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<ピアノ de ピンポン>レポート

グランドピアノが2台、背中合わせに置かれたステージ。その上手側と下手側から「サァーッ!」と叫びながら、それぞれ2分割された卓球台を運び込んだのは、KAN、渡和久(from 風味堂)、磯貝サイモン、Kの4人。

彼らはいきなり右手に持ったラケットでピンポン玉を客席に打ち放ち、いちばん遠くに飛ばした者から抽選箱に手を突っ込む。本日の重要な演奏順を決めるためにこのあと行われる、卓球トーナメントの予選組を決めるためだ。

つまり(整理すると)演奏順を決めるための、トーナメント試合の予選組を決めるために、彼らはピンポン玉を遠くに飛ばしたのだ。

その結果、予選第一組は、KとKANに決まり、磯貝が審判、渡が点数係となって、やっと試合が始まろうとしていた。

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「ピアノで〜〜!」

と、次のフレーズを観客に求めるも、
「ピンポ〜ン!」
と、自分たちで明るく叫んだ。

優勝者には、ライブの最後を自作曲で飾ることができる。

そのために用意した曲は当然ながら、4曲。きっちりリハーサルもしている。トーナメントの途中で負けてしまうとその曲は演奏できない。大きなリスクを抱えたライブは、観客の頭の上に浮かんだクエスチョンマークもそのままに、半ば強引にスタートした。

コーン! コーン! コン! コーンッ!

ピンポン玉が跳ねる小気味よい音が、Zepp DiverCity(Tokyo)にこだまする。

卓球経験はというと、元卓球部の部長だった渡を筆頭に、ソウル出身で軍隊にいたときに卓球をやっていたK、”日曜日の団地の公民館レベル”のKANと磯貝、という布陣。

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関係者間でのおおかたの予想は、優勝候補は渡、次いで、Kだったのだが、第一予選の試合が始まった瞬間、メンバーは気づいた。

(KANさん、練習してきてる!)

思えば、初めて全員揃って打ち合わせという日に、「その前に卓球やろう!」と、渋谷の卓球場に集まったのだが、そのときのKANとはまるで別人のような球の切れ味、俊敏な動きで、優勝候補の一人であるKはいささか面食らった様子だった。

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案の定、予選の第一試合はKANが勝ち取り、勝利者の権限で、KANは演奏する順番を(息切れしながら)「Kくん、先にどうぞ」とトップバッターを押しつけた。

しおらしく、Kはピアノの前に座った。

「まさか僕がここで負けるとは……」

心なしか、声に力がない。
まさか負けるとは。
まさかKANさんに負けるとは!
彼の心の中は悔しさでいっぱいだった。

しかし、ひとたびポロロンと鍵盤に指を走らせると、そこにはもうK独自の甘くせつない歌の世界が広がっていく。

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心情をせつせつと自らに語りかけるような「dear…」、まっすぐな思いを込めたラブソング「誓い」を弾き語り、3曲目はメンバーを舞台に呼び込み、「641」を2×2の連弾とコーラスで披露した。

ピアノ2台だけとは言え、ひたむきな迫力が響き渡り、このイベントの醍醐味を知らしめる場面でもあった。

選手交代して、KANは圧倒的な説得力で「50年後も」を演奏、そして「自分で自分にワン・ツー・スリー・フォー!」とおなじみのカウントから「愛は勝つ」へ。

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ダイナミックなバンドサウンドとコーラスワークで構築する楽曲を、シンプルでいてドラマチックなピアノ弾き語りに見事に変換し、新たな感動を誘う。

「この前、カザフスタンとタジキスタンに旅行に行ってきたんですけど、誰も興味のある目をしてないようなので、僕もコラボレーションします(笑)」

渡と磯貝をステージに呼び、「カレーライス」を。
ピアノを弾かずに真ん中の椅子に座った渡が1コーラス目を、KANは2コーラス目を歌い、お互いにハーモニーをつけた今回のバージョン、オリジナルとはまた違う風景が見えてくる。

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「サァーッ!」

うっとりと味わった「カレーライス」の余韻もそこそこに、
4人は再び卓球台を運び込む。

(客席に向かい)
「ピアノで〜〜!」
(右腕を挙げて)
「ピンポ〜ンッ!」

多くの観客はまだ戸惑っているようだったが、お構いなしに、渡と磯貝による予選第二試合が始まった。

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卓球部の部長だった渡と、初心者の磯貝。
予想外にラリーが続いたあげくに渡が球を外すなど見せ場を作りつつ、最後にはやはり渡が勝利を収め、演奏順を決める権限を得た。

その結果、渡はトリのプレッシャーを磯貝に譲り、おもむろにピアノに向かった。

インパクトのある声と力強いピアノが一気に観客を惹きつける。
ソロ作品「君の為にできること」と、docomoのCMでも流れていた「涙」、どちらもどこか痛みのある、けれどやさしい楽曲で、客席で観ていて魅了されたというヨースケ@HOMEいわく、「いっぱい絆創膏が貼ってある歌」とは言い得て妙であった。

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3曲目の「メロディー」はKからのリクエスト。
渡「俺が歌うよりKくんが歌ったほうが合ってる(笑)」
K「じゃあ、俺にくださいよ」
渡「売る! 5万で!」
K「安っ!(笑)」
すっかり息の合った様子を見せる。
「メロディー」は個性の違う2つの声が寄り添うように混ざり合い、コラボレーションの奇跡を生みだした。

ソロパート最後は、磯貝サイモン。
「サイモンとガーファンクルのサイモンのファンだった父親の命名で」と自己紹介。トリにしてこの軽やかさは彼ならでは。

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Kyleeに提供した「CRAZY FOR YOU」で客席の手拍子を誘い、ある戦争映画にインスパイアされて作ったという「flyboy」では真摯なメロディと歌詞で、まったく別の表情を見せる。

3曲目でまた全員がステージに揃う。
コーラス担当で真ん中の椅子に腰掛けたKが、これから演奏する「タイムマシン」はKAN推薦による選曲であると説明。

KAN「いい曲だから4人で演奏しようって言ったら、(磯貝が)すごい面倒くさい譜面を書いてきて(笑)」
磯貝「かなり夜なべして、こんなに書いたことないっていうぐらい音符を書きまして。相当、難しいアレンジをしてしまいました」
KAN「渡くんがすごいテンパッてるから(笑)」
K「あれ、渡くん、顔ひきつってない?」

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渡「僕は楽譜が読めないんですよ。だからリハーサルはアドリブで臨んだんですけど、その夜みんなで飲みに行って、酔っ払ったKANさんにずっと説教されました(笑)。アレンジをした人の気持ちを考えなさい、って」
K「最後の1時間はずっとその話でしたね(笑)」
磯貝「そういう意味でも結束の固い演奏を聴かせられると思います!」

自信を見せる磯貝の言葉どおり、楽しい連弾とコーラスで「タイムマシン」は、まるで、このライブができるまでのストーリーを歌っているかのようだった。

「サァーッ!」

「サァーッ!」は忘れた頃にやってくるのだ。

ここで、エキシビションマッチを行おうとKANが提案。
せっかく4人いるのだから、ダブルスで。
え、じゃあ、審判はどうします?
ああ、審判がいなきゃできないよね!
どうしよう!
困ったね!

影の声「話は聞かせてもらったわよ!」

4人「あなた、一体誰?」

ステージ下手より、マントをつけたシークレットピンポンゲスト改め、シンパンマン、山崎まさよしが登場。

山崎「そうです私がシンパンマンです、それでは早速始めてください!」

KANとKのチーム、同じ色味のジャケットを着た渡と磯貝チームに分かれ、
試合が始まった。

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ピッ! ピッ! と、シンパンマンのホイッスルが鳴り響き、熱戦の結果、勝利はジャケット兄弟にもたらされた。

山崎「いい試合でした。ありがとうございました」

立ち去ろうとする山崎のマントをKANが後ろから引っ張って引き留める。

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KAN「山崎まさよし、ステージに出て、やることがあるでしょ!」
山崎「歌、ですか?」

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KAN「……(溜めて)……卓球だろっ!」

ええ〜マジで〜と言いながらマントを脱ぎ捨てると、その下はポロシャツ姿。やる気満々。

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客席に背中を向けた山崎が真剣な素振りを見せる中、4人はまたもピンポン玉をどれだけ飛ばせるかを競い、対戦相手は磯貝になり、時折り山崎の「アチョーーーッ!」「ンガーーッ!」という奇声に翻弄されながら「ヤマザキシビションマッチ」は、なんと磯貝が勝利を収める結果となった。

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寂しそうにステージを去ろうとする山崎に、KANが台本どおりのセリフを浴びせかける。

「嘘だろっ!」

ちなみに、この日の朝、KANが書き上げた台本をリハーサルで推敲、山崎の意見を取り入れて完成に至ったのだが、この青春ドラマさながらの「嘘だろっ!」は山崎の案である。

KAN「嘘だろっ! 山崎まさよし、ステージに出て、やることがあるでしょーが!」
山崎「でも、ギター持ってないし。審判やれって言われて来たから」
KAN「ピアノがあるから大丈夫だよ、4人いるし」
山崎「そうですか」
KAN「やっぱり歌ってくれなきゃあ」

(歓声&拍手!)

山崎「じゃあ、この日のために、15年前に作った曲を(笑)」
KAN「なんていう曲?」
山崎「審判の日」
4人「審判の日?」

「審判の日?」を合図に、磯貝がイントロを弾き始める。
ダイナミックなストリングスが印象的でゴスペル風に歌い上げるオリジナルに、KANがピアノだけのアレンジを施し、山崎は伸びやかなフェイクとともにソウルフルな歌声を聴かせた。渡の大胆なピアノソロ、観客のコーラスも加わり、この日だけの「審判の日」が完成した。

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「ありがとうございました!」と、山崎がステージを去る。

KANが静かにピアノを弾き始める。
もう1台のピアノに、渡、磯貝、Kが座っている。

♪霞の向こうに新宿が見える……
「ツバメ」を歌いながら再び山崎登場。
初期のアルバムの1曲で、今もファンの多い曲。コミカルなことを進んでやりながら、こんなにせつなく歌を響かせてしまうのは、山崎の揺るぎない音楽性と気さくな人柄のなせる技。思わず歌詞に身を委ね、目頭を押さえる観客の姿もちらほら。
いい歌を、いい時間を、ありがとう。

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「サァーッ!」

ピアノを弾き終わるやいなや、卓球台を運ぶ4人。
いよいよ決勝試合である。
KANと渡、ライブの最後に歌われるのはどちらの歌か?
渡が複雑な胸の内を明かす。

渡「初めて買ったCDがKANさんの『野球選手が夢だった』で、そのご本人と試合をやることになって、勝つのも申し訳ないし、負けても悔しいし」
KAN「そんなこと言ってちゃだめだね。勝負の世界だよ。お客さんは試合を観に来てるんだから!」

2人はジャケットを脱ぎ、決勝試合が始まった。

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激しいラリー!
決まるスマッシュ!
揺れるネット!
湧き上がる歓声!
ヘンなポーズで渡をかく乱するKAN!

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「見ちゃダメ」と自分に言い聞かせる渡!
「トリンドル!」と気合いを入れるKAN!
「水野真紀!」と畳みかけるKAN!
果たして(おおかたの予想どおり)優勝は……

渡和久の手中に収められた!

渡(泣きマネ)
KAN「泣いてる! ナイテル・ジャクソン(笑)」

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ここで、他のメンバーが優勝した場合の演奏予定曲は、
磯貝サイモンが「low battery’s song」、
Kが「スニーカー」、
KANは「よければ一緒に」であることが明かされた。

客席でさまざまなリアクションが見られる中、「なんでこのタイミングでそれ言うかな。やりにくいなぁ〜〜(笑)」と、渡。本当に、心底やりにくそうだ。

けれど演奏が始まれば、そこは渡がリードする激しいジャズコードの応酬、めまぐるしく展開してきたこの日のライブを象徴するように、熱気に満ちた「真夏のエクスタシー」で<ピアノ de ピンポン>は燃え尽きた。

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アンコールはなし。

サイン入りのピンポン玉を客席に打ち込んだあとは、
ほら、いつもの合い言葉。

「ピアノで〜!」

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「ピンポ〜ン!」

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ありがとうございました!


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撮影:山本倫子
文:森田恭子

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