見出し画像

vol.1 校舎のおはなし(前編)

廃校リノベーションという選択について。

既存の校舎が大きな制約になる廃校リノベーションには、新しく建てること以上の難しさがあります。その一方で、地域に愛され、歴史が刻まれ、思い出が詰まった校舎を引き継がせていただく重みと喜び、そこに生まれる地域とのつながりを、私たちは大日向小学校・中学校の活動の中でたっぷりと体感してきました。だから、大変だとわかってはいても「廃校リノベーション」へ再び挑戦することへ、迷いはありませんでした。

旧佐久西小学校の現校舎は、昭和50年に建てられた後に別棟が増築がされ、中庭を囲むように3棟の校舎が渡り廊下でつながる趣のある建物です。すなわち、今回のリノベーションは築40年以上が経過し、建築年代が違う校舎を活用していくという、大きなチャレンジだということ。

そんなプロジェクトの力強いパートナーとなってくださったのが株式会社建築築事務所-アチチオフィスさんです。代表の望月公紀さんは学生時代は化学を専攻されていましたが、そこから一転、建築の道へ転身されたという異色の経歴の持ち主。そんなバックグラウンドを活かして手がけられた「東京大学x三井不動産 FS CREATION」、「日本たばこ葉たばこ研究所 ラボラトリーJ」などの実験研究施設は、数々のグッドデザイン賞を受賞されています。

物件の条件も予算も厳しい上、開校の延期なども発生する中で、望月さん率いるアチチオフィスの皆さんは、建築のプロフェッショナルとして数々の難題を共に考え、伴走してくれています。今回のnoteでは、望月さんと設立準備室の塚原(&ライター村山)で、これまでの流れを振り返りつつ「廃校リノベーション」というチャレンジについて、ゆるり話してみたいと思います。


「廃校リノベーション、めっちゃ大変ですよ」
という愛のムチから全ては始まった。

村山:昭和50年築の校舎のリノベーションとお聞きになって、まずどう感じましたか。

望月:開口一番「大変ですよ、新築を建てた方が楽ですよ」と伝えましたね(笑)。

塚原:コンペではイエナプランの「20の原則」ならぬ「20の提案」として、廃校のリノベーションがどれだけ大変かを丁寧にまとめてくださって。すごいインパクトでした。

コスト、建築構造、断熱、町とのつながり、それらを包含するデザイン
あらゆる側面からプロジェクトが整理された
「旧佐久西小学校を中等教育学校にするための20の提案」

望月:これまで手がけてきた 実験教室の改装も古い校舎を再利用する ケースがほとんどで、難しさは肌身に染みているから……。リノベーションは元々の建物があるから安く上がると錯覚をしている人が多いけれど、予想以上にお金がかかるんですよね。だから「あなたの予算ではこれしかできないですよ」ということを伝えつつ、限られた予算の中で「建築って希望に満ちてるんですよ」という明るい未来を伝えていく難しさがあります。 お施主さんの要望と資金面や構造面での現実をつないで、明るい未来を構築できるかどうかというプレッシャーとの戦い。それが古い建物をリノベーションする難しさです。

村山:建築設計事務所をアチチオフィスさんに決定した決め手はどこでしたか。

塚原:提案書が「リノベーションは大変だぞ」っていうメッセージに満ち溢れていて(笑)。施主である我々に足りないことが指摘されて、痛い現実をつきつけられはしましたが、ものすごく誠実で真摯だなとも感じて。最後はその人柄への信頼で決めました。

望月:あれはもはや“20の苦言”だったよね(笑)。

塚原: 廃校を使わせてもらうことの難しさは、大日向小学校でめちゃくちゃ体感しています。だからこそ「ご指摘ごもっとも」と感じられたというか。「廃校をリノベーションして活用する」という選択は、茂来学園の在り方との親和性がすごく高い一方で、現実的な側面では厳しい部分がたくさんあります。それも一緒に考えてくれるんだろうなっていう安心感が絶大で。20の苦言は本当にありがたい助言でしたし、とても勉強になりました。

どうやって設計をしていくのか。

望月:西小を見た時に、第一印象であの中庭がすごくいいと思ったんですよね。増築を重ねた3棟の建物を基軸に中庭に大屋根をかけて、わいわいがやがやみんなが話し合ってる風景が浮かんできて、半屋外と屋内が連続するような大らかで曖昧な空間がみんなの居場所になったらいいなと思いました。でも、予算的に難しいよなと考え直し……。今度は現実的にどこに落とし込めば学園の未来を築け、学生、教職員、保護者、地域の方々といった皆さんがハッピーになるのかを考えていきました。設計はイメージを膨らませた後現実的な方向で考える、という作業の繰り返しです。

豊富な経験・知識と率直な人柄で
プロジェクトを力強くリードしてくれる頼れるアニキ的存在
株式会社 建築築事務所 代表取締役 望月公紀さん

村山:イエナプランスクールならではの「リビングルームのような教室」だったり、「サークルになって対話ができるスペース」などの制約はどう感じられましたか。

望月:一般的な学校よりも自由度が高いのでやりがいを感じますし、想像力が搔き立てられますよね。また、リノベーションには"既存の建物を使い倒していい自由さ”があるので、その自由さが面白い空間に繋がるデザインが出来ればいいなと思いました。自分達でDIYする仕組みをつくって、茂来学園らしい学校に進化させていくことも大いにありだと思いますし、いつまでも未完な、建設途中な感じの雰囲気を残すことで、皆で学校を作っていく余白を演出するような設計案を考えたりもしました。

目の前の現実から始める。

村山:そういった初期の設計提案では、どんなものが残っているんですか。

望月:それが全く残ってないんです(笑)。でも、校舎の古さゆえのアスベスト対応だとか、どうやったら費用をかけずに設備を更新できるかを模索して、格安で質の高い断熱材を探すだとか、県産の建材を使いつつイエナプランスクールならではのカラーバリエーションを保ち、さらには佐久穂の街に馴染むようなデザインにしていくとか……。いろんな条件を整理してデザインを整えてきたので、重層的な設計になってきているなと感じています。築年数の経った建物のリノベーションって、既存の建物と向き合いつつ様々な問題を打ち返していくプロセスを楽しむことが大事なんですよね。プロジェクトを進めていく上での、どんなことがあっても前向きに取り組むことの重要性は、塚原さんにも初期段階から話をしてたよね。

塚原:前向きさの大事さは、いろんな局面で身に染みています。

絶妙なバランス感覚で関係者をつないでいく
準備室のハブ ツカオくん(塚原)

望月:往々にして最初の案は消えていきます。初期案は突き詰められてもいないから、絵にかいた餅的なところがどうしてもある。でもそれも含めて、半歩先の未来を描くことが重要だと思っています。

塚原:最近「茂来学園は試行錯誤の連続だね」っていう話がよく出るんですけど、 リノベーションもいまある現実に目を向けて、そこから何ができるかっていう試行錯誤の繰り返しなんですよね。最初に描いた正しい完成図に向かって進めていくのとは違うところが、私たちの教育観や姿勢、そしていま実際に学校でおきていることとすごく近しいと感じています。そういう意味でリノベーションならではの良さってやっぱりあるし、先頭に立って前向きに進み続けてくださる望月さんと一緒に仕事ができて、本当にありがたいです。


前編はここまで。
次回は昨夏のオランダの教育施設への訪問を振り返ります!