見出し画像

8ページ漫画のネームの作り方(『ギャルと恐竜』を例にして)

こんにちは。森もり子です。
ヤングマガジンで連載中の『ギャルと恐竜』という作品の原作を担当していました。
↓第一話試し読み

ネーム原作者です。
ちなみにネームとはコマ割りまで行った漫画の脚本です。

この作品は主人公のギャル・楓が酔った勢いで恐竜を家に入れてしまってそのままルームシェアするという話で(いやどんな話?)、毎回一話完結の8ページ漫画です。

この連載が始まって2年近く経ち、
ネームをどう描けばよいのか未だに試行錯誤しているのですが、
それでもさすがに自分なりのやり方が見えてきた感じはしています。

ということで、今回は『ギャルと恐竜』第67話「リモコンを探そ。」をもとに、どのような流れでこの話を描いたかを解説します。

こんな感じで作ったよ〜というのをつらつ時系列で書いてるので、長くなってますが、(まじで長くなりました。)
連載中の作品について作者自身が細かく作り方を解説したものってたぶんあんまりないので、もしかしたら楽しんでもらえるかもです!

そして、漫画家や漫画原作者になりたい人も、もしかしたら参考になるかもです!

この記事が想定している読者さんは

・創作の話が好きな人
・漫画家、漫画原作者志望者
・『ギャルと恐竜』が好きな人(ありがとう大好き!)

のような方ですが、出来るだけどなたでも楽しめるように書いたつもりです。まあ気楽に。
作品が好きだからこそあまり裏側知りたくないという読者さんは読まないほうがいいかもです。

※(特に)漫画志望者の方へ
これは8ページ一話完結型の、しかも連載中(記事執筆当時)の漫画なので、実はちょっと特殊な漫画創作です。読み切りや連載第一話の場合には当てはまらない場合も多くあると思いますので、変に参考にするとブレる可能性がありますので、そこはご注意を!
もっと売れてる漫画家の話が聞きたい?  漫勉を観てください


では、いきましょう。


『ギャルと恐竜』を作る上で意識すべきこと!

さて、具体的にネームを見せて説明する前に、(ギャル恐の)ネーム作りで意識すべきことを先に全部書いておきます。8個。多い。
これを前提として作り方を説明するので先に書いてますが、逆に言うと全部後で出てくるんで、ここは流し読みでいいです。
以下のことは、『ギャルと恐竜』以外の漫画作りにも当てはまったりはまらなかったりですね。

他のキャラクターで可能な物語は作らない・・・これは最初にネームが没になったとき担当編集さんに言われたことです。キャラが変わってもできる話では意味がなくて、主人公・楓だから、恐竜だからこそ、生まれるリアクションを大切にします。

主人公・楓の「あんまり悩まなくて、優しい」とか、恐竜の「動きが面白くてかわいい」とかは大切な要素です。毎回必ず、小さくてもそれが現れる場面を作るように心がけています。あと、二人はツッコミ役じゃないからツッコミは読者ないしは他のキャラが担当するように作るということも抑えなくてはいけません。

キャラクターの行動原理が決まっていると、描くべきリアクションや取り扱うべき題材、その漫画全体のテンションが決めやすくなります!

入り口と出口を同じにする・・・一貫したテーマやモチーフで話を作りましょう。よくあるのが一話の中で全く関係ない2つの話をやってしまうってやつです。これ、なんのor誰の話だっけ?となります。
「昔々おじいさんが」で始まったら「おじいさんは幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし」で終わりましょう。
基本的には1pと8pにしっかり繋がりがあるといいです。

読者が読んだあとに持つ感想を明確にする・・・たまに「この漫画を通して読者にどんなメッセージを伝えるか」って難しく考えることあるんですが、これって多分「読んだあとに読者がこんなふうに感じてくれたらいいな」くらいの捉え方でいいと思います。
要は「読後感を大切にする」というか。

主役(その回の中心人物)に対してどういう感想を持って読み終わるかは、話を作る段階でしっかり考えておきたいですね。

読みやすさを優先する・・・ギャルと恐竜はとにかくストレスなく読めるようにしています。変わった設定や演出をやろうと試みるときもありますが、分かりづらくなるようだったらやりません。セリフは出来るだけ少なめにします。

場面を切り替えすぎない・・・場所や時間がバンバン変わるとすごく読みにくいです。
8ページ漫画だと3場面〜4場面くらいが限界かな?
時間の変化も、何時間も飛ぶようなシーンが連続すると分かりにくくなります。

詰め込みすぎない・・・これは未だによく担当編集から指摘されることなのですが、私はキャラの行動や出来事を詰め込みすぎる癖があります。
8ページというのは少ないようで意外と多いので大丈夫です。行動を丸々抜いた方がまとまることもあります。
怖がらず、ゆったりと空気感を作っていきましょう。いきましょうね、俺……

物語のスピードを意識する・・・実際に映像を思い描いて、それを紙に落とし込みます。
といっても絵コンテとはまた違って、漫画なりの時間表現があるので、そこはいろんな漫画を参考にしつつ、テンポがいきなり崩れてないか意識してコマを割ります。

あらゆる生活を肯定する・・・これはこの漫画のテーマですね。生活していると色んなことがありますが、それを一つずつ大切にしていくようなイメージです。日常の小さなあるあるの中にでも恐竜くんを配置すると人間との対比で面白くなるので、これからも小さな生活をしっかり描いていきたいですね。

では、実際に第67話を確認していきましょう。

第67話「リモコン探そ。」

第67話は、主人公の「楓」と「恐竜」が住んでいるアパートに、友達の「山田」が遊びに来ているのですが、エアコンのリモコンが見当たらないという話です(いやどんな話だよ)

さて、ネームは以下のとおりです。

第67話「リモコン探そ。」ネーム

画像3
画像4
画像5
画像6
画像7
画像8
画像9
画像10

では、こちらを解説していきたいと思います。やっと本題です!

あ、ちなみに8ページ漫画のネームはこういう構造になっています。

ネーム2

多くの漫画が左ページから始まり、右ページで終わります。
最初のページ(1p)と最後のページ(8p)の間に3つの見開きが入っています。
とりあえず最低限こちらを覚えておいてもらえると分かりやすいです!

ではネームを書きます!


題材を決める

毎回、今週はどんなお話にしようかな、と考えるところから始まります。
「今週は」と言ってますが掲載は一、二ヶ月先なので掲載日を確認して、その時期に合った題材を選びます。
こだわりすぎてもいけないですが、雑誌連載なので一応ライブ感は大事に。今回は8月の掲載なので、まあ夏だね、と。

単行本で読んだときのバランスも考え、前話も参考にします。
ここで重要になるのがこれまでの流れをまとめたスプレッドシートです。

画像12

こういった形でシート化してて、
中心人物が誰になるか、読後感はどうか、などなど記録しています。

前回は恐竜がバナナを踏む話で、前々回は恐竜が区役所に行く話でした(いやどんな以下略)
恐竜のリアクションが中心の飛び道具的な回が続いたので、次ではもう少し"生活"を感じさせる話にした方がいいですね。
夏のあるあるネタを題材にしましょう。あ、だったら「エアコンのリモコンがなくなる」なんていいかも……などと考えて題材を決めます。

一番大事なのは「その話を楽しんで描けるか」です。自分はこういう小さな出来事を描くのがたまらなく好きですが、リモコンを失くす話なんか描きたくないよって人は描かないほうがいいです!
自分も読むのはいいけど絶対描きたくないというジャンルはあります。

読後感を決める

読後感って言葉を使ってはいますが、要はこのおはなしのトーンやテンションを決める作業ですね。ギャグを強めでいくのか日常を丁寧に描くのか、最後は笑わせるのか感動させるのか。『ギャルと恐竜』という作品自体の変わらないトーンはあると思いますが、一話完結なので毎回少しトーンが変わります。
今回は、楓と恐竜は辛いこともあるけど楽しく生活してるんだなあと感じられて、フフッと笑えるような終わり方にしたいと思います。
あまり言語化しないからちょっと雑な感じになりますね。
あんまりイメージが沸かないときは「あの作品みたいな感じ」でトーンを決めると分かりやすいし、楽です。
この67話も実は映画『サマータイムマシン・ブルース』のダラダラした感じを意識しています。

プロットを書く

いよいよ物語を作っていきましょう。
ここで多くの場合、文字でプロットを書きます。
↓これは今回とは別の第48話のプロットの冒頭です。

画像13

書いているのはサクッとセリフと状況だけです。頭の中でコマを割りながら、コマが変わるところは改行しています。
iOS純正の「メモ」アプリで書き、iPhoneとPCで同期させているので、移動中や布団の上でも思いついたら即プロットを起こせて便利。
これを8ページ分書いてから実際に絵を描いてコマを割っていきます。

ただ最近はプロットをちゃんと書かないことがあって、今回の第67話は頭の中でプロットを思い描きながら、実際にもう絵を描きながらコマを割りながら展開を考えています。

ということで今回の説明でも、文章のプロットと絵のネームを併せて載せていきます。

始まりを考える

まずは物語の始まり方を考えます。
今回の「エアコンのリモコンを失くす」という題材ですが、いろんな始まり方が思いつきます。

・エアコンをつけようとするとリモコンが無い
・エアコンを切ろうとするとリモコンが無い
・恐竜がリモコンを間違えて捨てる
・みんなでリモコンを探している          …etc

本作ではできるだけ分かりやすい始まり方を心がけています。また8ページだと無駄にコマを消費しないことも重要。
今回は、暑さを最初から見せて早めに物語へ引き込みたいと思いますので、いきなりリモコンがなくなっていてそれを探している形にします。
ここでリモコンを探しているのは楓と恐竜の二人でもいいのですが、友人の山田も入れて三人にしました。理由は最近山田を出していなかったから!登場キャラはこんくらいのノリで決めちゃっていい。
まあ山田もいたほうが物語が展開しやすいし、人間が二人いて探してる方が困っている感じが出ますね。

ここで重要なのは、山田を登場させることが出来るのは67話まで話数を重ねてきたからだということ。山田は第3話から繰り返し登場していて、この部屋にいるのも自然ですし、楓や恐竜のそれぞれとどんな関係なのかが読者にある程度伝わっているという前提があります。
これが読み切りだったら、キャラ数は可能な限り抑えた方がいいと思います。読み切りならそもそもこの設定にはなりませんが。

考えた始まり方は、プロットだとこんな感じです。

1p

暑そうなアパート外観
楓「無い」
山田「無い」
恐竜「・・・」
「エアコンのリモコンがない!!」

今回の場合はプロットを頭の中に書きながら、絵にしていきました。

画像16

ちなみに、それぞれのコマに役割があります。

・1コマ目
アパート外観で、場所と気温を伝える。
・2〜4コマ目
キャラクターを順に出して今回の登場人物を伝える。
同時に人間と恐竜くんを対比させる。
・5コマ目
3人が何をしているかをミドルショットで見せる。

画像22


漫然とコマを割っちゃわずに、全てのコマに存在する理由を持たせながら割れるといいですよね。

終わりを決める

次に終わり方(オチ)を決めます。
終わりを先に決めるのは絶対じゃありません。始めを決めてから、その次の展開を順番に考えていった先にオチが見えてくるということもあります。
ただ今回みたいに「リモコンが無くなっている」という謎から始まった場合は、最後はその種明かしで終えるのが分かりやすいです。
入り口と出口は同じにしておきましょう。
ということで必然的にオチから考えることになります。

前置きが長くなりましたが、リモコンが無くなった理由を考えます。

・恐竜がリモコンの上に座っていた
・恐竜のしっぽに挟まっている
・間違えて捨ててた
・誰かが持って行ってた   …etc

恐竜のしっぽは絵としては面白いけど、これまでの恐竜の行動原理上、無理あります。恐竜くんはそこまでバカじゃないんだ!
捨ててしまった場合は、ゴミ置き場にリモコンが落ちてるイメージでしょうか。確かに絵としても面白いし、探しても探しても見つからないリモコンが実はその場になかったというのは面白みがあります。
でも、昨今の天候を考えるとエアコンが使えないのはまじで致命的だし、ハッピーに終わらせるにはリモコンが見つかって楓たちの手元に戻る(ことが予想できる)のが一番!この作品では読者にストレスを与えてしまってはだめ!
というところで、絵の面白さとして「部屋にはないけど見つかって楓たちの手元に戻る」ことにします。
それなら誰かが持っていったってことです。
……誰が?

山田ですね。

楓の家に出入りする可能性があるキャラクターは数人いますが、今回は山田以外ないでしょう。これ以上キャラクターを増やしてもしょうがないし。
お、ここで三人にしたことが活きてきました。

間違えてバッグにリモコンを入れちゃったというのも、あるあるネタとしての面白さ(だけどそんなこと普通ねえよ的な可笑しさも含め)があるのでオチとしていい形で機能しそうです。

てことは、山田は2ページ目あたりですぐ帰ることになりますね。
遊びに来たけど暑いからって理由で帰っちゃう山田とそれを引き止めない楓という二人の関係性で互いの性格を表現できるし、恐竜も楓と違う反応をするのでそこに対比や面白さを作ることが出来そう。
と、頭の中で軽く展開させていきます。

まあ、オチをとりあえず書いてみましょう。
改札前でICカード出そうとして気づく、というのが分かりやすいですね。
まだ電車で移動する前なので、このあとちゃんと楓の家に返しにいけます。ハッピーエンドです。

8p

改札
ICカード取り出す
山田「あ」リモコン発見

画像15


ここから展開を考えていくのですが、せっかくゴールを決めたのでもう少しこの8pを考えます。このラスト3コマの前はどう埋めるべきでしょうか?

山田がリモコンを間抜けに持ってきちゃったというオチなので、その前では楓と恐竜がちょっと真剣だったり苦しんでいたりした方が可笑しさが増すでしょう。また、リモコンが出てきたというオチなので改めてリモコンにもう一度焦点を合わせたいです。さらに場所が変わるのでこの3コマの一個前のコマは風景コマになる、とか考えていくと……

画像17

できた

これからの展開を確認する

リモコンがなくなってからの展開はまず山田が帰るというのは必須ですね。そうなると、おそらく大きな流れとしてはこうなるはずです。

1p(始まり) → 山田が帰る → 楓と恐竜が暑さと戦う → 8p(終わり)

2pから7pまでの計6ページの間に、
「山田が帰る」「 楓と恐竜が暑さと戦う」の2つの展開があります。
これを確認できればオッケーです。

小ネタを考える

この暑い部屋の中で「恐竜(と楓)がこう動いたら面白いかも」という小ネタを考えます。題材を決めたときに、なんとなく思いついているネタもありますね。

・扇風機を出す
 →声をあーってやる、恐竜が邪魔で風が来ない、首振りに合わせて動く
・うちわ
 →使い方がわからない、お互いをあおぐ、しっぽであおぐ
・アイス
 →一個しか無くて奪い合い、分け合う、落とす、かき氷で頭痛い
…etc

例えばこんな感じのやつですね。
扇風機と一緒に動く恐竜かわいいなとか、うちわでお互いをあおぐのいい画だなとか想像を膨らまします。この小ネタをこれからの展開と合わせていきます。

「山田が帰る」を考える

終わり方を考えたときにも少し出ましたが「遊びに来たけど暑いからって理由で帰っちゃう山田とそれを引き止めない楓」というイメージです。これはしっかり二人のキャラが出た行動なので大丈夫です。

さて、このときの恐竜の様子を考えると、山田が帰るのを必死に引き止めるくらいした方が楓との対比で面白そう。でも恐竜くんはお客さんが帰ると言ったらちょっと寂しがりはするけど、わざわざ引き止めたりはしません。(と、このキャラクターを理解しています。)
なので、引き止める理由を作ります。先程考えた小ネタから何か使えそうなものを探して「うちわでお互いをあおぐ」が使えそう!となります。楓と山田の会話の中に恐竜のリアクションを入れていけば、テンポよく進めていけます。

2p
楓「…これ」
「なんで本体にスイッチとかついてないんだよー!!」
山田をあおぐ恐竜

山田「ごめん楓…」
楓「ん?」

山田「暑い!!帰る!!」
楓「だよね」
恐竜(!!)

3p
山田「じゃあねー恐竜ーー」
恐竜「!?」

引き止める恐竜
山田「えーもう帰るからーちょっと暑い〜」

と、ここまでプロットを書きます。3pが少し残っています。2コマくらい入りますかね。
ここでオチをつけるか、次ページに持ち越すか、考えていくんですが、もうさっき山田の「ちょっと暑い〜」を書いたときに見えました。
恐竜はそんな暑くなさそう!なんなら、ひんやりしてそう。それを山田が発見すると楓も冷静に恐竜を触ってきそうです。
てことで、

山田「ん?あれ?」

山田「いやちょっとひんやりしてるコイツ」
楓「まじ?あホントだちょっと冷たい」
恐竜、無表情

残り2コマのプロットも出来上がりますね。

画像22
画像23

できた

次に、4ページ目にいきます。
この最初で「山田が帰る」場面が終わって、次の「楓と恐竜が暑さと戦う」場面に切り変わります。

あ、ここから先「場面」という言葉をずっと使いますが、「一つの意味を持って展開される流れ」のことを勝手に、そう呼んでいます。映画だとシークエンスって言いますかね?

ということで、4pの最初のコマで山田がドアを開けて家から出ていくところを描きました。いきなり山田がいなくなって場面が変わっていてもいいんですが、最後のオチで山田が出てくることを考えると、山田が帰るシーンは重みをもたせておいた方がいいという判断です。
あと、"ドアを開ける山田"と"ページをめくる読者"の動作的な一致が、読み心地を良くする気がします。
山田の退場によって場面が切り変わるところですので、最後は山田の顔と印象的なセリフで終わりたいですね。

4p
玄関ドアを開けた山田。外から。
「んー?外のほうが涼しくない?」

山田「楓ー死ぬなよー」顔アップ

画像19

山田のいたずらっぽい性格が出ているかと!


「楓と恐竜が暑さと戦う」を考える

バタンと扉が閉まり、場面が変わります。
4pの残りと5p,6p7pの4ページ弱でなにをやりましょうか。

色々とある小ネタの中から、最初は扇風機が面白いと思って試しに書いてみました。

扇風機

んー……?どうだろう……?悪くはないと思いますが……
ちょっと保留にします。

8pに繋げることを考えると、先に7pの最後から決めた方が楽ですね。
暑さに苦しむ二人に繋げないといけません。
暑さだけではなくて二人のテンションがめちゃくちゃに下がる出来事で7pのオチを付けたら、より8pの悲惨具合が高まっていいかも?
ということで、小ネタから「アイスを落とす」を選んで展開を考えます。

・どうせ落とすなら思いっきり落としたほうがいいよな
・ベランダとか?
・アイスが粉々になった絵、面白いから入れたいな
・落とす理由が他のシーンとつながれば最高なんだけど
・アイスを食べるワクワクは大きいほうが悲しみが増していいな

など、「アイスを落とす」から考えていくと結構アイデアが浮かびます。
7pのオチだけにアイスを使うんじゃなくて、残りのページ全部を使ってアイスに焦点を当てたほうがいいかもしれません。そうしましょう!

4ページ弱を「アイスを落とす」だけでいいのか……扇風機ネタも入れたほうが……とちょっと不安になりますが、描き方次第です。
余計な要素を詰め込みたくなりますが我慢。ゆったりと空気感を作っていきましょう……

で、始まりから考えてみると山田が帰ったとき二人はアパートの廊下にいます。
お、ここには冷蔵庫がある!ここでアイスを出しましょう。
なんで今まで出してなかったかというのは「2本しかなかったから」という理由にします。楓の優しさが見せられますね。さらに、いたずらっぽく二人をイジりながら去っていった山田に対して、こっちだってアイス隠してたもんね!っていうアンサーにもなります。
アイスを冷蔵庫から出したら、恐竜くんに思いっきり笑顔になってもらいましょう。上げて上げて、この後、思いっきり落とします。(アイスもテンションも)

アイスを食べながらベランダに出る二人。どうせなら二人ともアイスを落としたほうがいいですね。なにかベランダに理由は……そういえば暑さの表現でセミ使ってたな……。と思い出します。
まさか、恐竜くんがセミを触ろうとした!?しそう!!決定!

セミという他の場面で使われたアイテムを使うことで、場面と場面の繋がりが産まれ、アイスを落とすというシーンが独立したものでなくなって、物語に一体感が出ます。
8pでセミが鳴いていることに違う意味が生まれて、物語がより豊かになりました。

アイスを落とすシーンはしっかり物語のスピードを意識して、テンポよく見せられるよう演出を考えます。セミを触った瞬間にカメラが切り替わって、ゆっくり1カット1カットを見せていくようなイメージです。セリフは無しで空気感を大事にしましょう。
ということで、プロットを書きます(長いので中略します)

4p
(略)
バタンとドア閉まる
楓「がんばるー」
〜〜
(略)
〜〜
7p
カメラ部屋の中から。
セミが飛んで、恐竜驚いてジャンプ。楓もびっくり

宙に舞うアイス。倒れる二人。

粉々アイス

悲しい顔で眺める二人

画像23
画像23
画像24
画像25

これでプロット完成です。
普段だったら、ここから実際に絵を描いてコマを割っていくのですが、今回はプロットを作りながら描いていくというスタイルでしたので、もうほぼほぼやることは終わりです。

物語全体の繋がりを確認する

ちゃんとまとまって分かりやすいネームになっているか確認して、見つけたら修正しましょう。
ミスを修正することも大切ですが、ブラッシュアップするために修正することの方がもっと大切です。
セリフやコマをじっくりチェックしてください。
特に1pと8pは先に書いていたので、そこなにか修正箇所があるかもしれません。

今回は二箇所の修正箇所が見つかりました。

・1p最初のコマをセミのアップに変更

修正1

アイスを落とす原因になったセミというアイテムを、より印象づけるのが目的です。アパートというのが分かれば風景コマの機能として問題なし。

・ラストの「あっつ…」を「死ぬ…」に変更

修正2

山田の「死ぬなよー」のセリフを受けて変更しました。
けど、これはちょっと好き嫌いあるかも。
最後の最後になってズルいこと言いますが、結局は好き嫌いなので!

完成!!

これでネームが完成しました。
pdfへ書き出して担当編集へメールします。
その後、連絡がきて修正について話し合うんですが、今回の第67話は久々の一発OKでした!

いかがだったでしょうか。
ここまで超長かったですよね。ありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたり、参考にしていただける部分があったら幸いです。
漫画を作ったことがない状態から、漫画を作り始めて今年で5年になりますが、今はこのスタイルでやってます。

この記事で、ネームの作り方を文章にしたり図に書き込んだりしたことで、自分自身かなり勉強になりました。
もっと良い漫画が作れるように、これからも精進したいと思います!
よろしくお願いします。

(この記事、書くのめちゃくちゃ大変だったんでサポートしてくれたら嬉しいです)


●漫画について書いた記事

漫画の宣伝方法について考えた記事です。
数年前のものなので、ちょっと今と状況は違いますが興味があれば。



いいなと思ったら応援しよう!

森もり子
サポートいただけると、美味しいものを食べてより良いものを作ります。