松本35日。 - 29日目
/ 松本市美術館
午前中、天気がよかったら近くの城山公園の展望台まで登ろうかなと思っていたけれど、一度外へ出て山の方を眺めてみると、山は頭からすっぽりと雲を被っている様子で空もぼんやりとしている。これでは展望台に登ったとしてもきっといい景色は眺められそうにない。帰るまでにすっきり晴れ渡る日はあるのかなあ。
そこで今日の午前中はぼんやりとした天気のなか美術館へ行くことにした。
松本市美術館。
草間彌生さんが松本市出身ということで、草間さんの水玉を全面にあしらった美術館になっている。いまの常設コレクション展は『草間彌生 魂のおきどころ』。大きな黄色い南瓜のキャンパス作品は、間近で見れて感動した。作品たちに宿る彼女のパワーの強大さは、きっと何十年経っても人を引き付けるものになるのだろうなと思う。
/ 中町通り
中町通りには古い建物や蔵を改装したショップが並ぶ。
お土産物店が立ち並ぶ縄手通り同様、毎日暮らしていると観光客向けのようなお店自体には関心が無くなるのだけど、この道を通る方が移動に都合が良いのでほぼ毎日のように通り道として使っている。
今日はわざわざ中町通りへ。
ただの通り道ではなく、ちきりや工芸店を目指した。
以前に訪れたときに目星を付けていた器を買いに。
今日は、この店を営み、松本民芸館を立ち上げた丸山太郎さんの娘さんが店に立っていた。かわいらしくて品のある方で、一目みて大ファンになった。
いい買い物ができたとほくほくした気持ちで外へ出ると、向かいにあるファーマーズマーケットに目が止まった。りんごがたくさん並んでいる!
少し前まではシナノスイートばかりが並んでいたのに。店内にも真っ赤なりんご「秋映」があったり、「トキ」という黄色いりんごがあったり、他にも聞き馴染みのないりんごがごろごろしている。
そして、きのこ!
山からそのまま取ってきたような新鮮な風貌だ。こんなに大きななめこも初めて見た。自炊するタイミングもわずかしかないのだけれど、「くりたけ」と黄色いりんご「トキ」を買って帰る。
そろそろ徳島への帰り支度がはじまった。
買い納め、食べ納めが続きます。
/ 飴屋
松本では昔から毎年『松本あめ市』という市が開かれるという。松本が飴の町だというのは初めて知った。
こちらでの買い納めは、堂々とろり。
はちみつみたいな水飴だ。
通常の水飴よりもとろとろと滑らかなので、はちみつの代用として使える。トーストに垂らしたり、ヨーグルトに混ぜたり。
飴の町、松本の味。徳島に持って帰るもののひとつに決めた。
/ マサムラのシューパリジャン
先日徳島から遊びに来てくれたとっとさんがシュークリームを食べて「感動した」と言っていたのでマサムラに行くことにした。
テイクアウト専門店だと思っていたけれど本店にはイートインスペースがあるということなので、今回は本店へ行ってみることにした。建物が見えてきた数10メートル手前から、もうすでに甘い香りが漂ってくる。
マサムラといえばベビーシューと聞く。
店に入るとベビーシュー、シューパリジャン、シューアラモード、スイス風シュークリーム、純カスターシュークリーム、生シュークリーム…と、シュークリームだけでこんなにも種類がある。どれも美味しそうだ。迷う。
とっとさんは確かシューアラモードを食べていたと思う。
迷った挙句、クッキー生地で挟んでいるというのに惹かれてシューパリジャンを選んだ。こちらもたっぷりとカスタードクリームが詰まっている。ひと口かぶりつくと奥からますます溢れ出てくるカスタードクリーム。この濃厚で絶妙な甘さのカスタードクリームは最高。
カスタードクリームがこぼれないよう食べていたら、あっという間に完食。他のシュークリームもどうにか滞在中に食べてみたいなあ。
/ エオンタ
噂は聞いていたけれど、敷居が高そうな印象があって、なかなか訪れることができなかった店『エオンタ』。老舗のジャズ喫茶店だ。
コーヒーが美味しいとか、パスタが美味しいとか、スイーツが美味しいとか、美味しい噂ばかり聞くので、ついに行ってみることにした。
細い階段を上った先にある。
扉を開くと、そこはジャズの世界。BGMが少し大きめの音量で響き渡っていて、音楽の海にどっぷり浸れる空間だった。
「お湯を沸かすところからはじめるので時間がかかります」と、注意書きが添えられてあったパスタメニュー。その噂も以前に聞いていたので、時間がかかることは承知の上。迷うことなくパスタメニューからバジルソースのリングイネを注文した。
自家製なのだろうか、あまり味わったことのないようなバジルソースの風味。少し太めの麺ともソースがよく絡んでいて食べ応えがあった。ジャズを楽しむための場所かと思いきや、フードにもこれほどこだわっているとは。
食後のコーヒーもまた格別。
いくつかある豆のなかから、エチオピア モカ ナチュラルを飲んだ。この滞在中に飲んだコーヒーのなかで一番わたし好みだった。
もっと早くにここを訪れて、この美味しいパスタやコーヒーを、そして一人で心地よく過ごせそうなこの空間での時間を、何度も何度も味わっておきたかったな。
/ 藤原印刷×真澄トークイベントin栞日
エオンタで早めの夕食を済ませたあと向かったのは栞日。
この日は松本市にある『藤原印刷』と、諏訪市の酒造『真澄』のそれぞれの跡取り息子(次期社長)たちのトークイベントが開催されるとのこと。印刷の話も興味があるし、先日諏訪に行ったときに偶然『真澄』の店舗へ訪れていたこともあり、聞きに行ってみることにした。
トークイベントは真澄の日本酒一杯付き。
KAYAはすっきりとして軽やかで飲みやすいお酒だった。
いわゆる社長息子たちのボンボントークで会場を沸かせたあと、印刷業と酒造メーカーが現在置かれている状況や、後継ぎとして二人がそれぞれ挑戦していることの話を聞いた。これが本当に面白かった。
「新しい真澄の定番」としてつくったお酒の話。
トレンドに左右されることなく、原点に立ち戻り、自分たちの蔵にもともとあった自社酵母「七号酵母」を使うことにこだわって生まれたお酒なのだそう。「トレンドを取り入れたファストファッションではなく、毎日着たくなる上質なデイリーウエアを」とイメージした話も興味深かった。蔵を守るため、今の時代だからこそのものづくりを提案し続け、生まれた原点回帰のお酒。最初は先代たちから反対されたにも関わらず、貫き通した意志の強さが本当にかっこいいなと思った。
藤原印刷は本当に稀有な印刷所だと改めて思った。
「できない」とは言わない、できる方法を考えること。そして、紙の可能性と印刷物の可能性を信じて、面白いものづくりをしていくこと。そんな言葉が聞けて、本当に心強かった。この印刷所なら、面白い本がつくれると思わせてくれる。一緒にものづくりをしてみたいと思わせてくれる。なかなかこんな気持ちにさせてくれる印刷所は他にないなと思った。
そして二人のトークを回す、栞日の菊池さんの話もとても面白かった。
このトークイベントを聞いて、言葉にすることの強さを改めて感じた。自分たちの思いや、これまでの歴史や、これからしていこうとすることを、ちゃんと彼らの言葉で声に出して伝えてくれたことで、よりいっそう身に染みたのだと思う。同年代で、こんな風に自分たちの仕事のことをしっかりと言葉にできる人たちに会えたことは、いろいろと自分のことも考えるきっかけを与えてくれたように思う。
自分には家業はないけれど。
ものづくりに携わる者として、影響を受けた部分は大きい。
本当にいいトークイベントだった。
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