映像美への追及 / 内製と連携を重視するクリエイター集団「ufotable(ユーフォーテーブル)」とは④《仕上げ部編》

アニメスタジオ・ufotable(ユーフォーテーブル)について解説・考察する記事第4弾。今回は「仕上げ部」についてです。ufotable作品の「色」を作り上げているスタッフたちを紹介します

※2023年6月更新

前回の記事はこちら↓↓↓


仕上げ部とは

「仕上げ」とは、原画⇒動画の工程が終了した後に、その動画が描いた線の一部を補正したり、色を塗る作業のことです。一般的には『色彩を管理する』職種という認識だと思います。ufotableでも役割は同じであり、作品ごとにキャラクターやプロップデザインなどの色を決め、彩色を行っています。また、背景美術と連携して物語の色を決めていくのも他のスタジオと同じではありますが、ufotableでは社内に全部門を完備している環境を生かして、仕上げ部と美術部、そしてデジタル映像部の3チームが連携して作品全体の「色」を作り上げています。この3チームは同じフロアで作業をしているため、連携がより密にとれる体制となっています。

色で表現する世界 / 背景美術に合わせた色指定

色彩の仕事には「色指定」と呼ばれる工程があります。簡単に説明すると、「色彩設計」が作品全体の色彩を決定する責任者だとしたら、「色指定」は、色彩設計による色データをもとに各話数ごとの「色」を決定していきます。大まかな色は決まっていても、たとえば外の場面で陽が当たるときとそうでないときでは大きく色のパターンが変化します。また、各話数で出てくる小物(プロップ)は全てを色彩設計が担当すると労力がひとりに集中してしまいます。そんな細かい箇所の色彩の設定を色指定は担当しています。

とはいえ、ひとつひとつ色を決めていくのは大変なので、通常のTVアニメーションでは人物に関して、あらかじめ昼の場面の色である「昼色」と夜の場面の色である「夜色」を設定しており、基本はそのまま使用することも多いそうです。しかし、ufotableの場合は少し異なり、背景美術による美術カットに合わせて色指定が全カットで色を調整する方針をとっているそうです。そのため、背景美術との連携はかなり密に行っているとか。美術部と仕上げ部は同じフロアの隣同士で活動しているため、この連携が他のスタジオ以上に密に行えます。この連携による手間の削減が、背景合わせの色指定という労力のかかる作業を可能にしているのだと思います。

色で表現する世界 / 撮影との連携

仕上げ部と同じフロアにはデジタル映像部(撮影・CG)も一緒に活動しています。この撮影スタッフとの連携も仕上げ部は密に行っています。なぜ、撮影スタッフとの連携を密に行っているかというと、ufotable作品は撮影処理を何重にも重ねるため、撮影前と撮影後では色彩から感じる雰囲気に変化が生まれます。また、昨今、アニメ作品では仕上げの領域でもある特殊効果を撮影スタッフが共同で担当することが増え、ufotableも同様の取り組みをしているため、連携して色彩を作り上げる必要があるのです(ちなみに、この特殊効果の連携についてufotableは業界初の取り組みを行い高く評価されましたが、その話は「デジタル映像部」の記事で書きます)。また、撮影チームと共同作業ができることで、完成画面の確認も容易に行うことができるため、高いクオリティを目指すことができるらしいです。

撮影前と撮影後で色彩の雰囲気はどれほど変化するのかは下記の記事を見るとわかりやすいです。


上記記事の「#2 イズチでのミクリオ。色指定から、撮影工程での画面づくりへ。」の映像を見るとわかりやすいですが、撮影処理をかけることで色味は大きく変化しています。撮影の工程で色指定の段階からここまで大きく色味を変化させるスタジオは個人的には少なく感じます。というのも、ここまで変化させるためには処理を何重にも施さなければいけないからです

この動画を見るとわかりやすいですが、「原画⇒仕上げ」の工程の後に撮影処理が16層以上重ねられています(これは劇場版作品ですが、TVアニメ作品でも同様の処理が施されています)。通常のTVアニメーションではここまでの処理は行いません、しかし、ufotableの撮影処理は「背景やCGとキャラクターがなじむように線や色味を整える」ことにこだわり、全カットで同様の取り組みを行うのです(『衛宮さんちの今日のごはん』のような撮影処理をほぼ行わないという例外ももちろんあり、あくまで作品の求める雰囲気に合わせて行っているのです)。

撮影処理によって色彩の雰囲気が変化することに否定的な意見もあるでしょうが、撮影はあくまで全ての要素が上手くなじむように「整えている」だけです。なので、撮影で雰囲気を出すためには元の色彩が世界観に上手くなじんでいる必要があります。色彩と撮影、両チームの連携により、ufotable特有の色の世界が表現されているのです。

GOD EATERで作り上げた新たな色彩表現

2015年から2016年にかけて放送されたTVアニメ『GOD EATER』。この作品でufotableは新たな陰影・色彩表現を導入しました。それは仕上げ作業に「肌で一色、影で一色」が主流の「アニメ塗り」(あくまでも絵の具で着色していたセル時代の話でデジタル化した現在はバリエーションも増えている)ではなく、人物に当たる光「キーライト」「フィルライト」「リムライト」の3点照明の照明技法を導入した点です。

通常、作業負担の関係もあり撮影処理で表現する逆光などのコントロールを上記の方法により作画と仕上げで表現しています。この方法により、厚塗りのイラストみたいな塗りの表現をアニメーションで可能にしています。この労力のかかる技法はこれまでのufotable作品の中でも最難関であったとされ、そのこだわりは終盤の放送が延期する事態となりました(これは直前までUBWを制作していたり、グロスを出さないことにこだわったり、出資側からの要望や脚本完成が放映直前だったことなど様々な要因もあったそうですが)。しかし、労力をかけたぶん全編を通して高クオリティな映像表現が成されており、ストーリー構成も素晴らしいものになっています。

ここで培われた色彩表現の経験は後のufotable作品でも生かされており、『Fate/stay night[HF]』でも、ここで得た技術を生かした色彩表現が成されました。


ufotableの色彩を作り上げた色彩設計者・千葉絵美

さて、各スタッフを紹介する前に、ufotableの色彩の世界を作り上げた人物である千葉 絵美(ちば えみ)氏を紹介します。

テレコムアニメーション・フィルムにて仕上げ検査等で活動後、1999年のufotableの立ち上げにかかわった千葉氏は、正式な元請1作目の『住めば都のコスモス荘 すっとこ大戦ドッコイダー』より2016年春の『GOD EATER』まで、『がくえんゆーとぴあ まなびストレート!』などの作品の除くほぼすべての作品で色彩設計を担当。ufotableの色の基礎を作り上げました

ufotableに在籍していた2000年から2017年までの間に作り上げた色彩の基礎は現在のufotableにも引き継がれており、現在活躍するufotableの色彩設計者たちは千葉さんを尊敬しているとのことです。現在の仕上げチームの中心的存在である松岡美香氏は千葉氏のことを『その時代、その瞬間の流行に合った色を、どんな作風の作品でもすぐに出せる』点が凄いと評しています。

千葉氏はufotableに在籍していた最後の時期には『TYPE-MOONシリーズの『Fate/hollow ataraxia』OPアニメーション、『Fate/stay night[UBW]』(2014-2015)の色彩設計を松岡美香氏と共同で行った後に『Fate/stay night[HF]』より松岡氏に色彩設計を完全に引き継ぎ、『テイルズ オブ』シリーズでは『テイルズ オブ ゼスティリア』&『テイルズ オブ ゼスティリア ~導師の夜明け~』(2014)で色彩設計協力として大前祐子氏をサポートした後に『テイルズ オブ ゼスティリア ザ クロス』から大前氏に色彩設計を完全に引き継ぎました。そして後継者を育てた後、TVアニメ『テイルズ オブ ゼスティリア ザ クロス』(2016-2017.4)の仕上げに全話数参加してufotableを退社。その後はフリーの色彩設計者として様々なスタジオで色彩設計を担当しており、『恋は雨上がりのように』や『ID:INVADED』などに色彩設計で参加しています。

実はufotableに2015年まで在籍していた監督・演出家の平尾隆之氏とufo在籍時に結婚しており、今後も夫婦で作品を作り上げていくかもしれませんね。

所属スタッフ紹介

東京スタジオ《仕上げ部》 2023年6月時点

現在の仕上げ部には8名の女性スタッフが所属。うち5名は2016年以降に入社した若手ばかりです。基本的にはこの8名でufotable全作品全話数の色彩設計・色指定・仕上げ検査の全て管理しており、ほぼ全員がTVアニメ全話数の仕上げ作業にも参加しています。

今回はその中でも代表的なスタッフを4名紹介します。


・松岡美佳(まつおか みか)

 2008年にufotableに入社。現在の仕上げ部で一番長い経歴の持ち主。『劇場版 空の境界 第三章』より仕上げとして参加。2014年に千葉絵美氏と共同でTVアニメ『Fate/stay night[UBW]』とゲーム『Fate/hollow ataraxia』のOPアニメーションで色彩設計を担当。『Fate/stay night[UBW]』放送終了後に企画がスタートした『Fate/stay night[HF]全三章』より色彩設計として独立しました。ufotableの『TYPE-MOON』作品(須藤友徳氏キャラクターデザイン作品)担当。現在のufotableを代表する色彩設計者の一人です。

松岡 美香 氏 色彩設計作品
・Fate/stay night [UBW] (2014-2015)  千葉絵美氏と共同
・Fate/hollow ataraxia OPアニメーション(2014) 千葉絵美氏と共同
・活撃 刀剣乱舞(2017)
・ŹOOĻ 2ndシングル「Bang!Bang!Bang!」MVアニメーション(2019)
・Fate/stay night[HF] 全三章(2017-2020)
・月姫 -A piece of blue glass moon-(2021)



・大前祐子(おおまえ ゆうこ)

 2012年にufotableに入社。『Fate/Zero』第2期より作業に参加している。ufotableの『テイルズ オブ』シリーズ作品担当。その流れから外崎監督&松島総作監が担当する『鬼滅の刃』も担当しています。その他の作品にも色彩設計で参加しており、松岡氏と共にufotableを代表する色彩設計者の一人です。

大前 祐子 氏 色彩設計作品
・テイルズ オブ ゼスティリア 導師の夜明け(2014)
 千葉絵美氏が色彩設計協力
・テイルズ オブ ゼスティリア ゲーム内アニメーション(2015) 千葉絵美氏が色彩設計協力
・テイルズ オブ ゼスティリア ザ クロス(2016-2017)
・衛宮さんちの今日のごはん(2017-2018) 牛尾友里恵氏と共同
・鬼滅の刃シリーズ(2019~)
・テイルズ オブ アライズ ゲーム内アニメーション(2021)



・牛尾友里恵(うしお ゆりえ)

 2014年にufotableに入社。『Fate/stay night[UBW]』より参加しています。『衛宮さんちの今日のごはん』で大前裕子氏と共同という形で色彩設計を担当。その後、ゲーム『GOD EATER 3』で色彩設計として独立。ufotableの『GOD EATER』シリーズ&開発チーム関連作品のアニメーションを担当。今後の活躍に期待が高まる中堅スタッフです。

牛尾 友里恵 氏 色彩設計作品
・衛宮さんちの今日のごはん(2017-2018) 大前裕子氏と共同
・GOD EATER 3 ゲーム内アニメーション (2018)
・CODE VEIN ゲーム内アニメーション(2019)



・松山静香(まつやま しずか)

 2016年にufotableに入社。『テイルズ オブ ゼスティリア ザ クロス』より参加しています。チーム内でもまだ若手な方ですが、年末SPアニメである『Fate/Grand Order×氷室の天地~7人の最強の偉人篇~』で色彩設計を担当。今後に期待が高まる若手スタッフです。

松山 静香 氏 色彩設計作品
・Fate/Grand Order×氷室の天地~7人の最強の偉人篇~



今回はufotableの「仕上げ部」について紹介しました。ufotableの色を支える色彩チームの活躍はあまり語られることがありませんが、色で世界観を表現する彼女たちの仕事にも是非注目してみてください。ここまで読んでいただきありがとうございました。

次回は『⑤《美術部編》』です。


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参考資料・出典↓↓↓



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