島の名前(まえがき)
ここのところのウィルス騒ぎで、世の中の空気はずしんと重たく、ニュースを見るたび溝落ちが圧迫されるような日々ですが、みなさま、いかがお過ごしでしょうか。ご無事でしょうか。せめて錯綜する情報に翻弄されないよう、デマにはくれぐれも気をつけて……というのは自分に向かって言っている言葉でもありまして、日に日に沈んでいく気分を変えるべく、そうだ、ラッキーラクーンを作ろう、ということになりました。
もちろん今までのように対面しての取材はできませんし、広島県在住なのでそもそも東京に行くことも無理な話です。そこで、以前どなたかの口からポロッと飛び出した「ラッキーラクーン・デジタル」というワードを思い出しました。そのときはいつまでも紙の本に固執してないで、世の中の動向を見極めてデジタル化もありなんじゃないのぅ〜〜? という、とても親切で所詮は他人事なご提案に、こちらとしても「まぁね」と曖昧に答えたものでした。
やっぱり、物体としての重さとか、紙をめくるときのあの小さな音と匂いや手触りも含めての、本や雑誌の楽しさ、おもしろさがあるわけで。ページをめくったところにある写真や文字、ページを行ったり来たりする時間……ああ、ロマンチック。
それがこうして、半ば不可抗力により追い詰められるがままに行き着いたところがWebだった……ということになろうとは。どこか悔しさも滲ませつつ、けれど作り始めたら紙の本にはできないことができるじゃん、音も出るし絵も動かせるしアップまでの時間も印刷物と比べたら圧倒的に速いし。……と、ちょっと盛り上がっている私がいます。
それもこれも、本誌でもお世話になっているアーティストの方々のお力を貸していただけることになったから。ありがとうございます!
当初は静かなる自宅待機に覚悟を決めて『あつまれどうぶつの森』などやりながらのんびり過ごそうと思っていましたが、この「vol.0」と同時に「vol.1」を進めているのでなかなかに忙しくなってきました。地道に花に水を撒くように、化石を掘り起こすように、高価な蝶を捕まえるように(どうぶつの森の話です)、心の中の言葉をタイプしていく作業はやはり楽しく、気持ちが上がります。PCを前に目がチカチカ、指先がビリビリ。ちなみに、私がたどり着いた無人島には、こんぺい島でも、かりん島でも、ありがとうオリゴ島でもなく、クリストファー・ノーラン監督の1995年の映画『プレステージ』の中で、デヴィッド・ボウイが演じた実在の人物の名前をつけました。チカチカ、ビリビリ。喜びと不安に震えながら、まずはお試し版「vol.0」をお届けします。
(2020年4月9日 森田恭子)
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