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医療機器分野での「モノづくり」を目指す――近刊『医療機器開発ハンドブック』内容一部公開

2022年1月中旬発行予定の新刊書籍、『医療機器開発ハンドブック』のご紹介です。
同書の「まえがき」および序章の一部を、発行に先駆けて公開します。



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まえがき

医療機器や再生医療製品を社会に普及させるには、技術開発とともに評価まで行わなければならない。この評価まで含めたものが医工学である。医療機器・再生医療製品が他の産業製品と異なる点は、設計製造しても承認と保険償還が得られなければ製品にならないこと、つまり開発者と使用者の間に評価者が存在することである。本書では、技術開発の動向のみならず、企業や大学で研究開発に従事する人にも理解できるように、製品開発の仕上げ段階でどのような評価が行われるのかまで解説する。本書により製品開発を効率よく遂行する一助になれば幸いである。


序章

 医療と聞いて第一に思い描くのは医薬品であろうが、医療機器等が必要となる疾病・傷害も多い。医療機器等は用途・製法から大きく、診断機器、治療機器、再生医療製品に分類される。その医療機器等は装置、材料、ソフトウェア、組織培養の技術からなり、それらを製品化するには承認と保険収載というプロセスを経ることが必須となる。本書では、医療装置の分類ではなく、技術の分類および製品化のプロセスの観点から記述する。

近年注目されている機器として、遺伝子診断装置や分子イメージング装置、植込み人工心臓、開胸手術の要らないステントやカテーテル弁、人工関節の個別化治療、神経再生やiPS細胞による再生医療製品など、新しい医療をもたらす医療機器が報道されており、企業の新規参入が注目されている。国民の28.1%が65歳以上という少子高齢化が進むわが国では、医療機器は確実にマーケットが拡大し、国も政策支援せざるをえないところにきている。

 一方で、医療機器は研究での試作から製品開発および評価に到達しても、それに続く薬事(製造販売)承認、保険収載まで達成されなければ、製品として使用することはできない。しかも、わが国は国民皆保険であり、製品への対価は健康保険という公金であって、製造者が自由に保険償還価格を決定できず、公的機関の決定を待たなければならない産業分野であるところに特殊性がある。

 このように、医療機器分野への参入のハードルは決して低くないが、その仕組みと要点を知っておけば、そのハードルは決して乗り越えられないものではない。新たな製品、革新的な製品を開発できるだけの技術力をもつメーカー、エンジニアは少なくないと思われるので、本書はそうした読者に向けて、種々の分野の医療機器に対し、

・既存の機器の概要と、新製品に望まれる機能、特性
・薬事上の取り扱いがどうなっているか
・承認を得るために必要な要件と、鍵となるポイント

 をまとめている。本書は以下のような構成になっている。

 第1章では診断機器を中心に、第2章では循環器系治療機器、第3章では骨・関節系治療機器、第4章では生体吸収性材料、第5章では再生医療製品、第6章では医療ロボット、第7章ではソフトウェア、第8章では法律の概要や薬事承認について解説する。序章ではそれに先立ち、本書を読むのに必要最低限の内容をまとめている。


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【執筆者一覧】(五十音順)
大森健一 技術コンサルタント
岡崎義光 国立研究開発法人産業技術総合研究所 健康医工学研究部門
梶谷勇  国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センター      主任研究員
田倉智之 東京大学大学院医学系研究科 医療経済政策学講座 特任教授
嶽北和宏 株式会社Hyperion Drug Discovery 代表取締役社長
鎮西清行 国立研究開発法人産業技術総合研究所 健康医工学研究部門 副研                    究部門長
新田尚隆 国立研究開発法人産業技術総合研究所 健康医工学研究部門 主任                    研究員
沼野智一 東京都立大学大学院人間健康科学研究科放射線科学域 教授
袴塚康治 国立研究開発法人物質材料研究機構
廣瀬志弘 国立研究開発法人産業技術総合研究所 健康医工学研究部門 研究                    グループ長
本間一弘 国立研究開発法人産業技術総合研究所 名誉リサーチャー
三澤雅樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所 健康医工学研究部門 主任                    研究員
山根隆志   神戸大学未来医工学研究開発センター 特命教授,国立研究開発                      法人産業技術総合研究所 名誉リサーチャー
葭仲潔  国立研究開発法人産業技術総合研究所健康医工学研究部門研究                      グ ループ長監修:〈一財〉先端建設技術センター

エンジニアだけでなく、医工学・医療機器に携わるすべての方必読!

医療機器を製品化するためには、法令や規格・基準を満たすこと、薬事承認と保険収載というプロセスを経ることが必要となる。

また、製造工程での品質管理が厳しく求められるなどほかの工業製品と異なる点も多く、それらを知っていれば開発をスムーズに進めることができる。

実際に製品開発に携わった経験のある多くの著者らによる一冊。


【目次】
第1章 検査診断機器
 1.1 X線CT
 1.2 磁気共鳴画像法(MRI)
 1.3 超音波診断装置
 1.4 超音波治療機器

 第2章 人工心臓と補助循環
 2.1 機構と用途
 2.2 規格と試験
 2.3 薬事上の取扱いや認証・承認への鍵となるポイント
 2.4 課題と展望

 第3章 骨・関節系治療機器
 3.1 人工関節における新材料および診断と評価法
 3.2 骨・関節治療機器分野における新製造技術導入に有用な評価技術

第4章 生体吸収性材料
 4.1 自分の骨になる人工骨
 4.2 生体分解性金属材料―腐食する金属材料を医療へ
 4.3 薬事上の取扱いや認証・承認への鍵となるポイント
 4.4 課題と展望

第5章 再生医療
 5.1 再生医療等製品に関する規制の経緯
 5.2 再生医療等製品に関する承認申請の考え方
 5.3 再生医療等製品製造の考え方
 5.4 再生医療等製品製造における開発ガイドラインの意義
 5.5 再生医療に関する国際標準化
 5.6 課題と展望 

第6章 医療ロボット
 6.1 手術支援ロボット
 6.2 リハビリテーション・ロボット 

第7章 ソフトウェア
 7.1 単独でも医療機器になるソフトウェア
 7.2 薬事規制を踏まえたソフトウェアの開発と実用化の推進
 7.3 製品化の現状
 7.4 薬事上の取扱いや認証・承認への鍵となるポイント
 7.5 課題と展望 

第8章 製品化への道標
 8.1 医療機器の品質管理(設計管理)
 8.2 医療機器の薬事承認
 8.3 再生医療の薬事承認
 8.4 機器・材料,再生医療における保険償還の概念 

参考文献
索引

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