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『社会問題の解決にNFT?大義名分が本気なのか試された2022年暗号資産の冬』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2022.12.30

■広がるNFTの利活用事例 野生動物の保護や世界的文化遺産の保全まで

NFTを社会貢献に活用
ゲームやスポーツ、アート分野で主な活用事例が多くみられるNFT(非代替性トークン)だが、社会のさまざまな課題解決に向けた活動にも使われ始めている。

NFTを社会貢献事業に活用した事例が3つ紹介されています。

しかし結論を先に言うと本義が「社会問題の解決にNFTが役立つ」とは言えない設計のものが多いと感じました。ただ、暗号資産の冬のおかげで路線変更を強いられた結果、本義を叶えるためのビジネスモデルにブラッシュアップできた例もあります。

1.教育・職業訓練・雇用機会拡大

メタバースプラットフォーム「Upland」は22日、ユニセフ・ブラジルと長期的なパートナーシップを締結。ブラジルの青少年を対象とした教育や職業訓練、雇用機会拡大のため、Web3関連の教育プログラムを提供する。

2.文化遺産の保全

米フロリダ州を拠点とする「Quantum Temple」は文化や伝統をNFTという形で記録し、それぞれのコミュニティを支援したいと考えるコレクターや旅行者にアピールするアプローチを採用。同社のNFTは人類学者によって、監督・検証されているという。

3.野生動物の保護

オランダを拠点とする分散型炭素クレジット取引所「Coorest」と自然保護コンサルティング会社PLCnetwork of the Southern Hemisphereが共同で、実在する個々の動物をトークン化し、種類、年齢や性別などの情報が含まれるNFTとして販売する。
NFTは動物そのものの所有権ではなく、その動物が生きていることを毎月証明する「生存証明」として活用される。

いずれも「大きな社会課題の解決にNFTを媒介にして参加者を募る」というアプローチは共通です。

このニュースでは概要説明のみで詳しいことは書かれていませんが、3プロジェクトとも2022年初期のトレンドの名残りのようなものを感じます。

今年前半の活況だった頃に「X to Earn」や「NFTの値上がり期待」をベースに企画設計され、現在の冬の相場環境によって修正を余儀なくされただろうなと推測しています。そして暗号資産の冬こそが「大きな社会問題の解決」という大義名分が本気かどうかを試す試金石になったはずです。


■1.教育・職業訓練・雇用機会拡大

Uplandは「現実世界にマッピングされたバーチャル不動産戦略ゲーム」で、米シリコンバレーに本拠を置く「Uplandme」が開発・運営している。ゲーム内のトークンを使用して、仮想土地を所有し、開発することができる。また不動産の売買や、バーチャルビジネス運営を通して収益を得ることも可能だ。

土地をNFT化して売る系メタバースに、不動産戦略ゲームという具体的要素を入れたものが初期設計です。ゲーム内トークンを文字通り仮想通貨として取り扱うもので、今年前半によく見られました。

ここに「ブラジルの青少年の教育」という大義名分を追加しました。

この教育プログラムのコンテンツは、ユニセフの「100万の機会(1MiO)」イニシアチブが監修し、Uplandが提供する。若年層(14歳から29歳)を対象に、バーチャル・コミュニティ主導の環境に対応する、以下のようなスキルの習得を目指す。

・基礎的なスキル:Web3、ブロックチェーン技術、スマートコントラクト、メタバースに関する基礎的な教育

・職業別のスキル:メタバース経済における機会の特定と、web3業界における新しい仕事や機会についての教育

・デジタルスキル:Uplandメタバースでの働き方、不動産など、デジタル・コレクティブルの鋳造(ミント)方法、自己資本の拡大、コレクションの完成、チャレンジの成功、コミュニティイベントへの参加の方法

・起業スキル:メタ起業家として、Uplandメタバース上でビジネスを構築する方法

・応用の利くスキル:実生活にも応用可能な、不動産、利回り、ステーキング、トークン化などに関するweb3関連の教育

おそらく当初はゲーム内の土地NFT投機での値上がり差益、独自トークンでのEarnを期待させてユーザーを誘引するGameFiモデルだったのだろうと推察します。

しかし暗号資産相場の暴落やNFT熱の世界的なクールダウンによって「値上がり期待による投機ゲーム」から「Web3関連の教育・職業訓練・雇用機会の拡大」という教育メインのビジネスモデルに変更したようです。

提携の一環としてUplandは、300万人をこえるコミュニティメンバーを対象に、ユニセフやクリスマスシーズン関連のデジタルグッズを販売する。

Uplandのバーチャル・リオデジャネイロには、ユニセフの名を冠した二つの建造物が建設され、季節にちなんだ屋外用デコレーションのNFTを生産。メタバースのユニセフショールームで販売される。このNFTはユーザーが所有する建物の飾り付けに使うことが可能で、収益はユニセフへ寄付され、教育プログラムの専用資金として使われるという。

加えてユニセフを通じたこの教育事業への物販支援を募るという収益源を確保しようとしています。

上記の教育プログラムをユニセフが運用し、その費用が上記物販の収益で賄われるというモデルで、書かれてはいないので推測ですがUpland運営は物販の手数料収入を若干は得るんじゃないかと思います。

土地や独自トークンに対する投資家・投機家から売り上げるビジネスモデルから、ブラジルの青少年への教育機会の提供に共感する寄付者からの入金・収益を期待するモデルへの変更だと捉えています。

Uplandの共同創業者であるIdan Zuckerman共同CEOは、「この4年間で、UplandユーザーがWeb3の知識を活かして、経済的な成功を収めたという話を何千件も目にしてきた」とコメント。新たな教育プログラムを通して、ブラジルの若者がチャンスを掴む可能性に期待をのぞかせた。

この部分も、ユーザーのNFTや独自トークンへの課金による収益モデルから、塾に受講費用を払うようなモデルに切り替わったと捉えています。

不動産戦略ゲームを遊んでいたら独自トークンで稼げるPlay to Earn」が当初の構想だったのを、暗号資産の冬によってユーザーは「塾の受講費用を払い、将来リアルワールドでのビジネスで経済的な成功を収めることを夢見る」という、ユーザーがお金を運営に払う意識を持たせるモデルに変更したと捉えています。

当初計画だと不動産やWeb3の学びをユーザーはほとんど意識せずPlay to Earnで儲けることだけを目的にした人が集まっていたかもしれません。

しかしこのモデル変更によって「青少年教育に共感する寄付者と、しっかり学ぶことを目的にした青少年がお金を払い、Uplandとユニセフが教育の場を提供する」という状態になったのは結果的によかったのではないかと思います。

to Earnを目的にしなければ、儲かるか・原資回収・利回りは、から解き放たれますし、ブロックチェーンやNFTも履修や修了の証明書発行に引き続き使えますのでWeb2教育事業と少し差別化できます。


■2.文化遺産の保全

米フロリダ州を拠点とする「Quantum Temple」は文化や伝統をNFTという形で記録し、それぞれのコミュニティを支援したいと考えるコレクターや旅行者にアピールするアプローチを採用。同社のNFTは人類学者によって、監督・検証されているという。

現在、開発中のプロジェクトはインドネシア・バリ島の文化遺産をモチーフにしたNFT。プロジェクトのアドバイザーであるSteve Lansing教授(文化人類学)は、NFTは「コミュニティが世界と遺産を共有する新しい方法」であり、「コミュニティとアーティストに直接利益をもたらす新しい収益源を生み出す」と述べている。

インドネシア・バリ島の文化遺産を保全するためにNFT売上の収益が使われるとは書かれていないのが心配です。

コミュニティ=Quantum Temple、つまり自社利益のことを指しているような気がします。文化遺産をモチーフにしたNFTを制作する人をアーティストと呼んでいますが、コミュニティとアーティストに収益源を提供するためにNFTコレクターや旅行者にNFTを買ってもらう、というモデルと整理すると大義名分がほぼ感じられない古風なNFTプロジェクトに見えます。

Quantum Templeのコミュニティメンバーとなるためには申請が必要で申請が許可されると、メンバーとしてNFT「Cosmic Egg 」が入手可能になる。Cosmic Egg所有者は、Quantum Templeのコミュニティ支援ファンドのガバナンス票の獲得や、公式イベントへの参加、NFTのドロップやエアドロップなどに優先的にアクセスできるなどの権利が与えられる。

たとえばインドネシア・バリ島の文化遺産モチーフNFTを販売して得られた収益をNounsのようにプロジェクトのトレジャリーウォレットに蓄積し、NFT所有者によるガバナンス投票によって文化遺産の保護活動への投資先を決定する、というプロジェクトなら「広がる(社会問題の解決への)NFTの利活用事例」の主旨に合うんじゃないかと思いますが、ここで紹介されている内容だと建前を全うしようとしているようには感じられませんでした。


■3.野生動物の保護

野生動物の保護には、多大なコストがかかるが、資金は限定的な場合が多い。このNFTの収益の70%は、動物保護区の支援に使われるとのことだ。また、NFTの所有者は、支援している動物に会えるよう、アフリカの野生動物保護区に招待されるという特典も用意されているという。

野生動物の保護のための資金集めにNFTを活用することで、世界共通通貨としてのETHなど暗号資産によって世界中から広く寄付金的に予算確保できる、というのは良い手法だと思います。

しかし「NFTの収益の70%」を支援に使うということは、30%は自社利益とするということですね。運営費に一定のコストがかかるとしてもApple税・Google税並みの30%という手数料設定は野生動物の保護を主目的としているようには見えません。

NFTが個体識別的な技術要素であることから「実在する個々の動物をトークン化し、種類、年齢や性別などの情報が含まれるNFTとして販売する」とはしていますが、ならば定期的にNFTの絵柄が最新の個体の様子に変化するなど、その個体を観察していることを疑似体験できるようにしてほしいと思います。

現在の個体の様子を都度確認しているということが野生動物の生育環境を保護している証明になります。そこにコストがかかるので30%を頂きます、ならある程度納得できます。

そのくらいやらないとこのNFTなるものは「とある時点でのライオンの写真JPEG」以上のものにはなりません。

また、Coorestとブロックチェーンゲーム会社でNFTマーケットプレイスを運営する「VulcanForged」の提携により、野生動物NFTの保有者はNFTを売買したり、P2E(遊んで稼ぐ)ゲームで使用し報酬を得ることも可能だ。

報酬目的の人を集め、野生動物の保護に貢献していないにも関わらずEarnできるという設計は大義名分を果たしたいのだろうかと疑問を抱きますし、動物保護区の支援に使われる70%を除いた30%がEarn原資になるとすれば損することが確定しているP2Eであるとも言えます。うまく嚙み合っていません。


■2022年初頭のto Earn発想から脱却するのが2023年の動き

「野生動物の保護や世界的文化遺産の保全まで」にNFTが使われているよ、大きな社会問題の解決にWeb3は役立つんだよ、というメッセージとしては読み取れない、というのが率直な感想です。

暗号資産の冬によって大義名分が単なる建前であるか、本気で課題解決したいのかがふるい分けられたのはよかったと思っています。

2022年も明日で終わり。2023年はもはや古くなったto Earn発想からさらに進化して本気で社会問題の解決にweb3が役立つユースケースがたくさん登場するのではないかと予想しています。

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