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『アルゼンチンのLCC、チケットをNFT化。汎用的なNFTチケット転売システムの意義とは?』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2023.4.2

■アルゼンチンのLCC、チケットをNFT化

アルゼンチンの格安航空会社(LCC)フライボンディ(Flybondi)は、電子チケットをNFTとして発行する。

3月30日に発表された取り組みは「Ticket 3.0」と名付けられ、2022年9月に開始したNFTチケット企業TravelXとのパートナーシップを拡張するものだ。

アルゴランド(Algorand)ブロックチェーン上に構築されたNFTチケット発券技術によって、乗客は独力でNFTチケットの名義変更、譲渡、売却を行うことができる。

最後の1行、
乗客は独力でNFTチケットの名義変更、譲渡、売却を行うことができる。
が非常に重要です。

NFTの活用分野で非常に期待が大きい「チケット」ですが、結局チケット発行元を介しないと譲渡売却ができないのであればNFT化した意味がありません。


従来のチケットの問題点

航空券など旅客チケットや音楽ライブ・観劇・映画などの入場チケットなど昔から販売されていた従来のチケットは、航空会社や劇場、そこから委託を受けたチケット販売会社など「特定の販売元」が一律で販売管理し、キャンセルする場合もそれら販売元を介する必要がありました。

その販売元がキャンセルや転売を禁止しているケースも多いため、
・急な予定変更で行けなくなった際に返金も受けられない
・転売目的で購入され非公式に高額で流通されるため正規入手できる人が減る
・販売元が指定する正規転売フローでしか転売が許されず、ポイントで返され現金化できなかったり手数料が高額で損をするケースもある
などの問題がありました。


劇団四季のチケットのキャンセル例

劇団四季の観劇チケットの場合、予約したチケットはキャンセルできず、「劇団四季idセンターにて出品」することになります。

公式サイトで出品するため、定価以上を設定することができず転売ヤーの買い占めを防ぐことができる反面、需要と供給で決まる転売価格を反映できないとも言えます。

また劇団四季が返金に応じるかたちではなく、あくまでも自分で「出品」して売れたらラッキーというかたちになるため、売れなければ払ったチケット代が戻ってくるかは自己責任になります。劇団四季は一度売れたチケットに関する金銭リスクを負いません。

そして、無事に出品したチケットが売れた場合も「購入金額相当のギフトコードが届きます。次回ご予約時にコードを利用してご予約ください。」と現金が返ってくるわけではなく劇団四季の観劇や物販でしか使えないギフトコードになってしまいます。

全体を通じて劇団四季にとってのみ都合がいいシステムです。
そして大手であり常時講演している劇団四季ならではとも言えます。定期開催がなく次回公演が決まっていない多くの劇団やライブではこの仕組みは採れません。


TravelXの仕組み

今回ご紹介しているアルゼンチンの格安航空会社(LCC)フライボンディ(Flybondi)のNFTチケットは購入者自身が独力で名義変更・譲渡・売却ができるとしています。

利用者はフライボンディのウェブサイトから法定通貨でチケットを購入し、TravelXは通常の電子チケットに同期したNFTチケットを発行する。

旅行者はその後、Ticket 3.0のアカウントを作成すると、フライボンディを通じてNFTを管理・保管することができる。航空券に関連する規則や条件は、スマートコントラクトに統合されている。

航空券は従来通り法定通貨で購入します。
航空券とセットでNFTも発行され、二次流通にNFTを使用します。

二次流通させるNFTマーケットプレイスは「TravelX」のみで、OpenSeaやBlurなど好きにどこでも売れるわけではありません。

そうすることでTravelXは二次流通の手数料を旅行者と航空会社の双方から2%ずつ得ることができるほか、流通価格に制限を加え転売ヤーによる買い占めと値段高騰を防ぐことも技術的には可能になります。

そして旅行者は転売できれば現金が回収できます。
旅行の機会が1度きりしか予定がなく次回なんていつになるかわからないという旅行者にとって「次回使える航空券ギフトコード」が返ってきても意味がありませんので、現金で返ってくるのは非常に助かります。

航空会社はTravelXに二次流通が発生したぶんの2%の手数料をはらうだけで返金や二次流通の仕組みを自社で運営する必要がなくなります。

ライブやイベントなど「次回」がないチケットにおいても、転売ヤー問題の対処をしながら安全・健全に返金やキャンセルにあたる対応ができるようになるのがTravelXのNFTチケットのメリットです。

そしてTravelXは二次流通の条件のところだけスマートコントラクトで書き分ければ航空会社以外のチケットでも同じシステムで取り扱うことができますので、社名はともかく音楽ライブでもお笑いライブでも応用が可能なはずです。


チケットがNFTである意味

TravelXの仕組みにおけるNFTである意味は、スマートコントラクトの書き分けで航空会社やイベント主催会社などのニーズに対応できる、というNFTの相互運用性を仕組みの汎用化に活かした1点に尽きると思います。

NFTのブロックチェーンに記録する・改ざんできない・第三者の観察が可能・仕様が共通ならどのNFTマーケットプレイスでも売れる、などの利点は今回まったく活かしていませんし、不要です。

これまでだと航空各社、イベント会社各社がそれぞれで独自システムを構築する必要がありました。各社独自システムの中でチケットを二次流通させるならNFTである意味はありません。

また、たとえばチケットぴあなどチケット流通専門会社に非NFT型で販売からキャンセル返金などの対応を外部委託することと、NFTを用いるTravelXに外部委託することに、今回の例でいう航空会社・旅行者の2者から見た体験価値は大差ありません。

しかしNFTを汎用システムとして使い2%など僅かなコストで外部委託できるなら、全体としてローコスト化できるというメリットが生まれます。

そしてNFTのスマートコントラクト書き分けだけで安価に対応できることからさまざまな業界で幅広く普及し、「チケットは適正な二次流通アリ」が常識化されれば、返金不可×転売不可という消費者にとって理不尽な中央集権ルールがなくなるというメリットも将来生まれるかもしれません。


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