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ディベロッパー・ジェネシス/インターフェロン03(後)

 ――熱い。
 身体中が熱い。痛い。このまま燃え尽きてしまうのではないだろうか。焦熱地獄とはこういう事を云うのかも知れない。しかし――とキリは苦笑する。死んだら地獄行きは決まっているのに、まだ生きている内から地獄を見せなくてもいいだろうに。いや、もう(基本的には)死ねなくなったから、その代わりという事だろうか。それとも世界の理としては、キリは既に死んでいて、だから現世と地獄を同時に行≪ゆ≫くのは当然なのだろうか。
(……水……)
 口にしかけたその単語を、寸前で飲み込む。――わかっている。自分にはもう、それは望めない。

 ……キリはゆっくりと、目をあけた。
 ぼんやりした頭のまま、まばたきする。シーツが見えた。どうやらベッドに、寝かされているらしい。更にまばたきを繰り返し、思考と記憶を整理する。
 反射的に、肩を押さえていた。
 そこには既に、筋肉の感触があった。……再生したらしい。凄いな、と、驚きと共に怖れを覚える。どれだけのエネルギーを使ったのか。まさか――誰かの血を、吸ったのか?
(……いや)
 眉を寄せる。自分は血に、拒否反応を示したのだ。一体何なのだろう。吸血鬼になったものだとばかり思っていたのに、その血を受け付けないとは。
「どれだけ変なものになったんだ、俺……」
 ありとあらゆる事がイレギュラー。そう思った方がよさそうだ。キリは深呼吸し、体に力を込めた。のろのろと起き上がる。
 今度こそ、キリは呆気に取られて絶句した。
 部屋は――枯れた植物で埋まっていた。ベッドと云わず床と云わず、茶に変色した植物が散らばっている。キリは唖然とそれを眺めた後、頭を抱えてしまった。
「マジかよ……俺、人類の敵じゃなくて植物の敵か……?」
 その時、ドアがあいた。
「キリ。起きたか」
 マラキアだった。

「……よう。軍曹」
 キリは草臥れきった表情で、片手を上げた。マラキアは頷いた。
「具合はどうだ。調子は」
 ……マラキアは既に、いつも通りのマラキアだった。岩のように重々しく動じない。キリは一度息を吐き出すと、肩を回した。
「肩は問題ないな。後は……怠い。やっぱり」
「ふむ」マラキアは顎に手を当てた。「もう少し要るか。取って来るから少し待っていろ」
「これ」キリは部屋中の枯草を眺めた。「お前らが取って来てくれたんだよな」
「ああ」
「で、枯らしたのは、俺だよな」
「他にいない」
「だよな……」
 本気で肩を落としているキリに、マラキアは眉を寄せた。
「お前が植物愛好家だとは知らなかった」
「いや、全然、そんなんじゃないけどさ。花の名前なんか碌に知らないし」
「こんな事を云うのも何だが、人間を吸い殺すよりはいいと思うぞ。全部雑草だしな。そこら辺から、手当たり次第に抜いて来ただけだ」
「ただその、こう、この【死体】の様が」キリは枯れた花を一本、手に取った。途端にそれは、バラバラに砕けて崩れ落ちてしまった。
「……何て云うかこう……抵抗出来ないものを虐殺してしまった感が」
 冗談めかしてはいるが、存外本心かも知れない。マラキアはふと、自分の手を差し出してみた。
「俺の血気を取ってみるか」
 ――キリは嫌そうな横目でマラキアを見上げた。
「嫌なんじゃなかったか。――やめとくよ。お前吸い殺したら洒落にならない」
「だが、上手くいったんだろう。あの連中に対しては」
「ああ、まあ、な」
 キリは前髪をかき上げ、一つ息をついた。
「婆さんは、掬う感じ、と云ってたが。俺は、門を開け閉めする感じでやってみたんだ」
「――ああ。成程」
「そうしたら何とか、オンとオフの切り換えに成功した。ただどうもこの体、大食いらしくてな。じゃなきゃ燃費が悪いのかも知れない。触って、〝あけ〟て、すぐ閉じたつもりでも、結構大量に吸い上げちまってるみたいで。油断すると本当に吸い殺すかも知れない」
「そうか」
「だからやめとくよ。特に今は、まだ疲れてるしな。――雑草には悪いが、飯になって貰おう。あー、全部片が付いたら、雑草除去のバイトでも始めるか。あっと云う間に枯らせます、って触れ込みで」
「枯らさなくていいものまで根刮ぎだろう。やめておけ」
「……そうだった」
「それに」マラキアはベッドから、枯草の残骸を払い落とした。「オンオフの使い分けが、出来るようになったんだろう。今回は仕方なくても、その内御婆殿のように、枯らさずに貰う事も出来るようになる……」
「いいとこ探しをありがとう、軍曹」
「……筈だ」
「筈かよ」
 そこでやっとキリは、苦笑に似た表情を見せた。普段に近い表情。
 その左目が、ふと動いた。
「……あれ。婆さんとクマオ、喧嘩か」
「ああ」マラキアは開けっ放しのドアから、背後を見やった。
「御婆殿がお冠だ。何で邪魔した、とな。あと少しでカリガリ博士を殺せたのに、と」
「……気持ちはわかるけど、クマオにしたって、そうは云われてもってとこだよなあ……」
 キリはのろのろとベッドから降りた。マラキアはつい、尋いていた。
「大丈夫なのか。起きて」
「大丈夫だよ。病人じゃないんだ。――ところで尋くの遅れたけど、ここどこだ。て云うか、【どっち】の隠れ家≪ハウス≫だ」
「俺の方だ。後で使用料が発生する」
「……了解……」
 請求書を出してくれ――キリは呻くと、ルームシューズを突っ掛けて部屋を出た。

「……あと三秒。三秒あったら、アウストルを殺せたんだよ! 何で助けたりしたんだい!」
「そうは云っても!」アヴァランサの剣幕に、グロムもつい声が高くなってしまう。
「アヴァランサ殿が殺されるのを、黙って見ていればよかったと云うのか!?」
「そう云ってんだよ! アタシも殺されるが奴も死ぬ。それで収支は黒字だろうが」
「馬鹿を云うな! 第一その三秒の間に、アヴァランサ殿が殺されていたかも知れないだろう! タラレバは無意味だ」
 それに――とグロムは、一度呼吸を整えた。
「アウストルは、貴方の孫だと」
「ああそうだよ」
「知らなかった」
「そうだね。云ってなかったからね」
「云っておいて貰いたかった。あんな時にあんな事を初めて聞けば、幾ら俺達でも驚く」
「そいつは悪かったと思うよ。でも云ってたら、あんた遠慮したろう。と云うか、アタシを追っ払ったんじゃないのかい」
「そんな事は……」
「アタシも反省はしてるよ。あんな事を口走るとはね。アタシもまだまだ甘い」
 苦々しい顔で吐き捨てた時。扉口に、青白い長身が現れた。
「……喧嘩は程々にして貰えないかね、婆さん、クマオ。頭痛に響くんだよ」
 キリだった。マラキアは素通りしていった。飯を刈って来る、と云い残して。
「何だいアバタール。起きたのかい」
「起きちゃ悪いみたいな云い方だな」
「まだ足許ふらついてるじゃないかい。また倒れられたら面倒なんだよ。回復するまで寝ときな」
「そうしたかったよ俺だって。婆さん達の喧嘩で目が覚めたんだよ」
 実際には違うが。キリはそう云っておいて、冷蔵庫をあけた。アイスコーヒーのペットボトルに、目を輝かせる。
「流石軍曹、気が回る。――婆さんもちょっとは落ち着けよ。幾ら何でも、祖母さんに孫殺させるとなったら、どうかと思うぜ。俺だって」
「馬鹿お云いでないよ」アヴァランサは一蹴した。「あんた達の基準でもの考えるんじゃないよ。鬼族にとって一番の基準は、〝個〟だ。血縁じゃない。アヴァランサが、アウストルが、どう考え、どう行動するか。大事なのはそれだけだ。子だの孫だのは二の次だ」
 それを聞きながら、キリは、グロムに目をやった。〝本当か?〟の意を込めて。グロムは頷いた。
「人類には理解出来ないだろうが、亜種は大抵がそうだ。程度の差はあるが」
「……まあ人類も、見習う点はあるかもな。でも婆さん的には、孫の不祥事の責任取る、って気持ちもある訳だろ?」
「監督責任はあるからね」
 アヴァランサは憮然としている。
「アタシは奴の案に、賛成しちまった。他の長老達にしても責任はあるが――アタシは【孫の意見だから】、聞いちまったんだよ。悔やまずにいられるかい」
「……成程」キリはアイスコーヒーを飲みながら、瞳を回した。
「婆さんは、孫に腹を立ててるが、自分も許せないと」
「何か変か」
「いや。正直、どうかとは思うけどな。やっぱり。でも婆さんの決意を、俺がどうこう出来るとは思えないし」
「……アウストルが殺してった戦士だがね」
 アヴァランサは、低い声で云った。
「それもアタシの孫だ」
 正確には、戦士の中の一人が、だったが。
 グロムは凝然と固まっている。キリは少し眉を下げて、小柄な鬼族を見やった。
「大変なんだな。婆さんも」
「人類に同情されたかないね」
「俺はもう人類じゃないよ」
 キリはコーヒーを飲み干した。
「けど、まあ、婆さん。クマオを責めるなよ。クマオにしちゃ当然の事をしただけだろうし――大体、責めたところで今更遅い」
 身も蓋もない。アヴァランサは苦い顔で舌打ちした。
「……わかったよ。じゃあ未来の話をしよう。次、同じ状況になっても、邪魔するんじゃないよグロム」
 険しい声で云ったアヴァランサに、グロムは背筋を伸ばして答えた。
「出来ない」
「……おい〝熊〟」
「アヴァランサ殿がアウストルの祖母だから、とか、そういう理由ではなく。アヴァランサ殿が殺されそうになったら、やはり見殺しには出来ないだろうと思う。俺は。そういう事だ」
 アヴァランサは唸る。キリは二杯目をコップに注ぎながら頷いた。
「まあ、そうだろうな。クマオは」
「何か悪いか」
「だから悪くはないって。ただ兵士としちゃ、どうだろうな」
「何だと」
 グロムは気色ばんだが、キリは平坦に続ける。
「勘違いするなよ。戦闘能力の事を云ってるんじゃないぜ。性質の事を云ってる。――婆さん、〝熊〟の一族とやらに、人員の交替を要請した方がいいかも知れない」
「俺のどこが――」
「仲間思いはいい事さ。人間としちゃあな。でもそれが任務遂行の邪魔をするなら、兵士としちゃ失格だ。悪いとは云ってない。向いてないと云ってるんだ」
「じゃあ、お前は」グロムは軽く、拳でテーブルを叩いた。「標的を殺すためなら、ロックバイターを見殺しに出来ると云うのか」
「出来るよ」
 ……ぽけ、と、グロムは表情を空白にした。
「逆もまた然りだ。立場が逆なら、軍曹も同じ事をする。そういう職種だ。そのために高い給料貰うんだからな」
「……」
「同じ傭兵部隊出身でも、雇い主が違えば、敵同士になる事だってある。その時は本気で殺し合う。信用に関わるからな。それが出来ない奴は死ぬ」
「……。それでお前は――平気なのか」
「平気じゃあないよ」アッサリと、矛盾した事をキリは云う。「でもそれは、俺の個人的な問題だ。仕事とは関係がない」
「……」
「嫌なら辞めろ、とか云うなよ。それが嫌な奴は、とっくに辞めてる。云ったろ、おかしいのは俺達の方だって。平気じゃなくても――それが仕事なんだよ。兵隊ってのは」
 淡々と、キリは結ぶ。グロムはその姿をじっと見つめていたが、やがて片手を挙げた。
「よくわかった。俺が兵士向きじゃないという事も」
「わかってくれて嬉しいね」
「しかし実質、今現在〝熊〟の中で、一番戦闘力が強いのは俺だ。交替は不可能だ。それは認識しておいて貰いたい。それから最後に一つ、異議がある」
「ん?」
「ロックバイターはお前を殺さない」
「……何でそう思う?」
「ロックバイターは除隊してる。民間人だ。もう軍人じゃない」
 キリは片目でまばたきした。何を云ってるんだ――という顔だった。更に二秒考え、そして。
「……ああ。そうか」
「そうか、じゃないだろう」
「うっかりしてた。軍曹なんて呼んでるせいかな。――ただクマオ、俺も一つ云っとく」
「何だ」
「俺達は今、婆さんに雇われてる身だ。最優先はマッド・ドクターを殺す事だ」
「……」
 まったく始末に負えない男だ。そうグロムは思う。それは理解しつつ、それでもやはり、一言云い添えずにいられなかった。
「それでもやはり、ロックバイターは、殺さないと思う。お前を」
 ……キリは薄く笑って、首を振った。
「やれやれ。クマオにこんな風に云われるとは、軍曹もヤキが回ったな」
「そういう云い方は――」
 ないだろう、と云いかけた時。当のマラキアが戻って来た。肩に雑草の束を乗せている。
「おかわりだぞ、中尉」
「サンクス」
 キリはマラキアに、軽く笑って手を上げる。――やはりそこには、気安さがある。ように、グロムには見える。グロムは腕組みして、食堂を出て行くキリを見つめていた。

 ――キリはどさりと、雑草を床に置いた。ベッドに座り、一本だけ手許に取る。手を翳す。
 指先で触れる。何も起こらない。左目が一度まばたきする。〝あけ〟る。すうーっ……と草が萎れていく。すぐ〝閉じ〟る。手は触れたまま。
 ぴたりと、萎縮が止まった。
 一つ首肯する。次に〝あけ〟たまま、手を離してみる。草は――
 茶色と化して、固くなってしまった。はらはらと葉が落ちる。
「よくわからんが、こういうシステムか……」
 ふむふむ、と納得しつつ、色々と試していると。グロムが現れた。
「ディベロッパー」
「おう、どうした。珍しいな、お前さんが単身乗り込んで来るなんて」
 ――果たし合いではあるまいし。
「だいぶ、慣れたようだな」
 キリの手許を見て、グロムは呟いた。キリは頷いた。
「どうも俺は、吸引力が強いみたいだな。多少離れてても吸い上げちまう。やっぱり、人間には触らない方がよさそうだ」
「そうしてくれ」
 グロムは椅子を引いて掛けた。新たな雑草を取ろうとしたキリは、その動きに目を留めた。
「……何だ? 俺に何か話でもあるのか」
「……」
 グロムは頭をかき回した。彼自身、どう切り出していいか困っているのが、ありありと見て取れる。キリは促さなかった。黙って待つ。やがて。

「ディベロッパー。俺は、混血だ」

 ――キリの表情は、一筋も動かなかった。グロムはやや顔に血を昇らせると、急いで続けた。
「特別な事じゃない。血が混じると力が強くなるんだ。混血はどこの種族でも、推奨されている。実際に子供をもうけるのは――なかなか難しいが」
 大きな括りでは同種とは云え、生活習慣や文化が違う。そこを乗り越えるにはやはり、通常に倍する気力が必要になる。また混血の場合、生まれた子にどちらの特徴が出るかで、種族が決まる。個々人はどちらでもよくても、種族間で争いになってしまう事もあり、異種間生殖の難しさの一因となっている。……
「ふうん。それで」キリは雑草を一束、〝おかわり〟しながら尋いた。「お前さんの片親は、人類なのか」
「いや違う。だが何代か前には、人類の血も入っているそうだ」
「へえ。でクマオは、それが嫌だと?」
「嫌な訳じゃない。と云うかどうでもいい。先祖が決断した事だ。尊重する。実際それ以後、俺の家系は強くなった。〝熊〟において、強い事はやはりステータスだ。尊敬もされる。入った血が何であってもな。何の問題もない」
「……それじゃ何で、わざわざ、俺のとこに来たんだ。お前さんの自慢を聞かされただけか、俺は?」
 流石にうんざりした顔になったキリに、グロムは手を振った。
「違う。そうではなくて……ここまでが、前振りと云うか」
「……うん?」
 キリは怪訝に目を眇める。グロムは考え、考え、言を継いだ。
「俺は、〝熊〟だ」
「……知ってるよ」
「一番強く、〝熊〟の特徴が出た。だから母の側の、〝熊〟として育った。それに何の疑問もない。嫌悪も。ただもし、ここでいきなり〝蛇〟の特性が出て」
「へびぃ?」
 キリは思わず、間抜けな声を上げてしまった。
「蛇って、あの蛇か。蛇と熊が結婚したのか」
「結婚というのともまた違うんだが……普段はヒトの姿なんだからな。熊でも蛇でも鳥でも、特にハードルはない。ちなみに父は、胴回り三メートル全長二〇メートルの青大将で、それはそれはイケメンだったと母は」
「わかったわかった。それはもういいから」
 キリは急いで遮った。これ以上想像したくない。「それで?」と些か草臥れた声で促す。グロムは慌てて、話を元に戻した。
「だからその。……もしここで、俺の属性がいきなり、〝蛇〟になってしまったら。俺は――どうしていいかわからないだろう。きっと」
 自分の手を見ながら云うグロムに、キリは「ああ――」と納得した。
 ――鬼族にさせられて、何故そこまで平然としていられるんだ。
 グロムはそう云った。苛立った表情で。
「俺は俺だ。そう、お前は云う。だが俺にとっては……〝熊〟である事と俺である事は、不可分だ。お前は違うのか。人類である事に、意味や誇りはなかったのか?」
 切実とも云える問いかけだったろう。だが間髪入れずに返ったキリの答えは。
「ないよ」
 ……グロムは絶句する。キリは肩を竦めた。
「俺はそもそも、人でなしだよ」
「……」
「それに大体、〝人類以外〟を知らなかったからな」
「……あ、あ。まあ、」
「しかしそれにしても」キリは軽く笑った。「相当、【素晴らしい】種族なんだろうな。〝熊〟ってのは」
 グロムは眉間を寄せた。
「馬鹿にしているのか」
「とんでもない。誉めてるんだよ。俺はそういうものに、アイデンティティを託す気になれないからな」生気を吸い取った雑草の束を、床に置く。
「人種とか国とか、宗教とかイデオロギーとか。そんなものに存在意義を託すと、碌な事にならない。知ってるだろ」
「……ああ」
「俺は、俺だ、か。でもその〝俺〟だって、実際にはあやふやだ。確固たる自己なんて、幻想だよ」
 突き放す台詞に、グロムは一瞬動揺した。
「自我は無意味だと云うのか、お前は」
「そんな事云ってないだろ。そしたら、個である意味がないじゃないか。自我がなければただの人形だ。ロボットでいいって事になる。原始生物≪アメーバ≫に逆戻りだ。――ん、そうすると、個体である事に意義は感じてるのか。でもそれが人類じゃなきゃいけない、とは感じないな。ま、人間の姿形は保ってるから、云える事かも知れないがね」
「……」
 グロムは頭を抱えてしまった。やはり理解し難い。
「お前……適当にもの云ってるだけじゃないのか」
「それは否定しない」
 しゃらりと嘯いた後――一転、キリは困った顔になった。
「あのなあ。俺にこんな話させるなよ。俺が知ってるのは人殺しの方法と、珈琲の淹れ方と、旨いチョコの銘柄ぐらいだ。哲学なんて首尾範囲外なんだぞ」
 それでもグロムは口をへの字に結んだまま、キリを睨んでいる。キリは溜息をついた。
「……水は不定形だろ。コップに注げばコップの形、花瓶に入れれば花瓶の形になる。でも水【そのもの】に変化がある訳じゃない。水が石になったりはしない」
「それは、謎掛けか」
「そんな大層なもんじゃない、ただの喩えだよ。――でも俺は、この手の思索は、今は一時棚上げにしとく事をお勧めするね。消耗するだけだ」
 キリはグロムを追っ払うように、手を振った。
「という事で、俺はもう少し寝る。で、この体だがな。【空腹】で寝ると、勝手にスイッチがオンになる。吸い殺されたくなかったら出てけ」

 ――フェルティリターテ。モルダニア第二の都市。
 老若男女で賑わうカフェ。その中に、アヴァランサとキリはいた。庭園を見渡せる特等席に着いている。キリは呑気そうに、感想を述べた。
「モルダニアにこんなカフェがあったとはなあ。知らなかったよ」
 知らなくて当然ではあるだろう。キリはモルダニア人ではなく、居住している訳でもなく、来ても基地を転々とするか、マラキアを表敬訪問するぐらいだったのだから。しかし珈琲好きとして、〝カフェ〟の情報を落としていたというのが悔しいらしい。
 コートとハンチングは、新しいものに変わっている。目にはサングラス。ネックガードをしているが、顔は覆っていない。曰く、「珈琲が飲めない」。単に面倒になっただけだろうというのが、亜種二人の共通見解であった。マラキアはノーコメントを通した。……
「久し振りに、ちゃんとドリップした珈琲が飲めるぜ。ケーキも旨そうだな。頼んでいいか」
 どこの女子高生だ、というくらいはしゃいでいるキリを、アヴァランサは半眼横目で見やった。半ば投げ遣りに。
「好きなだけ頼みな。まったく、どこまでお気楽なんだい。本家本元が見たら抗議するだろうよ。いや殺すかもな」
「ああ、〝ディベロッパー〟な」
 注文を済ませた後、キリは、コートのポケットからペーパーバックを出した。パラパラとめくる。ここに来る前、スタンドで買ったものだ。
「確かに面白かったな。しかしエゲつない設定にしたもんだ、幾らコミックとは云え。何も、巻き添え食う子供を、一歳の赤ん坊にする事もないだろうに。まあ何歳だったらいい、ってもんでもないだろうけどさ。こんな設定だったら、俺も復讐に走るかもな」
「心にもない事云うんじゃないよ」
「――バレたか」
 キリは軽く舌を出すと、本を閉じた。――庭園の噴水を、見るともなく見やる。
「ま、俺はな。復讐される方だよ。どっちかと云うと」
 アヴァランサは無言で、その横顔を見やった。
 ――珈琲と、ケーキのプレートが運ばれて来る。キリは嬉しそうに、カップに口を付けた。満足げに頷くと、いそいそとフォークを手にする。
「婆さんは、何も食わないのか」
「食う気になれないんだよ。まだ疲れが残っててね」
「そうか。――じゃあ俺が、婆さんの分まで食ってやろう。このオペラも、旨そうだと思ったんだよな」
 追加する気満々のゾンビに、吸血鬼はげんなりと天を仰いだのだった。……
「……それにしても、少し遅いんじゃないかね。フリードの奴」
 腕時計を見て、アヴァランサは首を傾げた。
「そう云えば」
 キリもいったん、フォークを止めた。既にザッハトルテとフォンダンショコラは皿から消え、追加注文したオペラも半分になっている。パフェも頼もうかなあ、などと、呑気に呟いていたのだが。
「流石に三〇分は、ちょっと遅過ぎるな」
 ――セキア達から強奪した車≪ハマー≫の、通信機と車載コンピュータ。その解析を、外部へ依頼する。それが今回の主目的だった。
 まずもって彼らにとって、PC解析が守備範囲外であった。では亜種でそれが出来る者は――というと、アヴァランサもグロムも、そんな人材にはとんと心当たりがなかった。亜種は全体的に、この手のジャンルは不得手なのだという。そこで、鬼族の中でも人界に在住し、様々な情報収集や仲介を行っているフリードという者に、人材捜しを頼む事にした。そういう経緯である。
 それに何故キリが同行する事になったかと云うと、カフェでお茶をするため――ではない。一応。その筈だ。
 情報屋に会うならと、キリは〝調べて欲しい事〟をアヴァランサに言付けた。――ようとした。が、それがあまりに多岐に渡り、細かく微妙だったため、アヴァランサは途中で遮って云った。お前も行って直接説明しろ、と。
 キリの同行には、グロムは最後まで反対した。勿論、心配して――の事ではない。狙われている当人が出歩くなんて、そんな馬鹿げた真似があるか、というのがグロムの言だった。もっともである。しかし結局、吸血鬼とゾンビで出掛ける事と相成った。隠れ家を出て行くラングラーとハマーを見送って、絶対にお茶が目当てだ、とグロムは唸ったのだった。……
 そして実際、当初の用事など忘れたように、キリはケーキをぱくついている。グロムが見たら〝どこがお茶目的ではないって?〟と目をつり上げる事間違いない。キリにしてみれば、待ち時間にケーキを食べて何が悪いのか、というところだが。しかしそれにしても、確かにちょっとばかり、【待たされ】過ぎだろう。――キリは再びフォークを動かしつつ、アヴァランサに尋いた――残すなどという気は欠片もない。
「婆さん、待ち合わせの時間、間違えたとかじゃないよな」
「何云ってんだい。あんたも聞いてたろ。一四時にフェルティリターテのこのカフェだ。間違いない」
「だったな。確かに。――横槍でも入ったかな。やっぱり手を貸す訳にはいかない、とか」
「流石にそこまで馬鹿じゃないと思うがね」
 キリの扱いは〝判断保留〟とは云うものの。アヴァランサが(グロムに協力して)アウストルを追っている事に変わりはなく、その便宜は引き続き図られる。筈である。実際、電話口のフリードも、特に疑問は持たなかったようだった。鬼族本家からストップが来た、とは考えにくい。
「そうだよな。――ところで婆さん」
 オペラを一切れ、フォークで刺して、キリは何でもない口調で続けた。
「驚かずに聞け。いいか」
 アヴァランサは一瞬、コップを掴み損ねた。だがすぐに平然と、ジンジャーエールのストローをくわえる。
「何だい。まさか次は、ホール一台丸ごと注文しようってんじゃないだろうね」
「いつかやってみたいが、また今度だな。――見張られてる」
 ぱく、とオペラを口に入れる。呑気そうにお茶を楽しんでいる――ようにしか見えない。もっとも覗く肌は青白いから、薄気味悪さの方がまさるが。
「……ふん。モテモテじゃないか、色男」
「筋肉ダルマにモテても仕方ないんだよなあ。――目を向けるなよ。気取られる」
「わかってるよ。アウストルの新しい手下か。迅速じゃないか。じゃなきゃ予備がいたのかね」
 疲れが残っている、の台詞はどこへ行ったのか。目が爛々と輝き始めている。キリは微笑を浮かべたまま窘めた。
「あんまり興奮するな。目が赤くなってる」
「おっとそいつはマズい」
 アヴァランサはまばたきした。見事に鬼気を糊塗する。キリは最後のケーキを口に入れ、小さく咀嚼しながら呟いていた。
「マッド・ドクターの手下……?」
 その語尾を、アヴァランサは耳敏く拾う。
「違うって云うのかい」
「……違う気がする」
 キリは珈琲をすすりながら、目を眇めた。感覚を研ぎ澄まそうとするように。
「警察……じゃないな。テロリストとも違う。軍人なのは間違いない。でも統率感が……」
「そんな事までわかんのかい」
「何となくな。傭兵……って感じじゃないんだ。もっと規律正しい……と云うか、堅苦しい。諜報には慣れてない感じだ」
 アヴァランサは緊張を、ジンジャーエールと共に飲み込んだ。
「正規軍かい。――とうとうバレたか」
「マッド・ドクターの差し金って可能性もある。まだ決められない」
 キリは珈琲を飲み干し、カップを置いた。
「とにかく、ここで流血沙汰だけは絶対にマズい」
「そりゃ間違いないが」アヴァランサは眉間を険しくした。
「発砲するかね。ここで」
「民間人の犠牲くらい、何とも思わないぞ。あいつらは」
 その〝あいつら〟の中に身を置いていた人間だ。淡々とした声音が、かえって空恐ろしい。
「確認しとくが、吸血鬼も、頭か首か心臓をやられれば死ぬな? ただどの程度やられたら死ぬ?」
「どの程度ってのは」
「対人用の9ミリ弾を一発食らっても死ぬか、と尋いてる」
「そのくらいなら再生能力が勝るね」アヴァランサも平然と答える。
「マガジン一本分、集中して食らえば死ぬだろうが。あと大量出血して、その後血気が取れなきゃ死ぬね」
「そうか。それも気を付けとかないとな」
 うんうん、と頷くキリに、アヴァランサは険しい目を向けた。
「おい。まさかお前」
「ああ」キリはあっさりと笑った。「こっちから出向いてみる」

「阿呆か。殺されるよ」
「だから、どれくらい殺られれば死ぬかって尋いたんだよ。――あいつらにしてみれば、急所を外せばOKってとこだろう。でも俺か婆さんが出血して、プラス客がパニックになったら――まあ確実に、感染者が出る。出たら終わりだ。フェルティリターテはゾンビの街になっちまう」
 キリは苦笑した。
「街を一日で破滅させた張本人、ってのは、やっぱり避けたいぜ。これだけ歴史のある街なんだ。大事にしないとな」
「何だい急に。賢者みたいな事云いやがって」
「歴史は好きだぜ? 俺は」
 キリはにっこり笑った後、名残惜しそうにコーヒーカップを覗き込んだ。
「ハマーはもう押さえられてるだろう。ラングラーも、かも知れない。婆さん、残念だろうが、車は諦めろ。絶対に捕まるな。それから、俺の追跡もするな。今はとにかく、連中から逃げる事が先決だ」
「これから捕まろうって奴の云う事じゃないね」
「迎えに来てくれ。頼むぜ」
「タクシーじゃないんだ。簡単に云うんじゃないよ」
 ……会話は全て、特殊な周波数で交わされていた。〝吸血鬼〟同士でしか通じない音域。
「俺が動けば、注意は一瞬こっちに向く。その隙に行けるな」
「馬鹿にすんじゃないよ。人類の動体視力なんざ目じゃないね」
「流石。婆さん、まだまだいけるじゃないか」
「あんたに誉められても嬉しかない」
 アヴァランサは毒突きながら、ジンジャーエールを飲み干した。グラスを置く。
 キリは立ち上がった。

 空を緊張が走るのがわかった。

 キリは迷わなかった。コートを翻し、真っ直ぐとあるテーブルに向かう。――柱の陰の、目立たない丸テーブル。男が一人で着き、新聞を読んでいる。キリはスタスタとそこに歩み寄ると、椅子を引いて座った。男が顔を上げる。驚きを喉の奥で噛み殺す男に向けて、キリはニッと笑ってみせた。
「よう。ザパダ准尉」

「……お久し振りです。五十嵐中尉」
 男――ザパダは、硬い表情で囁いた。
 国連軍で何度か、同じ作戦に従事している。それ程親しんだ訳ではなかったが、知らぬ間柄ではない。手堅い兵士、という印象だった。手堅過ぎて面白味はなかったが。キリは頬杖を着くと、彼を覗き込んだ。サングラスの奥から。
「そうか、もう昇進してる筈だな。准尉じゃないか。階級は?」
「少尉になりました」
「まだ一階級か? モルダニア軍の人事は能なしだな。見る目がない。――で、今日はどうしたんだ? 非番か? それなら一杯付き合ってくれよ。――と云っても俺は一文なしだ。奢ってくれ」
 悪びれもせず、図々しくもそう要求したキリを、ザパダは強張った顔で見つめた。そして。
「わかりました。御馳走します。一杯と云わず何杯でも」
「そりゃ豪気だな。ついでだからパフェも付けていいか」
「お好きなだけどうぞ。――ただし、我々の基地≪ベース≫で」
 キリは驚かなかった。薄い笑みを顔に貼り付けたまま。
「それはつまり、俺を連行するって事か」
「その通りです。――貴方を拘束します。五十嵐中尉」
 ザパダは低く告げた。

「……〝逮捕〟じゃなくて〝拘束〟か」
 キリは手持ち無沙汰に、テーブルの表面を指で叩いた。珈琲がもう一杯欲しい。
「つまり俺を、公的に〝逮捕〟する根拠はないんだな。そりゃそうだよな。死んでるんだもんな俺」
「……」
「しかし死んだ奴を捕まえろなんて、どこの誰が云い出した? 〝蟻地獄≪レウフリカ≫〟の件は、全員死亡って事になってる筈だ。軍内部でも。そうだろ」
「……はい」
「あの惨状で、それを疑う奴がいるって事の方が、俺は信じられないが。どこの誰なんだよ、そんな頓狂な事を云い出したのは」
「それは……」ザパダは云い淀んだ。無理もない、が。
「いいじゃないか、教えろよ。どうせ基地に行けば、そいつと御対面だ。だろ?」
 悪戯小僧のように笑うキリを、ザパダは息を詰めて見返した。
「……本当に、来るつもりですか」
「来いって云ったのはお前だろ。――ここで流血沙汰は起こしたくない」
 真顔で云ったキリに、ザパダもまた真面目に応じた。
「嘘だ」
「……」
「民間人の犠牲が出たところで、貴方は動じない。引き出せるだけ引き出して、逃げるつもりでしょう」
「……そうしたいのは山々だけどな」キリは溜息をついた。「こっちにも色々、事情がある。ここで血を流したくないのは本当だ。逃げるなら基地に着いてから逃げるさ」
「……」
「それにしてもよく、俺を見付けたな。どうして、生存者がいるなんて思ったんだ、お前の上官は」
 名前を聞き出すのは放棄し、キリは少しだけ方向転換してみた。ザパダは一度目を閉じた。押し殺した声で答える。
「確証はありませんでした。特に貴方と限定だった訳でもない。とにかく生き残りを探し出せ、という命令でした」
「……無茶苦茶だな」
「生存者はいないだろう、と我々は考えました。次善の手として、関係者を探そうと――事件前後の記録を、片っ端から当たりました。事件当日、基地に運び込まれた荷物の中に、〝第一級危険指定薬物〟がありました。発送元はクラウド研究所。バイオハザードに繋がりそうなものはこれしかなかった」
 キリは感心して聞いていた。これは皮肉なし、本心である。ザパダは水を一口飲んで、喉を湿した。
「次はクラウド研究所の通信を傍受しました」
「盗聴か」
「傍受です。――クラウドの警備を担当しているブラックホースの通信の中に、貴方の名が出た」
「……碌でもない置き土産を残してくれたもんだ。セキアの奴」
 キリは毒突く。ザパダは締め括った。
「実は一度は、見失いました。しかし今朝になって、ここで貴方達の車を発見した。幸運でした」
「モルダニア軍の情報網も、捨てたもんじゃないな」
 ザパダは微かに、笑みに似た表情を作った。
「皮肉ですか」
「誉めてるつもりなんだがな。そう聞こえないか。――ついでだからもう一つ。俺を【足止め】するのに、どういう手を使った」
 ――フリードがどうなったのか。それが気になっていた。ザパダの答えは。
「誰かと待ち合わせだろう、という事は、容易に推測出来ます。しかし貴方の仲間が誰か、までは、突き止められませんでした。仕方がないので、アズール大橋を封鎖しました。爆発物が仕掛けられているという触れ込みで。迂回するのに半日はかかるでしょう。泳いで渡る者がいたら拘束するように、と命じてあります」
 ……キリはつくづくとザパダを見つめた後、軽く拍手してしまった。
「大したもんだ。これで出世出来るな」
 ザパダは暗い笑いをみせた。
「どうでしょうか」
「……て事は、これは、堂々と胸を張れる任務――公務じゃない、て事か。私的な命令か? どっかの偉いさんの」
 ぎくりとザパダの体が揺れる。微かに、だったが、キリには明白だった。
「お前さん、憲兵には向いてないな。能力的には問題ないが」
 ――そう云えばグロムと似たような会話をした、と、頭の片隅で思う。
「……レウフリカのバイオハザードに、強い怒りと疑いを持っている。それも極めて私的に。個人の裁量で、部隊を動かす事が出来る。目茶苦茶な命令でも、それを諫める奴はいない。部下が忖度して動かざるを得ない。……」
 一つ一つ、指を折って数え上げ――キリは左目で、ザパダを見据えた。
「基地司令の本家――コンジェラーレ家か」

 ……ふうっ、と、ザパダは息を吐いた。
「何も云う事はありません」
 当たっているのだろう。キリは念を押さなかった。ザパダは腕時計を見て告げた。
「少し長居し過ぎたようです。参りましょう」
 ――キリはコートのポケットの中で、小型マイクを粉々に握り潰した。

 ザパダに続き、キリも立ち上がる。さり気なく腕を取られた。傍目には、目の弱いキリを、ザパダがエスコートしている――ように見えなくもなかっただろう。店を出る。キリは一度も、アヴァランサを確認しなかった。
 駐車場に向かう。――ハマーは既に、ザパダの部下と思しき軍人に乗り込まれていた。折角分捕ったのに、と溜息をつく。そこに部下の一人が、歩み寄って来た。ザパダの方から尋く。
「あの老人は」
「申し訳ありません。取り逃がしました」
「何をしているんだ」
「は、誠に、云い訳のしようもないのですが……一瞬、目が離れた隙に」
 部下は汗を拭いながら、首を傾げている。狐につままれたような気分なのだろう。お前さんが悪いんじゃないよ、あれは人類じゃないんだから――と弁護してやりたい気分になったキリだったが、勿論黙っていた。ザパダの注意が逸れている隙に、ぱらぱらになったマイクの破片を地面に捨てる。
 キリはハマーではなく、ザパダが乗って来たと思しきミニバンに押し込まれた。トヨタ車だ。すぐさまザパダが、身体検査をする。銃とナイフが抜き取られた。
「相変わらずですね。しかし街中でこの銃は、過激に過ぎるのではありませんか」
「俺もそう思ったけどさ。――結果オーライだったんだな、これが」
 ザパダは「?」と首を傾げた。意味が取れなかったのだ。当然だろう。彼はシートに座り直すと、矢庭に云った。
「ではしばらく、眠っていて下さい」
 ――キリが云い返す間もなかった。スタンガンが押し付けられた。

「……!」
 ――吸血鬼にも、電撃は有効らしい。
 激痛の中でそう思い――キリの意識は途切れた。

 ――その頃。
 アヴァランサは、中古車センターにいた。例のカフェから、一〇キロは離れている。適当な車を、カードとサイン一つで購入する。手続きが終わるのを待つ間、グロムに電話をかける。
「ああ、グロムかい。アタシだよ」
 亜種語で切り出す。苦虫を百匹噛み潰したような顔で、彼女は告げた――
「アバタールが連れてかれた」
〈続〉


■ぜえぜえ。やっと書き終わりました。第3話と云いつつ既に5話分使ってますので、クールの前半使っちゃいましたね。全体の流れとしては、この後コンジェラーレ戦を挟んで最終決戦。て感じで考えてます。

■冒頭のキリとマラキア。キリは貸し借りなしがモットーなので、本当にちゃんと全部払ってます。ただマラキアにとっては、それこそが不満みたいです(笑)
■ランク分け。これは私が昔から使ってる区分で(笑)各級が更に、ABCの3ランクに分かれてます。1級の上に1/2級≪ハーフ≫があって、最高位はゼロ級です。
■異種間生殖ですが、亜種と人類だと、ほぼ亜種になります。

■コンジェラーレ家の偉いさん、は、まだキャラ考えてません。父親でも祖父でも、いっそジャバザハットみたいな体型のオカンとかでも(笑) ちなみに筋も考えてない……(えええ)。
■こんなとこで引いて続き書きにくいじゃろ。って話ですが、書きたい方はコメント欄に予約(?)を入れてって下さい。1週間で立候補なしでしたら、自分で書きます……(苦笑)。

■ではではよろしくどうぞー! ヾ(´∀`)ノ

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