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経営史上有数の大規模ターンアラウンド(IBM)『巨象も踊る』

台風接近で首都圏防風の週末に子どもと図書館に行って棚でふと見つけた本。山口周さんのおすすめ本として記憶に残っていました。 2002年出版。93年にIBM CEOに就任し、2002年に退任。20年前の本ではあるが、普遍的な、大企業のターンアラウンドのみならず、リーダーや管理職が引き出しに入れておくべき本だと感じた。話に具体性があるのはもちろん、Mckの卒業生らしく、ガースナーの経営哲学がほどよく抽象されてまとめられていました。経営者の自伝として名著だなと確信したので、noteに記録しておきます。


ルイス・ガースナーの経営哲学

  • 手続きだけではなく、原則で管理する

  • やるべきことを決めるのはすべて市場である

  • 品質。競争戦略・計画、チームワーク、ボーナス、倫理的な責任の重要性を革新している

  • 問題を解決し、同僚を助けるために働く人材を求めている。社内政治を弄する幹部は解雇する

  • 私は戦略の策定に全力を尽くす。実行は経営幹部の仕事だ。悪いニュースは隠さないように。わたしに問題の処理を委ねず横の連絡によって解決してほしい ※これは大企業だけだと思うけど。。。

  • 速くうごく。間違えた場合でも行動を起こすのが速すぎたためなら、まだよい

  • 組織階層は意味をもたない。会議には地位や肩書に関わらず、問題解決に役立つ人を集める。委員会や会議は最小限に減らす。委員会で意思決定する方式はとらない。意見交換は率直に行おう。

  • 私は技術を完全に理解しているわけではない。技術を学ぶ必要はあるが、完全に理解するのは痛いしないように。部門責任者は技術の言葉をビジネスの言葉に翻訳するのが役割だ。

93年就任会見当日の経営会議の言葉の引用

第Ⅰ部 掌握

  • 興味深いのは止血する、そしてビジョンは封印する。という第6章。そして、こう語る。

痛みを伴うことは、迅速に実行すべきで具体的に何をするのか、そしてそれはなぜなのかを全員に周知徹底する必要がある。ひとつの問題をながながと考えたり、問題を隠したり、部分的な解決策を小出しにしたりしながら景気がよくなって問題が自然に解消されるのを待っていると、つまり、ぐずぐずと先送りを続けていくと、問題は必ず深刻化する」
  • 一番先に思いついたのは退職者が発生したときにこの姿勢は応用できる。キーパーソンであればあるほど、この姿勢を厳格に実行すべきでは。

  • また顧客への問題も同様。痛みを伴うことなのであれば、そのリスクはすぐに報告され、対応策をすぐに検討し実行すべき。

  • この話は仲山達也さんの1.1力にも近い考え方であり、古今東西の普遍の真理なのかもしれないですね。

  • 一方で、第9章に「ブランドを再生する」ということがあげられている。これは「ビジョンは封印する」とは逆説的にも感じたが、対顧客にはブランドは明確なメッセージかつ積み上げるべきアセットだから納得。このあたりもいつか参考になるかもません。

  • また第10章で「報酬哲学を見直す」とある。何かしらトランスフォーメーションをするときに報酬哲学や業績評価を変更するのは有効なんだろうと思うし、これが第一章にあることもこの本が実用的なことの一端ですね。

第Ⅱ部 戦略

  • Mck出身のガースナーがⅡ部の最終章「戦略についての回顧」でこう語るのが印象的。そうだよな。そうだよねーと納得してしまいました。

とはいえ、決断でもっとも難しかったのは技術面でも財務面でもない。それは企業文化の改革だった。…(中略)… こうした痛みを伴う企業文化の改革は、上からの号令でできるわけではない。わたしの力ではスイッチを入れることも行動を変えることもできなかった。 → 結局は上級指導者グループという集団の力が必要という結論だったいう理解です
  • これって個人にも言えることなのでは、と思ったりしています。戦略よりも自己の行動の改革。行動基準の改革。

第Ⅲ部 企業文化

  • 第20章 企業文化、第21章裏返しの世界、第22章原則による指導(リーダーシップ)と続いていくが、第22章が傑作です。

  • まず「原則によるリーダーシップ」を自分なりにわかりやすくいうと「パーパス」に似ている。具体的なルールは陳腐化していく。プロセスもまた具体的ななので陳腐化していく。だから、ガートナーはこのように述べています。

決定を下す幹部が会社の成功をもたらしている主要な要因を理解している必要があり、そして実務的な知識、スキル、そのときどきの状況で重要な点を見抜く感覚によって、その原則を具体的な状況に適用していく必要がある

強引かもしれないですが、原則を決めて行動するという点がハイラルスミスの『TQ-心の安らぎを得る究極のタイムマネジメント』に似ているなと思いました。
IBM8原則(93年9月)

  1. 市場こそがすべての行動の背景にある原動力である

  2. 当社はその核心部分で品質を何よりも重視するテクノロジー企業である

  3. 成功度を測る基本的な指標は、顧客満足度と株主価値である

  4. 起業家的な組織として運営し、官僚主義を最小限に抑え、常に生産性に焦点を合わせる

  5. 戦略的なビジョンを見失ってはならない

  6. 緊急性の感覚と持って感が行動する

  7. 優秀で熱心な人材がチームとして協力し合う場合にすべてが実現する

  8. 当社はすべての社員の必要とするものと、事業を展開するすべての地域社会に敏感である

またこれとは別に「勝利」「実行」「チーム」のリーダーシップコンピテンシーを定めたのも興味深いですね。日頃から従業員全員組織全体に求める行動規範と管理職のそれとは区別したほうが有効であると考えていて、これも腹落ちしました。

リーダーシップコンピテンシー

勝利に焦点を合わせる

  • 顧客についての深い理解 ←ここから始めるのがすごい

  • 飛躍的な思考

  • 達成への意欲

実行に全力を投入する

  • チームを率いる

  • 率直な発言

  • チームワーク

  • 決断力

勢いを維持する

  • 組織の能力の構築

  • コーチ

  • 個人的な献身

核心

  • ビジネスへの情熱

第Ⅳ部    教訓

そして成功を収めている経営者には3つの基本的な性格がある、としています。

  • 焦点を絞り込んでいる

    • 自分のビジネスを知り、愛しているか

  • 実行面で秀でている

    • 戦略には限界がある。これはMckのガースナーが言っているのが非常に興味深い。ガースナーはどちらかというとケイパビリティ派っぽい印象を受ける。

  • 顔の見えるリーダーシップがすみずみまで行き渡っている

    • ガースナー自身、これが組織変革でいちばん重要であると断言している。次の言葉が印象的

    1. すべての組織は結局のところ、ひとりの人間の長い影。

    2. 偉大な経営者は腕まくりして、みずから問題に取り組む。

    3. 顔が見える指導とは戦略と業務の両面を重視することを意味する。顔が見える指導とは、情報交換、開放性、頻繁に誠実に話す医師、それも読み手や利き手の理解力を信頼して対話を行う意思を意味する。しかし何よりも顔が見える指導とは情熱を意味する。

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