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現代物理・自然科学

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主に、自分が書いたブログから転載した文章と、NOTEでオリジナルに書いた文章があります。
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多世界解釈

「現代物理の世界観」に書いた文章を少し編集して転載します。 最初に、量子力学の「多世界解釈」を扱います。 当ブログ主は、多世界解釈に大きな興味を持っています。 多世界解釈を主に扱った一般書は、日本でも何冊か出されています。 その中でも、「量子力学の奥深くに隠されているもの」(ショーン・キャロル、紀伊国屋書店、原書は2019年)は、比較的新しい書で、「世界」の概念を創発的なものと考えたり、分岐のあり方などに関して観察者の主観的要素があると考えます。 また、多世界解釈か

量子もつれと時間

以前、「量子もつれ(エンタングルメント)」が「空間」を創発するというテーマの投稿をしました。 「量子もつれ」と「時間」の関係についても興味を持っているのですが、このテーマについて、時々、ネット上でニュースを見かけます。 私には難しいテーマであることと、ニュースでは説明が短いため、ほとんど理解ができません。 ですが、個人的なメモとして、残しておきたいと思い、これらニュースをまとめた投稿をしておきます。 あくまでもメモであって、私はその内容を理解できていないことをご了承く

ブラックホールがつなげたワームホールと量子もつれ

現代物理学の世界では、マクロな世界の理論である「一般相対性理論」と、ミクロな世界の理論である「量子力学」を統合することが、目指されています。 この統合理論は「量子重力理論」と呼ばれ、その最終的な形は「万物理論」とも呼ばれます。 現在のところ、「超弦理論」や「ループ量子重力理論」が有望な理論とされています。 一般相対性理論は、重力を時空の歪んだ幾何学構造として表現します。 一方、量子力学は、時空を前提としますが、物質は確率的な存在です。 両者を統合するには、時空の幾何学の揺ら

量子論が分かりにくい理由と場の量子論

「現代物理の自然観」に書いた文章を転載します。 「場の量子論」は、物理学の自然観を、「原子論」から「場の理論」、「波動一元論」へと変革しました。 ですが、そのような事実が、あまり知られていません。 それと関係するのですが、量子論はとても分かりにくくて、具体的なイメージを持つこともできません。 それどころか、イメージを持つことを拒否する傾向があります。 吉田伸夫は、場の量子論の立場から、以上のような状況に関して疑問を呈しています。 以下、この件に関して、同氏の「素粒

超ひも理論と高次元時空

「現代物理の自然観」に書いた文章を転載します。   「超ひも理論」は、量子重力理論であり、万物理論の候補理論です。 その先駆の「ひも理論」は26次元時空を指定し、「超ひも理論」は10次元時空を指定する理論であり、来たるべき理論とされる「M理論」は11次元理論と想定されます。 これらの理論は、時空に4次元以上の余剰次元を持ちます。 このページでは、これらの理論を余剰次元に関わる部分を焦点にして紹介します。 参考とした書は、下記です。 ・「ワープする宇宙」リサ・ラン

量子もつれと時空の創発

「現代物理の自然観」に書いた文章を転載します。 超ひも理論、ホログラフィック原理(ゲージ重力対応)、量子情報理論などが発展する中で、「量子エンタングルメント(量子もつれ)」が時空を編みだすとする説が生まれました。 この説では、量子エンタングルメントの量を表現する「エンタングルメント・エントロピー」が重要な意味を持ちます。 以下、量子エンタングルメントから時空が創発されるとする説について、その先端的な研究者である高柳匡の「量子エンタングルメントから創発する宇宙」(共立出版

マルチバースと数学的宇宙

「現代物理の自然観」に書いた文章を転載します。 宇宙は、我々の宇宙だけではなく多数の宇宙があるとする「マルチバース説」は、現代物理では何種類も語られ、ありふれた説になっています。 そうすると、様々な「マルチバース説」を体系的に整理して、その関係を考えたくなります。 マックス・テグマークの「数学的な宇宙 究極の実在の姿を求めて」(講談社、原書は2014年)は、そのような試みを行っているので、この書を主な参考書として、以下に考えてみましょう。 マックスは、「マルチバース説

ツイスター理論とループ量子重力理論

「現代物理の自然観」に書いた文章を転載します。 「ループ量子重力理論」、「ツイスター理論」は、「超ひも理論」と同じく量子重力理論です。 「超ひも理論」には、時空を前提としているという問題があります。 ですが、「ループ量子重力理論」と「ツイスター理論」は、時空が生み出されるプロセスを解明する基礎理論であり、「万物理論」の構築には重要な意味を持つと予想されます。 「ループ量子重力理論」は、時空の最小単位があると考え、ループする運動のつながりである「スピン・ネットワーク」が

ブラックホール相補性とホログラフィック原理

「現代物理の自然観」に書いた文章を転載します。 ブラックホールに落ち込んだ物質が持っていた情報は、宇宙から失われるのか、失われないのかについて、物理学の世界で論争がありました。 レオナルド・サスキンドは、この論争を「ブラックホール戦争」と呼んでいます。 スティーブン・ホーキングらは情報が失われると考え、サスキンドらは失われないと考えました。 前者の支持者は一般相対性理論の研究者が多く、後者の支持者は量子論(超ひも理論)の研究者が多いという傾向があります。 サスキンド

真空の相転移とヒッグス場

「現代物理の自然観」に書いた文章を転載します。 物質の「相転移」と同様に、「真空の相転移」があります。 エネルギー密度の違う準安定的な「真空」が多数あり、その移行が「真空の相転移」です。 その際に、「自発的対称性の破れ」が起こります。 これは、宇宙の歴史や物理法則の階層性と対応します。 これらに関わる物理について簡単にまとめます。 主に参考とした書は、下記です。 ・「真空のからくり」山田克哉(ブルーバックス、2013年) ・「強い力と弱い力」大栗博司(幻冬舎新書

カントールの無限論と数理神学

「神秘主義思想史」に書いた文章を少し編集して転載します。 「無限論」や「集合論」の創始者として知られるゲオルグ・カントールは、現代数学の父です。 彼は、それらを、単に数学であるだけでなく、「神学」であり、「哲学」であると考えていました。 そして、彼は、「集合」を「イデア」であると考え、「無限」を「神」、「無限論」を「神学」であると考えていました。 ですが、「無限」に「大きさ(階層)」の違いを発見した彼の理論は、神秘主義的です。 数学と物理学の神秘主義 自然科学にも

生命の誕生確率と多宇宙説×人間原理

宇宙が生命の誕生しえる物理的条件を持つ宇宙として生まれる確率も、 我々の宇宙、あるいは、地球で、生命が誕生する確率も、 生物が人間のような知性や意識を持つように進化する確率も、 現在分かっている範囲で考える限り、限りなくゼロに近いと思われます。 ですが、これらが現実に起こっていることを、科学的、合理的に解釈するには、多宇宙説と人間原理を組み合わせるしかないのではないか、というのがこの投稿のテーマです。 生命が発生しえる物理的宇宙となる確率 最初に、我々の宇宙が生命の誕生

意識について 1(脳科学の統合情報理論などの観点から)

「意識」や「クオリア(意識の対象・内容となる質感を持つもの)」という不思議な存在については、若い頃から良く考えてきたテーマでした。 少なくとも人間にとっては、「意識」と「クオリア」を持っているということは、生きるということそのものだと思います。 「意識」について、前・中・後編、追加の4つの投稿で考えます。 この前編では、脳科学、特に統合情報理論を参照しながら、意識とその意味について考えます。 そして、中編では、夢理論のNEXTUPモデルを参照しながら、睡眠と意識につい

意識について 2(夢理論のNEXTUPモデルなどの観点から)

この「意識について」の中編では、最近の夢理論「NEXTUPモデル」も取り上げながら、夢と夢のない眠り、レム睡眠とノンレム睡眠について、そして、それらと対応する思考の種類について考えます。 *3つの投稿では、以下の意味で次の言葉を使います。 覚醒:寝ておらず、起きていて自分の体験に自覚のある状態 睡眠:夢のある眠りと、夢のない眠りの両方の状態 夢見:睡眠中に夢を見ている状態(意識がある) 熟睡:深い睡眠状態ではなく、夢を見ない眠りの状態(意識がない) 想起:記憶を思い出すこ