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第2次世界大戦下の米軍ラジオ放送AFRSとアフリカン-アメリカンJAZZ。

AFRS(Armed Forces Radio Service)のロゴ

■1944年の大ヒット、「G.I. Jive」という曲。

まだまだ音源がLPで、初のCDデッキが市場に出てきた頃の話。スエーデンのリイシューレーベルJukebox LilからLouis jordanのアルバムが出たので入手したことがある。

『G.I. Jive』Louis jordan (Jukebox Lil,Sweden 1983年)

そのアルバムタイトル曲が「G.I. Jive」Jordanのwikiにも書いてあるように、1944年にR&BとPOP両方のチャートで1位を記録したJordan最大のヒット曲だ。第2次世界大戦期に最もヒットした曲という説もあるほど、売れに売れた。

この”G.I. Jive”というタイトル、もともとアメリカが戦時中に太平洋やヨーロッパで戦う前線兵士のために放送していたラジオ番組のタイトルと知ったのは少し後のこと。

どんな番組だったのか、凄く知りたい、聴いてみたいと思った。いまはクリックすればすぐに聴ける時代だが、その頃のインターネットはまだまだ日の出前だったのだ。(TCP/IPの標準化が成ったのは1982年)

■巨匠Johnny Mercerの愛国心がラジオ番組に自作を奉納。

もともとこの曲、アメリカポピュラー音楽界の巨匠かつCapitolレコードの共同経営者だったJohnny Mercerが、すでに放送されていたAFRS(Armed Forces Radio Service)のラジオ番組「G.I. Jive」にインスパイアされて作詞作曲し、番組にプレゼントもの。さらに曲の権利を合州国に「献納」したという愛国心の産物だったのである。

Mercer盤もヒットしたが、数ヶ月後にカヴァーしたJordan盤がそれを上回るほどブレイクしたという事の次第。

■AFRSとは、なんダイナ?

そのAFRS(Armed Forces Radio Service)とはどんなラジオ局だったのか。英文サイトは腐るほどあるけど、Encyclopediaの説明が判りやすい。

第二次世界大戦中、アメリカのラジオは戦争遂行に3つの重要な貢献を果たしました。戦争へのアメリカの関与を支持するニュース放送、ナチス占領下のヨーロッパに向けたプロパガンダ放送、そして世界中のアメリカ軍に軍事ラジオサービス (AFRS) を通じて届けられた娯楽とニュース放送です。

1930年以来、放送はCBS、ABC、NBCというアメリカの3大ネットワークの娯楽志向の番組に支配されていました。AFRSによって、新しいタイプのネットワークが登場しました。歴史家のエリック・バーノーはこれを「世界規模で前例のない」と評しています。

テレビが普及する前の時代、ラジオはアメリカ人の生活に不可欠な部分であると考えられていたため、ヨーロッパと太平洋の両戦域でアメリカ軍にラジオを提供し続けるための集中的な取り組みが行われました。こうして軍事ラジオサービスが誕生し、アメリカが第二次世界大戦に介入した最初の数年間に放送を開始しました。 1943 年の初めには AFRS の放送局は 21 局でしたが、同年末までにその数は 300 局以上に増えました。

太字は引用者

日本ではのちにFENとなるラジオネットワークで,番組編成の基本はニュースに娯楽、音楽モノ。『G.I. Jive』は白人やアフリカン・アメリカンなど多岐に渡る人種を対象としていた音楽番組だった。アフリカン・アメリカン専門の番組にはこれまた有名な『Jubilee!』がある。

番組の音源そのものはレコードに収められて各地の放送拠点に輸送しオンエアーされるという形態を取った。

■とりあえず、番組『G.I. Jive』を聴いてみる。

『Jubilee!』もそうだけど、『G.I. Jive』も1940年代のスイングやエンタテインメント、そしてアフリカン・アメリカン大衆音楽の宝庫。能書きはこれくらいにして、御聴取賜りたい。

○『G.I. Jive』 0416 1943年

Lucky Millinder: Apollo Jump (1943)
Sister Rosetta Tharpe: Trouble In Mind (1942)
Kay Kyser: Ain't Misbehavin'
Erskine Hawkins (with Ida James): Knock Me A Kiss

1943年半ばの放送か。DJはまだ男性で、テーマ曲も以後のものとは違う。初期の放送では、途中DJが太平洋や欧州の戦況を読み上げるが、敵側の電波傍受を考えて取りやめとなった。

この回ではLucky Millinder Orchのヒット作「Apollo Jump」に、そのMillinderとの共演でSister Rosetta Tharpeの「Trouble In Mind」、”小鳥ちゃんの声”と讃えられた歌手Ida James & Erskine Hawkins Orchの「Knock Me A Kiss」というたいへんDeepな組み合わせ。

御用とお急ぎでなければ全編お聴き願いたいところだが、ま、こういう番組です。

■女性DJ”G.I. Jill”の登板でさらに人気爆発!

1943年の後半頃か、DJが女性に交代した。”G.I. Jill”ことMartha Wilkersonが担当したことで、兵士たちの間で人気が爆発、戦場のアイドルとなった。

どんな声か?

○『G.I. Jive』 0703 1944年

(動画は公開国の制限で一部音声をミュートしている)
Benny Goodman: Bugle Call Rag(ミュート)
Jo Stafford: Long Ago and Far Away (1944)
Johnny Mercer: G.I. Jive
Harry James: Back Beat Boogie(ミュート)

まず番組のテーマ曲がJohnny Mercerの「G.I. Jive」に差し替えられている。Mercerもお国に御奉公ができて喜んだだろう。

そしてDJ”G.I. Jill”だが、そのお姿が動画で残っていた。音源の放送がどうされていたかも解る。思わず両手を合わせましたよ。

この動画を紹介しているサイト「Swing City Radio」に”G.I. Jill”の人気ぶりが綴られていた。

ジルと兵士たちとの関係は、15分間の放送をはるかに超えたものだった。兵士たちが特定のレコードをかけるよう彼女に求める手紙を書いてくると、彼女は受け取った手紙にすべて返事を書こうとし、週に500通もの手紙に返事を書いて、手紙に自分の写真を添えた。

ジルとの交流は双方向で、リスナーの中には自分の写真を送ってくる者もいて、彼女は「ピンナップボーイを持っているのは世界で私だけだったと思う」とコメントした。兵士たちの中には、墜落した飛行機の割れた窓で作ったブレスレットや、「ルーからジルへ、1944年」と雑に刻まれたハート型のペンダントなど、手作りの装身具を送ってくる者もいた。

大日本帝國の対連合軍プロパガンダ放送『Zero Hour』の女性DJもG.I.たちの間で”東京ローズ”という愛称がついて伝説のアイドルとなったが、苛烈を極めた戦場にあって兵士たちのせめてもの息抜きだったのだろう。

■AFRSの番組は、別テイク音源の宝の山である。

なぜ、私がAFRSの番組に入れ込むのかと言えば、1940年代スイングジャズ期の音源、それも正規のイシュードテイクとは違う放送用の別テイクが聴けること。

そのあたり、もうひとつの別テイクの宝庫である『V Disc』との関係がまだまだ勉強不足で見えないが、おいおい突っ込んでみたいとは思っている。

例えば下記1943年No.0646の放送では、ゴスペルの偉人Sister Rosetta TharpeがLucky Millinder Orchをバックに代表曲「That's All」を唄うのだが、これがDeccaのオリジナルとはまったく異なる内容。そこに価値あり、青い空。

○『G.I. Jive』 0646:Sister Rosetta Tharpe 1943年

Al Donahue & His Orchestra: Yes, Indeed
Ted Lewis: Coming Out Party
Dinah Shore: It's De-Lovely
Sister Rosetta Tharpe: That's All
Woody Herman: Blue Flame

こういう、なんつーか、別テイクを探り出すTreasure Huntingが、も、クセになるわけ。以下にそういったAlternateをすこし列挙してみた。

○『G.I. Jive』 0840:Nat King Cole Trio 1945年

Benny Goodman: Buckle Down, Winsocki
Nat King Cole Trio: Straighten Up & Fly Right (1944)
Lucky Millinder: Sweet Slumber (1944)
The GI Jivers: It Had To Be You

1944年、Johnny Mercerが共同設立したCapitolレコードへと移ったNat King Cole Trioの移籍後初のビッグヒット。この曲もWW2を象徴するナンバーのひとつ。

この回ではLucky Millinder Orchのスローバラード「Sweet Slumber」も入っていて、 MillinderがG.I. たちの間でどれだけ人気だったかもよく判る。

○『G.I. Jive』 0852:Ella Mae Morse 1945年

Erskine Hawkins: King Porter Stomp
Ella Mae Morse: Cow Cow Boogie
Martha Tilton: I'll Walk Alone
Glenn Miller: Little Brown Jug(ミュート)

元祖”ブギの女王”であるElla Mae Morseが1942年に録音、Capitolレコードに最初の大ヒットをもたらした「Cow Cow Boogie」も、まったくの別テイク。Morseは白人ながらも、黒っぽい感覚のボーカルが持ち味。それ故か、当時のR&Bチャートにも曲がランクインするほどクロスオーバーな人気を誇った。

斯様に、好き者にとっては掘り甲斐のあるNuggetsの山なんである。

■さあ、いにしえのRadio音源の森へ。

これらの音源は、サイト『INTERNET ARCHIVE』の「Old Time Radio」のコーナーに多数アップされているので、興味がお有りな方はぜひ覗いてみて下さいまし。

”提灯を 下げて 宝の山を掘り”

(了)


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