03「es」/錆付くまで

1月20日リリースアルバム「錆付くまで/宮下遊」の感想noteとなります。
特典のコンセプトブックや対談CD、非公開MVについてもネタバレ有で触れてるので、未読未視聴の方はご注意ください。キルマーアレンジCD買いそびれ民(憐)。→2月26日追記:どうやらキルマー手に入る→2月27日追記:親切な遊毒者様に1枚譲っていただきました。ありがとうございます!note追加します。

錆付くまで/クロスフェード


生成された構造が錆付く前に、文字に留めておこうと思った。



隠されてるのは「衝動」である
【es】

アルバム曲の一覧がわかった時点で、さまざまな憶測と妄想がファン界隈で飛び交っていた話題作【es】。
思わせぶりなタイトルであったことや、作詞作曲編曲に至るまで宮下遊氏が手がけている曲ということもあり、クロスフェードがリリースされる前から異彩を放っていた。彼が好んで歌う曲の傾向の一つとして「特定の個人に向けられたサイコパスで歪んだ執着心がテーマ」があるが、おそらくその延長でオリジナル曲もサディスティックかつ危険なダークソングに違いないと暗黙の了解がファンの潜在意識下で生じ、案の定、期待を裏切らないものが爆誕したようだ。
Twitterというギャラリー席でファンの反応を見ているのも面白おかしく、その時点で楽しませてくれる作品だった。私もクロスフェードを聴いて頬を綻ばせた後無事に死んだ。

正直、この【es】に関しては突っ込んだ解釈や入り組んだ構造を見出すことはできないし、あまりその必要もないように思えた。
ぼーっと聴いてみて、何だか知らないが沸き上がる禁断の高揚感や非日常感。それを素直に楽しんでくれという、アトラクションソング。発売記念配信のコメントを聞いて、余計にその位置付けが確固たるものになった。無粋に正解を捻り出す方が曲を台無しにするし楽しめなくなる。むしろ感覚的に受けたインスピレーションからシュチュエーションや物語を想像し、個々で不正解の海へ迷い込むのが模範なのだろう。

ただ、心理学用語で「エス」という本能や生命の根源的な衝動・欲求を意味する単語があり、それをひっくるめての【es】。いや、ファンが勝手に期待したように、見かけのサディズムに隠されている「本当の衝動」を語らないが忍ばせた楽曲だったのかもしれない……という程度には勘繰る。

ちなみに、私はこの曲を現代に設定してMVやFAなどつくったら面白いのではないかと思っている。音のイメージに合わせて妖艶な演出を盛り込むのではなく、あくまで、淡々と、地味に、そしてじわじわと湧き上がる自身の自覚なき影。異常性を微塵もみせない普通の社会人が、ふとした瞬間に豹変……すると思ったらしないのだ。本当の狂気は蓋をされているからこそ、よりおどろおどろしい。視覚的には、舞台「THE BEE」のエキセントリックさも、映画「ブラックスワン」のようなエロティズムもない。しかし、音だけが視覚情報を逆撫でするように変態性を煽ってくる。そういう「画」が、とても似合うと思う。

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