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読書メモ:法人営業 / Sales or Account Executiveとしての基本のキ?『チャレンジャー・セールス・モデル』から学ぶVUCA時代の法人営業


はじめに

執筆時点でpureな営業は未経験の私が営業のことを学んでみたくて、いろいろ調べた結果、評判の良い本として辿り着いたのが本書でした。そういえば、尊敬する方が社内の営業に推薦していたのがこの本でもあります。
営業、と書きましたが、大企業向けのB2Bをコンサルティング会社、SaaSでサポート的もしくは仕事の一部として齧ってきた私は何やら「営業」という言葉がいつも腹落ちしません。顧客に提供する価値について何も語っていないからです。コンサルティングにしても価値を語っていないのですが、「コンサルします」という自己宣言はあります。ただ、営業ってどんな価値を顧客に「どう」届けるべきなのか?そんな疑問の一部に明確に回答してくれた良書です。
筆者はCEBというアメリカのアドバイザリー会社に所属していて営業に関する本を多数執筆されているマシュー・ディクソンです。2015年に初版が売り出されている、ということを踏まえてテック(SaaS)企業の興隆と重なっていることもありSaaS企業の営業にとって実用的な本でした。また、営業として自社のソリューションを売る一個人としてではなく、一ビジネスマンとしてより良い関係を顧客と気づきたい、そんな人にオススメの本でもあります

第1章 ソリューション営業の進化

正直、私はソリューション営業あたりまではなんとなーくわかっていましたが、そのソリューション営業を超えていかに卓越した営業=チャレンジャーになるのか?をしっかり言語化してくれたのが本書です。個人的には「製品営業」や「カタログ営業」と「ソリューション営業」は完全に別物。そして、このソリューション営業が成功するためのHowが本書に当たるという理解です。
一部端折りますが、筆者は、クライアントサイド(ソリューションを買う側)は変化、もっというと疲れて変化を起こしているという風に語ります(p.28):

  1. コンセンサスに基づく意思決定をする

  2. リスクを回避する

  3. カスタマイゼーションを求める

  4. 第三者コンサルティングを雇う

ここで私がまず最初に「そうなんだ!」と勉強になったのは、「アメリカも一緒じゃん!」ということでした。いままでこの4つ、特に1つ目の「コンセンサスに基づく意思決定をする」は日本市場の特徴という風にある意味、米国本社に言い訳に使う場面も多く見たのですが、アメリカも(おそらく程度の差はある)が一緒なんですね。

第2章 チャレンジャー①ハイパフォーマンスを生む新モデル

まず最初に販売員には5つのタイプがある、と調査から導き出しています (p.39)。

チャレンジャー | 論客タイプ
つねに違った見方をする
・顧客のビジネスを理解している 
・議論好き
・顧客に強引に働きかける

ハードワーカー | 勤勉タイプ 
・つねにもうひと踏ん張りする
・簡単にあきらめない 
・自発的 
・フィードバックと能力開発に関心が高い 

リレーションシップ ビルダー | 関係構築タイプ
・顧客の組織に強力な賛同者をつくる 
・他人を助けるのをいとわない 
・誰とでもうまくやれる 

ローンウルフ | 一匹狼タイプ 
・自身の直感に従う 
・自信家 
・管理しにくい 

リアクティブ・ プロブレムソルバー | 受動的な問題解決 タイプ 
・内外のステークホルダーへの対応が信頼できる 
・すべての問題を解決する ・細部に気を配る 

そして、本書で中心に語られるチャレンジャー・論客モデルの説明因子として下記の6つの属性を挙げました (p.46)。

  • 顧客に独自の視点を提供する

  • 双方向コミュニケーションのスキルに優れている

  • 顧客のバリュードライバー(価値向上要因)を心得ている

  • 顧客のビジネスの経済ドライバー(業績促進要因)を特定できる

  • お金の話を厭わない

  • 顧客にプレッシャーをかけることができる = 答え辛いこと、聞き辛いでもしっかりと質問できる

ここまで書き出したところで断りますが、私はチャレンジャーという言葉も100%適切だとは考えていませんし、この本では一部翻訳がよくない部分や英語と日本語の文化の違いがありそうですが、極力原文を引用し、補足をすることとします。なお、チャレンジャーは、顧客と対等に、時には専門家として助言を展開できるパートナーだと考えています。従って、他にright wordsはあるでしょう。
そういった話は一旦脇に置いて、ここから本書の柱となるキーワードが展開されます。「指導」「適応」「支配」です。これも和訳には異論もありますが、このままにしておきましょう。

指導:顧客のビジネスについて独自の視点を持ち、双方向の対話能力に長けている「チャレンジャー」は、営業上のやり取りのなかで差別化ポイントを指導することができる

個人的には独自の視点というよりも、(コーチングのような形で)普段考えていなかったことを発見する、気づきを与えることができるか、そのために双方向の対話能力を活用できないか、またその気づきを与える双方向の対話のなかで、差別化ポイントを合意することが出来るかだと考えています。その意味では正確ではないのは承知ですが、「コーチング」能力とも言えるかもしれません。

適応:顧客のバリュードライバーや経済ドライバーを把握している「チャレンジャー」は、顧客組織のなかの正しいひとに正しいメッセージを伝え、共感を得られるよう適応することができる

これもコーチングの論理やワーディングで語ってしまいますが、「個別対応」ができるかということだと考えています。もちろん(私としては出すだけ悪手なのではないかと考えている)テンプレートや他提案資料の使い回しや切り貼りではなく、その顧客の文脈に合わせられるかということですよね。

支配:「チャレンジャー」はお金の話も厭わず、必要とあらば顧客に多少の無理強いができる。従って、営業プロセスを支配する(主導権を握る)ことができる

支配は言い過ぎですが、これも「意見表明」できるか、つまりアカウンタビリティとアサーティブネスを発揮できるかという風に言い換えられそうです。無理強いまではいかなくても、ぱっと考えたときには聞き辛いようなことでも、胆力をもって聞けるか、言い切れるか、こういった文脈だと理解しています。

第3章 チャレンジャー②新モデルを移植する

原則としていくつかマシュー・ディクソンらが挙げているのですが、「重要なのはスキルが揃っていること」 (p.57)は肝であると考えています。例えとして、「適応せずに指導したら、場違いに思われる」 と記載してありますが、確かに下手をすると次から会ってもらえなさそうです。他にも「適用しても指導しなければ他の売り手と同じに見られかねない」。「支配しても価値を提供しなければ、たんに迷惑がられる」。確かにそうですね。スキルが揃っている個人はほとんどいない、だからこそ、チームを育て上げるのが重要とも筆者は説いています。
この章で先ほど挙げた「指導」「適応」「支配」の理想像が語られます(p.61以降) 。
「指導」は、インサイトを授けられるか。私の言葉でいうと、気づきを引き出せるか、もしくは一緒にキャンパスに描くことができるか。
「適応」は、ステークホルダーごとにどうメッセージを修正すればいいか心得ているか。私の言葉で言うと、ステークホルダーの関心事や特徴を正確に把握したり分析して、個別の対応ができるか。
「支配」は、具体的な目的をイメージして顧客との議論を主導権を握れるか。私の言葉で言うと、「意見表明」や「フィードバック」を適切に使用しながら、議論を整理しながら、(コーチングの目的ではないが)落とし所を見つけて、(共に)ネクストアクションを取ることなどを促すことができるか。

第4章 差別化のための「指導」

この「指導」が必要は、この2つの問いかけによって正当化されます。「もしも、顧客がじつは自分のニーズを知らなかったら?」「彼らのニーズが(皮肉なことに)自分のニーズを知ることであったら?」このあたりが、私がチャレンジャー・セールス・モデルはコーチングと似ているのでは?とおもった所以です。また、『ストーリーとしての競争戦略』のアイディアも借りながら咀嚼すると、指導とは、「顧客のニーズを言語化し、構造化し、繋げて、ストーリーにする」ということだと考えています。この繋げてストーリーにするまでが「指導」というか、気づきを与えて、共に取り組むことだと考えています。ただ、発見よりも指導能力=つまりインサイトを導き出すことが重要とも筆者は説いていますし、ここには同意します。何が言いたいか。顧客は顧客が知らない新しい情報や気づきを求めている、ということです。
指導のなかでも、商談に直結する「商談直結型の指導」 (p.88)という記述があり、これはきちんと言語化されておくべき事柄だと考えましたので、引用します。

商談直結型の指導: ① (インサイトが)自社ならではの強みにつながること ② 顧客の仮説を覆すこと → 私は必ずしも覆すことは必要なく、視野を広げることだと理解しています ③ 行動を促すこと ④ 他の顧客への拡張性があること

第5章 差別化のための「指導」②

インサイト主導の会話の進め方のステップとして6つのステップが存在する
ステップ① 地ならし 最初の形式的な手続き(導入、時間確認、議題設定など)のあと、同じような企業であなたが見聞きする主な課題を説明すること。このステップで肝心なのは信頼を築くこと (p103)。
ステップ② 再構成 「商談直結型の指導」トークの心臓部。ステップ①で顧客が認めた課題をふまえて、それらの課題を課題やビジネスチャンスに紐づけて、新しいインサイトを提供する (p.105)。これには準備が必要。同意ではなく、新しいインサイトが必要。
ステップ③ 裏付け チャンスの大きさを数値で示す。
ステップ④ 心をゆさぶる ストーリーを駆使して、相手に当事者意識を持ってもらう。個人的に切実な問題だと感じさせること。例:「御社が少々違うのはわかりますが、他の企業でも同じような事例が何度もありました。ちょっとご紹介させていただけますか?」
ステップ⑤ 新しい方法の提示 このステップで前面に出るのはあくまでソリューションであり、売り手ではない。行動を変えればどうビジネスが改善されるかという点が重要。購入ではなく、行動を変えさせる決意をしてもらうこと、と筆者は説きます。これは先日河野デジタル庁大臣が財務省とのレビューで「財務省はどうビジネスや業務を変えたいのか?今の業務のままで、ローンチ(の安全性)だけを考えたら、いまのシステムが良いに決まっている。どう財務省はビジネスや業務を変えたいのか?」と吠えていたのですが、言い当てている核心とこの筆者の言説は一致していることが興味深いなと考えました。
ステップ⑥ ソリューションの提案
ここで筆者は再度大変重要なポイントを繰り返します。 それは、**顧客が求めるサプライヤーの価値は、何かを売る能力ではなく、何かを教える能力だという事実をもとに再構築される。**主人公はサプライヤーではなく、顧客(買い手)である。…(中略)大切なのは、対話そのものののなかであなたが提供するインサイトである。(p.114)
その重要なインサイト。「インサイト生成マシン」を構築するために、必要な要素を3つ挙げています。なお、これをマーケティング部門にも共同責任にしているのが非常に興味深いです。 
① 組織が顧客ニーズを事前に調査する
② 会話の台本を準備する
③ 顧客に買わせたいソリューションを事前に定義する
インサイトを使って「指導」するわけですが、その際に4つポイントとして挙げています。
① 自社独自のベネフィットを明確にする
② 顧客の考え方を覆すインサイトを生み出す
③ 顧客を誘導するメッセージのなかにインサイトを組み込む
④ 販売員が顧客を挑発できるようにする

第6章 共感を得るための「適応」

意思決定者は、個人から買うためではなく、組織から買うと考える傾向にある。従って、顧客の社全体から幅広い支持を得る必要があり、接触しやすく、購入しやすく、他のサプライヤーとの協力をいとわないことが重要とあります。
そして、幅広い支持を得るためには、独自の価値ある視点を提供することや、価値を過大評価せず課題を過小評価しないこと、事業を熟知して「地雷」を避けるのに役立ってくれること、さまざまな問題で教え導いてくれる、等があるそうです。
ここで冒頭の私自身の驚きが登場するのですが、アメリカも「意思決定者がサプライヤーとの取引でいちばん気にするのはそのサプライヤーが社内で幅広く指示されている」ということです。さらに本書では突っ込んで、「契約書にサインする人間に直接当たるのではなく、あなたのソリューションに対する幅広い支持を気づけるステークホルダー(インフルエンサー)を通じて間接的にアプローチするほうが良い、とまで説いています。

社内で幅広い支持を得るためには、、、「役割に応じたメッセージ」が重要だと至極当たり前ですが、重要なことについても記載があります。

図表:職能別スキルの構成要素

実践的(そう)な「価値計画ツール」も図表付きで記載があったので、引用させていただきます。

図表:価値計画ツール

第7章 営業プロセスの「支配」

支配に対する3つの誤解から入るとわかりやすくなります (p.176): 
①「支配」は「交渉」と同義である

  • 顧客が取引を真剣に考えているかどうかは、販売員をキーパーソンに会わせることに同意するかどうかでわかる。例えば、「この種のソリューシションをお客様に紹介するときは、幹部クラスの方に購買決定に関わっていただくのが通例です。御社の場合もそうでしょうか?」

  • 顧客にソリューションの購入方法を指導する(稟議プロセスを主導する、という理解)

② 販売員が支配するのは、お金に関する問題だけである

  • 顧客のビジネスに対する考え方を再構成する、また緊張関係を構築してしまうことを厭わない。たとえば、「わが社は違う…」という顧客に対して、「おっしゃる通り、御社は違います。でも、私達がしごとをさせていただいてる他社もやはり違います(ました)。このインサイトはオペレーションを見直すきっかけになりました。もしよろしければ、このアイディアをもっと詳しく検討した上で、私が御社の関心事にきちんと対応できているかどうかを確認していただけませんか?」

  • ということで、提案プロセス自体をインサイトに基づいて主導する、というのがこの誤解に対する答えかと思います

③ 「支配せよ」と言うと、販売員はひどく攻撃的になる

  • 受動的でもなく、攻撃的でもなく:

    • 建設的な方法で目標に突き進む

    • 自己の領分を守る

    • 率直な物言いをする ということだそうです

非常にわかりやすいのがこの例です: お客様「実例を紹介して欲しい、もしくは他社の推奨者に会わせて欲しい」 販売員「もちろんです。ただ、この点を確認したらいよいよ一緒に仕事をさせてもらえるのですよね?」 とテストクロージングなり、きちんと顧客に対して、聞きたいことを聞ける、というのはわかりやすい事例です。そして、私の経験上、意外にもこういったことを(適切なマナーで聞く分には)受け入れてもらえると考えています。
ここからはデュポンの事例が出たり、第8章 営業マネージャーと「チャレンジャー・セールス・モデル」といった非常に重要な章が続くのですが、既にだいぶ長いこと、またいまの私にとって早いことを勘案して割愛します。

最後に

いかがでしたでしょうか?6000文字を超えてしまいましたが、ここまで読んでくださった方はいるのでしょうか…笑 本書は和訳で使われている言葉が率直すぎることもあり、誤解されやすいのかもしれませんが、テクノロジーを使ったソリューションを販売する営業マン必読の用に思いました。一方で、コンサルタントを経験してきた身からいうと、コンサルの行動様式を全部でないものの言語化した本であるとも考えています。すなわち、コンサルタントにとっても自らの暗黙知を言語化する良書でした!

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