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駒込リサイクルショップの思い出ワンピース

特技がある。リサイクルショップに鼻が利くのだ。

リサイクルショップというのは、皆が不用品を何でもかんでも売りに来るような、家具もCDもおもちゃも古着も、1円以上で売れるものは全て取り扱ってます、みたいなそういう庶民の味方のお店のことだ。大手チェーンの場合もあれば、商店街の一角でひっそりと個人が経営していたりもする。私は結構そういうところで、ヴィンテージなんかを探したりする。

「ヴィンテージ」というと、高円寺や吉祥寺のようなおしゃれエリアのこれまたおしゃれで若干敷居の高いお店で買ったもの、みたいなイメージがなくもない。しかし「ヴィンテージ」とは、言い換えれば「セカンドハンド」、「中古」である。つまり、リサイクルショップほどヴィンテージを探すのに適した店はない。ヴィンテージとの一期一会の出会いは、わざわざおしゃれな街に行かずとも、もっと身近に転がっている

そのリサイクルショップは、東京都北区と豊島区にかかる駒込にあった。駒込はJR山手線の駅の一つでありながら、お隣の田端駅と並び、新宿や渋谷といった東京の中心駅が勢ぞろいする山手線の中で「なぜ山手線に含まれているのか分からない駅」として、人々に忘れられることもしばしばである。しかし住むには最適で、山手線と南北線が通っていて都心なのに、静かで地元の商店街で買い物もしやすい。そんな街に、私は大学時代住んでいた。

件のリサイクルショップは、当時住んでいたマンションから駒込駅までの道の途中に存在した。「存在した」と過去形なのは、そのお店はすでに閉店してしまったから。

自宅から駅までの道だったので、私はほぼ毎日お店の前を通っていた。そのお店は、いかにも「まちのリサイクルショップ!」と言った感じで、いつからそこにあるのか、そしていったい誰が買うのか分からないような、古びたガラクタ(あえてそう呼ばせてもらう)でいっぱいだった。当時お年頃だった私は(20代前半をそう呼ぶのか怪しいところだが)、そんな異世界への入り口のような店に一歩踏み出す勇気を持てずにいた。

しかしこのお店は良い、という予感が私にはあった。それを感じさせたのは窓から見えるバッグの数々。天井からぶら下げられた古いポシェットたち。その多くがビーズで作られた、おそらく昭和に流行ったのであろうバッグだった。ころんとしたシルエットのもの、封筒のような長方形のもの、私の目はそれらを見逃さなかった。

ある日、意を決して店に足を踏み入れた。案の定というべきか、お客は私ただ一人だった。店主は中年の女性が一人とおばあさんが一人。母と娘のようだった。

お客さんの数より店員の数が多い店というのは大概、お客さんにいらぬ緊張を強いるが、幸運にもそのお店は前述の通りモノであふれかえっている。一度商品の棚の間に入ってしまえば、店主の視線が届くことはない。

夥しいモノの波をかき分けて、私は一つ一つ物色した。まずはお目当てのバッグから。予想通り、昭和に作られたバッグたちが所狭しと眠っていた。値段を尋ねると、1,000円や2,000円のものばかり。本物のオーストリッチのバッグでさえ、4,000円だった。大学生にはかなりありがたかった。そこからめぼしいものをいくつか選びだすと、次はお洋服のコーナーへ。

バッグ同様、そこは昭和に大量に作られたであろう形のブラウスやスカートが、大量にハンガーにかけられていた。今はなき〇〇商会などと書かれたタグがついていて、日本製の宝庫だった。私は特に昭和の襟が凝っているブラウスが大好きなので、いくつか買い求めた。

そしてそのラックにはワンピースも掛けてあった。そこで出会ったのが深いグリーンのワンピース。グリーンなのだが、所々にブラウンの花があしらってある花柄だ。現代モノではあまり見ないその配色に「おっ」と思い手に取ってみると、布の重さがずっしりと手に感じられた。よくみると花柄もただの花柄ではなく、ボタニカル柄というか、葉もあしらってありどことなくトロピカルな雰囲気だ。シルエットとしてはお姫様なのだが、甘くない柄のおかげでスパイシーさもある

そして裾はドレープが幾重にも重なり、持ち上げてみると無限に広がった。50年代のピンナップガールが着ていそうな、たっぷりと布を使ったフレアスカートだった。そして上半身がこれまた個性的で、セーラー襟のVネックだった。肩がかっちりして見えてしまうので人を選ぶけれど、私はどちらかというとなで肩で華奢なため得意な形だ。しかもその襟はボタンでつけられただけで、着脱可能。外すとキャミワンピになるという仕様だ。

試着してみると、襟は個性的な柄すっきりと、ふわっと広がるスカートはお姫様チックで中々良い。ちなみにそのお店の「試着室」は、遠の昔にその役割を「服を着替える場所」から「置ききれなくなったモノをしまう場所」へと変更されていたようで、私よりもはるか昔にそこに鎮座しているであろうモノたちに遠慮しながら、私は着替える羽目となった。

試着を終え店主にお値段を尋ねると、驚異の1,000円。結局私は、このワンピースにブラウス、バッグと、紙袋いっぱいにモノを持ち帰ることとなった。

実はこのワンピースをヘビロテするようになったのは、買ってから3年ぐらい経ってからだ。最初はその柄とドレープ感に仰々しさを感じて、少し持て余していた。しかし年齢を重ねるにつれ派手な柄が好きになり、今では夏が来るたびに着るのを楽しみにしている一着である。

お店についての後日談。なぜだか不思議だけれど、それからそのお店の常連になった、ということはなく、次に訪れたのは数年後。しかもその際に、そのお店が間もなく閉店することを知ったのだった。

昭和レ ト ロ (2)

・愛用歴:8年



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