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『情報通信白書「情報の偏り」知っている割合が日本は38.1%、50代・60代はさらに深刻』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2023.7.5

■SNS情報の偏りに警鐘 情報通信白書、日本で認識薄く

総務省は4日、2023年版の「情報通信白書」を公表した。交流サイト(SNS)で表示される情報が運営企業によって選別されていることを認識している割合が、日本は欧米や中国と比べ低かったと指摘。
(中略)
白書は、SNSで自分に近い考えが表示されやすい機能について調査を実施。「よく知っている」「どちらかといえば知っている」と答えた人の割合が米国は77.6%、ドイツは71.1%、中国も79.9%だったのに対し、日本は計38.1%と約半分の水準にとどまった。

昨日総務省から公開された本年度版の情報通信白書。結構衝撃的でした。

SNSで「自分に近い考え方が表示されやすいものなのだ」ということ自体は常識だと思い込んでいましたが、日本はアメリカ・ドイツ・中国の70~80%近くの人が「知っている」と答えているのに対して、日本では38.1%と半分の人しか知らないとのこと。

この現象は「エコーチェンバー」や「フィルターバブル」と呼ばれますが、日本人の多くも当然知っているものだと思っていました。レコメンドエンジンの技術的な仕組みは知らなくても、SNSは好きな情報ばっかり出るものだということ自体は知っているものだと。

しかし調査結果の数値はその思い込みを覆しました。

日本人はレコメンドエンジンの存在を半数以上の人が知らない。

これは衝撃的です。ネット上で出てきた情報を鵜呑みにしてしまうのは「知らないから」。簡単には信じられないのですが、調査で出た数字を直視する必要があります。


50代~60代は特に低い

情報通信白書のサマリー版にはこう書いてあります。

・SNS等では⾃分に近い意⾒や考え⽅等が表⽰されやすい傾向があることについて知っている( 「よく知っている」と「どちらかと⾔ えば知っている」の合計)と回答した割合は、欧⽶と⽐較すると低い。また、我が国について年代別に⾒ると、50歳代及び60歳 代では他の年齢層と⽐較すると低い

・また、ファクトチェック等の偽・誤情報に関連した取組の認知度も他国と⽐較すると低い状況

日本全体で38.1%しかエコーチェンバーを知らないことに加え、50代~60代についてはさらに認知度が低いという調査結果が明らかになっています。

令和5年度版情報通信白書サマリーより引用

上記グラフの左から2つの合計で見てください。水色と赤の合計です。
40代と30代は同じ水準、20代は一段高い認知度です。
対して50代と60代は30代・40代から一段低いカタマリになります。

もうひとつの注目は一番右の濃い青と、右から2番目のベージュの合計「知らない」側の割合です。

20代・30代・40代はおおむね同じレンジで、おおよそ20%程度が「知らない」グループです。

対して50代と60代は突出して「知らない」と答えています。なんと40%帯という下世代の2倍にも及びます。

総務省統計局 2022年10月1日付 人口動態調査より引用

50代・60代は上記の通り日本の全人口に占める人数割合が多く、かつ労働人口に占める割合も当然多くなります。また、会社の中で強い権限を持つポジションにいることが多い世代でもあります。

この世代の人がエコーチェンバーを知らずにネットに触れたり、SNSに直接触れなくても「SNSに感化された周囲の人やメディアからの情報」に触れたりすれば、真に受けてしまううえに、会社や社会の中で影響力を発揮してしまう恐れがあります。


特に教育が必要なのは50代・60代

「ネット社会なのだからネットリテラシー教育が必要だ」と学生の世代に向けて発想しがちですが、今回の情報通信白書の調査結果から見ると、ネットリテラシー教育が必要なのは50代・60代です。

40代以下も諸外国の半分程度しかエコーチェンバーを知らないことも課題なので、世代問わず教育が必要なのは間違いないのですが、50代・60代に向けた教育がひときわ重要です。

[影響力]
50代・60代は労働市場の中で現役世代であり、会社などで権力を持つ世代であるため、同じように人口の多い70代以上の世代よりもネットリテラシー教育の重要性は非常に高いはずです。

[教育が届きにくい]
偉くなってしまって「教えられる」立場を長年離れているおかげで、パワハラ・セクハラ教育も届きにくく、下の世代からは力関係から言いづらい。海外と違い年功序列が未だに続いている日本ならではの問題です。50代・60代に教育を届ける施策が意識的に必要です。

[不慣れ]
ネットリテラシー教育の基礎となるパソコン・スマホ・インターネット・SNSが「突然登場した」という世代でもあり、若年層のように頭が柔らかい間にこれらが登場しプライベートで使っていた世代とは慣れ親しみ方が全然違います。

人数が多く、影響力が強く、ネットに無知。

こんな50代・60代にどうやってネットリテラシー教育を届けるのかは大きな課題です。


より大きな分断が起きる可能性

偏った情報で思想に影響を受ければ「社会の分断を誘引し、民主主義を危険にさらす」と警鐘を鳴らした。

ここまで見てくると「社会の分断」「民主主義を危険にさらす」という大きな言葉もあながち大げさでもないと感じました。

アメリカのほうが3年ほどIT化の浸透度合いが進んでいるから、とも言えません。仮にそうだとしたら日本は「トランプ現象」を3年遅れで追従することになりますし、エコーチェンバーを半数以上の人が知らない日本ではさらにひどい偏りと分断が起きるはずです。


ChatGPTを道具として使いこなせるか

文部科学省もChatGPTなど生成AIについて「教育を経て使いこなす重要性」を提示しています。

文部科学省 暫定的な生成AIガイドライン

文部科学省の暫定ガイドラインでは、ChatGPTは道具なので「情報活用能力」と位置付けて使いこなし方が重要、生成されたテキストなどは批判的に見ることが重要、としています。

SNSのエコーチェンバーも、批判的思考や情報活用の視点からすると「鵜呑みにしない」ことが重要だとまとめられるわけですが、日本人の半数以上はエコーチェンバーを知らず、出てきた情報を真に受けてしまう可能性があるわけです。これはChatGPTにも同様に言えてしまいます。

諸外国と比べて生成AIに寛容だといわれる日本の、寛容である理由は「真に受けるから」だと怖いものがあります。

最近の調査ではChatGPTの業務利用の割合が海外と比べて大きく差が付き始めたことがわかりました。諸外国と比べて寛容なのに、業務利用は進まない。これも意思決定者に多い50代・60代の問題と関連しているように推察します。

メディアなどで「ChatGPTはウソをつく・情報が洩れる」という噂を真に受けて、情報の裏取りもせず、変化に対して腰が重い。若い世代に権限を委譲しない年功序列の影響でChatGPTを業務活用する方法の検討やリスクの洗い出しが進まない。ということではないかと考えています。


低リテラシーを悪用される前に

このネットリテラシーの低さ、エコーチェンバーの認知度の低さを、海外から狙われる可能性すらあると思います。

極端に偏った情報を流せば真に受ける人が50代・60代を中心に増える。
社会的な影響力があり、人数も多い世代を「染めて」しまえば社会を動かせる。

これを実際に選挙時期にやられる可能性は十分あると思います。海外に限らず国内でも仕掛けてくる勢力はありそうです。

自衛のためには、まずは今回の情報通信白書の調査データを謙虚に受け止め、自分や社会の防御力が低いことを自覚するところからがスタートです。50代・60代はネットリテラシーが低いと指摘されて腹を立てるんじゃないかと想像してしまいます。それが悪用者の付け入る隙間です。

日本のエコーチェンバー知ってる率は38.1%、諸外国の約半分の水準。
50代・60代はエコーチェンバーを知らない率が40代以下の2倍の40%。

これを知っているだけで防御力は上がると思います。
極端なことを言っている上の世代の人の話を聞いてすぐに指摘するのはパワーバランス的に難しいと思いますし、極端なことを言っている人に議論をぶつけること自体が危険ですが、まずは上記の数字を自分自身には持っておきましょう。

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