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自然気胸という病気について~10回肺が破れた人が語ります~

はじめに

自然気胸という病気をご存知でしょうか?

私は高校~大学でこの病気に10回かかり、1年間に3回手術をするという体験をしました。小型装置から開胸まで、恐らく治療法は全てと言っていいほど体験しています。

現在は完治しており何不自由なく過ごしておりますが、時が経ち、ふと「あのとき不安だったよな」と思い、今困っている人の役に立てばと筆を取ってみます。伊達に10回なってないので、結構詳しく、長文になると思われますが、良かったらお付き合いください。

※グロ画像などは出てきませんが、リアルな話を書きますので、症状の話などが苦手な方はご注意ください。
※症状や説明については、私の理解なので、誤っていることがあるかもしれません。

自然気胸とは

端的に言うと、肺が破れる病気です。
すぐに命に関わるものではありませんが、自然治癒だと再発率が50%という驚異の厄介さを持った病気です。

正確に言うと「気胸」というのは、肺が破れて空気が胸腔内に漏れてしまう病気のことで、「自然気胸」がそれが自然に起こってしまうもの、他に「外傷性気胸」というのがあります。

外傷性はその名の通り、事故などで肺が傷ついて起きる気胸です。この記事では、「自然気胸」についてお話するため、特に断りがなければ気胸=自然気胸と読んでいただければと思います。

私の発症記録

「どんなやつが書いてんのよ」ということで先に私の記録を簡単に。
左肺7回、右肺3回の合計10回です。
タバコは吸ったことはないですが、痩せ型なので、発症しやすい人には含まれています。
○の数字は何回目かを表しています。

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恐らく開胸までやった人はそう多くはないのではないかと思っています。私も最初になったときは、ここまでになるとはもちろん思っていませんでした。
現在は何不自由なく元気に過ごしています。

発症・原因

肺の中に弱い部分が出来て、そこが破れることで発症します。
破れると、肺の外の胸腔というところに漏れた空気が溜まっていき、それによって肺が押されて小さくなってしまいます。
小さくなると肺の機能が低下して、酸素の交換効率が下がってしまうのが問題です。

この「肺の弱い部分」は「ブラ」と呼ばれていて、小さく薄い袋のようなものです。ブラが破れることで、気胸になります。逆にブラがあるからと言って必ず気胸になるわけではなく、また面倒なことに「激しい動きをしたらなる」とか「安静にしていたらならない」というわけでもありません。(未だ解明されていないことも多いらしい)

自然気胸は若くて胸が薄い男性が発症しやすいと言われています。ただ、女性もなりますし、タバコが原因なこともあるようです。
タバコ以外の場合は原因は不明で、予防法なども特にありません。(厄介)

検査

酸素飽和度を測るパルスオキシメーターで、症状と合わせて分かったりもしますが、レントゲンを取れば一発で確定します。
先生は写真を指しながら「ここが肺の上部分で、下がってるのが分かるでしょ」と言いますが、素人にはよくわかりません。
私は何度も見ましたが、それでもなんとなくぐらいです。笑

何回も発症する場合は、CTを取ることもあります。
私は取りましたが、輪切りの肺を見て「ブラがどれだけあるか」「どの箇所が縮んでいるか」など精密なことが分かります。

入院した際や手術の時は頻繁にレントゲンを取って状況を確認します。(1週間に数回とか)
放射線なので被曝量が気になったのですが、レントゲンは気にしなくていいレベルらしいです。一方CTはそれなりにあるようなので、頻繁には取りません。(もちろん、医療として提供されているので普通にやる分には全然問題ない)

症状

出る症状はこんな感じです。

・胸や肩の痛み
破れた瞬間は特に痛いです。異様な肩こりのような感じにもなります。
胸は、最初になったときは心臓の病気かと思う感じで痛かったです。

・咳
一般的にはあるみたいです。私は元々咳が出づらい体質(なんだそれ)なので、出たことはありませんでした。

・強く息をすると胸が痛い
鼻をかむと痛いです。笑っても痛いです。大きく息を吸っても痛いです。
普通の呼吸では痛くないです。
逆に、これを利用して痛ければ気胸だ、と自己判断できます。(やらなくていい)

・血中酸素濃度が低下する
私は軽症が多かったので、息苦しさは感じたことはなかったです。
95,96ぐらいでした。

・皮下気腫
皮下組織(皮膚の下)に空気が溜まる症状です。胸腔内に漏れた空気が徐々に体の上方に上がってくるイメージで、最初は胸、その後鎖骨、私は首の付け根ぐらいまで来たことがあります。
痛みは無く、気胸が治れば自然に治癒するので特に対処はしませんでした。
触ったとき(押したとき)に握雪感と呼ばれる雪を握るような感触(シャリシャリ、ザクザク)を感じます。ちょっと面白いです。(空気漏れてんだなと実感する)

・肺から音が鳴る
個人的な例かもしれませんが、仰向けに寝ると、肺がポコポコ鳴ります(痛くはない)
ちょっと面白いですが、気分は良くないですよね。笑

治癒・治療

私の主治医の弁ですが「気胸は病気というより怪我」ということらしいです。

そういう通り、破れた穴が塞がれば治ります。多くの場合、安静にして自然治癒です。私も最初は自然治癒でした。人間の体ってすごい。
ただ、治ってから再発防止のため1ヶ月ほど安静にする必要があります。日常生活は問題ないですが、運動が禁止されます。(主治医によって異なるかも)

他の治療方法を詳しく説明します。

小型治療装置
私が初めてやった治療です。発症3回目のときでした。そして、二度とやりたくない。笑
名刺入れぐらいの大きさの装置だった記憶があります。針がついていて、仕組みとしては肺に刺すことで胸腔内の空気を外に出すことで治療します。

簡単な部分麻酔をした後に刺されるのですが、診察室の長椅子に仰向けになるように言われ、先生が力ずくでこの装置を胸にぶっ刺します。胸と肺の間には胸膜というのがあり、それが結構厚いので力がいるようです。
「殺される」と思うほどに強い力で、上に乗られて全力で押されます。(恐怖によるフィルターはあるかも笑)

しばらく過ごしてこれで良くなる場合は抜いて終わりなはずです。
私は呼吸の仕方が悪かったのか、改善しなかったので次のドレーンに移りました。

ドレーン
その名通り、吸引装置です。肺に管を挿して、胸腔内に溜まってしまった空気を抜いて肺を広げます。小型装置が自然に抜く感じなのに対し、能動的に抜いていく感じです。電動と、別の吸引装置につけるものがあります。
こういうのです。

これで肺が広がり、経過も良ければ手術せず退院です。私も3回目はこれで治りました。
このとき入院した病院ではバッテリー駆動でキャスターがついたタイプでした。ベッドに居る時は充電して、移動する時は一緒に持ち歩きます。
ずっと一緒にいるので、段々相棒みたいな仲間意識が芽生えます。(なにそれ)

2回目以降入院した病院では、病室に吸引口がありドレーンを点滴スタンドにかけて、病室にいるときだけ吸引するという感じでした。
肺から管が出ているので、移動する時は一緒です。

手術した場合は終わったら付けられています。
私はドレーンで治したのは1回だけでした(他は自然治癒or手術)

初回は前述の小型装置からの移行だったので、結構衝撃的な体験をした気がします。

手術室で小型装置を抜いて、ドレーンの管を代わりに挿すのですが、部分麻酔なので意識があって周りが見えます。抜くと当然穴が空いているわけで、呼吸するとそこからピューピュー音がなっているのが分かりました。急いで埋めるとかもなかったので、直接肺で呼吸してるけど大丈夫なのか?と不安になった思い出があります。(気が動転していて、そんなことないのかもですが笑)

手術
胸腔鏡手術、開胸手術の2種類があります。

自然治癒での再発率が50%で驚異という話をしましたが、実は気胸は手術をしても再発しやすい病気です。胸腔鏡では5~15%、開胸では0.5~3%と言われています。小さい数字に見えますが、手術を以ってしてもある程度再発があるというのが、気胸の厄介なところだと強く思います。

胸腔鏡でも、後述する吸収性メッシュを使う場合は、開胸と同じぐらいの再発率に抑えられるようです。(私の右肺の手術はそれで、以降再発してません)

胸腔鏡手術
有名(?)な内視鏡手術と同じ要領で、胸の横に3つほど小さい穴を開け、そこからカメラや手術道具を入れて行います。傷が目立ちづらく、小さいことで回復も早いため、手術でまず用いられる手法です。

全身麻酔で手術を行うので、気が付いたら終わっています。術後も傷が小さいのでそんなに痛くなかった記憶があります。退院も3日ぐらいで、早いです。

やることとしては、ブラの切除です。破れている箇所の周りや、他に弱い部分があれば、切除して再発を防止します。その際、切った後の部分に、吸収性メッシュ(人体に吸収される膜)を入れる方法を使うと、より再発を防止できるようです。

私は右の1回目、左の2回目で吸収性メッシュを使ってもらいましたが、それ以来再発していないので、効果はかなりあると思います。もちろん低いとは思いますが合わないリスクもあるので左の1回目では使われなかったのかなと思っていますが、積極的に使って良いのかなと思っています。(いち患者の意見)

開胸にも言えることですが、手術により肋骨に多少なりとも力が加わるため、術後、肋間神経痛が起きることがあります。これがまた気胸と似た痛みがあって厄介です。今でも極稀になったりしますが、少し経てば治ります。

開胸手術
これが最終手段です。その名の通り、胸を開きます。
脇から胸の下辺りまで、十数センチ開くので、肺全体を見て問題ある箇所を全て除去できる一方、傷が大きく負担が大きいので、最近はあまり用いられていません。

再発が多く続くようだと選択肢に現れてきます。
私は一度胸腔鏡手術(メッシュなし)をした左肺で再発が続いてしまったので、開胸することになりました。開胸とともに、吸収性メッシュも入れてもらっていて、以降再発はしていません。

最初の説明で分かるかもですが、この手術は本当におすすめできません。術後、まじで痛いです。胸を十数センチ切ってるから当たり前ですね。

傷は縫われていて、でかいホッチキスの針みたいのが幾つも埋め込まれています。退院後に抜歯するのですが、ちょっと怖かったです。(痛みはそんなになかった)

ここからは私の開胸の辛い体験の話です。

術後の痛みが激しいので、医療麻薬を用いるのですが、私はそれで左目の瞼が閉じてしまう症状が起きたので、使用中止になりました。
医療麻薬使用時は、ボーッとして痛みは感じないため、使っていれば幾分マシだったかもしれませんが、中止した後は地獄でした。
息をすると肺が痛くて苦しいけど、息をしないと死んでしまう。ただ息を吸い、生きることに必死になった時間でした。
飲み薬の痛み止めはもらえるので、飲むと少し楽になりますが、そのうち効果がなくなるので「痛い・・・早く薬をください・・・」という感じでした。(所定の間隔でしか飲めないので間が辛い)

先生からは、「肺の手術はかなり痛い部類に入っていて、開胸はその中でもトップだと」言われました。この痛みに耐えたことによって、今ではほとんどの物理的な痛みに耐えられるぐらい強くなったので、そこだけは良かった(?)ポイントですね。
でも、他人に経験してほしいとは思いません。笑

制限

術後の運動制限の他に、気胸には一つだけ大きな制限があります。

スキューバダイビングが一生できません。(正確には、出来る可能性はありますが、おすすめされず、出来ない場合が多いようです)

理由としては、高圧空気を吸うという点、水圧があるという点です。
スキューバダイビング中に発症すると命の危険が大きいようです。

一方で、飛行機やスカイダイビング、登山などスキューバダイビング以外は問題ありません。(もちろん完治後ですが)

私は飛行機にも乗りましたし、バンジージャンプもスカイダイビングもしましたが、全然大丈夫でした。
スキューバダイビングは悔やまれますが、仕方ないでしょう。

自然気胸の辛いところ

なった時痛いとか、手術が痛いとかはもちろんあるのですが、一番辛かったのは「再発への不安」でした。

何度も再発して、少し胸が痛くなったりするだけで「またなってしまったのかもしれない」「これは大丈夫な痛みだろうか」という再発の不安が常に付き纏います。術後症状である肋間神経痛もまた紛らわしい痛みで、厄介です。痛みがあって「なったかも?」と思ってレントゲンを取ってなんともなかった、という経験も何度かあります。

自然治癒の場合、運動の制限があることもあって、私は大学1,2年の夏を無駄にしました。精神的な負荷はかなりのもので、この病気のために未来への不安に怯え続ける日々はとても辛いものでした。

また、対策のしようもないので、自分の運命を恨むしか無く、やるせない気持ちになったことも多かったです。

幸い、両肺に吸収性メッシュを入れたことで安定し、その後は吹っ切って自由に過ごして行きましたが、今振り返ってもあの時が人生のどん底だったなと思います。

気胸発症小話

左と右、初めてなった時の話。

初めての発症
高校3年の秋、通学中のことでした。学校に向かって歩いていたら急に心臓のあたりが痛みだして、最初は少し違和感があったぐらいだったので、なんとか学校まで歩いていったのを覚えています。段々痛みが増したので、休みつつ、保健室まで行った記憶。

その後病院に行ってレントゲンで自然気胸だと分かり、一週間自宅で寝てれば治ると言われてホッとしましたが、そのせいで最後の体育祭には出られませんでした。

で、1週間では治らず別の病院で精密検査をしたところ「もう学校行っていいよ」と言われ通学解禁。その1週間後に完治しました。ただ、1ヶ月運動禁止があったので、その後の文化祭で予定していたダンスに参加できず、悲しみつつ応援を頑張った思い出。

右肺初めての発症
大学から帰宅する時、構内のバス停に向けて歩いているときに発症しました。症状から「あ、気胸になったな(悟り)」となる。

割と痛かったので、「これは救急車だな」と思って、友人も居たんですが自分が一番説明できると思ってバス停の椅子で横になりながら自分で119番しました。

「救急ですか、消防ですか?」「救急です。自然気胸になって苦しいです。」「苦しいのはあなたですか?」みたいなやり取りがあった気が。
なぜか来たのが消防車で、大学から帰る人は騒然となっていたと思います。(119番は救急でも近くにいた方がまず向かうらしい)

後に病院に来てくれた大学の保健の先生から「まずは保健室に来てよ」と言われましたが、さすがに余裕がなかったですすみません・・・。付き添ってくれた友人には感謝で、この時小型装置とドレーンを経験しました。

入院・手術体験記

せっかくなのでここも書こうと思います。

初めての手術
あまり緊張しなかった気がします。
術前に「好きな音楽とかある?」と看護師さんに聞かれ「嵐です」って答えてなんだろうと思っていたら、手術に入ったときに嵐が流れていました。笑
「手術室ってこんな感じなんだー」と思った記憶があります。(音楽は1回目だけだった気がしますが)
全身麻酔ということで、気付いたら終わっているはずだと思って割と気が楽だったかもしれません。

全身麻酔
結構面白くて、最後に思いがけず辛いです。笑
手術室に入って、つけている点滴から薬を入れられます。
「すぐ意識がなくなりますからねー。咳が出ることがありますが、問題ないですよ。」と言われて、カウントアップ。
「1,2,3」ぐらいで意識が強制的に遮断されます。目の前がじわっと真っ白になっていく感じ。2回ぐらい咳が出たけど、苦しさはなにもない。レア体験ですね。

面白いのはここまでで、ここから辛い話です。
全身麻酔後はトイレに行けないため、尿管という管が付いています。自動で排尿されるため便利で必要なことなのですが、問題は管を抜く時・抜いた後です。男性に限った話ですが、尿を出すときにヒリヒリと痛いので、トイレに行くたび涙が出る感じでした。痛みの恐怖もあります。

ただ、管を抜くときの抜き方による気がしていて、2,3回目の時はさほど痛くなかったので、個人差もある気がします。1回目が今でも覚えているほどに痛かったので、もったいぶって書いてみました。

入眠姿勢
めちゃくちゃどうでもいい話です。
私はこれまで横向きでしか寝られなかったのですが、術後はドレーンの管が肺から出ているので、横向きどころか寝返りもほとんど出来ません。
この期間で、上向きで寝られるようになりました。笑

暇な入院期間
そもそも軽度でれば痛みはほぼない病気なので、術前・術後(痛みがマシになってから)はかなり暇です。
音楽を聴いたり、肺の勉強をしてみたり、絵を描いてみたりしました。
2回目からはパソコンを持っていって動画を見たりしていた記憶があります。

他の入院患者さんと仲良くなったこともあって、気胸仲間として話をしたりもしました。病状が似ている人が同じ部屋になることが多いようです。

当時暇すぎて描いてた絵を見つけたので、恥ずかしいと思いつつ貼っておきます。笑

1つ目はその時つけていたドレーン。笑
注意書きも描いているところから、暇さが伺えます。

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2つ目は休憩室に置いてあったクリスマスツリー。
電源まで描いているところや、中の小さい丸を点を打って表現しているところから暇さが伺えます。

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病院食
お腹に異常はないので、普通の食事が出てきます。
特別な病院ではなかったですが、美味しく、どんなものが出るのか楽しんでいた記憶があります。

看護師さんへの感謝
本当に感謝しかありません。
術前の疑問に答えてくれたり、肺の本を貸してくれたり。
何か痛みなどがあっても対応してくれるという安心感に、とても助けられた記憶があります。

主治医への感謝
手術3回はこの方にやっていただいたのですが、とても良い方で、結構なお歳でしたが、元気でユーモアある面白い方でした。
一度、術後の回診で「そう言えば、肺汚れてたから洗っといたよ~」と言われて「マジか、肺洗っといたとか言われることある!?」と思ったことがあります。笑

さいごに

今回は記憶を掘り起こしつつ、気胸について記載してみました。
元々手術トークとして1時間ぐらい話せる持ちネタ(比喩)としてあったので、書くのに苦労はありませんでしたが、改めて記録として残せて良かったです。

こんなになってるやつもいるぞ!という意味での励ましや、この先どうなんるんだろう?という不安の解消に一役買えれば幸いです。(もちろん私より辛い体験をしている方もいるとは思いつつ)

また、なったことない人でも、自然気胸という病気について、一人でも多くの方に知っていただければ幸いです。

最後に、この体験はすでに昔の話であり、現在の私は元気に過ごしており制限もありません。また、完治していると思っていて、再発の不安も抱えていません。
接していただいている方におきましては「レアな体験してるやつだな」ぐらいの軽い気持ちで、今後とも変わらず関わらせていただければと思います。

参考文献

かかったときや入院中に得た知識も多いですが、今回記事を書くに当たり改めて調べて参考にしたサイトです。


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