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宇宙論の多様なトピックを基礎から学べる1冊――近刊『宇宙論入門(原著第2版)-宇宙の力学からインフレーション、構造形成まで-』序文公開

2022年9月中旬発行予定の新刊書籍、『宇宙論入門(原著第2版)—宇宙の力学からインフレーション、構造形成まで-』のご紹介です。
同書の「序文」を、発行に先駆けて公開します。

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序文
本書の第1版は、オハイオ州立大学での上級学部生用の宇宙論コースの講義ノートに基づいて書かれた。受講している学生は、主に物理学と天文学を専攻している3,4年生である。私の講義では、1年と2年の物理学を勝ち抜き生き残ってきた学生が電磁気学と統計力学、古典力学、量子力学の基本的なことがらを理解していて、数学に関しては、スタンリー少将∗1のように微積分が得意であると仮定している。この本の読者も物理学と数学に関して彼らと同じような予備知識があると仮定している。一般相対論の予備知識はとくに想定していない。基本的な宇宙論を理解するための相対論の知識(比較的少ない)については、必要なときにその都度紹介する。

あなたが現在読んでいる第2版は、第1版以来経過した14年間の観測的理論的発展を更新し、読者からの多くのコメントによって改善してある(第1版に潜り込んでいたタイプミスを鵜の目鷹の目で見つけてくれた読者に感謝したい)。第2版では、最後の2章で構造形成のより進んだ内容について解説している。宇宙論の短い講義向けに、最初の10章はそれだけで独立するように作られている。

残念なことに、米国規格基準局は宇宙論の方程式のための標準記法の確立に賛同していない。すべての宇宙論の本は独自の記法をもっており、この本も例外ではない。私がこの本を書いた主な動機は、宇宙論の初学者に対して記法を可能なかぎり明確にしたかったからだ。

∗1 訳注:オペラ『ペンザンスの海賊たち』(“The Pirates of Penzance”) のセリフ「私は微分積分が得意だ」(“I’m very good at integral and differential calculus”)より。

(以下略)

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原著:Barbara Ryden(オハイオ州立大学)
訳: 牧野伸義(大分高専)

宇宙論とはどんな学問で、私たちは何を解き明かしたいのか?
そんな疑問から始めて、観測事実や歴史的背景にも触れつつ、宇宙論の基礎をなす諸概念を解説します。宇宙モデル、ダークマター、宇宙マイクロ波背景放射、元素合成、インフレーション、構造形成など、多様なトピックを1冊で学ぶことができます。
 
本書の特長は、数式の背景にある考え方が非常に丁寧に解説されているところです。
宇宙論に現れるさまざまなスケールの単位の扱い方、一様等方性という概念、標準ビッグバンモデルが抱えている問題――これらの一筋縄ではいかない話題も、たとえ話やジョークを交えつつ軽妙に語られており、楽しく読むことができます。
これから宇宙論を学びたい人はもちろん、さらに理解を深めたい人、一度つまずいてしまった人にもおすすめです。
 
原著“Introduction to Cosmology”は、宇宙分野の優れたテキストに贈られる“Chambliss Astronomical Writing Award”を2006年に受賞しています。
初版(翻訳「宇宙論入門」ピアソン・エデュケーションから2003年に発行)から大幅に加筆された第2版、待望の翻訳です。
 

【目次】
序文
1 はじめに

2 基礎となる観測

 2.1 夜空は暗い
 2.2 宇宙は等方かつ一様である
 2.3 赤方偏移は距離に比例する
 2.4 いろいろな種類の粒子
 2.5 宇宙マイクロ波背景放射
 Exercise

3 ニュートン vs. アインシュタイン
 3.1 ニュートンの方法
 3.2 アインシュタインの特殊相対論
 3.3 アインシュタインの一般相対論
 3.4 曲率の記述
 3.5 ロバートソン ─ ウォーカー計量
 3.6 固有距離
 Exercise

4 宇宙の力学
 4.1 アインシュタインの場の方程式
 4.2 フリードマン方程式
 4.3 流体と加速度の方程式
 4.4 状態方程式
 4.5 ラムダを好きになるように
 Exercise

5 宇宙モデル
 5.1 エネルギー密度の進化
 5.2 真空宇宙
 5.3 1成分宇宙
 5.4 多成分宇宙
 5.5 基準モデル
 Exercise

6 宇宙論パラメータの測定
 6.1 「二つの数の探求」
 6.2 光度距離
 6.3 角径距離
 6.4 標準光源とH_0
 6.5 標準光源と加速宇宙
 Exercise

7 ダークマター
 7.1 見える物質
 7.2 銀河の中のダークマター
 7.3 銀河団のダークマター
 7.4 重力レンズ
 7.5 いったいなんなんだ
 Exercise

8 宇宙マイクロ波背景放射
 8.1 CMBの観測
 8.2 再結合と晴れ上がり
 8.3 再結合の物理
 8.4 温度ゆらぎ
 8.5 何がゆらぎを引き起こすのか
 Exercise

9 元素合成と初期宇宙
 9.1 原子核物理と宇宙論
 9.2 中性子と陽子
 9.3 重水素合成
 9.4 重水素を越えて
 9.5 バリオン ─ 反バリオン非対称性
 Exercise

10 インフレーションと極初期宇宙
 10.1 平坦性問題
 10.2 地平問題
 10.3 モノポール問題
 10.4 インフレーション解
 10.5 インフレーションの物理
 Exercise

11 構造形成:重力不安定説
 11.1 マタイ効果
 11.2 ジーンズ長
 11.3 膨張宇宙の中での不安定性
 11.4 パワースペクトル
 11.5 ホット vs. コールド
 11.6 バリオン音響振動
 Exercise

12 構造形成:バリオンと光子
 12.1 バリオン物質の現在
 12.2 水素の再イオン化
 12.3 最初の恒星とクエーサー
 12.4 銀河の生成
 12.5 星の形成
 Exercise 

エピローグ
定数表
訳者あとがき
索引

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