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『サム・アルトマンが動画生成AI「Sora」を人々に印象付けた巧みな戦略・5つのポイントまとめ』~【web3&AI-テックビジネスのアイディアのタネ】2024.2.21

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■サム・アルトマンが動画生成AI「Sora」を人々に印象付けた巧みな戦略

「プレイグラウンドがないから、自分では試せない。グーグルのブログの投稿にはとても印象的な動画がいくつかあるが、私にはまったく関係のない話だ」とコタリはXに投稿する一方で、アルトマンが他者からのリクエストを受け付けてSoraの能力を「披露」していたことを強調した。

OpenAIが発表した動画生成AI「Sora」に驚いた方はとても多かったと思います。

「商店街のストリートを歩く花びらでできたトラが風で舞い散る様子」

なんて、実際に3D CGのアニメーションとして制作したら何日かかることかと思いますが、テキストを打つだけで瞬時に生成されるのですから驚きます。

上記のプロンプトは不正確だと思いますが、ニュアンスとしてこんなこと書けば描かれるわけです。

しかし、「Sora」の性能がスゴイというだけでなく、サム・アルトマンCEOの発表の仕方が非常に良かったという点は見逃せません。

「Sora」はデモ動画とともに発表されたわけですが、まだ一般人は触ることができません。正式リリースはもう少し先で、今回はティザー的な発表だったと言えます。

スタートアップ企業から大手企業まで、ティザー的に開発途中のプロダクトを世に発表することはよくあると思います。その際、SNSを上手に使ってプロモーション効果を最大化する手法として大きな参考になります。要点を整理してみましょう。


「Sora」の未公開状態を活かしたPR戦略

「Sora」の今回の発表の仕方の一番のキモは、「作ってほしい動画をSNSでリクエストさせ、その場で作ってみせる」というSNSを使ったインタラクティブなプロモーション手法です。

第1フェーズ
・デモ動画は凄い。と驚かせる。
・まだ一般人は触れない。
 ↓
・「凄そうだだけど触れない。」のモヤっと感を作る。

第2フェーズ
・サム・アルトマンCEOがSNSで「見たい動画をリクエストして」と投稿。
・狙い通り、投稿が殺到。SNS上でバズる。
・すぐに動画を生成して返信投稿。その動画の出来の凄さでさらにバズる。

というインタラクティブなSNSプロモーションをやったのです。


「見たい動画をリクエストして」5つの巧妙なポイント

SNSで「見たい動画をリクエストして」と投稿し、その場で動画を生成して返信するというやり方は、さまざまな点で巧妙です。

1.未公開の動画生成AIを触った気にさせられる
生成AIの場合、「プロンプトを入力してボタンを押すと生成される」という体験がシンプルなので、自分自身でプロンプトを入力しても、別の人に大広してもらっても、あまり体験が変わりません。

未完成で触らせられない生成AIで、プロンプト(的なリクエスト)をもらって、それをサム・アルトマン側で入力代行したとしても、自分自身で入力したのと同じ体験をしたと感じさせられます。


2.不適切な生成結果を見せなくて済む
あまり出来が良くない生成結果であることもあり得るのが生成AIの特徴です。

リクエスト型で動画を自社生成するなら、出力結果から出来の良いものを選ぶことができます。デモ動画として見せるもののクオリティをコントロールすることは非常に重要です。


3.リクエスト自体が権利侵害など不適切なユースケースを広めずに済む
生成AIの発展と普及には「仕事を失う」「権利侵害するケースがある」などネガティブな面があるのも事実です。

出来の良い動画を短時間にプロンプトだけで生成できることは凄いことですが、反面、危機感を持つ人が生まれることもケアしなければなりません。特に、明らかに権利侵害を狙って動画が生成され、一人歩きしてしまうことは避けたかったはずです。

無用な悪評を立てたり敵が増えたりするとPRも逆効果になりますが、今回のように生成をリクエスト型を採ることで、どのリクエストを受けるかを選べるようにすることで不安を煽ってしまうリスクを回避しています。


4.先行他社より高性能な印象を与えられる

グーグル(Google)とエヌビディア(Nvidia)が支援するニューヨークのスタートアップ企業ランウェイ(Runway)にはテキストからビデオを作成するAIベースのツールがあるし、メタ(Meta)も「Emu Video」という似たようなモデルがある。また、2024年1月、グーグルも「Lumiere」と呼ばれるテキストから動画に変換する生成AIモデル機能を発表している。

上記のように動画生成AIは既に数多く発表されており、一部の製品は触ることも可能です。しかしいずれも進化の道半ばで、完ぺきとは言えません。

「Sora」も実は思ったほど高性能ではない可能性はありますし、比較すれば他社のほうが勝っているところもあるかもしれません。

今回の発表でリクエスト型を採ったことにより、他社製品より良く見える生成結果だけを選んで出すことも可能ではあります。

それにしても何度も試行すれば良いものが出るという、ある程度完成していないとできないやり方ではありますが、デモ動画のクオリティコントロールができるという意味では公平ではないことを本来は留意しなければなりません。

しかし実際のSNS上などの評判は「Soraスゴイ!」一色になっていますので、目論見は成功したと言えます。


5.熱量が高いまま、公開までの時間が稼げる
かつては企業内部で秘密裏に開発され、ほぼ完ぺきという状態になって初めてリリースされることがほとんどでした。不完全なものを公開してガッカリされることを避けたり、競合他社にアイディアが盗まれることを防ぐことが目的や理由でクローズドに開発されてきました。

最近では、開発途中でも一般公開して意見を募り、ファンを作りながら一緒にプロダクトを磨いていくというアプローチも増えてきました。NFTプロジェクトやブロックチェーンゲームなどWeb3プロダクトは特にその傾向が顕著で、極端な場合は企画書とコンセプトムービーだけで期待を集め、ファンや投資家と一緒にイチからプロダクト開発するようなケースもあります。

AI開発も同じ雰囲気で、完全に完成させて世に出すのでは遅く、またユーザーを巻き込みながらプロジェクトを成長させていく方法が求められがちなものです。

しかし、広く触れる状態になると、基本的には熱がある程度冷めます。

今回リクエスト型に限定したことで、「Soraスゴイ!」の熱量のまま、一般公開までの開発やテストチューニングの期間を稼げます。

また、他社製品を使い始めることを躊躇させシェア拡大を一時的jに止める効果も狙えます。


リクエスト型PRは巻き込み型プロダクトで流行する

1.未公開の動画生成AIを触った気にさせられる
2.不適切な生成結果を見せなくて済む
3.リクエスト自体が権利侵害など不適切なユースケースを広めずに済む
4.先行他社より高性能な印象を与えられる
5.熱量が高いまま、公開までの時間が稼げる

の5つの巧妙なポイントを挙げてみましたが、サム・アルトマンCEOのPR手法は見事というしかありません。

ChatGPT公開の時も評判先行であったのは結果的に間違いなく、使っていくと嘘の回答をすることや最新情報が答えられないことなど不都合な真実も明らかになっていきました。

しかし同時に、より有益な使い方もユーザーによって編み出されたり、騒ぎになるポイントをSNS上の評判などで発見し、優先的に解消することで問題を過去のものにするなど、悪いところを打ち消して悪評を無効化しています。

デモ動画だけ見せても「いいところだけ切り取って出してるんでしょ」と思われますし、無邪気に一般公開すると「正しく」評価されて粗探しの結果が独り歩きする可能性もあります。

上手にイメージをコントロールし、PR効果を最大化することがやりやすい「リクエスト型PR」という手法は、今後の開発途中からユーザーを巻き込んでいくスタートアップに多いプロダクトでは特に流行するのではないかと思います。

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