ノート_Developer用

ディベロッパー・ジェネシス/インターフェロン03(前)

 ……抜けるような青空の下。街外れに、ジープが一台止まっている。

 初老の女性がトコトコと、街からジープに歩いていく。手には、妙に大きな花束。ジープ・ラングラーの鍵をリモコンで解除し、後部に乗り込む。
「おいアバタール。飯だよ」
 ――ダークグレーのハンチングを目深にかぶり、腕と足を組んで眠っていた男が、顔を上げた。幽鬼のような青白い肌と赤い左目が、露わになる。
「元ネタは〝アバター〟か。て云うかその更に元か。ヒンドゥー教徒が聞いたら怒るぞ」
「知った事か。アタシゃ人類じゃない。――そら。持って来てやったよ」
 わさっ、と花束が、男――キリに押し付けられる。キリは息をつくと、億劫そうに座り直した。老人――吸血鬼アヴァランサは、真顔でキリを見つめた。
「怠いかい」
「少しな。……あんたは、エネルギー切れって事はないのか、婆さん」
「自分から絶食するとか、戦い過ぎとか、そういう時にはあるかね。でも普通にしてる分には、まずないね。もう呼吸と同じだからさ。分けて貰ってるんだよ、自然と。あんたはまだ、そこら辺が掴めてないんだろう。慣れの問題だよ。さっさと慣れな」
「だといいが」
 キリは手袋を、口でくわえて外した。眉を寄せて、花に手を翳す。軽く触れてすぐに離す――が。
「あー……」
 花束は見る見る内に、萎れてしまった。キリはがっくりと頭を落とす。――常に皮肉屋で不遜な彼が、真剣に落ち込んでいる様は、何だかおかしかったが――アヴァランサは勿論、そんな感想はおくびにも出さず。
「まあいいさ。人間を殺さなけりゃ、OKだろ」
「俺がOKじゃない。……怠いのは治るんだけどな……腹減ってんのかな、この体」
「エネルギーの使い方に、ムラがあるのかね。――余計なお喋りばっかりしてるからだろ。ちっとは口を閉じときな」
「そうするよ」
「絶対にそんな気ないだろ」
「まあね」
 キリは改めて、どさりとシートに凭れかかった。
「軍曹とクマオは?」
「買い出し中だよ。じき戻る」
「そうか」
 ふうっと息を吐いたキリを、アヴァランサは無遠慮に眺める。キリはいったん閉じた左目を、薄くあけた。
「何だよ、人の顔ジロジロ見て。何か付いてるか」
「いや。あんた、よく見たら、割といい男だったんだね」
「そいつはどうも」
「惜しいね。あと五〇歳若かったら、食ってたのに」
 吸血鬼が云うと洒落にならない。キリは苦笑した。
「五〇年前っても、婆さんはやっぱり婆さんだったんだろ」
「失礼だね。少なくとも額の皺は三本、少なかったよ」
 そしてアヴァランサは、険しい顔で付け加えた。
「眉間の皺もね」

 枯れた花束を、キリは道端に埋めた。南無阿弥陀仏、と片手拝みで呟いた時。
「また殺したのか」
 マラキアが、大きな雑嚢を背負って戻って来た。キリは嫌な顔になる。
「人聞きの悪い事云うなよ。事実だけど。――と云うか切り花だぞ。その内枯れるんだぞ。俺のせいばっかりじゃない」
「わかったわかった。そんな中尉にお土産だ」
 マラキアは紙袋を、キリに放った。中身を見て、キリは首を傾げた。
「サングラス……はわかるとして。こっちの黒いのは何だ? マフラーか?」
「少し違う」
 マラキアは、荷物をトランクに収めながら云った。
「養蜂用のフェイスガードだ。それなら顔色が誤魔化せるし、一応表情もわかる。包帯よりはマシだろう。本当なら顔ごと覆って使うものだが、ネックガードとして使ってもまあ違和感はなかろう」
 マラキアの解説に、キリはしみじみと呟いた。
「……ほんとにお前は、よく出来た部下だよ」歳はマラキアの方が上だが。
「そう思うならちゃんと料金を払え」
 この台詞にはキリは、目を丸くした。
「払ってるだろ? それとも未払いのやつがあったか。何か忘れてるか、俺?」
 真顔で問うたキリを、マラキアは僅かに目を細めて眺めた。――荷物整理に戻りながら答える。
「いや。ない」
「何だ、驚かすな。焦ったぞ一瞬」
 キリはそう云いながら、黒いネックガードを着け、サングラスをかけている。マラキアは、ばたん、とトランクを閉めた。
「熊殿が戻ったら出発だ」

「――〝葦の墓場≪チミティル・デ・ストゥフ≫〟」
 マラキアは行き先を、アヴァランサに告げた。
「そこで罠を仕掛ける」

 ……クラウド研究所の警備部特殊班に、指示が出た。
 〝D〟こと五十嵐キリの居場所が判明した。〝チミティル・デ・ストゥフ〟に向かい、その身柄を確保する事――。

「五十嵐キリ、か」
 今回の指揮官を仰せつかったセキアは、煙草を灰皿に押し付けた。――前任の指揮官は既に、馘≪クビ≫になっている。文字通りの意味で。
 クラウドは研究所の警備を、〝ブラックホース〟という民間警備会社に任せている。中身は傭兵派遣会社である。派遣されて来る〝警備員〟も、当然傭兵だ。五十嵐キリやマラキアの同業者と云える。
 ――クラウドはあくまで民間の研究所である。国軍に警護される訳にはいかない――というのが、研究所の見解である。一見殊勝だが、勿論、真意はそんなところにはない。
 アウストルは実際には、様々な国の軍部と接触している。また非人道的な荒事も多い。そんな時、〝国〟に忠誠を誓っている軍人では、命令を拒まれる可能性がある。更に、〝仕事内容〟を報告されてしまう。それは彼らの義務であり、アウストルが言を弄したところで覆せない。従って、金で動く傭兵の方が都合がいい――そういう結論になるのも当然だろう。
 ブラックホースは、中東で悪名高い傭兵会社である。テロリスト崩れでも雇う、と云われている。しかしだからこそ、クラウド研究所のような組織には最適と云えた。金次第で、どんな非合法でもやってのける兵士達。
「ハリース出身の傭兵だったな? ランクは一級か?」
 隊員の一人が尋く。セキアは面白くもなさそうに答えた。
「一級Aだ」
 ヒュウ、と口笛が上がる。二人目が尋ねた。
「そんな大層な奴なのか。東洋人だろ。ガタイだってそんなにデカくないし」
 ちなみにキリの身長は一八五センチだが、それでも彼らにかかると〝デカくない〟事になる。セキアは「阿呆」の一言で一蹴した。
「ガタイだけでランクが決まるなら、お前なんかゼロ級だ。そういうもんじゃねえんだよ」
「じゃあ、どう凄いんだ」と三人目。「あんた、一緒に戦った事が?」
「いや、ない。敵になった事もない。ハリースは中東には、兵隊出してねえからな。話に聞くだけだが――何でも北アフリカで、テロリストに捕まってた人質二〇〇人、全員助け出したとか」
 隊員達は顔を見合わせた。
「でもさ。一人で、じゃないんだろ」
「当たり前だろうが。その作戦部隊自体が、一級Aばかりで構成されたんだ。後方支援まで全員な。選抜されたってだけで、凄えステータスだ。しかも生還率も高かった。傭兵なら誰だって、妬かずにいられなかったぜ。何年か前の事だから、お前らは知らんだろうが」
「知らないっすね」
 一際若い隊員が、小馬鹿にしたように云った。
「他には?」
「ソマリアでの撤退支援だな。追い縋られて壊滅寸前だった国連軍を支援して、無事に川を渡らせた」
「地味な仕事ばっかだな」
 隊員は嘲笑う。セキアは笑わなかった。
「味方だった奴は絶賛する。敵だった奴は呪う。どっちも口を揃えて云うには、奴は悪魔と契約してる、だと。――最近は教官やってるって話だったが、モルダニアにいたのか」
 セキアは苦々しく唸った。
「悪魔との契約が、切れてる事を願うよ」

 悪魔と契約している――と云われた男、五十嵐キリは、ピアノ線を結んで余りを切った。手をはたく。そこへグロムが歩み寄った。
「こっちも終わった。これでいいのか」
「ああ。ま、虚仮威しだがね。出来れば生け捕りにしたいから、虚仮威しで充分だ。お前さんも、殴るのはいいけど殺すなよ」
「あまり自信はない」
 大真面目な顔で、グロムは云った。
「ところでお前、そのサングラス……夜になっても、かけていて平気なのか」
「ああ」キリは軽く笑った。「問題ない。むしろ暗い方がよく見える」
「そうなのか」
「暗視装置が不要だ。なかなか便利だな」
 ――考えなし、としか聞こえない口調に、グロムはつい声を高めていた。
「お前は。――本気でそう、思っているのか」
「ん?」
「鬼族にさせられたんだろう。便利だなんて、軽々しく口に出来る事か」
 ――キリはしげしげと、グロムを眺めた。
「お前さんが怒るような事なのかね?」
「……」
「亜種ってのは、人類より古くて、優れた種族なんだろ? 亜種になれたんだからありがたく思え、ぐらいの事は云うと思ってたが」
「……。そこまで思い上がってはいない」
「みたいだな」
 キリは不意に笑うと、ポン、とグロムの肩を叩いた。手袋をした手で。
「気は遣わなくていい。俺は、俺だ。もし俺が俺じゃなくなったら、その時こそ怒ってくれ。マッド・ドクターに。怒りで奴を上回れ。上手く使えば力になる」
「……」
「さて。そろそろ持ち場に行くか。何がいつどう来るかわからないからな」
 キリはさっさと、身を翻す。引き留める間もない。グロムは不完全燃焼気味な気持ちを抱えつつも、自分も持ち場に向かった。

 ――運転席の隊員が、車≪ハマー≫を止める。ドアが音もなくスライドし、緑暗色の兵士達が無言で降車。号令もなく、一斉に木立へと入っていく。滑るように。
 静寂の内に、戦いは始まった。

 木立の先に広がった光景に、隊長・セキアは喉を上下させていた。
「葦……?」
 夜気にざわざわと、葉先が揺れている。セキアは舌打ちした。沼沢地という情報は得ていたが、葦野原だったとは。
 彼らの中には、モルダニア出身者がいなかった。それが禍した。とは云え、撤退出来る筈もない。セキアはインカムに向かい、低声で告げた。
「銃は使うな。跳弾になる」
『アイサー』
 〝D〟は生け捕りが前提だが、他の連中はその限りではない。しかしこれで全面的に、銃は使用不能となってしまった。更に。
「罠に気を付けろ。絶対に仕掛けてある」
『了解』
 大袈裟な爆薬や地雷など必要ない。草を結んでおくだけでも有効だ。加えてこの、足場の悪さ。
 ぴちゃり、と水音が立つ。どこに深みがあるかわからない。慎重に進んでいく、と。
「――」
 セキアは足を止めた。――ピアノ線が張られていた。引っかかる寸前だった。ゆっくり跨ぎ越す。トラップの後のトラップは――ないようだ、
 ピゥン! と甲高い音がした。
 一斉に、凄まじい羽音が立った。

「……!?」
「落ち着け! 水鳥だ!」
 セキアは叫んだ。全くその通りだった――が、耳を圧する羽音と鳴き声、覆いかぶさるように展開した黒影は、平常心を揺さぶるには充分だった。おまけにこの騒ぎで、彼らは一時的に、足許を見失ってしまった。鳥を避けるために動こうとして、
「うわっ!」
「!?」
 セキアはギョッとした。水音がしたのだ。次いでプツリと、通信が切れた。
 ――沼に落ちたか。
「全員、身を低くして動くな! やり過ごせ! すぐに静まる」
 実際、鳥は黒雲のように、上空へと去りつつあった。葦のざわつきが収まる。再び前進を始める――
「わっ!」
 ドシャッ! 転倒する音。通信が切れる。これで二人目。そして続けて、
「ぎゃあああ!」
 異様な叫び声がして、三人目も〝死〟んだ。何が起きたのか。セキアは視線を巡らし――
 【それ】に肩を跳ね上げた。
 草の海から、丸い何かが顔を出していたのだ。目が黄色く光っていた。反射的に銃口を向けかけていたが、その時にはそれは、スッと葦に沈んでしまった。今のは――何だったのだ。暗くて判別が付けにくかったが、
「くま……?」
 ドシャッ、とどこかで誰かが倒れる音。四人目。
『た、隊長』
 上擦った声がインカムに入った。
『な、何か。変なモノがいる。く、熊――ぐえっ!』
 ばしゃっ。五人目。
「熊……だと……?」
 そんな馬鹿な、と思う。確かにモルダニアにもヒグマはいる。しかしそんな大型の熊が、こんな葦野原で、それ程器用に動けるのだろうか。第一動けば、幾ら何でもわかる筈――
 ざわざわ。ざわざわ。
「……」
 セキアは凍り付く。――わからない。わからないのだ。風なのか動物なのか。この葦野原の中に、熊がいる。それは掛け値なしの恐怖だった。原始の昔から、骨の髄まで刻み込まれた怖れ。
 グゥ……
 どこからか低く、微かな唸り声がした。獣の声だ。セキアはパニックを起こしそうになるのを、懸命に抑える。――どこだ。どこにいる。〝D〟は。
「グッ!」
 どさっ、と一人が倒れた。六人目。
「っ!」
 ピシュッ! 鋭い音がして、何かがヘルメットを掠めた。セキアは息を飲む。狙撃? この葦野原の中で?
 葦の中で銃は使えない。だからこそ五十嵐キリは、ここを選んだのではないのか。だがそれは、両刃の剣である筈だ。なのに彼らは、銃を使えるのか――いや。
 銃声がしなかった。そう云えば。
「……スリングショットか」
 暗器としてのパチンコだ。しかし、どこから見ているのだ。見渡す限り一面の葦だ。高所などどこにもないのに。
「何だお前っ……ぐわっ!?」
 七人目が〝死亡〟。残り三人。
『隊長! 標的はどこなんです!』
 セキアは既に、失敗を悟っていた。この葦野原を見た時点で、引くべきだったのだ。もっと大人数で包囲するか、あるいは焼き払うか。それを所長≪クライアント≫に決めさせるべきだった――
「ぐおっ!」
 八人目の悲鳴。だがその瞬間を、セキアは目にしていた。後方だ。回り込まれていたらしい。振り向くと何かが、スッと草の海に潜った。ハンチングのようにも見えた。
(そこか)
 セキアはナイフを抜いた。自分も葦の間を、体を屈めて進んでいく。勿論相手も、移動しているだろう。互いに裏をかこうと、円を描くように近付いていく。
(――いた!)
 草の中で、ハンチングが揺れている。セキアは更に身を低くし、もう一歩、間合いを詰めた。――背中が見えた。帽子だけではない、体もある。様子を窺うように、首を伸ばしている。ダミーではなさそうだ。セキアはナイフを握り締めると、一気に飛び出した――
 足許が何かに引っかかった。
 ドシャッ! 浅い水の中に倒れる。手からナイフが、はじき飛ばされた。起き上がろうとしたセキアの眼前に、にゅっと何かが顔を出した。ヒッとセキアは、声を飲み込んでいた。幽霊――!?
「ガッつく男は、嫌われるぞ」
 ニヤリと笑って、幽霊はそう云った。青白い手が伸びて、セキアの首筋に触れた。
 スーッと血の気が引き、セキアは白目を剥いて気絶した。

 ……セキアが意識を取り戻した時。彼らは山小屋≪ロッジ≫のような屋内にいた。部下まで全員拘束され、床に転がされている。ただセキアだけは一人、椅子に括り付けられていた。頭がぐらぐらする。ひどい貧血のような状態だ。まばたきして、やっと思考を立て直す――と。
 眼前に、幽霊が立っていた。

 ダークグレーのコートとハンチング。裏地は赤い。黒の上下。生気のない青白い肌。赤い左目。右目は――空っぽだった。
「よう。セキア……だっけ」
 錆を含んだ声で、幽霊は笑う。セキアは幽霊を睨み付けた。
「お前が、五十嵐キリか」
「さあね。そんな名前だった事もあったかな」
 幽霊≪キリ≫は嘯く。セキアは何とか対抗した。
「一級Aに名を知られてたとはな。光栄だ」
「あんた有名だぜ。中東で無差別発砲して、民間人三〇人以上を虐殺した、ブラックホース部隊の大尉殿」
「……」
「流石のBHも、あんたを中東には置いとけなくなったか。で、次の派遣先は、人体実験大好きなマッド・ドクターの研究所――と。いや何とも、ブレてなくて結構な事だね」
「……。お前に云われる筋合いはないぞ。お前だって何百人と、民間人を巻き込んでるんだろうが」
「知ってるよ」
 キリは動じない。僅かな沈黙。――セキアは首を振った。まだ目眩がする。ああ、とキリは笑った。
「悪かったな。少し取り過ぎたみたいだ。――どうなるかわからなかったからなあ。正直怖さもあったんだが、まあ、やってみるもんだ。ぶっつけ本番が奏功したかな」
 キリは、壁際で伸びている、他の隊員達を指差した。
「あの辺は調整がうまくいかなくて、殺しかけちまったけどな。まあ殺してもよかったんだが。でもお陰で、勘は掴めたよ。練習台になってくれて恩に着る」
「何を云っているのかさっぱりわからん」
「当然だ。わかって貰おうと思ってないからな」
「煙幕か」
「雑談だよ」
 ――その会話を、マラキア、アヴァランサ、グロムは、外のジープで見ていた。小型カメラを設置しておいたのである。グロムは苛々と拳を握った。
「何を無駄話してるんだ。あいつは」
 マラキアは何も云わない。じっとノートPCを眺めている。……
「お前の仲間は、どこにいるんだ」
 セキアは小屋を見回して尋いた。キリは首を傾げた。
「仲間?」
「とぼけるな。迎撃は複数だった。何なんだあの熊は。いつの間にサーカス団長になった。それにあの狙撃。どこから狙った。高所なんかなかった筈だ」
 ――キリはにっこり笑った。人懐っこささえ感じさせる、その表情で。
「秘密」
「……」
「さて、思考力は戻ったかね。――俺が知りたい事は一つだけだ。マッド・ドクターの居場所だ」
「答えると思うか」
「思わない。だから勝手に戴いた」
 セキアは怪訝に眉を寄せ――ハッ、と目を瞠った。
「まさか、貴様、車≪ハマー≫を……!」
「御明察」
 キリは軽く拍手した。
「留守番の若いのは、アイフォンでヘヴィメタ聴いてたそうだぜ。後輩はもうちょっと、ちゃんと教育しとけな」
 セキアは言葉もない。
「……と、いう訳で。俺にはもう、特に尋く事もないんでね。始末してもいいんだが」
「!?」
「それもあんまりなんで、もうちょっと尋きたい」
 キリも椅子を引いて掛けた。膝に頬杖を着き、セキアを覗き込む。
「お前達のクライアント。アウストルは――何をしようとしてるんだ」
「知らん。クライアントが何を考えていようが、俺達には関係がない」
「だよな」キリは楽しそうに笑った。「そうすると本当に、もう尋く事はないな。さよならだ、セキア大尉」
 セキアはギョッと体を揺らしたが、キリは頓着しなかった。無造作に銃を抜く。銃口がセキアの額に向けられる――と。
「そんなに【私】に会いたいかね」

 セキアの声だった。確かにセキアから、発せられた言葉だった。だが口調が、表情が、セキアのものでは有り得なかった。セキアはゆっくりと、椅子の上で姿勢を直した。キリに向き直り、傲然と笑む。
「君からの御指名とあらば、出ない訳にはゆくまいな。光栄だよ。D」
 ……その変化を見ながら、キリも薄く笑んだ。嫌そうに。
「どうも、マッド・ドクター」

 ジープ・ラングラーの中でアヴァランサが、拳を握り締めた。

「……ふむ」
 セキア――の体を使って現れたアウストルは、しげしげとキリを観察した。
「成程。面白い」
 キリは更に嫌そうに、片頬を歪める。銃をホルスターに落とし、腕を組んで椅子に凭れる。背凭れがぎしりと軋んだ。
「男にジロジロ見られても、全然嬉しくないんですがね」
「呼んだのは君だろう。そう嫌う事もなかろうに」
「別に呼んでないよ。あんたが勝手に来ただけだろ」
「その割には驚かなかったが」
「どうせモニタはしてるだろうと思ってね。マイクか電話か――と予想してたんだが。まさか憑依とは思わなかった。流石化物だ。お見それしました」
「……君の物云いは、どうも不愉快だな」
「そりゃよかった。マッド・ドクターに好かれるようになったんじゃ、俺もおしまいだ」
 ……その遣り取りを、グロムはラングラーの中で、ハラハラしながら聞いていた。いつまで嫌味の応酬を続けるつもりだ。肝腎の事を引き出せない内に、逃げられたらどうする。だがマラキアはやはり何も云わない。ただアヴァランサが、するりと外へ出た。グロムは目の端でそれを捉えていたが、気に留まらなかった。……
「しかし君自身は、実に興味深い」
 ――小屋の中では、キリとアウストルの対峙が続いている。アウストル(セキア)は拘束されたまま、限界まで身を乗り出した。
「どう見ても〝患者〟だ。しかし自我を保っている。記憶もある。理性も。こんな例は初めてだよ。君を逃がしたのは失敗だったな。まったく惜しい事をした」
「……つくづく、あの時目が覚めてよかったぜ。でなきゃ今頃、〝アキラ〟状態だ。あ、映画の方な」
 その引用にアウストルは反応しなかったし、キリもそれ以上説明しなかった。口許だけは笑んだ形のまま問う。
「それであんた、何がしたいんだ?」
 直球も直球、ど真ん中だった。グロムは唖然とする。勿論キリには伝わらない。彼は無造作に続けていた。
「今は吸血鬼ウイルスを使った生物兵器。次は吸血鬼兵団、かな。で、世界中に吸血鬼ウイルスをばら撒いて、それでどうしたいんだ? 世界を征服でもしたいのか」
「そんな事に興味はないね」
「じゃあ人類を滅ぼしたい?」
「そこまででもない。せいぜい、衰退して欲しい、程度だな。万物の霊長、という看板を下ろして貰いたい。そもそも自称でしかないんだからね。本来の通り、食われる側の一族として、大陸の片隅ででも逼塞していて欲しい。穏当なものだろう」
 辛辣な台詞に、キリは苦笑した。
「反論出来ないのがつらいとこだな。元人類としては。しかし、【そんな事】のために、こんな手間と時間と金をかけてるのか? あんた」
「だから、【そんな事】が目的ではないからだよ」
 人類は好かない。が、その行く末など究極はどうでもいい――そうアウストルは云ったのである。キリは眉を寄せる。吸血鬼はアッサリと種明かしする。
「これはビジネスだよ。国は新しい兵器が欲しい。私は鬼族と人類を研究出来る。何しろサンプルには事欠かない。フィフティフィフティ、ウィンウィンだ」
「……ホントかよ」キリはげんなりと笑った。「あんた、人類なんてどうでもいいって云ったばっかりだろ」
「興味と愛着は全く別のものだよ、君。私にとって人類は、研究の対象であってそれ以上でもそれ以下でもない。人類のジャンク部分は大変な魅力だ。だが愛でたいとは一つも思わないね。愚かで浅ましくて下賤な種族だ」
「……あんたに愛でて貰いたくなんかないがね。こっちから願い下げだ。しかしまあ、それ、ツイッターで呟くなよ。炎上するぞ」
 何て親切なアドバイス、と自分で呟いておいて、キリは続けた。
「ついでだからもう一つ尋いていいか。レウフリカでのバイオハザード。ありゃ何だ」
 ――グロムは目を瞠った。アウストルは――
 口を横に、大きく広げた。
「本当に尋きたかったのはそれか」
 キリは薄く笑んだままだ。何の揺動も見せない。軽く顎をしゃくって促す。
「まあ、嫌ならいいぜ。教えてくれなくても」
「無理をするな。知りたいんだろう。多くの仲間と教え子の命と、君自身の人生を奪った、あのバイオハザード。あれが何故起こったか――」
「……」
「別に秘密にするような事でもない。教えてあげよう。私にとっても痛いアクシデントだったが、君という新種を得られた事だしな」
「勝手に得た事にしないでくれ」
「手に入れるさ。必ずな。――あれは凡ミスだよ、君」
 単純に、移送の途中だった。次の目的地への、中継地。一時保管。それだけの話だった。が。
「基地司令……名は何と云ったかな。まあいい。あのボンクラめが」凄まじい侮辱を込めて、アウストルは吐き捨てた。「売娼を呼んで騒いでいる内、倉庫の〝一時預かり品〟を思い出したようだ。新種の媚薬だと思ったらしい。あるいは麻薬かな。〝第一級危険指定薬物〟だと、ちゃんと明記されていたのだがね。どうも【見えなかった】とみえる」
 ……話が進むにつれ。キリは唖然と口をあけてしまった。こればかりは抑えられなかった。そんな――事のために。【そんな事のために】?
「自分が蚊帳の外だったのが、面白くなかった、という事もあったようだ。自分の勇ましさを証明したかったのかも知れんね。挙句の果てに、手榴弾で吹っ飛ばされて粉々だ。軽いチキン・レースの筈が、随分高く付いたものだよ」
「肝試しかよ……高校生のヤンキーじゃあるまいし」
 やはり殺しておくべきだった。そんな人材を高官に就けていたモルダニアの内情にも、ゾッとする。心の底から呪いを込めて唸り――キリはふっと顔を上げた。
「……【よく知ってる】な。あんた」
 基地司令が手榴弾で【死んだ】――キリが殺した――事など、現場にいなければわからない筈だ。だがアウストルは、事もなげに解説した。
「基地内の監視カメラの映像を、全て回収した。大抵の事は把握出来る」
「……」
「安心したまえ。君の事はまだ、軍には報告しておらんよ。馬鹿に横槍を入れられてはたまらない」
「……」
「もっともこのまま、君が逃げ続ければ別だ。危険な保菌者として、軍に捕縛を依頼するかも知れない」
「……」
「心配しなくていい。君を【バラ】したりするものか。貴重な実例だ。客人として迎えよう。人類の医療検査と同レベルのテストに、協力してくれるだけでいい。私の許に来たまえ」
 ――キリは大きく、溜息をついた。軽く首を振る。処置なし、というように。
「御高説は賜ったよ、マッド・ドクター。それで、返事はした方がいいか」
「その気があるなら」
「なら云うが」
 キリは腕組みしたまま、冷ややかに笑った――

「死ね。タコ」

 ド ン!

 床に魔法陣が出現し、凄まじいプラズマが迸って――
 捕えた。アウストルと――キリを。

「アヴァランサ殿っ……!?」
 グロムは慌てて、ラングラーを降りた。だが降りただけで、うっ、と息を飲み込む。
 小屋を前にして、アヴァランサが、術を発動させていた。彼女の足許にも、魔法陣が浮かんでいる。小屋の中のものと同じだ。サイズだけが小さい。彼女と小屋を中心に、プラズマが荒れ狂い、風が渦巻いている。
 壮絶な鬼気だった。アヴァランサの目はつり上がり、目は真っ赤に燃えている。唇の端からは、牙が覗いていた。吸血鬼の牙。
「アヴァランサ殿っ……」
 近付けない。何が〝少しは使える〟だ。グロムは呻く。そこにいるのは間違いなく、鬼族きっての使い手だった。

「ぐ……っ……!」
 凄絶なプラズマに縛られながら。アウストルはセキアの中から、抜け出そうとしていた。だが。
「出られないだろ」
 アウストルはハッとした。目の前の椅子には――キリがそのまま、座っていた。プラズマは彼にも及んでいる。パシッ、パシッと衣服に裂け目が入り、肌にも小さく傷が入る。
「貴様っ……最初からっ……!?」
「憑依って手もある、と婆さんから聞いてね。可能性は低いと思ったが、一応準備だけはしといた。備えあれば憂いなしだ」
 バシッ――ハンチングが二つに裂けた。落ちる。床に着く寸前、消滅する。
「半端な事をするとバレる。俺ごと縛れと云った」
「き……さまっ…… !」
 バシィッ――!
 プラズマが更に強まった。

 アヴァランサは短剣を手にした。握りに、古色蒼然とした装飾が施されている。両刃の刀身は、妖気に満ちている。長年に亘って幾多の血を吸って来た、鬼族に代々伝わる剣だった。
「あんたの始末は、アタシが付けるよ」
 しわがれた声で、アヴァランサは呟いた。刃先を下に向けて持つ。
「死にな、アウストル! ――不肖の孫が!」
 呪いの言葉と共に、短剣が陣の中心に突き込まれる――

 微かな木製の音を、グロムの聴覚は拾った。

「アヴァランサ殿っ!」
 グロムは地を蹴った。同時に葦の中から、黒影が飛び出した。アヴァランサに向けて飛び掛かる。アヴァランサは術に集中していて、対応が遅れた。黒影の腕がアヴァランサに伸びる――
 ドガッ!
 グロムが体ごと、黒影にぶつかった。襲撃を防ぐ。だが影響なしとはいかなかった。ギリギリで飛び込んだのだ。煽りを食らって、アヴァランサも転倒してしまった。術が止まる――

 ザアッ!
 二つめの黒影――人形≪リンガーウ≫が、葦野原から飛び出した。

「伏せろ御婆殿、熊殿!」
 サンルーフから上半身を出したマラキアが怒鳴った。ライアットガンをぶっ放す。ボッ! 弾丸は命中し、人形の片脚を吹っ飛ばした。にも関わらず。
 人形は手だけで地面を滑ると、小屋の下に飛び込んだのである。
「逃げろ――!」
 マラキアは声を限りに叫んだ。

 チッ、と閃光が走り、

 グオオオオオオオオ――!
 大爆発が小屋を包んだ。

「……!」
 キリは炎を引きながら地面に一転した。勢いを利用して跳ね起きる。
 ――術が止まった瞬間。キリは失敗を悟った。椅子ごと後ろに倒れてそのまま後転、全力で床を蹴った。扉を体当たりであけて外に飛び出し――かけたところに爆発が来た。爆風に押されるように、キリは爆発を逃れた。だが流石に、ダメージは免れなかった。その前に、アヴァランサの術を受けてもいる。むしろそちらの方が効いていた。起きたものの立ち上がれず咳き込む――と、
 炎の中から、何かが飛び出して来た。

「――!?」
 構える間もなかった。キリは突き飛ばされ、抑え込まれた。人形――と視認した次の瞬間。
 首筋に、鋭い痛みが打ち込まれていた。

「……!?」
 キリは限界まで目を見開いた。吸血――!?

「ディベロッパー…… !?」
 グロムは頭を振って起き上がった。だが次に彼らが見たのは、もっと凄惨な光景だった。

「ぐ……っ……!」
 キリは必死で、人形を押し退けようとした。しかし力が出ない。その間にも、人形の喉は動いている。更に力を奪われる。そして。
 ぎちっ、とキリの肩を押さえた手が変形した。
 ドスッ――!
 長く伸びた指と鉤爪が、キリの肩に食い込んだ。そのまま。
 引かれた。
「……!」
 キリは肩を大きく裂かれ、引きちぎられた。

「キリ――!」
 マラキアが絶叫した。

「こ……のっ……」
 キリは気を失いそうになりながら、それでも足を引いた。殆ど本能だった。戦士としての。
 ドガッ!
 人形を蹴り飛ばす。今度は人形も逆らわなかった。むしろ勢いを利用するように、大きく下がる。そこへ。
 ドウン! ライアットガンの銃声が響いた。だが弾丸は風圧を受けて、大きく逸れた。マラキアは舌打ちした。――キリを襲った人形は、両足が揃っている。三体目か。ライアットガンから大型の鉈に武器を持ち替え、ラングラーを飛び降りたマラキアに、キリは懸命に叫んだ。
「駄目だ来るな! ――クマオ!」
 グロムは反射的に動いていた。マラキアに飛び付き、腕を掴んで引き戻す。殺気に満ちた目がグロムを睨んだ。
「邪魔するな!」
「――お前は駄目だ! 奴は流血してるんだぞ、感染する!」
 マラキアは目を瞠ったまま凍り付いた。

 血が大量に流れ落ちる。キリは傷を押さえて、何とか後ずさった。顔を上げる。――炎を背後に、人形が立っている。口は血に染まり、手には肉片。グロテスク極まりない光景だった。――その、血まみれの口が。
「備えあれば憂いなしだな?」
 アウストルの声だった。キリは逆に、言葉も出ない。息をするので精一杯だった。人形――アウストルは勝手に続けた。
「【彼ら】の事なら、心配要らんよ。君が気絶させておいたお陰で、痛みを感じる間もなく死ねた筈だ。隊長≪セキア≫以外は」
「……」
「立派な殉死だ。彼らの家族は生涯、何不自由なく過ごせるだろう。――もっとも」
 人形は、カタリ、と笑った。
「生涯が末永いとは限らんがね」
「……!」
 三角筋を引きちぎられたキリの腕が、ピクリと引き攣った。反射的に、ナイフを掴もうとしていたのだ。形勢逆転しても猶、屈服を見せない幽霊を、人形は、蔑むように見下ろした。
「どうも君は……〝兵器〟としては、使えそうにないな。反逆者の気質だ。全く従順じゃない」
「……そりゃ、あんたに雇われてるんじゃないもんな。当然だろ」
 掠れた声で、それでもキリは云い返した。成程な、とアウストルは目を眇める。
「君にとっては、契約こそが至上という訳だ。誰に雇われている」
 キリは――笑った。
「秘密」
「……度し難い男だ」
 それを契機に、人形は大きく飛びすさった。葦野原へと後退する。
「サンプルが採れれば用はない。どこででも、野垂れ死にするがいい」
「……へえ」キリは【血の気】が引いた顔で、それでも呟いた。「見逃してくれるとはね。寛大な事で。後悔しないといいな、マッド・ドクター」
 もう返答はなかった。ざわざわと葦が揺れ、凶々しい気配は消えた。

「……っ……!」
 キリも遂に、限界に達した。再び倒れ込む。傷を中心に、体が燃えるように熱い。同時に激痛。キリは思わず、コートの袖口を噛んでいた。何とか苦鳴を噛み殺す、
「アバタール!」
 ――アヴァランサが駆け寄った。彼女も顔面蒼白だった。術に全力をつぎ込んでいたのだ。更にそれが止められてしまった。跳ね返り≪リバウンド≫も半端ではなかったのである。だが。
「アバタール、非常事態だ。これを飲みな」
 アヴァランサは指の腹に、自分の爪を滑らせた。血が膨れ上がる。キリは薄く左目をあけ、それでも苦笑いを見せた。
「……婆さんの血かよ」
「冗談云ってる場合かい! あんたの体は、怪我を治そうとしてんだよ! 暴走して誰彼構わず吸い殺す前に、とっとと飲みな! 一滴でもいいんだ!」
「わかったわかったよっ……ありがたく、戴くよ」
 熱と痛みに顔を歪めながら、キリは差し出された指に唇を着けた。アヴァランサの血を口に含む、

「っ!?」
 キリは目を見開いた。

「ぐっ……!」
「アバタール!?」
 アヴァランサこそ驚愕した。キリが彼女を押し退けたのだ。

「おいアバタール! どうし――」
「ごほっ……!」
 キリは答えられなかった。彼は今含んだばかりの血を、全て吐き出してしまったのである。

「アバタール! 悪ふざけにも程がっ……じゃ、ないのかいっ?」
「幾ら何でも、こんな悪ふざけするか、」
 キリは苦しそうに咳き込んだ。
「折角、婆さんが、献血してくれたのを、冗談でこんな真……似っ……」
 咳が連続し、キリは完全に倒れ込んでしまった。指先が痙攣している。――マラキアとグロムは顔を見合わせた。互いに困惑しか見いだせない。グロムはマラキアを抑えたまま、アヴァランサに声を張り上げた。
「アヴァランサ殿! 俺の血を――」
「いや、駄目だ! どんな反応が起きるか見当も付かない。それよりグロム、こいつを車に運んどくれ。岩男! あんたはハマーを頼むよ!」
「わ――かった――」
 マラキアは急いで踵を返した。木立に消える。グロムはキリに駆け寄った。自分のジャケットを脱ぐと、キリの傷に押し当てて強く縛る。キリは既に、気を失っていた。高熱で、体がガタガタと震えている。
「これで大丈夫だな。血は漏れていないな」
「ああ、出血はもう止まってるよ。後は岩男に触れさせなきゃ大丈夫だ」
 グロムはキリを、肩に担ぎ上げた。その時キリが、何が呟いた。
「……ず」
「あ? どうしたアバタール、何だって?」
「……み……ず……」
「水?」
 しかしキリの声は、それで途切れた。グロムが戸惑った顔を、アヴァランサに向ける。鬼族の老人は首を振った。
「譫言だ。それより急ぐよ」

 グロムはジープの後部に、アヴァランサは運転席に乗り込む。ドアが完全に閉まる前に、アヴァランサはサイドブレーキを下ろしていた。同時にアクセルを踏み込む。ラングラーは猛烈な勢いで走り出す。そしてセキア達から分捕ったハマーが、重低音を轟かせて続いた。
〈続〉

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