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『マルチチェーン時代は終わりを告げる』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2023.3.14

■マルチチェーン時代は終わりを告げる【コラム】

すべてのチェーンが成長し、ベンチャーキャピタルからの資金が潤沢で、規制当局の監視も緩かった時は、こうした課題は無視することが簡単だった。だがそうした状況は過去のものとなり、状況は一変した。コスト削減と規制強化の中、マルチチェーン時代は終わりを告げようとしている。

世の中的にはブロックチェーンが始まってもいない状況ですが「マルチチェーン時代が終わり」はようやく来たなというのが実感です。昨年の今頃はチェーン選びにまだ熱がありましたし比較表も出回っていました。

チェーンを選ぼうとする動きそのものが、黎明期ならではのトレンドのようにも思います。


EVM互換は家庭用ゲーム機に例えられる

EVM互換はよくゲーム機に例えられます。家庭用ゲーム機が乱立していた1980年代~90年代はファミコン・ATARI・スーパーカセットビジョン・PCエンジン・セガサターン・MSX・ネオジオなどなどが覇権を争っていました。

ゲームソフトメーカーからすると流行っているハードに移植して販売本数を増やすコストダウン作戦が王道ですし、ハードの寿命にソフトの命運が左右されるのも避けたい思惑があります。

どのハードが流行るのかがわからない中では、ハードのスペックに惹かれたりキラーソフトによって大きく販売台数を伸ばしたことを安心材料にハードを選んだりもしました。

しかし現在は、後発のPlayStation陣営やMicrosoftのXBOX陣営、そして古参のNintendo Switch陣営の3派+PC STEAM陣営におおよそ収斂されています。収斂される過程で多くのメーカーが撤退しました。

ブロックチェーンも今はスペックや独自性、キラーコンテンツによる瞬間的なトレンドなど、家庭用ゲーム機と同じような選ばれ方をしています。STEPNが流行ればSolanaチェーンに期待をし、NBA Top Shotが流行ればFlowがいいんじゃないかというブームも起きます。


移植と維持費が高い

アーンスト・アンド・ヤング(EY)の場合、自社のブロックチェーン分析プラットフォームに新しいチェーンを追加するには約50万ドル(約6800万円)のコストがかかり、それを常に最新のものに保つためには年間にその10〜20%の経費を使っている。

しかしマルチチェーン対応するとソフトウェアメーカーは移植と維持費に莫大なコストをかけることになります。

さらにこれらのネットワークは静的なものではない。イーサリアムは1年に2〜4回のハードフォーク(アップグレード)を実施し、他のスマートコントラクトベースのチェーンも同じようなスピードで進化している。その結果、多数のブロックチェーンの最新状態をリサーチすることはコストがかかることになる。

家庭用ゲーム機も同じ世代の中で多少のスペックアップや小型化などがありますが、イーサリアムのような大規模アップデートが年に何度も行われることはありません。

ひとつのチェーンに絞っても維持費が高いうえマルチチェーン対応するとコストが合わなくなります。


高純度web3サービスは対象顧客が少なすぎる

そもそもweb3サービスは純度を高めると対象顧客が非常に少なくなります。

MetaMaskを使っているユーザーは世界でたった3000万人、全人口の0.4%にすぎません。彼らだけをビジネスターゲットにしたサービスにしつつマルチチェーン対応の高い開発費と維持費を払おうとするとまずペイしませんし、何十万円もするNFTを少数の人に売るモデルにせざるを得なくなります。


ネイティブコインの相場に引っ張られる

問題はコストだけではない。流動性も問題だ。自動マーケットメーカー(AMM)で調べてみると、イーサリアムブロックチェーン以外はきわめて流動性が低い。イーサリアムブロックチェーンの中でさえも、取引は上位のトークンに集中している。流動性のないトークンは価格操作に対してはるかに脆弱だ。

独自トークンを使ったサービスの場合、チェーンネイティブのコインの相場に独自トークンの相場が大きく影響されます。さらに言えばビットコインの相場に暗号資産全体が引っ張られます。

web3サービス単体でトークノミクスを安定させようとしても相場全体の値動きにやられたりもする難しさがそもそもあるうえ、イーサリアム以外は流動性の極端な低さから外的要因の影響をより受けやすいのが実情です。


EVMの互換性には頼れない

イーサリアム・バーチャル・マシン(EVM)の互換性は、チェーン採用のリスクを回避するための有用な要素にはならない。

将来マルチチェーン対応する前提でEVM互換チェーンから選ぶことが多いはずですが、チェーンそれぞれの特長、つまり差異が必ずあります。

スマートコントラクト自体は動作しても、高速処理できるチェーンを前提にした設計にすれば遅いチェーンでは使えませんし、ガス代が安いチェーンを前提にした設計にすればイーサリアム本体では使いにくくなります。

結局、どれかひとつのチェーンに特化して一蓮托生で開発するしかないのが実情で、だったらEVM互換に必ずしもこだわる必要がなくなるケースもあります。

開発者が調達しやすいというのはEVM互換のもうひとつのメリットですが、マルチチェーン対応する将来の莫大な維持費を考えたらFlowでもSolanaでもお金で解決できるケースもあるはずです。


大手は結局ビットコインとイーサリアムを前提としている

厳しい規制を受けた企業がビットコインとイーサリアム以外を取り扱い始めた時、イーサリアムエコシステムから複数のトークンを追加し、さらにおそらく、DeFiサービスに取り組み始めるだろうというのが私の予測だ。私は以前、こうした動きは2022年に始まると考えていた。

しかし、2022年下半期の市場の混迷と規制強化によって、多くの企業の取り組みは動きが鈍り、コンプライアンスにさらに注力することとなった。

規制当局の動きも、大手企業の意思決定も、ブロックチェーンサービスのことを検討する際にはビットコインとイーサリアムだけが念頭にあるのが実態です。

価格操縦されやすいマイナーチェーン上の独自トークンは消費者保護の対象外にされる恐れもありますし、そもそもチェーン自体がマーケットからなくなる可能性も高まります。

ネットワーク効果によってユーザーが多いところにユーザーが集まるし、裏返してユーザーが少ないところは過疎化して淘汰されやすくなります。

イーサリアムであればEVM互換の本家であるし、ERP/EIPの規格の権化であるし、ガス代やスピードの問題が将来解決されればL2の価値はなくなるだろうとも考えられます。


いまは純度を下げるのが現実解か

しかし今はガス代も高いし他のチェーンも魅力的に見えます。
将来を見据えて王道のイーサリアムを選ぶケースは今後増えてくると思いますが、今この瞬間に選びづらいサービス形態もあるはずです。

プライベートチェーンやオフチェーンでの処理を組み合わせることで、今は純度を下げつつサービスクオリティを担保する現実的な解のようにも思います。

純度を下げすぎるとブロックチェーンの必要性が全くなくなってしまうのが難しいところですが、web2.1、2.2と階段を丁寧に踏んでいくのも2023年現在に必要なことかもしれません。

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