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閻魔様へ、3つの嘆願

「お客様、おカバンの中身を拝見させていただいても、よろしいでしょうか?」

皆さんは、このセリフを面と向かって言われたことがありますか?
私は、あります。

会計が済んでいない商品が、カバンの中に入っていないか、確かめさせて欲しい、と。

雑貨屋さんで会計をしている最中、
いつのまにか隣に立っていた女性に、
にこやかで、とても丁寧に、声をかけられたのでした。

肩からかけたショルダーバックとは別に、かごバックを傍らに置いていました。
涼やかな、くすんだグリーンで、コロンとした形に編まれた、趣のあるバックです。
「おカバン」なんて呼ぶほどじゃ、ないですが、大切に使っているもの。
そのかごバックには、だけどフタがない。
パッと、物を入れてしまいやすいカバン、と言われたら、確かにそうです。

もちろん、潔白です。
それは、中身を見ていただければ、一目瞭然。
ハンカチとムヒだけ。
どうぞ。いいですよ。

女性は、そうしてカバンの中身を検めた後、なおも言いました。

「そちらは……」
手のひらを、私の左腕にぶら下がった紙袋に、指し向けている。
これは、さっき別のお店で買ったばかりの、帽子が入っている紙袋。
お店のお姉さんがテープで封をし、丁寧に両手で手渡してくれたものです。
これには、さすがに不快が胸を刺しました。
この封印を、あなたが開ける? なぜ?
おそらく、私の眉間には、様々な感情が浮かんで見えていたことでしょう。
(眼ぢからは、強いタイプ)
女性はそれ以上を求めず、口を濁して、辞退をされたのでした。
今思えば、いっそ確かめてもらったほうが、お互いにスッキリしたのかもしれません。
かもしれませんが……。
そうしていたとしても、
モヤモヤしないわけにはいかなかったと思います……。

どうして、声をかけようと決めたの?
いったい、なにが目に見えたの?
私、そんな風に見えてるの?

お店を後にしてからしばらく、それはそれは、モヤモヤして過ごしました。

誤解ですし。
ぬれぎぬですし。
けっこう、傷つくし。

さて、こんな時、皆さんだったら、どうしますか?

晴れないモヤモヤを、心から取り除きたい時、私がとる行動は、だいたいこの3つです。

① パアッと、お空に鬱憤を放つようにして、忘れる
② お酒と共に、友人に楽しく話して忘れる
③ 閻魔様に訴える

ここからは、3つ目の、「閻魔様に訴える」について、
もう少し深く考えてみたいと思いマス。はい。

「閻魔(えんま)様」というのは、説明に及ばず。
地獄の門の前で、腕組みをして睨みをきかしている、あの方です。
生前の悪行と善行を検めて

「こやつを地獄へ送ってやろうか、はたまた、天国か」と、

判別しておられます。

人の一生分について、書き留めた帳面のことを「閻魔帳」と呼び、
本人が忘れていたことからなにから、
すべての一挙手一投足が、記録されているんだそう。

嘆願 A
「閻魔さま!
あの人は、私のことを窃盗犯だと疑いました!」

相手を指差して、言いつける私。

もしくは、
嘆願 B
「閻魔さま!
私は、無実の罪で疑われ怪しまれ、カバンの中身を検められましたが、
まったくの誤解です! 潔白です!」

ひざまずき、指を揃えて、下から見上げる姿勢で、身の潔白を訴える、私。

実際のところ、AでもBでも、スッキリはしません。
心のモヤモヤを晴らすためには、もう一歩、深い理解が必要なのです。

ここで、”閻魔様にまつわる解釈”について、ご紹介させてください。

これは、360度、全方位的に応用可能な最終手段となる解釈で、効果テキメン。

その考え方とは。


閻魔様という存在は、じつは、自分の胸におられるそうなんです。

地獄の門の前にお座りですが、
そこは天ではありません。

私達自身の胸に住まわれ、すべての諸行を観ておられます。

誰が見ていなくても、
自身の行い、すべてを共に目にし、
それが良心からしたことなのか、
または、
悪心からなのかを、黙って観ておられます。

もし、その行いが、一見は悪行に見えたとしても、
やむを得ない事情や
前後の流れ、背景すらも、すべて見通す力をお持ちのため、
公平で間違いのない、完璧な判断を下すことができます。

そこで重要視されるのは、他なりません。
誰かのために、思い遣りをかけたのかどうか、です。

つまり、自分の内側にある”良心”そのものが閻魔様なんだそうです。

さて。
これを踏まえ、改めて考えてみます。

嘆願Aのように、相手の間違いを言いつけることは、かえって自分を貶めます。
だから、
罪名「告げ口した罪」で、地獄行き。

嘆願Bではまだ、中途半端。
ゆえに、
罪名「いつまでもモヤモヤを引きずった罪」で、地獄行き。


おそらく、
あのお店は、減らない万引きに手を焼いていて、
Gメンが立たなくてはならないほどの、状況だったのでしょう。

そこへやってきた
・妙に目立つ(よくいわれる)
・目付きの悪い(マスクのせいでメガネが曇るから、はずしていた)
・中年の痩せた女性が(これは、本当)
・フタのない、くすんだ色のくたびれたバック(手編みなんです)
を持ってウロウロしている。

そして
・背が小さいため、他のお客よりも手元が見えにくく
・触ったものを、カバンの中にポイと入れた、ように見えた、気がした、
のかもしれません。

これを鑑みて、渾身の訴えです。

嘆願 C
「閻魔さま!
私は、無実です。

ただし、
無闇に周囲を
悪い目つきで睨まないよう、ちゃんとメガネをかけなければ、いけませんでした。
そして、
混んだ店内に入る時は、かごバックにハンカチなどでフタをして、ポッカリ開けたままにしないよう、気をつけなくてはいけませんでした。
また、
小さな小物を買う時には、必ず店内備え付けのカゴを持ち、誤解を与えないよう配慮します。

私は、相手に対して、思慮深い態度をとれていたでしょうか?
心中の不愉快を、ぶつけてはいなかったでしょうか?

紙袋の件については、
自分の手で封を開け、ニッコリと笑顔で見せて差し上げられたら、100点満点だったことでしょう。
でも、自分の胸に沸いた不愉快も、無視せずに尊重しました。

今の私にできる、等身大でリアルな行いです。
相手のために、さらなる誠意を差し出せるようになることは、今後の課題とします。

どうぞ、ご判断くださいませ!」

ゼーゼー。
血走る目で息を整える、私。


これでいかがでしょうか。
ここまでしっかりと伝えられたら、
なんかもう、
どうでもよくなっていたりするんですよね。

さて閻魔様は、どんなご判断を下されるのでしょうか。

それは、三途の川を渡った後の、お楽しみです。

サポート嬉しいです。ほんとうにありがとう!