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【内容一部公開】はじめてナノテクに取り組む人に最適!――近刊『ナノテクノロジーの基礎』

2024年1月中旬発行予定の新刊書籍、『ナノテクノロジーの基礎』のご紹介です。
同書の一部を、発行に先駆けて公開します。



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まえがき

2000年頃のナノテクノロジーブームから、すでに20年以上が経過した。いまでは「ナノテクノロジー」と喧伝されることもなくなったが、重要性が低下したわけではなく、多くの技術分野において、その概念や技術は当たり前に利用されるようになっている。

一方で、ナノテクノロジーは物質科学からデバイス技術までの様々な分野に広がっているため、学習しにくい面がある。多岐にわたる分野をカバーするために、大部の書籍やシリーズ書籍などが出版されているものの、これらは初学者が基礎的な理解を得るために読むには適していないように思われる。また、先端的な内容も収められており、焦ってそれらの理解を目指すことで、基本をおろそかにしてしまうおそれもある。

本書は、大学の卒業研究などでナノテクノロジーの専門分野にはじめて取り組む際に必要となる基礎知識を、読者が獲得できることを目的としている。そのために、以下のトピックスを扱っている。

  • 真空の基本的な考え方、真空排気装置や機器の動作原理

  • 表面科学の基本的な知識

  • ナノ構造や表面の分析技術の原理

  • ナノメートルサイズの構造およびそれらの特性

  • 分子の構造の基礎や分子の自己組織化構造

これらの内容は、一見すると様々な個別の知識を集めたもののようであるが、基本的なメカニズムには共通する部分が多い。それらの物理を理解し、互いに関連づけることで、全体像を容易に把握できるようになる。各項目を網羅的に取り扱うことを避け、基本的な概念や装置の原理に絞って解説することで、できるだけそのような記述になるよう努めたつもりである。また、ナノテクノロジーにおいては、LSIなどの集積回路の微細化も重要な要素の一つであるが、半導体素子のプロセス技術はそれだけで非常に多くの内容を含み、応用技術と密接に結びつくことも多いため、ごく概略的な記述に留めるのみとした。

全体の分量がおよそ15回分の講義で扱える量となることを目指したため、不足している項目や記述があることは否めない。学習や研究において、さらに詳細な知識が必要となったとき、本書がそこへの足がかりになれば幸いである。そのために、多くのうちの一部ではあるが、さらに詳しく学ぶための書籍リストを参考文献として付記した。

(後略)

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広島大学大学院 鈴木 仁(著)

【目次】
第1章 はじめに

 1.1 ナノテクノロジーの歴史
 1.2 ナノメートルの世界
 1.3 ナノテクノロジーを構成する技術
  1.3.1 計測・評価する技術
  1.3.2 作製・加工する技術
  1.3.3 応用する技術
 1.4 本書の構成

第2章 真空技術
 2.1 真空の定義と真空度
 2.2 気体の分子運動論
  2.2.1 マックスウェル分布
  2.2.2 分子の速度
  2.2.3 壁を叩く分子数(分子の衝突頻度)
  2.2.4 平均自由行程
 2.3 排気装置
  2.3.1 ロータリーポンプ
  2.3.2 油拡散ポンプ(ディフュージョンポンプ)
  2.3.3 ターボ分子ポンプ
  2.3.4 イオンポンプ(スパッタイオンポンプ)
  2.3.5 チタンサブリメーションポンプ
  2.3.6 真空ポンプの組み合わせ
 2.4 真空度測定
  2.4.1 ピラニゲージ
  2.4.2 イオンゲージ(熱陰極電離真空計)
  2.4.3 B–Aゲージ
  2.4.4 コールドカソードゲージ(冷陰極電離真空計)
 2.5 真空チャンバー

第3章 表面科学の基礎
 3.1 結晶の表面
  3.1.1 ミラー指数
  3.1.2 表面のブラベ格子
 3.2 表面超構造の表記法
  3.2.1 ウッドの記法
  3.2.2 行列記法
  3.2.3 表面緩和と表面再構成
 3.3 逆格子
 3.4 原子レベルの表面形状モデル
 3.5 仕事関数と電気陰性度
 3.6 表面準位,表面状態
 3.7 清浄表面の作製法の例

第4章 表面解析技術
 4.1 電子の波動性と平均自由行程
  4.1.1 電子の波動性
  4.1.2 電子の平均自由行程
 4.2 電子顕微鏡
  4.2.1 走査型電子顕微鏡
  4.2.2 透過型電子顕微鏡
  4.2.3 特性X線による元素分析
 4.3 電子線回折
  4.3.1 電子線回折の原理とエワルド球
  4.3.2 低エネルギー電子線回折
  4.3.3 反射高エネルギー電子線回折
  4.3.4 表面超構造の逆格子
 4.4 走査型プローブ顕微鏡.
  4.4.1 走査型トンネル顕微鏡
  4.4.2 原子間力顕微鏡
 4.5 電子分光技術
  4.5.1 分光とは
  4.5.2 オージェ電子分光
  4.5.3 光電子分光

第5章 ナノ構造の作製技術と特性
 5.1 ナノ構造の作製技術
  5.1.1 作製方法の分類:二つのアプローチ
  5.1.2 トップダウン的アプローチ
  5.1.3 ボトムアップ的アプローチ
 5.2 単一電子トンネル現象
 5.3 量子ドット

第6章 有機分子
 6.1 電子材料としての有機分子
 6.2 共有結合と混成軌道
 6.3 分子軌道法
 6.4 その他の化学結合
 6.5 分子の構造
 6.6 炭素の同素体材料

第7章 自己組織化
 
7.1 自己組織化とは
 7.2 自己組織化単分子膜
 7.3 基板上での自己組織的な2次元構造の形成
 7.4 DNAによる自己組織化

付録 電子軌道
参考文献
索引


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