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『オランダ・ハーグの国際刑事裁判所、デジタルツイン化で証言の心理的負担軽減へ。メタバースの実需化』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2023.5.9

■スコットランドに“VR裁判所”。証言の心理的負担軽減へ

北アイルランドのVR企業Immersonalは、VRを活用した犯罪被害者の裁判所での証言をサポートするソフトウェアを開発しました。

オランダ・ハーグの国際刑事裁判所で試験導入されており、2024年には、スコットランドの52の裁判所で展開される予定とのことです。

後ほど対比でご紹介しますが、「普及が進まない「メタバース」に傾倒する携帯3社、勝算はあるのか」にあるドコモ・KDDI・ソフトバンクが注力するコンシューマ向けイベントスペースとしてのメタバースと異なり、

「被害者に法廷での経験がどのようなものかを事前に理解してもらうことで、現地での体験の心理的負担を軽減する」

という実需に基づいて作られたのがオランダ・ハーグの国際刑事裁判所で導入された「裁判所デジタルツイン」のVR空間です。


法廷の雰囲気をあらかじめ知る

犯罪被害者は同サービスを通じて、ヘッドセットを使用して仮想法廷を移動し、法廷事務官などの個人をクリックして役割を説明させることが可能です。
証言する前にバーチャル空間で裁判所の雰囲気やプロセスについて理解を深めたり、裁判所の関係者と対話したりすることができます。

おそらく現行法では証人が裁判所にリアルに出廷して証言しなければならないルールがあるのだろうと思います。

犯罪の被害に遭った当事者は、裁判所というピリついた場所で、本来見たくもないだろう加害者と向き合って、思い出したくないはずの被害状況を証言することが求められます。

被害当事者でなくても証人として呼ばれた人は皆、裁判所では緊張するでしょう。

VR空間とはいえ、VRゴーグルを通して裁判所のデジタルツインを没入感高く体験することで「見たことがある」という経験を得るだけでも、裁判当日の緊張をかなり和らげられるのではないかと思います。


裁判所VRがいわゆる「メタバース」より良い点

裁判所をデジタルツイン化するのは、いわゆる「メタバース」と比較してよい点がいくつかあります。

・狭い空間だけ作ればいい
広大なワールドを作るのは大変です。限定された「裁判所 第1法廷」という部屋だけを作るのは高コスパです。

・用途が明確
裁判の緊張を和らげる、裁判官・検事・弁護士、書記官、警備係などの訓練を行うなどの用途が明確で実需があります。

・同じ場所を何度も使える
裁判は繰り返し行われ、訓練が必要な証人や裁判官なども永続的に登場します。一度作ったVR空間をカスタマイズ一切なしに何度も使えます。

・ディテールが甘くてもいい
工場のデジタルツインで機械操作まで訓練することを想定すると、機械のスイッチや表示パネルの変化など細かいところを再現することに訓練の意味が出てきますが、VR空間で再現するのは大変です。
裁判所の場合はだいたいの雰囲気と配置が伝わればOKです。

音楽ライブに注力しているバース空間は多いですが、アーティストごとにステージ演出をカスタマイズしなければらないのがコスパが悪く、また現在の技術では生演奏を見せるのが難しいため映像を見せるようなライブになりがち。それならライブビデオを見ているのと大差なく、お金を払う価値は感じられません。Fortniteのライブは無料だからよいのです。


コンシューマ向けが厳しいならB2Bも厳しい

それ故国内では企業体力のある携帯大手といえども、短期的にメタバース関連サービスの利用者を大幅に増やして定着させるのは困難だろう。であれば、どのようにしてメタバースをビジネスにしていくのか。各社の取り組みを見ると、法人向けサービスが大きなポイントとなってくるようだ。

今回ご紹介している裁判所デジタルツインもB2BというかB2Gというか、要するに法人向けのビジネスモデルを採っています。

BBCによると、Immersonalはスコットランド政府と50万ポンドの契約を結び、今後12カ月間にわたって裁判所でVRサービスを提供します。

携帯3社が注力する「メタバース」が短期的に利用者を大幅に増やして定着させるのは困難→ならば法人向けサービスだ、という筋書きでこの記事は書かれていますが、この筋書きは厳しいはずです。

コンシューマにメタバースの需要が薄いなら、「法人がコンシューマ向けにイベントを開く」という法人需要も薄いはずだからです。

実は企業や自治体などがメタバース空間を活用してイベントを実施したいというニーズは急速に増えており、企業に向けたメタバース関連サービスは既にビジネスが立ち上がっている状況なのだという。

上記はブームが遅行しているだけ、かつ携帯3社も含めて法人は動き出したら止められないだけ、だろうと思います。


語学VRも厳しかった

AEON VRサービス終了のお知らせ
お客様各位
平素よりAEON VRをご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
突然ではございますが、この度、AEON VRは2023年3月31日(金)をもちまして、Immerse Inc.との契約終了に伴いサービスを終了させていただくこととなりました。
サービス終了に伴い、2023年6月30日(金)に 会員ページを閉鎖いたしますのでご注意くださいませ。
サービス開始より、多くのお客様にご利用いただきまして誠にありがとうございました。
今後とも弊社サービスをご愛顧くださいますようお願い申し上げます。

期待されていた語学学習のVR化も、追加でお金が取れない、VRだから入会するという効果が得られない、というのが実情のようです。


職業訓練系デジタルツインはアリか

緊張を和らげるために裁判所を作る、外国人労働者の来日前の就業訓練のためにコンビニを作る、語学教育のために空港のイミグレやレストランを作る、という、用途が明確なデジタルツインであれば、レンタルスペースを借りる感覚で利用する法人もいるでしょうし、そこで訓練を受ける人もイメージできます。

「キッザニア」のように職業訓練施設を1か所に集約したようなメタバースで、職業ごとの訓練施設を借りて訓練講習を行うやり方なら法人需要も受講者需要も一定程度ありそうな予感はします。

職業訓練系デジタルツインの場合、それ自体をビジネスにするのではなく採用予算や就業支援予算で運営されるべきものなのもビジネスモデル的に良い点です。

VRゴーグルが完備された研修施設に来てもらうようにすれば、コンシューマーにVRゴーグルが普及していない問題も気にしなくてよくなります。

ただしワールド制作する側のビジネスは厳しいでしょう。一度作るとカスタマイズなしで長期間使われるため需要が拡大しない問題はあります。大事なのはハコではなく職業訓練の中身、コンテンツであって、ワールド制作者がコンテンツまでは作れないのが問題です。

実需に基づく点では職業訓練VRはアリだろうと思いますが、メタバース全体の産業化はまだ厳しそうです。

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