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『メタバース映画「プロジェクト:エメス」3作品で産業化を確信』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2022.11.24

■出演者は全員アバター、巨大セットも大規模アクションも自由自在 “素人”でもSF大作を手がけられる…「メタバース映画」の世界

今回取り上げる2作品は約40分程度の手の込んだフルCGのSF映画で、全編がVRChat内でのカメラ機能を使って撮影。スタッフは映画制作のアマチュア、出演者はもちろん全員がアバターだ。

メタバースの可能性をしっかり感じられるのが、今回ご紹介するVRChatのワールドをセットとして使いアバターが演じる「映画」です。

2作品+外伝で約1時間半を一気見しましたが、攻殻機動隊、パトレイバー、X-MENあたりが好きな人は映画として楽しめると思いますし、メタバースに先進テクノロジー的な興味を持っている人にはわずか1時間半でいろんな発見がある作品だと思いました。


■全編VRChatで撮影された映画3本

ホテル・カデシュ『プロジェクト:エメス』|本編映像PART1


ホテル・カデシュ『プロジェクト:エメス』|本編映像PART2


【本編】全編VRSNS撮影サイバーパンク映画【NINE -PREQUEL OF EMETH-】


■メタバース×映画の注目ポイント

映画の舞台を「ワールド」として作れるメリットが大きい

映画でもフルCG作品はたくさんありますが、それらとメタバースのワールドはちょっと意味が違う感じがします。

フルCG映画はあくまでもCGでビジュアルを作っている感覚なのに対して、この3作品は演じるための舞台セットを作っている感覚です。どちらかというと実写映画のために作られる建て込みセットの方が近い。

これは太秦映画村の建て込みセットをドローンで撮影した動画ですが、これを3D CGオブジェクトで作ったものだと考えた方が合っている気がします。

中田: 映画のおかげで「エメス」へのアクセスは延べ2万人以上にもなっています。“聖地巡礼”をしているファンの方までいます。

そのため、今回の撮影の舞台になった「海上都市 エメス」ワールドに映画撮影終了後に観光客が訪れることができることも太秦映画村と同じです。

リアルな建て込みセットと違うのは、燃やす・爆破するのも、復元するのも、増築するのも、CGならではでやりやすいこと。今回の映画3作品でも派手に爆破炎上するシーンがたくさん登場します。


アバターデザインを統一しないのがメタバースらしい

映画作品として作るなら、登場人物の見た目を統一することで実在感を出し、CGらしさを敢えて消そうとするものです。

しかし今回の「エメス」3作品に登場する登場人物のアバターデザインは敢えて統一されていません。アニメ風、実写風、海外風などいろんなデザインのアバターが共演しています。

この不揃いなアバターが多数登場することが、むしろメタバース感を増していると感じさせます。女性ルックのアバターでも中身は男性であることなどのメタバースメタファーを盛り込んでいるのも良い演出だなと感じます。


アバターらしい動きがそのまま映される

当然と言えば当然なのですが、アバターをそのまま撮影しているのでVRChat上のアバターの動きそのままが映し出されます。

CGキャラクターを3Dモデリングソフトで作りモーションキャプチャーで動かしている通常のCG映画と違い、VRChatでアバター姿で出演している向こう側に演じ操作している人がいることが伝わりやすいと感じます。

もちろん最新技術のモーションキャプチャーよりぎこちないのですが、この独特な動きが人がいる実在感・メタバース演出だと好意的に感じられました。


「音」がメタバースにとって大事

VRChat内に構築されたワールドに、いつものアバターが演じている。のは間違いないのですが、VRChatの普段使いと決定的に異なるのが「音」です。

歩く時の足音が役者によって違い、重たい役者は重たい足音、軽やかに走るシーンでは軽快なSEが当ててあります。砂利を踏みしめる音、雨が地面をたたく音、雑踏の人の声や車の走行音など、実在感のかなりの部分を「音」から感じているのだな、と今回の映画版を見て強く感じました。

また表情を表現できない今のアバターから感情の機微を読み取ってしまうのも、役者の「声」があるからです。おそらくその場その場の役者の声は使っておらずアフレコだと思うのですが、声の演技によって無表情のアバターに表情を与えられることもわかります。

メタバースに「音」の表現が加われば、没入感や臨場感をより感じやすくなるんじゃないかと思います。

特に足音は大事。今のメタバースは空中を滑っている感覚で臨場感がないため移動が面倒な作業だと感じます。Nintendo SWITCH用ゲーム『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』でフィールドを歩き回ることに臨場感を感じるのは、地面の種類ごとに違う足音の表現が大きかったのだなと改めて思いました。


■生で演じる「演劇」×メタバースも期待

「Typeman」は、メタバース空間で演者がリアルタイムに実演するVR演劇です。演者と体験者は同じバーチャルワールドに入り、コミュニケーションを取りながらストーリーを進めていくスタイル。VRヘッドセットを被るだけで参加者は物語の世界へ没入でき、目の前で演者のパフォーマンスを鑑賞することができます。

撮影後に編集を加え、CGエフェクトやSE、BGMなども追加する「映画」だけでなく、生で演じる「演劇」もリアルでは実現できないメタバースの可能性を広げるものだろうと思っています。

昨年12月22日にも書いていますが、メタバース×演劇がきっと来ると思ってます。

リアルタイムに演じるのはメタバース側の技術がもう少し進む必要はありそうですが、もし演劇で活用されるなら場面転換をワールド転換でダイナミックに表現できますし、音響さん・照明さんなど現場スタッフの仕事もメタバース化されグローバル化されます。役者も年齢・性別・国籍などを問わなくなります。

舞台用ワールド構築のプロフェッショナルやアバター演劇専門の振付師や演出家など新たな職業・業態が生まれるはずです。

劇団四季が専用劇場を持つことで継続的な演劇上映を可能にし、食っていくことすら難しい役者業界で「給料制」を実現したのは有名な話です。

宝塚やブロードウェイミュージカルも、メタバースのCG技術を使うことでよりダイナミックな演出が可能になります。メタバースブロードウェイ、メタバースオペラハウス、メタバース四季劇場など常設劇場も作られるでしょう。

観劇するお客さんも、世界中の劇を自宅から見に行くことができます。外国語も自動的に翻訳されますし、身体的に移動が困難な人もいつでもどこでも観劇できるユニバーサルな観劇環境が整います。

観劇のために飛行機を使うこともなく、1回限りの使い捨てセットも不要になり環境負荷も下がります。

演劇×メタバースはものすごい将来性を感じます。


■メタバースは産業的に来る確信

ワールドを箱モノ的に作って、PCやスマホで訪れて数分で飽きるという通称メタバースはやっぱり過渡期。本来の姿ではないと思いますし本来の使い方ではないと思います。

デバイスと通信環境が整うのにもう少し時間がかかるとは思いますが、まずは映画や演劇などプロフェッショナルな使い方からメタバースが仕切りなおされて産業化と一般普及の道をたどるんじゃないかと思っています。

今回の「プロジェクト:エメス」3作品を通じて、プロユースとしてなら今でも使えるし、圧倒的にローコストであることから映画的に商業化もすぐできそうだと感じました。まずはこの3作品をご覧になってみてください。3本たったの1時間半で目から鱗な体験になると思います。

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