森見登美彦氏とわたし【聖地に住む編】エピローグ

京都へ移り住む前。
まだ東京に暮らしながら、京都のパートナー宅へ通っていた頃。

金曜の夜に新幹線に飛び乗って京都に着き、JRと京阪を乗り継いだり、バスに乗って出町柳界隈のパートナー宅へ向かう。
ある時、
試しに京都駅から歩いてみた。
三月の、しとしととした雨が降る夜。
自然と口からこぼれる「迷子犬と雨のビート」
あの夜のにおいとか、湿った空気の冷たさとか、濡れた路面を照らす街頭の侘しさとか、ざわざわとした気持ちとか。
いつまでだって思い出す。
京都への移住を決意したのは、あの夜だったはずだ。

わたしが京都へ移り住んだ日の朝。
とても清々しい気持ちと、パートナーがいるだけでなんの所縁もない京都で暮らしていけるのかという不安があった。
ただ、あの日の朝はあんまりにも天気が良くて、なんとかなりそうな気がしたものだ。

学生の頃から何年も連れ添ったパートナーとの関係はある春の日に終わった。
それから何年かして、私は京都を去って、妻と出会って、子供が生まれて、幸せに暮らしている。

それでも、森見的記憶に紐づけされた記憶が、ふと引きずり出されることがあるのだ。
彼女は知的で、可愛く、奇想天外で、支離滅裂で、猫そっくりで、やや眠りをむさぼり過ぎる、じつに魅力ある人間だった。

次回『森見登美彦氏とわたし【好きなシーン ベスト3編】』スタートです。


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