ローグ・マッピング

 宙、相食らう林と館。人工と自然が互いを足掛けに、僅かばかりの未踏へ版図を広げんとする。樹木はある一定隷属者であったし、建築はある一定自動化されていた。その表を這う生身や機体が、異物を外敵かつ資源とし、異種には温床ともなれば障壁ともなった。だがいずれもが、黄道より注ぐという光や重力なるもの、凡そ天地四方の基を忘却の繁茂に覆われて久しい。森よ、街よ。晴れて迷宮。


 大蜘蛛を駆る一群が、丸く肥えた枝をなぞっていく。蜘蛛の毛並みは艶めいていたが、剥けば黒鉛が覗くのやも知らん。ある乗り手は、寄り集まった植物が立てる腥さを、涼に孕ませて感じた。

 閉鎖系ボトルが醸す苔むした燐光の中で浮かび上がるは、ちょうど漁り火の電飾に囲まれて黙する海坊主のような、鬱蒼たる緑の毬玉であった。凝塊の端々にはモルタルの砕片が編み込まれ、なお原形を留める幾つかの長屋も鎧窓はぶち抜かれ全棟締め殺しにあっている。


 目標を確認したと、騎蜘蛛の隊は巻尺や杭を担ぎ出し、測量作業に移る。また少数は、垣間見える壁面に取り付いて次々に室内へ至った。

 暫しの後。同じ闇から、血染めの一人のみが躍り出る。間者は必要人数を斬り伏せ、書き終わった測量図を奪取。そして今際の際に火を掲げた。炎と翼はならぬ事。眠れる厄神を呼び覚ます。


 方々の木のうろにて回転灯が閃く。熱源に見境なき、いかれ無人機どもが出動したのだ。
 瓦解する隊の一員は、主なき隊長騎にワイヤーを紡がせ上空へ落ち延びようとするも、甲斐なきかな、凄まじい噴霧圧で煙に変じた。

『只今消火が完了致しました』
 屍山を前に、ホログラム上の古代人が告げる。


 どうやら失敗を遂げた探査行だが、この程度はアカシアの年輪に刻まれるべくもない、至極ありふれた営みの一環に過ぎない。かかる立体迷宮の原点が、崇める木の種であるか、あるいは連ねる軒の礎なのかが、彼ら地虫を暗中に蠢かせる動機にして、最後の関心事だったからだ。

【続く】

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