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哲学・思想

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主に自分が書いたブログから転載、編集した文章です。
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アンリ・ベルクソンと神秘主義

「神秘主義思想史」に書いた文章を転載します。 アンリ・ベルクソン(1859-1941)は、一般に、「生の哲学」とカテゴライズされる潮流に属する、フランスの大哲学者で、「生命の飛躍(エラン・ヴィタル)」の概念が有名です。 ですが、彼が作った「持続」、「強度」、「異質多様性」、「潜在性」などの独特の概念は、ジル・ドゥルーズが引き継いだように、ベルグソンは真に現代的な存在論・形而上学を切り開いた哲学者として、再評価されています。 また、あまり知られていませんが、ベルグソンは、

マルクス「フォイエルバッハ・テーゼ」の認識論的転換と神秘主義への適用

「フォイエルバッハにかんするテーゼ」は、マルクスが1845年に書いた哲学的なメモです。 その内容は、先行する唯物論者であるフォイエルバッハを批判しながら、マルクス自身の唯物論を確立するきっかけになったメモと理解されています。 そして、これをもとに、「ドイツ・イデオロギー」が書かれました。 その具体的な内容については、 といった理解がされています。 それはその通りですが、その前提として、哲学の歴史における認識論(認識対象に関して)の根本的な転換がなされていると思います

ジル・ドゥルーズと神秘主義

「神秘主義思想史」に書いた文章を転載します。 ジル・ドゥルーズ(1925-1995)は、20Cの哲学、現代哲学を代表するフランスの哲学者であり、フェリックス・ガタリとの共著でも知られています。 ドゥルーズの哲学は、「差異の哲学」、「生成の哲学」、「多様体の哲学」、「流動の哲学」、「ポスト構造主義」、「ポストモダン哲学」などと称されます。 また、ドゥルーズは、ベルグソン主義者でもあり、自身の哲学の主要な概念として、ベルグソンが使った概念を多用しました。 ベルグソンは神秘

ラカンの精神分析学と仏教

ジャック・ラカンはフロイト以降で最も重要な精神分析家であり、言語学的、構造主義的な観点からフロイトの理論を解釈し、深化させた人物と言われています。 また、彼は、思想界、哲学界にも大きな影響を与えています。 ラカンの精神分析学には、禅や仏教と共通点があると指摘されることがあります。 実際、ラカン自身が、サンタンヌ病院で始めた有名な「セミネール」の第1回開講の挨拶の中で禅の教説を引用しました。 また、彼は、初来日した講演で、仏教の本質について触れ、観音が「対象a」(ラカンの精

神秘主義哲学の階層論

「神秘主義思想史」に書いた文章を転載します。 神秘主義思想にとって、存在や意識の「階層」は、基本となるテーマです。 古今東西の神秘主義哲学の階層に関する思想を大雑把に紹介しつつ、大胆に解釈します。 形相的な階層論 ギリシャ哲学を代表するプラトン、アリストテレスらの階層論の特徴は、「形相性(形・本質)」を基準にすることです。 それは、現代人から見れば、人間に至る進化論的な階層とも一致し、また、人間の成長(個体発生)の階層とも一致します。 プラトンがピタゴラス主義から

プラトンの不文の教説とピタゴラス主義

「神秘主義思想史」に書いた文書を少し編集して転載します。 プラトンは、「ポリティア」では存在の根源である「善のイデア」以上のものが語られます。 これは「存在の彼方」、「イデアを超えたもの」であって、「善そのもの」なのです。 ですが、それ以上についてはあえて語らないのです。 この先がプラトンの「不文の教説」に当たります。 「不文の教説」は難解なのもので、弟子によってその解釈は様々でしたが、後世に大きな影響を与えました。 この「不文の教説」はピタゴラス主義に由来します

プロティノス(新プラトン主義)の神秘主義哲学

「神秘主義思想史」に書いた2つの文章をまとめて編集しました。 プロティノスの哲学は、オリエント・ヨーロッパの神秘主義哲学の原型となりました。 彼の哲学が、イスラム哲学、キリスト教神学、ルネサンス思想、神智学、人智学などに与えた影響は絶大です。 新プラトン主義の代表的な哲学者であるプロティノス(205年頃-270年頃)は、エジプトに生まれ、アレキサンドリアでアンモニオスの弟子となりました。 彼は、ペルシャ、インドには行くことはかないませんでしたが、オリエントの様々な神秘

スフラワルディーの照明学(イスラム神秘哲学)

「神秘主義思想史」に書いた文書を少し編集して転載します。 イスラムでは神智学、神秘主義哲学を「イルファーン」あるいは「ヒクマット(叡智)」と呼びます。 また、イスラムでは「東方神智学」と言うようによく「東方」という表現が付けられます。 「東方」というのは地理的なものではなく、太陽が昇って光が現われる方向という象徴的な表現で、純粋な形・性質だけの天使的な世界を表わします。 ここでは宇宙は象徴的な言語によって修行者に語りかけます。 シーア派同様、象徴的な霊的想像力、創造

インドのヴェーダーンタ哲学

「神秘主義思想史」に書いた文書を、少しだけ編集して転載します。 ヴェーダーンタ哲学、学派とは バラモン系「六派哲学」の一派のヴェーダーンタ学派は、「ヴェーダ」、特にその奥義である「ウパニシャッド」の研究を目的とするインド哲学の最大の学派です。 -2~3Cのバーダラーヤに始まり、5Cの「ブラフマ・スートラ」、バルトリハリの「語一元論」と展開して、8Cのシャンカラの「不二一元論」によって最初の大成がなされました。 シャンカラの哲学は、仏教の影響もあり、ブラフマン以外の実在性

法蔵と華厳教学

「神秘主義思想史」に書いた文書を転載します。 大乗仏教の代表的な経典である「華厳経」を元にして中国で生まれたのが「華厳宗」です。 そして、その教学を大成したのが法蔵です。 「華厳経」は悟りの境地を表現した経典とされ、華厳教学はそれを「四法界説」、「十玄縁起説」などで合理的、哲学的に体系化しました。 華厳教学の世界観は、「円融無礙」、「重重無尽」、「一即一切、一切即一」といった言葉でも知られています。 華厳経 「大方広仏華厳経(以下「華厳経」)」は、4C頃に中央アジ

井筒俊彦の東洋哲学

「神秘主義思想史」に書いた文章を転載します。 井筒俊彦は、近代日本の最大の思想家であり、世界で最も有名な日本の哲学者の一人であり、現代的な意味で、プロティノス、イブン・アラビーらを継承する神秘哲学者であると言っても過言ではありません。 一般に、井筒は、イスラム哲学の専門家として知られていますが、彼は、言語哲学者として、「意味」が消滅し、「意味」が生まれる深層意識における神秘体験を焦点にして、哲学、宗教、言語学、詩学、文学、文化人類学などの領域を越えた研究を行いました。

中沢新一の流動的知性とレンマ的知性

「神秘主義思想史」に書いた文書を少し編集して転載します。 このページでは、中沢新一が2000年以降に、マテ・ブランコや山内得立に影響を受け、「流動的知性」や「レンマ的知性」といった概念を使って語っている思想についてまとめます。 *中沢新一の初期の思想については、下記をご覧ください。 流動的知性と対称的思考 中沢は、5巻本「カイエ・ソバージュ」の頃から重要な概念として「流動的知性」を使うようになりました。 そして、その特徴を、チリ出身の精神分析学者マテ・ブランコの言葉

西田幾多郎の絶対無の哲学

「神秘主義思想史」に書いた文書を転載します。 初めて日本独自の哲学を生み出したと言われる西田幾多郎は、参禅によって得た「見性」体験をもとに、東洋の無の思想を西洋哲学の枠組みを使いながら哲学化しました。 西田哲学の特徴は、「無」を「一般概念(概念的一般者)」として理解し、そこからの創造を、自己限定的、相互否定的、弁証法的なものとして理論化したことでしょう。 さらにそれは、華厳教学の事事無礙の世界を、主体性を持った個人による、歴史・社会的で物質的な創造として描くものでした。

ルネサンスと古代神学

「神秘主義思想史」に書いた文書を転載します。 ルネサンスとは 「ルネサンス」は、14Cのフィレンツェを中心に始まり、ヨーロッパ各地に広がった、総合的な文化運動です。 一般に「ルネサンス」は「文芸復興」と訳され、人文諸学を中心とした、ギリシャ、ローマ時代の文化の復興と受け止められています。 そして、ルネサンスの特徴は「ヒューマニズム」と表現されるように、中世キリスト教が抑圧的・禁欲的であるのに対して、生を肯定する開放的・快楽的なものとされます。 ですが、その思想的な核