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運動が苦手な子も得意な子も「同じ」教材で学ぶ

 前回、「全員が同じ教材で学ぶ」授業の中で、運動が苦手な子も「できた!」が味わえるようにしたいと述べた。

 一般的には、様々な課題を提示して、それぞれの能力にあったものを選ばせるという方法を取ることが多いだろう。しかし、そのデメリットはかなり大きいことは前回も述べた通り。

 体育で言う教材というのは、ゲームだったり技だったりするわけだ。ゲームは全員同じルールで、というのは割と普通だと思うのだが、器械運動等では、全員が同じ「技」を共通教材として学ぶことはあまり行われていないように思う。

 具体的にどのように進めるのか、ポイントを3つに絞って述べる。

①系統性を明確にする(絞る)

 小学校6年間(可能であれば中学校も合わせて9年間)の見通しを付け、「最後にどこまで身に付けさせたいか」を考え、逆算的に1年生からカリキュラムを作っていく。

 指導要領解説には様々な技が「例示」されているが、これにすべて取り組む必要は全くない。あくまでも「例」である。個人的な見解になるが、これらの例示を参考にしながら、学校として系統性を明確にして、「どの技に取り組ませていくのか」を決定していくことが求められているのだ。

 例えば、鉄棒運動の小学校卒業時点でのゴールを「後方支持回転」に設定したとする。そうなると、5年生では「後方ひざ掛け回転」、4年生では「抱え込み後ろ回り」、3年生では「抱え込み前回り」、低学年では「補助逆上がり」「前回り下り」「だんごむし」「足抜き回り」「ふとんほし」といった運動に取り組むと良いし、実際本校のカリキュラムもそうなっている。

 このように低学年から取り組んでいけば、「全員が少しずつレベルアップしていく」ことが不可能ではなくなる。低学年から「遊び」の要素を取り入れながら様々な動きを身に付けていき、それが中学年以降の「技」で収束していくイメージだ。系統を絞った方が、着実に伸びていく実感を子どもも得やすい。

②身に付けさせたいのは「技」ではなく「感覚」という意識を教師が持つ

 ①で述べたこととは決して矛盾しない。そもそも学習させたいのは「技」ではなく「運動感覚」なのだ。

 運動感覚というのは「こんな感じで力を入れれば/体の部位を動かせば、思い通りに動くことができる」という感覚である。中でも、筑波大学附属小学校等では分かりやすく「基礎感覚」としてまとめられている運動感覚がある。例えば、「逆さ感覚」「腕支持感覚」「振動・回転感覚」「体幹の締め感覚」等といったものだ。

 先の例で行くと、「後方支持回転」そのものを全員ができるようになってほしいわけではないのである。しかし、友達や教師、道具の補助の力を借りてもいいから、「後方支持回転」という運動を体感してみること自体に価値があるわけである。「後ろに回転するって、こんな感じなんだ」と「分かる」ことが大切なのである。補助を得ながらくり返し運動している内に、自力で回転できるようになるかもしれない。一方、なかなか自力ではできない子もいるだろう。それでも、運動を丸ごと体感したことで、その後の運動に生きる感覚は育っているのである。そして、これこそが「個に応じた」学びになるのだと思う。

 また、こうした意識を教師側が持っていることで、運動の苦手な子の「小さな進歩」に気が付くことができる。昨日よりも少し力が抜けた、昨日よりも少し自分で支えられた、昨日よりも少し大きく振動することができた…と、「感覚」の視点から伸びが分かるのである。これが「技」の完成形のイメージしかないと、見えてこない。

③学び合う

 これが共通教材で取り組む最大の良さである。仮に、あっちでは首はね跳びの練習、こっちでは開脚とびの練習、向こうでは抱え込み跳びの練習…なんて授業になったらどうなることか。もしクラスで「首はね跳び」のモデルの子の動きから学ばせようと思っても、「そもそもそんな技やったことないし」等、自分事としてとらえることができない子が続出する。

 みんなが同じ教材(技)で学習していれば、みんなで手本の動きを見て、教師の発問に対して思考することができて、学びを共有することができる。口伴奏だったり補助だったりして、助け合うこともできる。さらに学級が育ってくれば、お互いにアドバイスしたり、苦手な子に寄り添ってあげたりすることもできる。こういう授業風景が、体育では大事にされるべきではないかと考える。体育から「学び合う学級風土」をつくることが可能なのだ。

 今回は3つの視点から「共通教材で学ぶこと」のポイントを述べた。体育の授業で学びをつくっていくのであれば、「あの子と僕は関係ない」と思わせてしまうようなバラバラな教材で授業をデザインするべきではない。豊かな学びをつくる体育授業づくりを考えていきたいものである。

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