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NOTEでのオリジナル記事

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記事一覧

竹取物語の源流:隼人と天皇

少し前に、「竹取物語」の解釈をテーマにした3つの投稿をしました。 本投稿は、直接、「竹取物語」の解釈とは関係なさそうなのですが、その背景として興味深い、「隼人」に関わる情報(海幸山幸神話、天皇、竹、月、九州王朝、丹波などを含む)を紹介します。 古代日本の南九州に住んでいた隼人は、竹文化、月信仰を特徴とし、「竹取物語」の祖型の物語も、隼人に由来すると思われます。 記紀の日向神話は、隼人と密接な関係があり、竹の要素も見られます。 日向神話には、「竹取物語」と類似する異類婚姻

中沢新一『構造の奥』が語らない純粋贈与

中沢新一の新著『構造の奥』について、それが「純粋贈与」について語らないことへの疑問をテーマとした投稿です。 互酬の原理と純粋贈与 中沢新一の新著『構造の奥』は、構造人類学の可能性をテーマにしています。 それは、レヴィ・ストロースが持っていた原-構造主義を掘り起こし、未来の構造主義につながることを期待するものです。 その核心は、二項関係の変換体系としての「構造」ではなく、その奥にある複雑で動的な原理です。 中沢は、この「構造の奥」を「対称性の原理」と表現しています。

歴史の闇に隠されたかぐや姫のモデル

「竹取物語の宗教観と月信仰1-2」に続く投稿です。 かぐや姫に歴史上のモデルがいたとすると、それは誰でしょうか? あるいは、「竹取物語」には、かぐや姫と竹取の翁の前世がほのめかされているので、その前世として想定されているモデルがいれば、それは誰でしょうか? 「竹取物語」の時代設定は天武-持統-文武期なので、かぐや姫のモデルはこの時代に探すことになりますが、九州王朝論者から筑紫王朝の姫とする説が出されています。   一方、垂仁天皇の妃に「迦具夜比売」がいることから、崇神

竹取物語の宗教観と月女神信仰 2(平安期の神道から)

「竹取物語の宗教観と月女神信仰 1(古代の神仙信仰から)」に続く後編です。 神道の成立1:清穢観と物忌 現代に続く神道は、その浄穢観と、穢れを祓う物忌の制度として、奈良時代後半の8Cの末ころまでに成立しました。 これは、光仁天皇以降のことで、天皇の系譜が、天武系から天智系に代わってからです。 天武が大きく導入した仏教や道教の要素に対して、神道はその影響を受けつつも、それらを分離して確立しました。 この新しい神道の浄穢観は、神祇信仰の古くからの素朴な浄穢観に、仏教の戒律

竹取物語の宗教観と月女神信仰 1(古代の神仙信仰から)

これまで、月信仰に関わる投稿を数本していますが、今回は「竹取物語(竹取、竹取の翁、かぐや姫)」の宗教観と月信仰、そして、その隠されたメッセージをテーマにします。 かぐや姫を迎えにきた月の都の「王と覚しき人」が、かぐや姫に対して敬語を使っているので、かぐや姫は、ただの月の仙女の類ではなく、月の最高女神に相当するような存在であることが分かります。 ですから、「竹取物語」は、月女神信仰をテーマにした物語です。 「竹取物語」は、日本最古の物語とされ、登場人物たちの感情が豊かに描

光の神秘主義2:インド、エジプト、プラトン主義、ユダヤ・キリスト教

前編「光の神秘主義1:有史以前、イラン」に続く後編です。 当稿では、ヒンドゥー教、仏教(密教)、古代とヘレニズム期のエジプト、プラトン主義、キリスト教のギリシャ正教のヘシュカズム、ユダヤ教神秘主義のカバラ、西洋魔術の黄金の夜明け団などの、「光の神秘主義」についてまとめます。 古代インド、ヒンドゥー教 古代インドの「ヴェーダ」の奥義書「ウパニシャッド」の哲人、ヤージニャヴァルキヤは、ブラフマン=アートマン=光、と主張しています。 そして、太陽の光が5色の微粒子として、ア

光の神秘主義1:有史以前とイラン

前回の投稿は、神秘主義的な神話における「鏡像」に関するテーマでしたが、その中で、意識の根源的な動きとしての「光」のヴィジョンについて触れました。 それで、今回は、「光の神秘主義」に関して書いてみたくなりました。 「光の神秘主義」というのは、至高神や根源神を、あるいは、意識の根源や極限を、無限の光、流出する光などとして体験するような神秘主義思想です。 その体験を哲学化したものは「光の形而上学」と呼ばれることもあります。 当稿は、古今東西の「光の神秘主義」の歴史というか、全体

グノーシス主義神話の2段階の鏡像の比喩

「ヨハネのアポクリュフォン」で述べられる神話に、2段階の「鏡像(似像)」の比喩が語られます。 この文献は、ナグ・ハマディ文書に含まれる、セツ派のグノーシス主義の文献です。 中沢新一は、その1段階目について、ラカンの鏡像段階を表現するものと解釈しています。 ですが、私は、これは間違いで、鏡像段階と結びつけることができるのは、2段階目だと思います。 本稿はこのことについて書きます。 その際、ヘルメス文書「ポイマンドレース」における2段階の「鏡像」の神話や、仏教やゾクチェンにお

象徴の3つのレベル、体系と実践

前稿の中で、象徴の3つ種類について、短く私論を書きました。 本稿では、これについて、神秘主義思想や密教の、実践や理論・体系を、例をあげながら考えてみます。 本投稿では、3つの象徴レベルを、1)表象的象徴、2)秘儀的象徴、3)合一的象徴と呼びかえます。 かなり長めの投稿になりました。 3つの象徴レベル まず、前稿では、以下のようなことを書きました。 「象徴」というこの言葉は、分野によって、人によって、様々な意味で使われます。 「象徴」は、言語が持つ比喩の働きから生まれ

仏教と野生の思考:中沢新一と清水高志の対称的アプローチ

中沢新一は、仏教と、レヴィ・ストロースの言う「野生の思考」、あるいは、「神話論理」とに共通する土台があると主張しています。 また、清水高志は、仏教哲学に、「野生の思考」と同種の思想があると主張しています。 両者は、ともに仏教と「野生の思考」の関係について論じているのですが、両者のアプローチはまったく対称的です。 本稿は、この違いをテーマにします。 一言で言えば、中沢が非言語的な心の働き(無分別智)を重視して、仏教と「神話論理」の違いを主張しているのに対して、清水はそれにつ

消された月神信仰:筑紫、出雲、丹後、伊勢…

現在、皇祖神はアマテラスとされていますが、記紀を読めば、いくつかの箇所でタカミムスヒが主神のような働きをしていて(例えば日本書紀本文ではタカミムスヒが天孫降臨を司令している)、皇祖神はもともとタカミムスビだったということを、多くの論者が指摘しています。 また、田村圓澄によれば、記紀のアマテラス像は、天武期に説かれるようになった、護国の経典「金光明経」の太陽のように輝く仏の影響を受けています。 この時期、白村江の戦いの敗戦の責任のない新しい神が求められたこともあります。 ま

魔術タロットの歴史4:革新と発展

「魔術タロットの歴史3:黄金の夜明け団」に続く、最後の投稿です。 本稿では、「黄金の夜明け団」やクロウリーのタロット理論を継承しながらも、斬新な改革を行った魔術師、及び、「黄金の夜明け団」を継承した新世代の魔術師、タロット魔術を発展させた魔術師の、歴史と内容についてまとめます。 タロットの神格を召喚するタロット・タリスマン魔術についても紹介します。 革新的なタロット理論 「黄金の夜明け団」のタロット理論に大きな変更を加えた二人の魔術師のタロット理論を紹介します。 >

魔術タロットの歴史3:黄金の夜明け団

「魔術タロットの歴史2:レヴィと継承者」に続く投稿です。 本稿では、タロットを実際に魔術に使用した結社「黄金の夜明け団」とその分派による、魔術タロットの歴史とその内容についてまとめます。 黄金の夜明け団 ・1879年頃 「英国薔薇十字協会(SRIA)」の主要メンバーで、フランスにエリファス・レヴィを訪問したこともあるケネス・マッケンジーが、タロットに関する書とカードの出版を予定するも、出版されずに終わる。 また、おそらく、「黄金の夜明け団」設立のきっかけとなる暗号文書を

魔術タロットの歴史2:レヴィと継承者

「魔術タロットの歴史1:遊戯タロット、占術タロット」に続く投稿です。 この投稿では、タロットが魔術用に使われるようになる前史をまとめます。 タロットの魔術化の重要な動きは、フランスで起こりました。 ユダヤ教のカバラ ・3C頃 アレキサンドリアで、ユダヤ神秘主義の書「セフィール・イエツラー(形成の書)」が書かれる。 この書には、1から10までのセフィロート(数)、及び、22のヘブライ語アルファベットの象徴体系が「智恵の32の秘密の径」として説かれる。 セフィロートは、6