABによる安定・不安定の見分け方
  D.2 解かなくてもわかる安定判別
  D.3 安定限界の意味

 付録E  相場感の一般性

参考文献

索引

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