0106「ポーズ」
まばらな街灯に照らされてゴミ捨て場に可燃ごみ不燃ごみ粗大ごみ資源ごみをドコドコ捨てていくおれは今年で百二歳。
亀の甲より年の功とは言うけれど、ひとさまの言うことなんて鵜呑みにしていたらそれこそ鵜に丸呑みされちまうぜ。
百二年生きてきたって、自分の性格とか性質とかそういったものはどう足掻いたって変わらないものは変わらない。ああもう正味な話、ガチでな。だからこんな夜も更けきった、誰もいない時間帯に大量のごみを捨てている。ご近所の顰蹙を一身に背負わなくちゃいけない。ファック。シット。Shit!と嫉妬が同じ音なのはなんの因果か、マッポの手先。やぶらこうじのぶらこうじ。とっぴんぱらりのプー太郎。んなことばっかり口走っていたらいつのまにかこんな歳だ。まったくもっていやんなるぜ。あ?
ごみ袋とそれによる重力から開放された両手をぶいぶい振り回しながら、にゅるりと曲がりくねった細い坂道を軽快に下っていく。空はまだ朝を思い出せないでいる。時折ごうごうと吹いてくる風にはひとつまみ程度の潮のにおいが混じっている。ここから数km先の海からやってくるにおい。夏の終わりの嵐が近づいている。
午前深夜のごみ捨て。そのあとの朝焼け。誰もいない道。アパートの外壁や道祖神に吹きつけられたスプレー缶のうんこマーク。同じくスプレー缶で「ちんこ」「まんこ」「SEX」の文字。文字。文字っていうかうんこそのもの。駐車場の端から、ブロック塀の上から、電柱の陰から、様子を伺ってくる猫、猫、猫の眼が反射する光。長距離トラックの走行音。虫の声。雨で湿ってくちゃくちゃになったタバコの吸い殻。なにかが羽ばたく気配。アスファルトをこする便所サンダルの音……。
おれは気分がいい。年に4回、季節の変わり目にこうして溜め込んだごみを捨てるこの日このときのためだけにおれはどうにかこうにか生きている。ごみに生かされている。
人はきらいだ。おれ自身のことだって例外ではない。ずっと変わらない。死ぬまで変わらない。
誰もいない道の真ん中で、おれはおれではなくなる。最強になる。
夜のポーズ!
夜の舞!
猿のポーズ! 鷹のポーズ! 鶴の舞! 蝶の舞!
くるくるきびきび踊り狂って、息がきれぎれになったおれを見ているのは言っちゃあなんだが神みたいなもの。
もうすぐおれの寿命がやってくる。
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