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映像美への追及 / 内製と連携を重視するクリエイター集団「ufotable(ユーフォーテーブル)」とは①《概要編》

2020年、話題となったアニメーション映画『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』。2023年現在は日本の興行収入歴代1位&2020年世界興行収入第1位となっています。


ところで、みなさんは『鬼滅の刃』を知っていても、それを制作したアニメーションスタジオは知らない(そもそも興味がない)方が多いのではないでしょうか。テレビ番組でも紹介されることがほぼないですしね。

そういうわけで、今回は『鬼滅の刃』のアニメーション制作を務めるクリエイター集団「ufotable(ユーフォーテーブル)」について、主に現在の制作体制をメインに紹介しようと思います。

※ 2024年2月更新


アニメーションスタジオ・ufotableとは

1999年にテレコム・アニメーションフィルム(代表作「ルパン三世」シリーズ)にて制作進行をしていた近藤光氏が数人のアニメーションスタッフと共に同人的に活動を開始。2000年に法人登記して「ユーフォーテーブル有限会社」を設立しました。

事業はアニメーション企画・制作・版権管理のほか、全国にてコラボレーションカフェを経営し、徳島県徳島市にて日本のアニメーションスタジオとしては唯一、映画館も経営しています。

正式な元請制作は2003年放送のTVアニメ『住めば都のコスモス荘 すっとこ大戦ドッコイダー』。代表作として初期にはTVアニメ作品『ニニンがシノブ伝』(2004年)『フタコイオル タナティブ』(2005年)などコメディタッチな作品や独創的な意欲作が多く、オリジナルアニメでは少子化問題や人間の価値観について問う青春作品『がくえんゆーとぴあ まなびストレート!』(2007年)を手がけました。

そして、2007年公開の映画『劇場版 空の境界』シリーズをきっかけとしたTYPE-MOON作品『Fate』シリーズを手掛けるゲームブランド)で知名度を飛躍的に上げました。現在は高橋祐馬氏を中心としたアニプレックスの企画・販売する作品のアニメーション制作をメインに、バンダイナムコエンターテインメント富澤祐介氏がIP総合プロデューサーを務めるゲームタイトル(『テイルズ オブ』シリーズ『GOD EATER』シリーズ)のアニメーションパートを担当しています。

内製率の高い制作体制

2000年の設立初期、ufotableは4畳半の狭いアパートにて活動していました。現在は東京都新宿区に本社を構え、杉並区と徳島県徳島市の計3ヶ所を拠点に活動しています。

ufotable所属スタッフ(2024年2月時点)筆者調べ

こちらは筆者が過去2年間の同社アニメーション作品への参加率やEDにて「ufotable」で表記されていたスタッフを中心にまとめたものです。現在、所属スタッフはアニメーションスタッフのみで232名(2024年2月時点)。2024年3月に出された求人情報では正社員235名(2024年2月時点。登録されている被保険者数は24年3月時点にて関連店舗込みで277名)であり、平均年齢31.9歳、男女比は男性47.2%・女性52.7%とのこと。
設立当初は数える程度の人数であったことを考えると大所帯といえるほど規模を拡大しています(一般的に国内アニメーターはフリーで活動している方が多く、所属スタッフをそろえているスタジオも大手元請・グロススタジオ以外では10~50名程度が多い)。また、所属していても個人契約としての参加が多いこの業界では珍しく、ufotableに属するスタッフ全員正社員雇用だそうです(新卒採用に関しても最初から正社員雇用となっています)。

また、表でもわかるように、ufotableには以下の部門が設けられています。

《東京スタジオ》
・企画管理部
・制作部
・文芸部
・演出・作画部
・仕上げ部
・美術部
・デジタル映像部(撮影・CG・編集)

《徳島スタジオ》
・演出・作画部

アニメーションの制作には様々な工程が必要です。

プリプロダクション(企画・プロット・設定・シナリオ・絵コンテなど所謂「設計図」の制作)
プロダクション(作画・色彩・背景美術・CG・撮影など所謂「素材」の制作)
ポストプロダクション(編集・アフレコ・音響・音楽制作など所謂「仕上げ(まとめ)」の工程)

ufotableは上記のうち、音楽や効果音を制作して編集が映像素材と組み合わせる「ポスプロ」以外の工程を制作できる部門を揃えています。つまり、企画段階から映像を作るまで、音響・編集以外の工程の全てを社内だけで内製できる体制を整えています。そのため、ufotableでは映像制作を東京と徳島の2つのスタジオを中心に内製しています。音響制作と編集はほぼすべての作品で、音響をスタジオマウス、編集をソニーPCL神野学氏が担当しています。

ちなみによくある勘違いですが、宣伝CMやゲーム内のOPアニメーション等、比較的短い作品では「1つのスタジオによる完全内製」が行われることがあります。しかし、週1回、毎週放送されるTVアニメーションや高いクオリティを求められる2時間枠の劇場作品を「1つのスタジオのみ」で完全に内製することは今の国内スタジオの体制では困難です。これはufotableも含めたすべてのスタジオに言えると思います。日本を代表するスタジオジブリ作品ではクレジットを見ればわかる通り多くの協力スタジオが参加しています。ほかにも内製率の高さが有名な京都アニメーション(京アニ)も、子会社のアニメーションDo(令和2年11月1日をもって京アニと合併・解散)やStudio Blueという関連会社、関西のスタジオへ一部工程の外注は行っています(とはいえ、内製率の高さで言えば京アニは国内トップクラスであり、スタッフクレジット表記の少なさからスタッフの実力もさることながら、業界内トップクラスの優良スケジュールであることが分かります)。
ufotableも撮影・CGは完全内製のことが多いですが、原画では社内スタッフ以外にもフリーアニメーターの起用を行っており、動画・仕上げ・美術の工程の一部外注も行っています。これは予算の多い作品であっても納期までのスケジュール問題からどうしても発生してしまうものだそうです(CGアニメーション作品専門のスタジオに関しては話が変わってきますが)。

しかし、それでも各メインスタッフ(「監督」「キャラクターデザイン」「作画監督・美術監督・撮影監督・3D監督」等)は基本社内起用。脚本・演出・作画・仕上げ・美術・撮影・CGの各工程に関しても所属スタッフがその多くを担当しています(そのため劇場作品であっても外注が少ない関係からクレジットで表記される人数が一般的な作品より少ないでそうです)。この影響もあり、1話数単位の制作を数本まとめて全て外注する「グロス請け」に関して、2010年以降は一切行っておらず全話数がufotableで作られています。その作業量から下請けに撒くことの多い「動画」の工程も、近年、徐々に社内のみで制作する話数が増えています(『鬼滅の刃』では全26話のうち6話数が社内のみで動画の工程を担当していました)。国内で内製率の最も高い作画スタジオは京都アニメーションでまず間違いないですが、ufotableもこの十数年の積み重ねで確実に内製率を上げています(また、フリー起用もスタジオに良い効果を生み出しています。こちらは別記事にて)。

近年のufotableの主な下請け先は以下の通りです

・原画参加
  feel.
  プロダクションEN
・動画・仕上げ参加
  鉄人動画
  FAIインターナショナル
  Reboot
  スタジオCL
  クリープ
・背景美術参加
  NARA Animation
  PEEC Animation
  Creative Freaks
  クリープ


ちなみに、スタッフが揃っているから内製率が高いのかというと、それだけが理由ではありません。この内製率の高さを実現しているのは、「制作本数を絞る」という取り組みからきています。

ufotableの制作ラインは1本のみ。元請としてアニプレックスなどの幹事企業から受注した作品の制作を2~3本ほど同時進行で進めており、年間で発表されるTVアニメ・劇場作品の数は多くて3作品です。1つのチームで制作するためほぼ全てのスタッフが作品を掛け持ちをして仕事をこなしています。この本数は同規模のスタジオと比べると圧倒的に少ないです(同規模のスタジオは年間8~10本の作品を制作・放送し、ライン数も5つ以上あるところがあります)。

制作ラインを1つに絞っている理由は「クオリティの維持」が目的。そのため、どの作品も品質の高いアニメーションが提供されます。その分、一般的なアニメーションよりも製作委員会から支払われる1作品への制作費が多く設定されているとか。

製作委員会への積極的な出資と参加

同社は出資にも積極的で、2006年以降に元請制作したTV・劇場アニメ作品のほぼすべてに出資、製作委員会に参加しています。これは一般的に制作費でしか収益を得られない制作スタジオが元請作品自体への権利を得るために、リスクを負って出資し、売上からも利益を得るために行っています。ただ、それ以外にも「作品制作に対する発言権を得る」という目的もあり出資しているそうです。また、出資企業からの要求により制作に対して制約を受けるリスクを減らすために、製作委員会への参加企業は幹事企業(アニプレックスのような企業)と制作スタジオのufotable以外は、原作の版権をもつ企業(集英社のような企業)に限定しているそうです。これにより、ufotableはより自由に作品に取り組むことができます。ただし、ufotableは作品を自分たちだけで好きなように制作することはせず、製作委員会出資企業全体の意見を取り入れ、「一緒に作る」ことにこだわります。これは、TYPE-MOONブランドを管理するノーツと初めて仕事をした際に、原作者の奈須きのこ氏が制作をすべて委託して自身は関わらないようにしようとしても、半ば強引に参加させたほど(その後、奈須さんの持ってきたオリジナル展開を「原作通り」にこだわり突っぱねた笑い話もありますが)。以降は奈須さんは積極的にufotableの制作するTYPE-MOON作品に関わっています。

以上のことから、ufotableは原作を大事にするために製作委員会の出資企業を減らし、自分たちも出資・参加しつつも、「参加企業全員で作る」ことを大事にしています。制作作品の冒頭で各参加企業が英語で表記されたり、製作委員会名を付けずに参加企業を並べるだけにしているのも「我々が責任をもって作っている」ということを示すためだとか(なぜ「an ufotable production」なのかは長年の謎ですが...)。

ちなみに、この姿勢もあったからなのか、昔はufotable作品に出資するのを嫌がる企業もあったとか(「ufotableと映像を作るのは大変だぞ」という話しが広まっていたらしいです)。

映像美を実現する秘訣は「コミュニケーション」

ここまでは制作体制について述べましたが、「制作部門が揃い」「内製率が高く」「出資して発言権もある」だけではあの映像美は生み出せません。ufotable特有の映像美を生み出す秘訣は「蓄積された技術」「長年共にしてきたことによる信頼関係」、そして、それらを踏まえたうえでの「コミュニケーションによる効率化」によるものです。

ufotableのスタッフは初期制作作品から参加している古参スタッフから『劇場版 空の境界』の頃に入社した生え抜きの中堅スタッフ、この数年で入社したばかりの新人スタッフまで多彩なスタッフが所属しています。一般的に、アニメーション制作は一つの企画が終わればそのまま解散です。しかし、ufotableの場合は同じスタッフ陣が次の作品でも一緒に作り続けています。それはつまり、互いの得手・不得手がわかり、CGなどの技術力も蓄積され、様々な技術を次の作品に継承できるということ。互いを知っているからこそ「このカットは○○さんが得意だから担当してもらおう」「ここは前回使った技術を使おう」など、様々な経験値を次の作品につぎ込める。これがクオリティの高さに繋がってます。

ちなみに、ufotableスタッフの入社時期は以下の通り。

入社年次表(2022年6月時点)筆者調べ

正式所属前から参加していた外崎さんや松島さん、阿部さん等もいますが、主に「設立~Fate/Zeroまでに集まったベテランチーム」「2016~2017年頃に入社した中堅組」「鬼滅の刃以降に入社した若手組」に別けることができます。動画マンや制作進行の離職率も低く、同社の育成やコミュニケーションへの力の入れ具合が見て取れます。

さらに、「作画×CG」「美術×撮影」など各部門の距離が近く壁がないため一般的なスタジオでは怒られるような様々な実験が行えるそうです。さらに、一般的には専門スタジオに依頼する影響で簡単な指示書を出すにも数日の時間がかかるような美術やCGスタッフとのコミュニケーションも机を挟んで隣のスタッフに一声かけるだけで完了する。このような連携力の高さは作業の効率を上げ、余った時間をさらにクオリティの向上につなげられる。この循環こそがどの作品でも崩れない映像美を生み出しています。

また、シナリオ会議などの各種会議やラッシュチェックなどに希望があればどんなスタッフでも参加してOKというスタイルもとっており、若手スタッフへ勉強の機会も設けています。


内製率の高さ」「スタッフ&技術の蓄積」「各セクション同士の壁のないコミュニケーション・連携」。これこそがufotableの映像美を作り上げているといえます。ufotableは「個」よりも「集団」という意識を大切にしているスタジオなのかもしれません

さて、長くなりましたが今回はここまで。次回からは各部門ごとに更に細かく分析・考察をしていきたいと思います。最後までお付き合い下さると嬉しいです。

次回は『②《演出・作画部編その1》』です。


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