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『Web3初進出と謳う音楽配信「ナップスター」はweb3で何をやるのか?』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2023.2.19

■音楽配信「ナップスター」がWeb3に初進出

音楽ストリーミングサービスのNapster(ナップスター)は、Web3(ウェブスリー)とデジタルミュージックのエコシステムを、次の行動の基礎となるものとみなしている。

「音楽×web3」は、JASRACや事務所など管理組織 vs アーティストやファンという対決構造で語られることが多かった分野だと思います。

つまり、クリエイターが直接ファンとつながることで管理組織の搾取をなくすことができるのがweb3の可能性なのだという語り口です。

Web1.0以前は楽曲の権利管理団体や原盤権の所有者、プロモーションを担う事務所やレーベル、流通を担うメディアや店舗などがクリエイターよりも強い力を持っていることが問題視されました。

Web2.0時代はインターネットで音楽が流通することが当たり前になりテレビなどオールドメディアや店舗流通網の影響力は下がりましたが、ネット配信サービスが設定する利益分配の構造に従うしかないという、プラットフォームにクリエイターが支配される新たな問題が生まれました。

このような音楽業界をとりまく歴史的な課題を「web3」の自律分散型の思想が解決するんじゃないかという期待が持たれています。


P2Pから始まったナップスターはweb3で何をやるのか?

ナップスターは1999年にP2Pで音楽を個人間流通させるプラットフォームとして始まったという経緯からブランドイメージとしてもweb3の自律分散型の思想に近いと捉えられ、音楽の流通革命を起こす期待を抱く人も多いのではないかと思います。

確かにP2Pから始まったナップスターですが、実際には破産、ブランド消滅、サービスのピボットと終了、幾たびにもわたる経営者の変更などが繰り返され、ナップスター=P2P音楽配信サービスだった時代はほんの僅かです。

そんな中で現在のナップスターはweb3を具体的にどのように活用しようとしているのでしょうか。

・独自トークン発行

ナップスターは、ユーザーにどのような新体験を提供するのだろうか。ヴィサポラスによると、現在1億以上の楽曲を提供しているストリーミングサービスを基盤に、Algorandの技術を使って独自トークンを発行し、収集品以上の価値を提供する計画だという。

以前の記事によると、ナップスターは独自トークンを発行する計画を発表していました。

「収集品以上の価値を提供」というのはNFTアートとの対比表現でしょうから、NFTでデジタルグッズを販売するだけに留まる発想ではないようです。

ナップスター経済圏を作り、音楽の流通販売、プロモーション、ファンイベント、ライブ、グッズ販売などすべての経済的な営みを独自トークンで決済するような世界観が想像できます。

ドル建てなど法定通貨よりも独自トークンの方が世界共通通貨として機能し世界から投資が促しやすくなりますし、コンシューマが楽曲を買うだけでなく企業がタイアップ広告予算を独自トークンで支払うことでトークン価値を支えるB2Bへの応用もありそうです。


・ライブ業界との連携

「アーティストたちが我々のデータを活用し、リアルイベントやデジタル体験を通じてコミュニティを活性化できるようにしたい。今後数ヶ月で、アーティストをはじめ、様々なパートナーとの提携を発表する予定だ。これまでのストリーミングサービスにはなかった、ライブ業界との連携が見られるだろう」とヴィサポラスは話す。

Spotifyのようなレコーディング音楽を聴く体験だけでなく、ライブを重視する姿勢を見せています。

チケットをNFTとして販売し二次流通ロイヤリティも還元したり、アーカイブ配信に対応することでライブ当日に参加できない人や遠隔地のファンも取り込むなどがあり得そうです。

いま海外で行われているライブに行こうとするとチケットの入手から大変です。「現地に行けないけれど配信だけでも見たい」というニーズは今でもあるはずですが、ライブ情報が得やすくチケットが買いやすくなるだけで助かるファンは多いでしょうし、アーティストもライブで世界中から集客しやすくなるのは大きなメリットです。


・メタバースライブの場を作る

ナップスターは、メタバース展開をより掘り下げることを目的に「ナップスターベンチャーズ(Napster Ventures)」を立ち上げ、Web3音楽スタートアップの育成や投資、買収を行う予定だ。Algorandも、ナップスターと共同でアーティスト・デベロップメントファンドを立ち上げ、Web3アーティストプロジェクトのマーケティングと立ち上げを支援する予定だ。

いまのナップスターのCEOは元Robloxの音楽担当重役のジョン・ブラソポラス氏です。

Robloxの中で直接メタバースライブをやるか、独自のライブ用メタバースを立ち上げるか、広くさまざまなメタバースにライブ機能やアーティストを供給する立場になるのか、やり方はいろいろあると思いますが、メタバース展開を強化することを謳っています。

フォートナイトの中でライブを見る体験は相当良いものでした。臨場感やファンとの一体感が十分感じられます。

課題はアーティスト側が「映像」だということです。実際に生演奏しているものをメタバースでアバター姿でファンと一体になって楽しむことができれば、メタバースライブはライブビデオを見るのとは全く違う体験になり得ます。


非中央集権云々というよりユーザー体験の充実で攻勢か

冒頭で挙げた、これまで「音楽×web3」で想起されていた非中央集権化のような思想性から導き出されるサービス類を、P2Pから始まったナップスターがweb3文脈で実行していくという方向ではどうやらなさそうです。

NFTファングッズの販売、ライブへの注力、メタバースライブの実現と普及などをナップスター経済圏として独自トークンで結び、アーティストとファンがオンラインで楽しめる体験を充実させていく方向のように見えます。

結果的にそれが権力者の仲介なしの自律分散型の経済圏を作るかもしれませんが、それ自体が目的化していない、ユーザー体験重視の展開を志向しているようです。

web3とは何か?はいろんな捉え方がありますが、普及にはわかりやすい体験が必要ですし、体験価値をどんどん提供していく方が効果的。P2Pの思想性と技術でスタートしたナップスターは破綻も経験していますから、体験価値を重要視するのはなおさらかもしれません。

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