青のヴァイラス
飲み会の帰り道だった。三杯目あたりから高校時代の存在しない恋話しか口にしなくなり、普段の堅物っぷりが絶無になっていたYの様子がいよいよおかしい。
「制服の……男子……女子……うう」
駅前の学生グループを嗅ごうとしているので二人がかりで止める。引っ張った鞄のひもがゆるんだ拍子に、Yは頭から倒れた。
「あっ、ごめん。大丈夫?」「立てよお~。そんなもんかよお、おめー」
MはMでだいぶキていた。
Yを心配してみんな引き返してきたが、なかなか起き出さない。よく見ればおでこに立派なたんこぶができているではないか。
「うっわ。悪い、こりゃコブんなってるよ」「メガネ無事か」「休んで医者行ったら?ついでに青春欠乏症も診てもらえ。うはは」「ホントにそうしな。大体さ、そんな飲んだら仕事ならねえべ?」
「夏…………。うん、そうする」
Yは立った。いや、目つきがもうヤバい。足取りもヤバい。ブツブツ呟いている。
「平気。私、待ってるからね。……ううん、悔しくなんかないよ。…………やり切ったんだもん」
「ねえどうしたよ」「痛くないの?」「その発禁ヅラはやめとけよお」
指差して爆笑していたMは噛まれた。手首と、それから首元を。「あえ?」
「……何してんの?」「ああこれゾンビじゃんゾンビ。だいぶゾンビパニックぽくない今」
Mが付けられた歯型は、浅いのにいかにもな感じだった。全員、みるみる冷えていく。
高校生らしき野次馬が近寄ったとたんYは機敏になり、誰彼構わず襲い始めた。
Mもゆっくりと起きた。さっきまで笑い上戸だったくせ、なぜそんなにも切なげな表情をしている。
「行こ。下校時間過ぎちゃったね」
「サラサラかみのけ……だぶついたコート……」
獲物と生けるジュブナイルを求め、中腰でうろついているY。
「Yァーーッ!」
Yはまるで聞こえているみたいに振り向いた。私は。
「あんんたの作ってた資料どうっすんだよ!」
その顔面に蹴り足を浴びせた。
【つづく】
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